彼女の名はアルメリア・メリーダウン

　眠りから覚めた私はスッと起き上がり 辺りを見回す。

　状況把握は2秒で済ませ、腰の刀に手を掛ける。

　さて、今日も目覚めの血戦と行こうか――。




　質素な食卓を挟むのは 私と弟子の「都月閄(みやこづきのかどひと)」だった。


「…で、今日も朝から頑張っていたと、…そういうことですか？」


　呆れた様子でため息をつく閄であったが、彼女も彼女で朝から「狩り」に行っていたことが伺える。

　私が 腕の包帯を凝視しているのに気づいたのか、閄はさらに大きなため息をつく。

「…気づきました…？　これ、噛まれたんですよね、女の子に」

「…えぇ？」　


　私が首をかしげると、閄はこれまた大きなため息をつき、巻かれた包帯を取り始めた。


「…一応聞くけど、閄、平気なのよね…？」


　恐る恐る尋ねると、閄は私をジロリと見て言った。

「…重傷だったら寝てます」


　軽い怪我――というのは、多分嘘だ。


　閄の性格はよく知っている。


　もちろん自分を卑下しているところも。


「ほら、このくらいですよ」


「ゲッ！！」


　思わず声が出るくらい、「それ」は酷かった。


　閄の左手首に付いた「歯型」は普通のそれではなかった。

　腐ったような赤褐色が弟子の腕を侵食していたのだ。


「　…………　」


　私は目の色を変えて歯型を見つめていたが、閄の不服そうな顔を見て そっと口を開く。


「…閄、これ、軽傷…？」

「はい、軽傷です。これくらいで泣きべそ かくなんて信じられません」


　…泣きべそかいてたんだな。

　噛まれた瞬間は泣き出すほど痛かったらしい。

　今は痛みは治まっているようだが、このまま放って置くわけにもいかない。

　とりあえず噛んだ相手のことを聞こうか――。

「…閄……いや、なんでもない」


　と、思ったが、やはり彼女の性格上、ここは黙って連れて行くとしよう。

　目星はだいたい付いている。

　きっと、「あれ」だろう。

「行こっか」

「……」


　微かにうなづいた閄を連れて、朝食もそのままで外に出た。


　戸を閉めて少しだけ息をつき、さぁ向かおうかと思った、その時。
　
　「おっはー、ひっさびさーっ！」


　「犯人」が訪ねてきた。