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イベリス

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第百十四話 近付きたいその一

                第百十四話  近付きたい
 咲はアルバイトの前に喫茶店に行くことが日課になっていた、幸い学校の授業が終わってアルバイト先に行くまで少し時間があった。
 それでアルバイトに行く前休日だとその後でだった。
 喫茶店に行く様になった、それで言うのだった。
「何かもうです」
「お嬢ちゃん毎日来てるね」
「はい、そうなってますね」
 カウンターでマスターにコーヒーを飲みながら話した。
「本当に」
「そうだね、うちのコーヒー気に入ったかい?」
「はい、それに」
 咲はついだった。
 警官、毎日咲が来る時間に巡回に来ている端整な顔立ちで長身の彼のことを思い出した。だが彼のことは言わないでマスターに話した。
「あっ、何でもないです」
「そうなんだ」
「はい、兎に角毎日です」
「うちの店にだね」
「来させてもらってます」
「そうしてるね、まあ内の店の味が気に入ったら」
 それならとだ、マスターは笑顔で応えた。
「毎日でもだよ」
「来ていいですか」
「そうしてな」
 そしてというのだ。
「コーヒーをな」
「飲んでいいですね」
「ああ」
 マスターは笑顔で答えた。
「そうしたらいいよ」
「そうさせてもらいます、あっ」
 ここでだった。
 咲はその警官が来たのを見てだった。
 彼を見た、そしてだった。
 彼を見てからコーヒーを飲み終えて勘定を払ってアルバイトに行く。それが彼女の日課になっていた。
 そして店でも上機嫌だったが。
 速水はその彼女にこう言った。
「最近毎日上機嫌で来られますね」
「そうですか?」
「はい」
 咲に微笑んで話した。
「そう見えますが」
「そうですか」
「何かです」
 こうもだ、速水は言った。
「毎日いいことがあって」
「そのいいことがあってですか」
「それからです」
「こちらに来ていますか」
「そうした感じです」
 咲の明るい顔を見て話した。
「まことに」
「そうなんですね」
「コーヒーの香りがしますし」
 速水は咲から漂うそれの話もした。
「それに」
「それに?」
「いえ、何でもありません」
 実は今速水はタロットカードを出そうとした、しかし咲に見られる前に自分だけ見た。そのカードは恋人の正だった。
「お気になさらずに」
「そうですか」
「あの喫茶店ですね」
「はい、前に紹介してもらった」
「あのお店のコーヒーはいいですね」
「美味しいですね、学生割引もあって」
 咲は明るい声で言った。 
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