リュカ伝の外伝
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暗躍.2「工作活動」
前書き
さぁ悲劇のイケメン貴族(自称)ドン・ファン・ネル君の続報です!
(グランバニア城下町:プービル2階)
プックルSIDE
リュカ様の依頼で人捜しを行ったが、思いの外早くに身柄を確保出来た。
まだ夜は明けてなかったので、予定通り誰にも見つからずに帰投することが出来た。
打ち合わせ通りリュカ様は我々の食事を用意して置いてくれていたので、ありがたく頂戴する。
補給品の中にはボロボロだがこの男用の服もあったので、それを差し出して着替えさせる。
コイツは何故かは知らぬが、真夜中の雪山を裸で彷徨っていた。
リュカ様はその事も知っていたのだろう……室内は暖めて置いてあり、男も一息吐いた様子だ。流石準備が良い。
だが助かったことに安堵した男は、我々から逃げようと試みる。
勿論そんな試みは成功しないし、成功させはしない!
しかし頭が悪いのか理解出来ない男は、何度も脱走を試みる。
業を煮やしたホイミンが遂に男の両足を折ってしまった。
私と違ってホイミンは治癒魔法を使える……
だからだろうか、両足を折ることに躊躇が無い。
しかも直ぐに治癒はしない。
下手に治癒して痛みを除去したら、また逃げようと試みるだろう。
このままの方が痛みで動けず逃げだそうとはしない……そういう事だろう。
・
・
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ほぼ一日この部屋に籠もってこの男を監視していると……
遂に部屋の外から人の気配が聞こえてきた。
時間は既に夕刻過ぎ。
リュカ様であろうとは思うが、それでも気を抜かずに来訪者を待ち構える。
すると入って来たのは……女!?
しかもかなり薄着な女!
下着と何ら変わらぬ衣装はこの女の褐色の肌を隠し切れてない。
艶容な瞳でこちらを見る女……
だが直ぐにこの女がリュカ様の変化だと気付いた。
匂いがなんせリュカ様だし、手にはラーミアが何時も持っている変化の杖を所持している。
「初めまして、僕……私の名前はマーニャ。サラボナを拠点に踊り子として活動する諜報員」
だ、誰ですかそれは!?
本当に実在する人物ですかリュカ様!?
「テメェ……貴方は我がサラボナで罪を犯しました」
「お、俺が何をしたっていうんだよ!?」
そう言えば何をしたんですか其奴?
「忘れたとは言わせねー……言わせませんです事ですわよ」
リュカ様、言葉遣いがブレブレです。
「忘れるも何も憶えがない」
それが忘れてると言う事だ。
「お前……貴方はあろうことか我がサラボナ領で女性に襲いかかりました」
「そ、それはあの女が……!!」
「貴方が如何な思惑だったかは関係ないのです」
「ど、如何言うことだ!?」
「貴方がラインハットという外国の貴族で、そんな人間が我が国で女性を襲ったという事実が問題なのです」
「だ、だからそれは……」
理解力の無い男だな。
(ドカッ!)
「だから、他人が如何思うかが問題だって言ってんだよ!」
「痛ぇ!」
苛ついたリュカ様が我慢出来ず殴る。見た目はか細い腕の女性だが、実際はリュカ様なので相当痛いだろう。そのギャップで余計に痛く感じてそうだ。
「兎も角お前も貴族なら解んだろ! 世間体がどんなに大事なのかってよ!」
「そ、それは……」
私には解りませんが貴族には問題なんですか?
「我がサラボナも、優良顧客である貴族を犯罪者として逮捕するのは世間体が悪いんだよ! これ以上説明しなくても解るよな!? なぁ!!」
「は……はぃ……」
リュカ様も面倒臭くなってきたらしい。我々がコイツを確保した理由付けも説明しないつもりだ。
「じゃぁお前をこれからラインハットに送ってやるけど、僕……私等の事は誰にも言うんじゃねーぞ! サラボナはお前を逮捕しなかったことは否定するからな! いいか、お前は自力でラインハットに帰国したことにしろよ!」
「は、はいぃ……」
脅しという名の説得で今回の事を秘密にさせる。でも其奴、絶対に喋りますよ。
「じゃぁ送ってやるから立て!」
「痛い痛い痛い!」
男を送り届ける為に起ち上がらせようと髪の毛を掴み引き上げる……が、
「ん……如何した?」
「足……足が!」
あ、そう言えば苛ついたホイミンが足の骨を折ったままだった。
「何だ……骨折してるのか。情けねぇな!」
「い、いや……これは……アイツが……(バキッ!)ぐはっ!」
骨折の原因を説明しようとホイミンを指差したら、彼に思いっきり殴られた。酷い……
「お前が暴れたんだろ。ベホマ」
まったくその通りだが同情もしないリュカ様は、骨折箇所を整えないまま治癒魔法を唱える。
案の定、足は少し歪んで癒着した。
「ところで……お前、よく見たら鼻も折れてんじゃん。何で?」
「こ、これは……」
慌てて鼻を隠す男。
ホイミンも手(触手)を横に振り、自分じゃない事をアピール。
「まぁいいや……おら、もう歩けんだろ。屋上まで来い。ルーラでラインハットのビスタの港まで送り届けてやる」
「え、何でビスタの港なの!? せ、せめて王都まで……」
甘えるな馬鹿。
(ボカッ!)
