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イベリス

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第百十五話 知りたいことその四

「ゆっくりしていってもな」
「いいですか」
「疲れている時は休んでな」
 喫茶店でというのだ。
「それで本を読みたいならな」
「コーヒーを飲みながら」
「読んでもな」
「いいんですね」
「お嬢ちゃんが本好きならな」
「漫画とかラノベ好きです」
 咲はすぐに答えた。
「それで純文学も読みます」
「そっちもなんだな」
「芥川とか太宰とかも」
「三島由紀夫もかい?」
「はい、読みます」
 咲はすぐに答えた。
「潮騒とか」
「そうだろうと思ったよ」
 咲に笑って話した。
「お嬢ちゃんそんな感じするからな」
「感じですか」
「ああ、そうしたな」
「三島由紀夫読む風な」
「あの人の作品はな」
 まさにというのだ。
「文学好きの女の子がな」
「読むんですか」
「そうした風なんだよ」
「そうですか」
「昔からな」
「三島由紀夫ってそんな作家さんですか」
「そうなんだよ」
 こう咲に話した。
「あの人は。文章や作品も奇麗だろ」
「はい、かなり」
 咲もそれはと答えた。
「読んでいてそう思います」
「そうだろ。俺も結構読んだんだよ」
「店長さんもですか」
「今も読むしな」
「店長さんも文学は」
「好きだよ」
 笑顔での返事だった。
「尾崎紅葉だってな」
「金色夜叉の」
「終わってないけれどな」
「そうみたいですね」
「あの人自身ではな」
 尾崎紅葉自身ではというのだ。
「終わってないけれどな」
「どういうことですか、それ」
「いや、別の人が完結させたんだよ」
 金色夜叉はというのだ。
「実は」
「そうだったんですか」
「ああ、だから終わってるっていうとな」
 例え尾崎紅葉自身が完結を書いていなくともというのだ。
「終わってるんだよ」
「そうですか」
「これは知らなかったみたいだな」
「今知りました」
 咲は驚きを隠せない顔で答えた。
「終わってたなんて」
「ずっと未完って思ってただろ」
「そうでした」
 素直に答えた。
「私は」
「けれどな」
「実は、なんですね」
「そうなんだよ」
 こう話すのだった、そしてマスターは咲に対して穏やかに笑いながらこんなことも言うのであった。 
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