ボロディンJr奮戦記~ある銀河の戦いの記録~
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第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
前書き
ご無沙汰しております。
取りあえず前回のあとがきに書いた通り、C103(冬コミ)にサークル参加を申し込みました。
話の流れはほとんど変えず、縦書きB5で本を作ろうと考えています。
まず明日明後日には受付確認が届いて、11月に当落が決まるはずです。
たぶん落ちると思いますが、一応いつでも製本できるようにデータ修正を進めますので、
今までよりさらに更新速度が遅くなるでしょう。申し訳ございません。
文脈はあまり変えませんが、若干修正は入れるつもりです。
ほぼ半年ぶりにカバー用の絵を描いてます。新しいソフト(CLIP STUDIO)も買いました。
ちなみに伊達と酔狂ですので、製作費はD線上です。
宇宙歴七九〇年 二月二七日 一六〇〇時 ダゴン星域 カプチェランカ星系
第八七〇九哨戒隊を偵察に出してから一時間。こちらは特に有効な一撃を放っていないにもかかわらず、敵は未だに後退を続けている。
砲撃戦が行われているのは現時点で右翼部隊だけだ。勿論砲撃射程に敵を捕らえているのが右翼部隊だけであるというのもあるが、敵の右翼部隊の後退が著しく、第四四高速機動集団が前進しても最大射程より遠くにあって、現時点では攻撃しようがない。
急速前進すれば有効射程内に収めることができるが、それでは第八艦隊との連携が取れず、孤立する恐れがある。既に第四四高速機動集団は自分達が敷設した機雷原を超越している。背後に回り込まれない利点はあるが、同時に撤退もまた難しい。
「敵の行動はあまりに不可解すぎる」
ある程度距離が近づいてからでないと敵の実戦力は分からない。丁度アトラハシーズで俺達がメルカッツ相手にデコイで誤魔化したように。それを調べる為に第八七〇九哨戒隊を送り出したわけだが、隠密哨戒中とあってこちらから誰何するわけにはいかない。
戦意がないというのであれば、早々に順次反転して後退していけばいいのに、戦列はしっかりと維持されている。第八艦隊司令部からも慎重に攻撃せよと命令が出ている。ダラダラと続く軽いワンサイドジャブの打ち合いに、将兵に限らず俺もストレスが溜まっている。
「戦艦アラミノスより、圧縮通信が届きました」
戦艦エル=トレメンドのオペレーターの声が艦橋中に響き、ファイフェルが司令艦橋から駆け出して、オペレーターから直接データを受け取った。
「観測できた敵右翼部隊戦力は総数二七〇〇隻。うち三〇〇隻は分離して後方待機している支援艦艇群、残りの二四〇〇隻が戦闘集団と思われ、六時三〇分の方角へ後進している、とのことです」
ファイフェルが爺様の端末を利用しながら、映し出された報告書を口に出して説明する。
「通信状況はどうだ?」
モンティージャ中佐の指摘に、ファイフェルは小さく頷いてから応える。
「想定上のタイムエラーはなく、データに『異物』は紛れ込んではいない、とのことです。発信された方向は当集団より一一時四〇分、俯角四五度三〇分。なお発信以降の第八七〇九哨戒隊の位置は不明」
俺がそれに合わせて三次元投影機を作動させてその方角を示す。
「これはなかなか面白いところに隠れたのう」
顎を撫でながら感嘆する爺様に、司令部全員が同意する。
『敵に見つからないように動いて、敵を探る』隠密索敵において、一番危険なのは移動経路だ。幾らレーダー透過装置があると言っても、馬鹿正直に真正面から行けば重力波探知と光変異観測でバレてしまう。かと言って集団の左翼側面から自然曲線航路を使えば移動に時間がかかる上、探知できる艦艇の位置が重層的になって敵右翼部隊の右半分に絞られてしまう。
どうやってその位置に達したかはフィンク中佐達が生還した時に聞いてみたいが、発信した位置であれば敵右翼部隊に限らず、敵艦隊全体を満遍なく視野に収めることができる。それでいて天頂方向ではなく天底方向にいるので、敵の死角も多くて隠れやすい。実にセンスのある位置だ。勿論バレたらただでは済まない位置でもある。
「追記があります。敵中央部隊の支援艦艇群一〇〇〇隻と思われる集団の光変異率がやや小さい。偽装の可能性あり、とのことです」
「具体的には?」
「そこまでは記載されておりません」
モンシャルマン参謀長の問いに、ファイフェルは困ったような顔で応える。あくまで送られてきたデータを説明しているだけだ。フィンク中佐としてはあくまで見たものを報告しているだけで、司令部に注意を促し、判断の材料にしてほしいとのことだろう。だが敵中央部隊の支援艦艇群が仮にデコイによる偽装部隊だったとして、それにどういう意味があるのか?
