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イベリス

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第百十八話 次第に知っていってその十一

「そして逃げて助かって」
「自殺しないなら」
「それでいいでしょ」
「自殺しないで済んだら」
「それならね」 
 咲に携帯電話の向こう側から話した。
「もうね」
「何よりなのね」
「命あっての物種で」
 それでというのだ。
「それからも生きていけて自体が好転することもね」
「あるのね」
「そうよ、だからね」
 それでというのだ。
「自殺はよ」
「皆したら駄目だっていうのね」
「辛いこと苦しいこと悲しいことも終わるのよ」
 そうしたこともというのだ。
「絶対にね」
「その時はどう思っても」
「それでもね」
 終わるというのだ。
「だからよ」
「忘れることね」
「お酒を飲んでも」
「誰かにお話しても」
「忘れて乗り越えて」
 そうしてというのだ。
「またね」
「やっていくことね」
「そうよ、あと絶対にね」
「絶対に?」
「人の不幸は笑わない」
 このことも言うのだった。
「いいわね」
「それはなのね」
「失恋とか事故とかね」
「そうしたことがあっても」
「不幸はね」
「笑わないことね」
「意地悪心で嘲笑なんかしたら」
 そうしたことをすればというのだ。
「自分は軽い気持ちでもね」
「それでもなの」
「そうよ、笑われた方は覚えていて」
 そうしてというのだ。
「それでね」
「怨まれるのね」
「このことは覚えておいてね」
「自分は軽い気持ちで笑っても」
「その不幸がトラウマになっていたらね」 
 その時はというのだ。
「笑われると余計に傷付くから」
「それでなの」
「下手したら一生怨まれるから」
 そうなるからだというのだ。
「笑わないことよ」
「そうしたらいいのね」
「そっとしておくことよ」
 人の不幸はというのだ。
「触れないこと、それがね」
「一番なのね」
「そうよ、その人が後で何して来るかね」
「怨まれるとあわからないわね」
「そうなるから」
 だからだというのだ。
「くれぐれもね」
「人の不幸は笑わないことね」
「そうしてね」
「そのことも絶対ね」
「そうよ、私の知り合いでも笑われて」
 その不幸をというのだ。
「笑った相手を全員一生怨んでる人がいるから」
「私にも言ってくれるのね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「だからね」
「そうしたことも気を付けることね」
「咲ちゃんも笑われたくないでしょ」 
 咲自身にも尋ねた。
「だからね」
「それでなのね」
「本当にね」
 くれぐれもという口調での言葉だった。
「そうしたこともね」
「気を付けることね」
「自分がやられて嫌なら他の人にもしないことよ」
「そういうことね」
「そう、だからね」
 愛はさらに言った。
「気を付けていってね」
「そうするわね」
 咲も約束した。
「私も怨まれたくないし」
「それじゃあね」
「気をつけていくわね」
「人の不幸を笑わないこともね」
「やっていくわ」
 確かな声で答えた、そうしてだった。
 咲はこの日も大きなことを学んだ、そしてそれがまた彼女を成長させるのだが今彼女は自覚がなかった。


第百十八話   完


                  2023・7・7 
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