それは双六だ
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第一章
それは双六だ
進藤虎次郎は孫達が家の中でしているゲームを観て言った。
「双六か?」
「いや、これ人生ゲームだよ」
「お祖父ちゃんこれ双六じゃないよ」
「人生ゲームっていうんだよ」
「ちゃんとわかってね」
「そうか?」
祖父はそのゲームをまた観て首を傾げさせた、卵型の顔で丸く大きな目の尻にはかなり目立つ皺があり唇は薄い。白いものがかなり入っている髪の毛は短く首は長い。一七〇位の身体は枯れ木の様である。
「どう見てもな」
「人生ゲームだよ」
「だから双六じゃないって」
「もうお祖父ちゃん古いんだから」
「間違えたら困るよ」
「そうなんだな」
虎次郎は孫達に言われてこの時は納得した、だが。
孫達の遊ぶのを横で観てだ、その後で女房の沙幸小柄で丸い顔で白髪頭を団子にした小さな目と丸眼鏡の彼女に言った。
「どう見てもな」
「双六だったのね」
「ああ、じっと観ていたらな」
孫達が遊ぶのをというのだ。
「そうしたらな」
「そうだったのね」
「ルーレットを回してな」
ボードにあるそれをというのだ。
「出た目の分ボードのマスを進むんだ」
「それぞれの駒が」
「何か金を貰ったとかなくしたとか出ててな」
ボードにというのだ。
「あいつ等おもちゃのお札をな」
「使ってたの」
「それで何か仕事もな」
「あるの」
「それぞれな、それであがったらな」
「勝ちなの」
「その時に金がどれだけあるか」
それをというのだ。
「競ってたけどな」
「やっぱり双六?」
「そうなんだよ」
こう五十年寄り添った妻に言うのだった。
「子供のころ遊んだな」
「私も遊んだわね」
妻も言われてしみじみとした口調で応えた。
「子供の頃は」
「そうだな」
「昔は今より遊ぶもの少なくて」
「外じゃ竹馬や独楽やってな」
「雨の時は花札とかね」
「双六やったな」
虎次郎もしみじみとした口調で言った。
「そうだったな」
「そうね」
「雑誌の付録であったりな」
「よく遊んだわね」
「そうだったな、カルタもやったな」
「懐かしいわね」
「軍隊でもやったよ」
虎次郎はこの時の話もした。
「そういうのな」
「戦争の時は」
「ああ、やっぱり何かな」
「部隊の中でもね」
「遊びも必要でな」
それでというのだ。
「将棋とかやってな」
「花札もやって」
「丁半もやってな」
「双六もなの」
「子供の時みたいにな」
妻に笑って話した。
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