「仮にデコイだとして、実際の輸送艦や工作艦は何処に行ったか」
「……すでに交戦域を離脱した可能性もあると?」
「ボロディン少佐、重力波観測による敵陣形の変異を時系列で表示してみてくれ」
モンシャルマン参謀長の指示通り、俺はデータを集めて三次元投影機に入力していく。砲火が開いてからの双方の動きを、探知している範囲でシミュレーションする。やはり後方に位置していた支援艦艇の一部が、ヴァルテンベルク艦隊の後退に合わせ一時的に前進して合流。その数時間後に再分離して後退し、定位置に留まる部隊とイゼルローン方面への跳躍宙点方向へ移動する部隊に分かれ、探知範囲から消えた。少し離れたところに立っているブライトウェル嬢を含めた七対一四個の瞳が、三次元投影機の中で繰り返し移動する支援艦艇群の動きを追い続けている。
「会戦の隙間におけるごく常識的な補給・修理活動のように思えるが?」
シミュレーションが三度繰り返された後、眉間に皺を寄せつつカステル中佐は呟くように言う。一時的な戦線収縮に合わせて輸送艦が各艦に補給し、工作艦が戦闘不能な艦艇を引き摺って後方へ下がる。自力航行可能な損傷艦艇は戦域を離脱し、味方の後退を待つかイゼルローンなりの後方の基地へと後送されていく。帝国軍全体が後退している以上、何ら不思議ではない行動だが……
「一〇〇〇隻ないし一五〇〇隻近い数の艦艇を一度に後送させるほどの痛撃を、我々は帝国軍に与えたのでしょうか?」
再分離する前までに前線から後退した艦艇数は三〇〇〇隻近い。分離後残った艦艇が仮に後方支援艦艇として事前に観測されたそれらは約一五〇〇隻。つまり後送され探知範囲から消えた艦艇は一五〇〇隻近くになる。この数は実に微妙。
会戦が始まってから一〇時間以上続いた砲撃戦。大なり小なり損傷した艦艇もあるだろう。だが戦闘行動に支障がない程度の損傷ならば、まずは自艦の応急班で対応する。わざわざ後送したりはしない。
「偽装後退による別動隊の再編成と考えてよいと思われます。至急、上級司令部に前進攻撃の停止と索敵範囲の拡大、惑星カプチェランカ衛星軌道上での陣形再編を進言すべきと、小官は具申します」
「ジュニアはその別動隊が、我が軍の右翼部隊後方ないし側面に出現し、挟撃体制を取る、そう言うんじゃな?」
「はい」
「よかろう。早急に上申書を作成し、提出せよ。儂が署名する」
上申書に署名するということは、ある意味では功績を横取りすることだ。それでも俺の名前では採用されないかもしれないが、爺様の名前であれば嫌だろうが第八艦隊司令部も聞く耳を持ってくれるかもしれない。状況は一刻を争う。爺様もそれを理解して、敢えて無理を言っているのだろう。
俺が上申書のテンプレから、現実と状況報告と上申内容をできうる限り簡潔に纏め爺様に提出したのは五分後。それをモンシャルマン参謀長が黙読二分。最後に爺様が三〇秒で斜め読みし、端末画面にペンでサインを書き込んだ。ファイフェルはその端末を預かり、暗号変換にかけた上で戦艦ヘクトルの司令部へと直接送信する。
「モンシャルマン」
横目でファイフェルの行動を睨みつつ、爺様は聞く者の体を震わせるような迫力のある声で参謀長に命じる。
「戦列を組み替える。円錐陣形じゃ」
「円錐、でありますか?」
参謀長の疑念も俺は当然と思った。明らかに前進・攻撃用の陣形で、紡錘陣形に比べれば局所火力と突破力に乏しいが、方向転換と機動性においては勝る。アトラハシーズ星系で帝国軍の後背をえぐり取る戦いで、第四四高速機動集団は経験済みだが、敵は前方遥か彼方にいる上、たった今第八艦隊司令部に上申した内容は別働隊による右側背への攻撃を危惧するものだ。
むしろこのまま集団を部隊毎に右斜に並べ、敵別動隊が同盟軍右側背に現れたタイミングで九〇度右舷回頭、第八艦隊の後背を直進して別動隊の鼻面を叩くのがベターではないか?
