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イベリス

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第百十八話 次第に知っていってその一

                第百十八話  次第に知っていって
 その警官、近藤憲明のことをだ。
 咲はもっと知りたいと思った、それでふとだった。
 速水にだ、店の中で尋ねたのだった。
「あの、店長さん警察とは」
「仲は悪くないつもりです」
 速水は微笑んで答えた。
「特に」
「そうですか」
「占いに来る人もおられますし」
「警察の人も来られるんですね」
「勿論プライベートは秘密ですが」
「それでもですか」
「街で制服を着ていてもわかりますので」
 それでというのだ、ただし秘密にすべき部分は話していない。裏の仕事のことはあくまでそうした。
「おおよそは」
「そうですか」
「それで何か」
「いえ、ただお聞きしただけで」
「私が警察にマークされていないか」
「それはないですが」 
 速水の微笑んでの言葉に思わずこう返した。
「流石に」
「犯罪はしていないので」
 微笑んだまま咲に話した。
「ご安心下さい」
「そうなんですね」
「このお店についても」
「警察が急に来たりですか」
「そうしたことはないです」
「そうなんですね」
「そうです、それとです」
 速水は咲にさらに言った。
「警察官もプライベートがあります」
「人間だからですね」
「趣味があり家庭もあります」
「ご家族がおられますね」
「そうです、例え法律を守る立場でも」
 そうした仕事だがというのだ。
「そうしたものはあるので」
「機械じゃないですね」
「間違っても」
 こう咲に言うのだった。
「そのことはご了承下さい」
「そうですよね、人間ですよね」 
 警察官もとだ、咲はそれはと頷いて速水に応えた。
「だから趣味もあって」
「家族や恋人もです」
「いますね」
「左様です、人間ですから」
 あくまでというのだ。
「お仕事を離れますと」
「プライベートですね」
「誰かとデートしていたりもです」
「ありますね」
「普通に」
「そうです、勤務中は毅然としておられる人も」 
 そうした警察官もというのだ。
「プライベートでは楽しくデートに興じているなぞ」
「ごく普通ですね」
「そうです、それもまた人間なので」
「わかっておくことですね」
「警察官ではないが東条英機ですが」
 第二次世界大戦開戦の時の首相としてあまりにも有名な人物である。
「家庭では真面目で良心的な夫であり父親でした」
「何か浮気しなかったとか」
「当時は愛人、お妾さんなぞそれなりの立場の人ならです」
「いたんですね」
「そうでした」
 これは昭和まであった、政治家だけでなく経営者や作家でもそうであった。太宰治はそうした人に子供を産ませ別のそうした人と心中している。 
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