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それは双六だ

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第三章

「田淵がいるからな」
「西武にはね」
「そのことが気になるな」
「あの人阪神の人だからね」
「阪神に戻って欲しいな」
 虎次郎の言葉は切実なものだった。
「本当にな」
「それはそうね」
「そうしたらここからな」
 夫は今自分達の家がある岸の里において言った。
「甲子園まで行ってな」
「お迎えするわね」
「田淵は阪神の田淵だからな」
 例え西武に移ってもというのだ。
「だからな」
「そうするわね」
「ああ、何時か阪神に戻って」
「阪神のユニフォーム着て」
「甲子園にいる姿観たいな」
 日本シリーズの話を聞いてこんなことを言った、そして彼は孫達に言って人生ゲームを借りてみた、ここで孫達は彼に笑って言った。
「双六じゃないからね」
「お祖父ちゃん間違えないでね」
「私達も双六知ってるけれどね」
「全然違うから」
「ああ、それを確かめるからな」
 笑って言う孫達にこう返してだ。
 彼は孫達が学校に行ってから人生ゲームのボードを開いた、そして付き合ってくれた妻と共に説明書を読んだが。
「政治家、野球選手、サラリーマン、タレント、ヤクザ屋さんとかな」
「一杯お仕事あるわね」
「パイロットや警察官もあるな」
「工場の労働者もあるわね」
「わしはこれだったからな」
 虎次郎は工場の労働者を見て言った。
「これにするな」
「そうするのね、じゃあ私はね」
「何にするんだ」
「ずっと家で内職してたけれど」
「内職はないな」
「じゃあお百姓さんにするわ」
 この職業にするというのだ。
「実家農家だしね」
「そうか、じゃあな」
「それではじめましょう」
「給料のことも書いてあるな」
 説明書を読めばそうだった。
「ヤクザ屋さんにもな」
「ちゃんとあるわね」
「ヤクザ屋さんって給料あるのか」
「あるんじゃない?よくわからないけれど」
「まあ碌なものじゃないな」
 夫婦でそちらの仕事についてはこう言った。
「別にいなくてもいいしな」
「ヤクザ屋さんなんてね」
「ああ、けれどな」
「それでもよね」
「わし等は選ばなかったからな」
「関係ないわね」
「じゃあはじめるか」
 妻にあらためて言った。
「ルーレットを回してな」
「おもちゃのこれね」
「これが賽子だな」
 ルーレットを観て話した。
「要するに」
「出た目だけ動くわね」
「だったらな」 
 それならというのだ。 
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