「昨日までサラボナの山奥の村に居たのに、今日にはラインハット王都に居たら変だろが! 港からは自力で帰れ馬鹿!」
「うぅぅぅ……」
何も殴らなくても良くないですか? 泣いてますよ。
足の骨折は治してもらったが、頬を殴られ顔を腫らす馬鹿。
そんな馬鹿の髪の毛を鷲掴みにして、引き摺る様に部屋を出て行くリュカ様。
我々の任務も終わった様だ。
プックルSIDE END
(サラボナ:ルドマン邸)
アンディーSIDE
激怒したリュカさんからラインハットの貴族の情報を聞いて捜索隊を出してから3日が経過した。
状況は全く以て進展していない。
ネル子爵家の四男……ドン・ファン・ネルの足取りは依然として不明である。
もし山中で凍死していれば、そろそろ見つかっても良いはずなのだが、見つけられないという事は生きていて彷徨っているのかもしれない。
寧ろ厄介である。
捜索隊も当初は100人程の人数だったのだが、今では500人を超えて動員している。
死体の一部だけでも見つけられれば、言い訳のしようも出来るのに。
そんな事を考え出した頃だった……何時もはニヤけているリュカさんが真剣な面持ちで再来訪してきた。
「おい。ラインハットの貴族は見つかって……なさそうだな」
見つかったのか質問しようとして、我々の表情で答えが分かってしまったリュカさん。
眉間にシワを寄せて考えている。
「拙いなぁ……」
「あぁ、拙いな」
ここはお義父さんの書斎で我々以外に人は居ない……にも関わらず、声を潜めて会話する二人。
「最悪の事態だけは避けたいな」
「そんな事は言われんでも解っている!」
何も進展しない苛立ちからお義父さんもリュカさんに八つ当たりをしている。
「おい……最悪の場合は我が国に全責任を擦り付けても構わないぞ」
「な、何!? い、良いのか?」
ど、如何言う事だ!?
そんな事をしてリュカさんには何も利益は無いと思うが……
「元々息子の嫁が起こした事件だ。何もグランバニア・サラボナ両国共がラインハットに恨まれる必要は無いだろ」
「そ、そうだが……」
我々にとってはありがたい話である……が、
「勿論、ウチはラインハットに対して色々と譲歩しなきゃならなくなるだろう……当然大損だ」
「あ、ああ……そ、そうだな……」
つ、つまり……?
「その損失分は、今後の取引等で返してもらう。勿論、表面上今回の事件は明示されない」
「と、当然だ……」
これは……
「事実としてサラボナはラインハットの貴族の入国も、グランバニアの王族の入国も知らなかったワケだし、そのスタンスを貫いて無関係で居ろ。何とか僕が親友のヘンリーを説得して、表面的には大事にならない様にする。表面上大事にならない以上、ラインハットもその貴族もサラボナに対しては何も言ってこないだろう」
「それは……そうだな」
「その貴族の馬鹿ガキがアルルを襲った事が起因なのだから、向こうも大事にはさせないはずだ」
「そ、そうなる……か?」
「そうするんだよ!」
「う……うむ……」
要はリュカさんの何時ものゴリ押しと、両国国王の個人的な仲で話を纏めるつもりらしい。
「事を表面化させたら今後の国家間交渉に支障が出る。せめてサラボナは無傷でいろよ」
「そ、そうだな……そうさせて……もらおう」
リュカさんとヘンリー陛下との仲であれば、如何にか問題を小さく出来そうだ。お義父さんもそう考え、リュカさんの提案を受け入れるのだろう。
当然だが我々としては喉から手が出るくらいありがたい提案だ。
如何にかそういう風に持って行きたいと考えていたくらいだから、それをリュカさんの方から提案してくれるのは渡りに船である。
しかし……
以前に妻が言っていた事が気になった。
『リュカさんは家に来る度に、何かしらの得をしていきます』
今回、彼は如何様な得をしているのだろうか?
アンディーSIDE END
後書き
リュカさんは今回の事でルドマンに大きな貸しを作りました。
でもその貸しはリュカさんが自作自演で作り上げたハリボテです。
本当は恩に着る必要は無いのですが、それを悟られない様に大事にして振る舞ってます。
悪人ですねw
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