爺様と参謀長の会話に無理やり割り込むような形でそう進言すると、爺様は右手を上げつつ小さく首を振って否定する。
「ジュニア。シトレ中将は優れた戦略家であり軍政家ではあるが、基本的に戦術家ではない。勿論、並の戦術家よりは上じゃが、不利な状況をあえて流すような無神経な真似は出来ん人じゃ」
「……敵が我が軍右翼部隊を挟撃してきた時、第八艦隊の後方予備戦力が即応する、という事でしょうか?」
「儂らが具申した内容に対応するだけの力が自分達にある、と考えればそうするじゃろう。ジュニアも見てきた通り第八艦隊司令部は、上官のイエスマンではなく、自分達の学んできた戦術理論を元に状況を分析し、対処する為の案を導き出すことのできるエリートで構成されておる」
それは決して悪い司令部ではない。むしろ優秀な司令部と言っていい。だが状況が自分達の学んできた理論を超える事態になった時、思考が硬直するきらいがある。集団として理屈倒れのシュターデンみたいな雰囲気は確かにあった。独断専行した(ように見えた)第四四高速機動集団司令部から俺を召喚して詰問したのがいい例だ。
「でしたら尚更、彼らのコントロールから外れるような状況になった場合に備えて、我々も対応すべきではないでしょうか?」
「それもジュニアの言う通りじゃが、こういう場合は味方右翼部隊の戦力構成を考えてから、『後の後の先』を考えるのが正解じゃな」
爺様の言葉に、俺は頭の中で右翼部隊の戦力構成を各司令の顔と共に思い浮かべる。四つの独立部隊の集合体で、先任である第三五三独立機動部隊のドゥルーブ=シン准将が指揮を執っている。そして後退する敵に対して部隊を二分して交互躍進攻撃を行っている……
「……まさか右翼部隊が二つに部隊を割って、前方と側面の双方に対処しようと動くとお考えですか?」
そんなことは常識的にありえない。数的にほぼ互角の、戦力的には圧倒的に格上のメルカッツ艦隊と味方右翼部隊がまともに戦えているのは、右翼部隊自身の敢闘もさることながら、メルカッツ側が長距離砲撃戦のみで対処して近接戦闘を挑んできていないことにある。
後退と合わせてそれをメルカッツの戦意不足と勘違いして追撃しているというのであれば、流石に近視眼に過ぎるが、もしそう考えているならば別動隊を『殿の横槍』と考えて、部隊を二つに割って対応しようと考えてもおかしくない。つまり爺様が考えていることは……
「……前進強襲・右旋回戦闘」
「正解じゃ」
鼻で笑うような爺様の態度に、俺は暗澹たる気持ちにさせられた。モートンにしても、カールセンにしても、ケリム警備艦隊のエジリ大佐にしても、そして爺様にしても、同盟軍のエリートに対する反骨精神がもはや不信というレベルに達している。
実戦経験の機微と戦術理論が現実上で対立した時、司令部がどう判断するか。理論を強く主張する参謀チームを統括し、実戦経験豊富な中級指揮官を熟練した指揮で動かすことができる優秀な戦術家であるラザール=ロボスが、宇宙艦隊司令長官になるのはある意味当然だ。なんでそれほどの男がフォークの専横を許したのか、まったく理解しがたい。
シトレがこれからの経歴で宇宙艦隊司令長官になれるかどうかは分からないが、統合作戦本部長になれたのは爺様の評価の通りだということ。爺様がシトレ閥にいるというのは、長年の知人であり比較的マシなエリートで、人格的に優れているからなのだろう。戦術指揮官としては、爺様はそれほどシトレを評価していない。
そして俺は何の因果か士官学校首席卒業者だ。爺様達叩き上げから見れば、エリート中のエリートというところだろう。先のエル=ファシル奪回戦では散々中級指揮官達のヘイトを稼いだ。俺も順調にいけ好かないエリートの道を歩んでいるのだろうか。
「ジュニア」
いつの間にか意識を飛ばしていたのか、爺様は俺の正面に立ち両肩に年季の入った手を置いて俺を揺すっている。陣形変更の命令はモンシャルマン参謀長がファイフェルを通じて出しているようで、周辺視野の端っこにいる。モンティージャ中佐もカステル中佐も、自分の席で自分の職責を全うしている。恐らく一〇秒かそこいらだろうが、作戦中に意識を飛ばすなど士官として言語道断の所業だ。だが意外なことに爺様の表情には、先程の気迫や怒りというモノが全くない。
「シニアやクブルスリーから聞いておったが、ジュニアにはなかなか不思議な悪癖があるのう。傍から見ると普通にしているように見えるから、余計に怖いんじゃが」
「申し訳ありません」
俺が慌てて腰を直角に曲げ頭を下げると、爺様はまさに好々爺らしい笑みを浮かべて、よいよいと手を振っている。
