イベリス
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第百十六話 交番に寄ってその三
「別に」
「そうなの?」
「はい」
事実を隠して答えた。
「何もないです」
「そうなのね」
「はい、ただ」
「ただ?」
「何でもないです」
なりたいと言おうとしてそれは止めた。
「別に」
「そうなのね」
「はい、けれどそんなにですか」
「凄くね」
まさにという返事だった。
「嬉しそうでね」
「楽しそうですか」
「そう見えるわ」
「今もですか」
「にこにこして」
そうしてというのだ。
「それでね」
「そうなんですね」
「実際いいことはあったでしょ」
「ありました」
咲もこのことは否定しなかった。
「黒砂糖入れたコーヒーもよかったですし」
「黒砂糖ね」
「さっき喫茶店でいただいたんです」
このことは話してもいいと思って話した。
「それがまたです」
「美味しくて」
「それで、です」
「機嫌いいのね」
「黒砂糖もいいですね」
こうも言ったのだった。
「本当にね」
「そんなに美味しいのね」
「はい。これがまた」
「それじゃあね」
先輩は咲のその話を聞いて興味深そうに言った。
「私もね」
「行かれますか」
「美味しいのよね、そのお店」
「はい」
咲は一言で答えた。
「本当に。店長さんから紹介してもらいましたが」
「あら、店長さんからなの」
「いい喫茶店だと」
コーヒーが美味く風情もあるというのだ。
「それで行ってみまして」
「実際にそうだったのね」
「はい、それじゃあ」
「私もね」
「行かれますか」
「そうしてくるわ。咲ちゃんがそんなに笑顔になるなら」
それならというのだ。
「きっとね」
「きっと?」
「素敵なお店ね」
笑顔で言うのだった。
「間違いなくね」
「私が褒めるとですか」
「咲ちゃんって結構お顔と言葉に出るから」
「そうなってますか」
「そうよ、いいものや好きな者を語る時は」
その時はというのだ。
「にこにこしてるから」
「それは今の私もですか」
「そうなってるわ」
まさにというのだ。
「だからね」
「そのお店はですか」
「きっといいお店だってね」
その様にというのだ。
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