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イベリス

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第百十七話 お巡りさんの名前その九

「ああなったんだ」
「痛い目を見てもですね」
「全くそこから学ばないでな」
「番長さんなんか捕まって」
「ああなったら手遅れなんだ」
 最早というのだ。
「流石にかなり反省したって言う人もいるけれどな」
「してます?」
「どうだろうな」
 言葉には疑問符があった。
「相変わらずの恰好だしな」
「そっちの筋みたいな」
「だからわからないな、まあ長生きは出来ないな」
「出来ません?」
「あんな生活だとな」
 逮捕された理由もさることながらかなり乱れた生活を送っていた、その為極端に太ってしまってもいる。
「絶対にだよ」
「長生き出来ないですか」
「そうだろうな、まあああはなりたくないよな」
「それは言えますね」
「そうだろ、ああならない為にも」
 マスターは言った。
「ちゃんと学んでな」
「やっていかないと駄目ですね」
「そうだよ」
 咲に強い声で言った。
「だからお嬢ちゃんもな」
「そうしたことはですね」
「しっかりと学ぶことだよ」
「そんな人達みたいにならない為に」
「堀内なんか七十過ぎても何の理論も教養もないんだからな」
「お爺さんになっても」
「昔のままだよ」
 現役時代つまり若い頃から変わっていないというのだ。
「人間七十までに色々あるに決まってるさ」
「それで学んでいきますね」
「普通は十九の頃と七十過ぎじゃ違うもんだ」
 その人間性そして深みがというのだ。
「色々あって学んでな」
「それで成長していきますね」
「そうさ、七十過ぎの人間の言ってることには深みがあるものだよ」
「それだけの人生経験があるから」
「野球人なら野球を観てな」
 そうしてというのだ。
「学ぶさ」
「そうするんですね」
「けれど堀内は自分の現役の頃はどうとかな」
 過去の話か、というのだ。
「特定の人間を歴史上の誰かに当てはめるとかな」
「そんなのばかりですか」
「そこに理論とか今の野球はどうあるかってないんだ」
「本当に昔だけの人ですね」
「現役時代エースでな」
 十八番を背負っていたことは事実である、名球会にも入っている。
「それで凄い実績はあるけれどな」
「そこからは、ですか」
「もう昭和の野球しかないんだよ」
「今令和ですからね」
 咲はクールに応えた。
「野球も全然違ってますね」
「そうだろ。それがわかってないんだ」
 堀内はというのだ。
「だから暴力も振るったしな」
「何か川相さんに後ろから飛び蹴りをして」
 咲は堀内の暴力と聞いてこの話を思い出した。
「そこから何度も殴ったんですよね」
「川相がロッカー荒らしたと思ってな」
「実は整理していたんですよね」
「その前に堀内が選手に見せしめで雨の中走らせたんだ」
「それも昭和ですよね」
「ああ、それをさせて自分はな」
 堀内自身はというと。
「球場の中野食堂で記者の人達と楽しくお喋りだったんだ」
「べンチで観ますよね、普通」
「それで清原が怒ってな」
 このもう一人の問題のある輩がというのだ。 
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