「儂が余計なことを言ったからじゃ。気にせんでよい。じゃが貴官が一部隊を率いる時には、それなりに気の利いた副官を用意した方がいいじゃろうな」
そういう爺様の悪戯っぽい視線は、俺の顔ではなく肩口を超えていた。振り向くと七歩ほど離れた先に、アイスコーヒーを二つお盆の上に乗せているブライトウェル嬢の姿があるのだった。
◆
それから三〇分後。第四四高速機動集団がそれほど時間をかけずに陣形を円錐に変更完了した後、ようやくヘクトルから具申に対する返信が来た。
「『一考に値する意見なれども、現状の陣形と戦力で対処は可能』以上です」
呆れてものが言えないと言わんばかりのファイフェルの口調に、爺様は何もしゃべらずに司令席でメインスクリーンを見つめている。敵が後退を続けている戦況に変わりはない。だが既に戦域は惑星カプチェランカの衛星軌道からはずいぶんと離れてしまった。
重ねて意見具申しますか、とファイフェルが俺に向けて無言で視線を送ってくるが、俺は首を振る。もう爺様は織り込み済みだ。言質を取った、責任は第八艦隊司令部にとってもらう。数分の沈黙の後、爺様はモンティージャ中佐を呼んだ。
「第八七〇九哨戒隊に暗号通信できるか?」
「可能です。ですがなるべく短文でお願いします」
「『戦線離脱許可・可能なら左翼方向より離脱せよ』で発信せよ」
「……了解しました」
イェレ=フィンク中佐に含むところというよりは、第八七〇九哨戒隊に対して思うところのあるのか。モンティージャ中佐の返答が遅れたのは明らかだった。戦線離脱許可ということは、命令統制から外れて独自に行動しても良いということ。しかし第八七〇九哨戒隊のことだからまともに戦線離脱せず、索敵任務を継続するだろう。第四四高速機動集団のさらに左から奇襲をかけられる可能性を、事前に察知する為に。
「第三五三独立機動部隊より全部隊に緊急電! 右翼方向に新たな敵勢力出現。数およそ二〇〇〇!」
「索敵情報を戦艦バラガートより受信。第三五三位置より〇四一一時、距離七.三光秒、俯角一一.五度」
エル=トレメンドのオペレーター達が声を上げる。緊急電なので、全ての艦にバラガートからの情報が届く。エル=トレメンドからの位置に換算すると三時〇五分、距離八.八光秒、俯角一〇.四度。ほぼ真横になる。本来なら第四四高速機動集団は一斉に右舷回頭して前進、第八艦隊の予備戦力である第五部隊一二〇〇隻と合流してこれに対処するのだが……
「第三五九独立機動部隊と第三六一独立機動部隊が、戦線から後退しています!!」
「旗艦ヘクトルより第八艦隊第五部隊に迎撃指示が出た模様です」
「味方右翼部隊で通信量増大。錯綜を起こしています」
戦闘艦橋にいるオペレーター達の声が、司令艦橋に設置されているスピーカーではなく、直接聞こえてくる程までに大きくなっている。モンシャルマン参謀長が直ぐにモンティージャ中佐に無言の視線を送ると、中佐は返答せず自分のインカムを鷲掴みして、まるで鼻歌を歌うような軽快な声でオペレーター達に話かける。
「慌てるな。まずは新たな敵を発見した時からの、味方部隊の動きのみを観測し、シミュレーション化して司令部に報告せよ。通信や命令の報告は、当部隊宛のもの以外は報告しなくていい」
一瞬シーンと静まり返ったエル=トレメンドの艦橋は、堰を切ったようにコンソールを叩く音のみが響き、三〇秒後には司令部の三次元投影機に、味方部隊と横槍を入れてきた敵部隊の制宙範囲が時系列で浮かび上がる。
それを見るかぎり、第三五九と第三六一両独立機動部隊の、戦列後退からの右舷回頭行動は見事に統制されており、横槍を入れてきた敵別動隊の前にガッチリと壁を作り上げることに成功した。現時点で両部隊の数は合わせて一二〇〇隻に達してはいないが、両部隊の後方にこれまた転舵した第五部隊一二〇〇隻が並び、敵よりやや多い戦力で並行陣を形成し、別動隊の味方後背への侵入を阻止している。
事前に第八艦隊司令部へ意見具申をしているとはいえ、その情報が彼らの手元に届いているとは時間的に考えられず、敵の出現と共に独自の判断で後退・反転回頭を判断し、間一髪とはいえ巧みに戦列を組みなおし、別動隊に逆撃の砲火を浴びせている。これだけ見ればパストーレもムーアも、六〇〇隻前後の独立部隊の指揮官としての力量は、まずもって一流と言えるだろう。
