リュカ伝の外伝
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恋バナ聞かせて
(グランバニア城内:レクルト邸)
ピエッサSIDE
折角の金曜日の夜。
本当ならば彼氏と一緒にディナーデートとかを楽しみたいが、何やら今夜は用があって深夜の帰宅。
遅くならずに帰ってくると言っていたから、私は彼の家で待っていた……
それなのに彼が帰ってきたのは日付が変わってから。
大分お酒も飲んでいる様で、正直不満は溜まっている。
それでも私はお水を用意しリビングのソファーに彼を座らせて介抱する。
本当は直ぐにでも彼をベッドに寝かせたかったのだが、酔っ払っている彼は「大丈夫……僕は大丈夫だから、ちょっと話を聞いてよぉ~」と縋り付く様に懇願された。
まぁ愚痴りたいのだろう……如何やら嫌々飲んだ酒みたいだから。
「今日はね、本当はね、仕事が終わったら直ぐに帰りたかったんだよ。なのにね、先輩がね、酒奢れって強引にね……」
本当に嫌々だった事が分かるくらい情けなく私に話してくる。
しかも無い胸に顔を埋めながら……こういう時は大きい方が喜ばれるのだろうなぁ。
「よく頑張ったわね。先輩っていっても、その人は部下になるんでしょ? レッ君は偉くなっちゃったから」
「うん。僕が新人の時に凄くお世話になったから、無下にも出来なかったし……お酒を奢るくらいなら僕の方がお給料を貰ってるから構わないんだけど……その人、酒癖が悪いんだよ」
偉くなるのも考えもんね。
「でも先輩さんは楽しんでくれたのでしょ? お世話になった恩返しが出来て良かったじゃない」
「酒癖が悪い人の酒の相手は疲れるよ」
現在のレッ君も私の胸に顔を埋めて愚痴る悪い酒になってるわよ。
「じゃぁプロに任せれば良かったんじゃないの? 正直言えば行ってほしくないけども、サビーネちゃんのお店に誘えば良かったんじゃない?」
あの娘はレッ君を金蔓としか見てない事が分かったから、こういう場合なら我慢できる。
「その先輩……女性なんだよ」
「……………」
え? 女と二人で飲みに行ってたの!?
「勘違いしないで! 全然、そういう気は無いから!」
「そうは言われても……」
うっかり飲み相手が女であった事を言ってしまったレッ君は、私の胸から顔を離すと酔いが覚めた様に真顔で否定する。よりアヤシい。
「ほ、本当だって! そ、その先輩も僕には全く興味無いし!」
「でも……あわよくば……って感じになったじゃないの?」
本気で疑ってるワケじゃないが、レッ君はついからかいたくなる。
「僕からは絶対に無いって! だってその先輩は口の悪い部下から容姿を“メスのソルジャーブル”って呼ばれてるんだよ」
「メスのソルジャーブル……!?」
ソルジャーブルは聞いた事がある。人間の美的感覚で言えば、かなりの醜悪なモンスターだと……
「そ、それに今回の飲み会だって、その先輩が部下の新人君(♂)が可愛くて気になるから、もっと二人きりになれる任務を寄こせって……気の弱い後輩上司に圧力を掛けにきただけなんだから」
「自ら“気が弱い”とか言わないの。 ……ってか、その先輩の恋バナを、もっと詳しく聞きたいわね」
「こ、恋バナじゃないよ。クエンティーナ先輩が一方的に思いを寄せてるだけだよ」
「先輩の名前はクエンティーナさんって言うのね。可愛い新人君の名前は?」
「あ、圧が……圧が凄い」
「言いなさいよぉ、可愛い男の子の名前は!?」
「あ、あの……“ジャスティン・ハドソン”16歳になったばかりの二等兵。因みに先輩は“クエンティーナ・マサイス”30歳の軍曹だ」
「うわぁ~、年の差14歳!? やるわね先輩。 ……で、如何すんの?」
「何が?」
「何かじゃないでしょ! お世話になった先輩からのたっての頼み事よ。ジャスティン君と二人きりの任務を与えるの?」
「そんな職権乱用は出来る訳ないだろ! 仕事にもプライベートにも、まだまだ前途がある若者を苦しめる事は出来ないよ!」
「何よ! 先輩と結ばれる事が苦しいとは限らないでしょ!」
「だとしても、僕が権力を使って何かをしちゃダメだろ。自然もしくは先輩の努力だけで二人の心が結ばれるのなら、それは問題無いけど……」
「そ、それは……そうかもだけども……」
「自分に置き換えて考えてよ。宰相閣下がピエちゃんを気に入っちゃって、自身の権力を使って四六時中二人きりで居る状態にされたら……如何思う?」
「最悪!」
「ほらぁ」
「ぐっ!」
他人の恋バナという事でついつい深入りしてしまった私に、的確な例えで指摘するレッ君。
悔しいけど完全に先刻の私は行き過ぎだったわ。
「じゃぁ何もしないのね?」
「何もしないよ。新人君とプライベートで仲良くなりたいのなら、地位や権力を使わずに努力してほしい。無理だと思うけど」
「何で無理とか言うのよ! 先輩が美人じゃないから?」
「そうじゃないよ。美的感覚や恋愛の価値観は人それぞれだから先輩の“外見が好み”って人は居ると思う……多分居ると思う。でも圧倒的に少数だと思う。でも新人君は凄く美少年だから、彼を狙う者は男女関係なく多いと断言できる。自分より出世した後輩を呼び出して酒飲んで管を巻いてないで行動に移すべきなんだ。でも……」
「そ、それは……先輩さんが乙女だから仕方ないでしょ!」
「でも恋愛は基本的に早い者勝ちだよ。中には後出しで勝利していく人も居るちゃ居るけど……僕もピエちゃんと出会う前は、気になる女の子に声を掛けたくても恥ずかしくて行動できないでいたら、どんどんその女の子達は僕とは違うイケメンと結ばれていったからね。あの時、勇気を出してピエちゃんを食事に誘わなければ今頃は如何なっていたか……」
何か嬉しい事を言ってくれたわ。
言った本人も恥ずかしくなったのか数秒視線を逸らすと徐にまた私の胸に顔を埋めてくる。
可愛いわぁ!
ピエッサSIDE END
後書き
他人の恋路に興味津々なピエッサさん。
今回は短いエピソードでしたが、
次話は長いです。
と、言う事は……
追伸
今回名前が登場したクエンティーナ・マサイス軍曹は、
ちょっとだけ重要人物です。
名前だけでも覚えて下さい。
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