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イベリス

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第百十三話 本格的な秋その二

「いいわね」
「いいの?」
「喫茶店を一人で行く様になったらね」
 そうすればというのだ。
「かなりね」
「違うの」
「大人になる第一歩みたいなものね」
「喫茶店で一人で行ったら」
「子供の時に一人で行かないでしょ」
 喫茶店はというのだ。
「そうでしょ」
「そう言われたら」
 咲も否定しなかった。
「そうね」
「だからね」
 それでというのだ。
「喫茶店に一人で行くこともなのね」
「成長と言えるのよ」
「そうなのね」
「咲もそうなったのね」
 娘に温かい顔と声で話した。
「嬉しいわ、お母さんも」
「大したことないでしょ」
「まあそうだけれどね」
 母も一人で喫茶店に行くことは大したことでないことを認めた、だがそれでも咲に対して言うのだった。
「はっきり言えば」
「そうよね」
「けれどね」
「その大したことでないことは」
「それはね」
 こうしたことはというのだ。
「成長の一つでもあるのよ」
「そうなのね」
「だからお母さんも嬉しいのよ」
「私が一人で喫茶店に行って」
「コーヒーを飲むのがね」
「嬉しいのね」
「そう、本当にね」
 やはり温かい顔と目で話した。
「あんたも親になればわかるから」
「そうしたことが」
「ええ、それでその喫茶店美味しいのね」
「コーヒーがね、今度紅茶も飲んでみるわ」
「そっちもなのね」
「私どっちかっていうと紅茶派だし」
 自分でこう思って言うのだった。
「それでね」
「紅茶も飲んでみるのね」
「そうするわ。ただイギリスから来た娘が言ってたけれど」
「あんたが通っている学校の」
「そうなの、日本の紅茶は美味しくて」
 それでというのだ。
「イギリスの紅茶よりもね」
「美味しいのね」
「そう言われてるわ」
「そういえばあそこのお水はよくないわね」
「それで、って言われたわ」 
 まさにとだ、咲は答えた。
「日本はお水がいいから」
「お茶も美味しいのね」
「イギリスはお水がよくないのよ」
「みたいね、それもかなり」
「あそこのお料理の評判が悪い理由の一つでね」
 それでというのだ。
「お水が悪いからなのよ」
「それでなのね」
「どうしてもね」
「食材が悪いって聞いてたけれど」
「お水もよ」
「悪いのね、そういえば」 
 咲は言われて思い出して母にこう言った。 
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