だが局地戦における独立機動部隊指揮官として一流であっても、交戦星域全体を見渡す必要がある制式艦隊司令官としては失格だ。対峙していた敵戦力が半減したことを、老練なメルカッツが見逃すはずがない。別動隊の足が止まったタイミングを見計い、漫然とした後退から傲然とした前進へと動きを変えた。しかも僅かに左斜陣形を形成し、対峙する部隊と別動隊を抑えた部隊の薄い間隙を圧迫しようとする。
それに対峙せざるを得なくなった第三五三独立機動部隊と第四一二広域巡察部隊は、本来ならば密集隊形を作り上げ防御を固めたいところなのに、第三五九と第三六一が抜けた穴に潜り込まれるのを阻止する為、いずれ第八艦隊から後詰が来ることを信じて中途半端に陣形を広げざるを得ない。だがそれこそがメルカッツの望んでいたことだ。敢えて受信量を絞っているので情報は入ってこないが、光学的観測だけでも両部隊の陣形内部に煌めく輝きの数は著しく増加している。
「おそらく右翼戦域において宙雷艇とワルキューレによる近接戦闘が展開されていると思われます。このままですと右翼を起点として、同盟軍全部隊が半包囲されるのは時間の問題かと」
俺はメインスクリーンの右端に映し出された標準時刻を見た後、爺様に言った。
「ヘクトルに再度、意見具申なされますか?」
別動隊が後方に現れるまでの間に、俺は二通りの具申案を準備した。一つは常識的に一斉右舷回頭し第八艦隊の後背をすり抜けて、第三五三と第四一二の後詰にむかうか第五分艦隊の右側面から前進し別動隊の左側面を攻撃する案。
もう一つは爺様の望み通り、全速前進し半包囲を試みようとする帝国軍右翼部隊の機先を制し、あるいは突破して帝国軍本隊後方に躍進する案。爺様もセコセコと自席で端末を弾いていた俺の姿を見ているわけだから、察してはいるだろう。
「儂は勝ち筋が見えている戦いで、負けないことに努めるのは苦手な性質でな」
僅かに生えた無精ひげを撫でつつ、爺様は鼻息荒くはっきりと口にした。
「ヘクトルには『仕事しろ。我々もこのように仕事をする』と添付の上、攻撃案のみ送れ」
まるで上官に向かって中指を立てるような返答。経歴はどうあれ、この戦場における最先任士官はシトレである。そんな返答をすれば、あとでどんな処分が下されるか分かったものではない。だが意志の硬さ(頑固)と即断即決(短気)では折り紙付きの爺様だ。本気も本気だろう。爺様の肩越しにある、長い付き合いのモンシャルマン参謀長の顔は平常通り。一方でファイフェルの顔色には微妙な諦観が含まれている。
「強襲戦闘じゃ」
爺様は未だ衰えを見せぬ矍鑠とした動きで司令官席から立ち上がり命令を下す。爺様の意思はパストーレやむ―アらが後退する前に示されている。命令が下ってから自分の行動を考えはじめるような幕僚は、既に第四四高速機動集団司令部にはいない。モンシャルマン参謀長は陣形再編案を提示し、モンティージャ中佐は妨害下における索敵・通信手段の再確認と強行偵察スパルタニアンの発進許可の上申、カステル中佐は爺様にエネルギーと兵器残量の要約を提示する。俺はカステル中佐の後に、爺様へ航行計画を提出する。
「メルカッツ相手にできんかった左フックで、ようやく敵を吹き飛ばせるのう」
俺の航行案を見て、爺様は獰猛な狼のように、にやりと不敵に笑う。
「何発でKOできると思うか?」
「残念ながら右が使い物にならないので、ボディを何度か叩く必要があるでしょう」
「ミサイルの残量は一〇斉射分じゃそうだ。大事に使わんとな」
自席に戻っていくカステル中佐の背中を一瞥した後、小さくウィンクする。
「ジュニア、すぐに忙しくなるぞ。『同時通訳』はしっかりな」
果たしてモンシャルマン参謀長は席に座って、眉間を両手人差し指で揉んでいるのが分かる。アスベルン星系での戦い同様の戦闘指示ポジションだ。
「ファイフェル! 指揮下各部隊旗艦に伝達。『急戦速攻。陣形このまま。目標進路一一時三〇分。第二戦速』」
「ハッ!」
爺様達に比べればまだまだひよっこだが、アスベルン星系の時に比べてだいぶ戦場での落ち着きを手に入れたファイフェルが、少し離れたところにあるマイクを手に取り復唱する。声に緊張感と若さがあるが、原作アニメで何度も聞いた声そのまま。
視線を僅かに右に逸らせば、従卒の定位置である右舷側ウィングに、直立不動の姿勢でブライトウェル嬢が立っている。たった八ケ月前には真っ青な顔で棒立ちだった少女は、見えない敵を探すかのように、メインスクリーンを真正面から睨みつけている。
この戦いで同盟軍が勝利を得るか否かは、正直なところ五分と五分。第四四高速機動集団の攻撃が成功し、敵の右翼部隊と本隊の脚が止まれば、第八艦隊ならば敵中央部隊と左翼部隊の接続点を圧迫し、分断することを企図するだろう。流石にその程度の判断力はシトレにはあるはずだ。
そして完全に分断することは戦力不足で出来ないだろうが、各個撃破の危険性をメルカッツと別動隊に悟らせることは出来る。第一〇艦隊の増援は間に合わなくても、戦局不利を悟ってカプチェランカ周辺宙域より一時的に後退することは充分に考えられる。それをひっくり返す帝国軍の新たなる増援が存在するとしたら、カプチェランカ攻略作戦失敗の責任は実戦部隊には存在しない。
前進命令が出て動き始めてから三〇分後。先行艦艇の重力波感知で敵左翼部隊の動きが入ってくる。彼らは後退から前進に移行し、陣形を凸陣形に変更。進路を左に変えつつ、第八艦隊の左翼部隊へ向けて進撃を開始しているとのこと。第四四高速機動集団の現在の位置からは右舷二時三〇分の方角、俯角三.三度、距離一〇.二光秒、ほぼ並行して逆進撃をしている形になる。
「敵の右側後に喰らいつけ!」
「進路変更。方位〇一三〇、仰角〇.三、主舵〇.九七」
「進路変更、集団主軸、方位一時三〇分、仰角三度。進路固定後、主舵固定一四度。速度そのまま」
「集団全艦、一斉進路変更。集団主軸、方位一時三〇分、仰角三度。自律位置確保後、主舵固定一四度。第二戦速を維持せよ!」
爺様からモンシャルマン参謀長、そして俺からファイフェル、ファイフェルがオペレーターへ。それが各部隊旗艦から各戦隊、各隊、各分隊と伝わり、円錐陣は一瞬その形を崩しながらも、右旋回を開始する。右旋回だから当然集団左翼に位置する艦は内側の艦より速度を上げて動かなければならない。集団結成当初ではバラバラになっていたかもしれない艦隊運動も、度重なる訓練と実戦によって鍛えられた部隊は何とかこなしていく。
二月二七日二一〇〇時。第四四高速機動集団は敵右翼部隊のほぼ右側面に捉えることに成功する。本来なら敵の重心点から見て四時三〇分の方角に攻撃主軸を収められるはずだったが、敵右翼部隊は距離六.二光秒まで接近した段階でこちらの動きを察知したのか、進撃速度を下げて対応しようと試みていた。
しかし察知していた時点で、何故か第八艦隊左翼に位置する第四部隊が急速前進を開始しており、その最大射程内に敵右翼部隊は収められていた。
この状況下で敵右翼部隊は判断に逡巡した。速度を上げて前進すれば前後挟撃される。速度をさらに落として右旋回して第四四高速機動集団に対峙すれば第四部隊の側面攻撃を受ける。右方向に転針し第四四高速機動集団と第四分艦隊の中間宙域を抜けて同盟軍本隊後方に躍り出れば、孤立して逆包囲追撃を受ける。急速後退すればやはり第四四高速機動集団と第四部隊が合流し、孤立戦闘を余儀なくされる。
まともな選択肢がない中でヴァルテンベルクが選択したのは、速度をさらに落とし右舷回頭し、左側面に比較的少数の第八艦隊第四部隊の攻撃を受けつつも、まずは第四四高速機動集団の攻撃を受けとめ、中央のイゼルローン駐留艦隊から増援を受けて反撃に出るという消極案だった。
「やれやれ。これは第八艦隊第四部隊には、何か奢ってやらねばなるまいて」
強行突破を考えていた爺様は右耳を掻きつつ、苦笑いを浮かべた。最初にヴァルテンベルクを引き摺り込んで袋叩きした時も、特にこちらから指示を受けるまでもなく左舷回頭して対応してくれた。今回も第四四高速機動集団の逆進撃に合わせて急速前進し援護してくれている。こちらが作戦案を喧嘩腰に叩きつけて行動しているのだから、第八艦隊司令部からは特段指示が出ているとも思えないので、これも部隊司令の独自の判断だろう。
いずれにしてもヴァルテンベルク率いる敵右翼艦隊は、二方向からの攻撃にさらされることになる。後退しながら回頭しつつ、二方向からの砲撃に対応するというのは、誰がやろうとしても困難な事業だ。運用を指示できるフィッシャー師匠のような参謀が仮にいたとしても、アッテンボローのような別働戦力として粘り強く抗戦を指揮できる副指揮官がいなければ、統制をとることは相当難しい。
そしてヴァルテンベルクには見る限り、どうやらそのような存在は居ないようだった。隣接する巡航艦戦隊同士が互いに後退しようとして交錯し、回避しようとそれぞれが転舵した先は、戦艦戦隊が防御火力を展開しようとした射線範囲だった。船体真横から戦艦の砲撃を受けて巡航艦が無事でいられるわけがない。シャチの群れに追っかけまわされるイワシの群れのように、あちらに逃げこちらに逃げと動き回るので、別の戦隊の戦列も乱れる。
爺様はその動きを見逃さず、モンシャルマン参謀長に砲撃を指示する。戦艦基準の砲撃指示を俺が集団砲撃指示に翻訳し、ファイフェルがそれを集団各艦に伝える。爺様と参謀長の的確な砲撃指示と集団各艦の統制の取れた砲撃によって、第四四高速機動集団は円錐陣形を維持しながら、かつてのマーチ=ジャスパーの如くチーズをナイフで切るように帝国軍右翼部隊は分断された。
分断されたうち第八艦隊第四部隊と第四四高速機動集団に挟まれた側の一片は組織的な抵抗能力を失い、個艦単位で散り散りになって戦線を離脱していく。もう一片の側には旗艦である戦艦オスターホーフェンの所在が確認されていた。その数は一二〇〇隻に達しない。彼らは秩序を維持しつつも、戦意を喪失し後退している。
この時点で同盟軍と帝国軍、どちらが勝っているかなど誰も分かりようがなかった。戦艦エル=トレメンドのオペレーター達が纏めてくれたデータを整理しても、天頂方向から見れば右横に引き延ばされたMの字の真ん中から左の部分が鈍角に折れ曲がっているような、なんと形容していいか分からない前線模様になっている。通信・連絡線はぐちゃぐちゃで、同盟軍から見て右翼方向は押しに押されて崩壊寸前だが、左翼方向はほぼ一方的に蹂躙している。
幸い蹂躙側にいる第四四高速機動集団としては、掃討戦をすることなく、進路を維持して帝国軍中央部隊の右側面を攻撃に掛かる。だが前方に広がる中央部隊の後衛を見て集団司令部は唖然とした。
「なんでこれほどの数の支援艦艇がこんなところにいるんだ……」
カステル中佐がメインスクリーンに映る、まさに慌てふためいて「後方に」逃げ出していく帝国軍輸送艦と工作艦を目にして零した。本来なら戦闘宙域外、第四四高速機動集団の左舷一〇時一〇分の方角にある一団が、後方支援集団であるのが常識だ。モンティージャ中佐が慌ててその集団に対して光学測定を行うと、そこには何の姿もない。映像に映らないほど小さく、それでいて重力波や熱源をまき散らしている……第八七〇九哨戒隊が観測したとおり帝国軍が撒いたデコイ群だろう。
つまりは偽装後退した二〇〇〇隻以上の帝国艦隊にこれらの支援艦艇は含まれておらず、同盟軍側の索敵を誤魔化す為に、戦闘艦隊として部隊後衛に戦列参加していたわけだ。戦列を厚く見せて、第八艦隊司令部が右翼への増援を躊躇する位に。あえてデコイまで仕込んで。
「……向こうも観測しているだろうが、一応第八艦隊司令部にこの状況を説明しておいてくれ」
騙されたというよりは、呆れてものが言えない爺様をよそに、モンシャルマン参謀長は俺にそう命じた。簡単な報告書と観測データを添付して、旗艦ヘクトルに送るよう通信オペレーターに頼むと、ほとんど時間差なくそのオペレーターがヘクトルからの通信文を手渡した。
「第四四高速機動集団は、左舷一一時の方向に進撃しつつ、展開して敵を半包囲し掃討せよ。以上です」
通信文を受け取ったのが俺であるので、面倒なのでファイフェルではなく俺が直接司令部で報告すると、爺様もモンシャルマン参謀長も、モンティージャ中佐もカステル中佐も、それどころかファイフェルまで、一斉に溜息をついた。
「ま、このまま直進するのも、一一時の方向に向かうのも、砲撃目標が右に多少ズレるくらいじゃから別に構わんのじゃがな……」
「しかし半包囲ということは、第八艦隊の主力も前に出るということになりますが」
モンシャルマン参謀長の反問通り、我々は二〇〇〇隻未満の戦力である以上、単独で敵中央部隊を半包囲することなど物理的に無理なので、第八艦隊と合同でということだろうが、その第八艦隊にそんな戦力の余裕が到底あるとは思えない。第四部隊が想像以上の活躍をしているとはいえ、第三五三独立機動部隊と第四一二広域巡察部隊はほぼ壊滅状態。そちらのフォローの方が第八艦隊には求められているはずだ。
「好意的に考えれば、敵主力の後背に我々が動くことで敵全体の戦意を低下させ、もって敵を撤退に追い込む、ということですが」
「そういう期待を持つのは構わないが、なされるかどうかは敵に聞いてもらうしかないな」
辛辣な表情で辛辣なセリフをモンシャルマン参謀長は吐く。敵中央部隊の戦力が有効な戦闘力を維持している間は、敵の撤退など考えられない。半包囲態勢を敷くために現在の陣形を変更する時間をかけるくらいなら、このまま直進して敵中央部隊に致命的な一撃を与えた方が、より早く決着がつくのではないか。だいたい不用意な陣形拡大は、敵に対し付け込む隙を与えることになると言って第四四高速機動集団を批判していたのは彼らで、そもそも付け込んだ敵を倒せるだけの手当てがあるのか?
「ジュニア!」
口をへの字に曲げた爺様が、荒々しい声で俺を呼ぶ。
「第八艦隊司令部は、本当に『一一時の方向に進撃し』、と命じておるんじゃな?」
「ええ、はい」
最終的にファイフェルの右手の内に収まったペーパーを取り戻してからと、文面を確認する。一字一句間違えていない。
「それが如何いたしましたか?」
「一一時〇〇分とは書いておらんじゃろうな?」
「書いておりませんが」
確かにそうは書いてない。書いてはいないが……
「……流石に強弁に過ぎませんか?」
「三〇分だろうが五九分だろうが、一一時の方角に間違いはなかろうて。のう、参謀長?」
「ボロディン少佐も書いてないと確認していることですし、それでよろしいかと」
「いや、ですが……」
「敵の中央部隊主軸を直接攻撃し、もって継続戦闘能力を奪う。ジュニア、進路を出せ!」
命令となれば仕方がない。俺も爺様の指示の方が正しいと思うが、これはほとんど司令無視だろう。爺様が独立部隊の指揮官だった頃の戦績シミュレーションを思い出しつつ、敵旗艦と後衛予備兵力の中間地点を目標として、現在の陣形のまま無理なく途中で進路変更ができるルートを提示する。
「一一時三八分五五秒か……よかろう。麾下全艦にこの航路を通達せよ。第二戦速じゃ」
爺様から渡された計算書を持ってマイクに向かって駆けだしていくファイフェルを他所に、俺は座っている爺様から手招きされた。これは俺の出した針路が爺様の本意とは若干ズレているのは分かっている。このパターンで二度爺様の鉄拳を浴びている俺としてはあんまり近寄りたくはなかったが、睨みつける視線に自然と足を前へと動かさざるを得ない。だが傍まで寄ると、爺様は座ったまま左腕を伸ばして、力強く俺の右肩を掴んで引き寄せた。
「ジュニア。儂が責任をとるんじゃから、それほど気を利かせんでもよいのじゃぞ?」
「しかし……」
「じゃが気を利かせてくれたことは感謝せねばな。士官学校の首席様はご存知かもしれんが、儂のとっておきのコツを教えて進ぜよう」
そういう爺様の顔は、かつて査閲部で色々と言葉を交わした古強者達と全く同じものだった。俺が中腰になって顔を向けると、爺様はメインスクリーンの端っこに映る第四四高速機動集団と正面に展開している敵中央部隊のシミュレーション図を指差した。
「ジュニア、格闘技は何が得意じゃ?」
「なにが得意というわけではありませんが、士官学校では徒手戦闘術を習いました」
「ならある程度わかるな。艦隊決戦時、儂は相対する敵を一人の人間として認識しておる」
「人間?」
「頭部が旗艦と中核部隊。首が主軸戦艦部隊。腰骨が宇宙母艦。背骨や肋骨、それに関節が連絡線に位置する前衛戦艦部隊。殴る腕や蹴る足の筋肉が巡航艦部隊。指が駆逐艦や戦闘艇。まぁ大まかに言えばそんな感じじゃ」
「人間を破壊するように戦うと」
「顎先に一撃喰らわせれば人間は倒れる。じゃがそう簡単にはいかん。ジャブを打ち、ボディを叩き、フェイントを見せ、ローキックで崩し……隙が見えたところでKOを狙うが、まぁ大抵は判定勝負じゃな」
「数の大小は、階級」
「そうじゃ。逃げるにしても、大ケガしないように立ちまわって逃げねばならん」
フライ級とヘビー級じゃまともに戦ったら勝負にならない。移動速度、距離間隔、攻撃の質……なるほど爺様の攻撃指示は、リング上の老練な格闘家の戦い方そのままだ。逆に言えば負けない戦いというのも、同じ基準で考えて指示をしている。
だからこそ今の第八艦隊司令部が出す『戦術シミュレーションの逆回し』みたいな指示をまどろっこしく感じるのだろう。意図は理解するが、もっといい『倒し方』はあるんだぞと。やはり爺様は柔軟な思考力と広い視野を持っていても、本質は戦術家(喧嘩屋)なのだ。
恐らく、いや統合作戦本部と宇宙艦隊司令部の人事評価部門がマトモであれば、一連の戦いでの評価と前回のエル=ファシル奪回の功績で、爺様は第五艦隊司令官になるかまではわからないが中将に昇進するだろう。俺ももしかしたら中佐に昇進するかもしれない。そして原作では爺様とモンシャルマン参謀長のコンビは、宇宙歴七九四年のヴァンフリート星域会戦まで継続する。となるとやはり俺は爺様の機嫌をよほど損ねない限り、最大で『第五艦隊作戦参謀/准将』あたりになる、かもしれない。
それで果たしてあの帝国領侵攻を事前に阻止できるだけの実力と権限を持つことができるのだろうか。それこそフォークを暗殺でもしなければダメなんじゃないか……前進を開始し、意気上がる第四四高速機動集団の前衛部隊が帝国軍中央部隊の右脇腹に突っ込んでいく姿を眺めつつ、俺は小さく溜息をつくのだった。
後書き
2023.09.20 更新
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