チートゲーマーへの反抗〜虹と明星〜
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R19話 私こそ新たなATEM【新たな神】
スクールアイドル同好会は復活した。
以前のそれではない。
せつ菜、しずく、かすみ、エマ、彼方…新たに歩夢。そして彼女たちを守り支える侑。
だがここで留まらない。
【Dive!】……優木せつ菜が歌った決意の歌———それは確実に人々に届き、新たな夢を目覚めさせた。
もっと壮大に言うなれば…彼女の歌は、眠っていた神の血を受け継ぐ者たちの覚醒を促した。
そう、そして彼女らも……
「どうする?———やってみる?」
「……」
晴れて学校の飼い猫となったはんぺんの体を触る天王寺璃奈、そしてそんな彼女に尋ねるは宮下愛。
愛はその太陽のような笑顔で自分の答えを言う。
「愛さんはやってみたい!」
「……私も、やってみたい…!」
はんぺんが璃奈の素っ気なさそうに見える表情の代わりに元気な返事をする———無論、猫語で。
しかし璃奈は少し不安を口にする。
「でも怪人の話は……」
「怪人は怖いけど、守ってくれる人もいるみたいだしさ!」
「陽人くん?」
「うん!でもハルだけじゃない、他にも頼りになる人はいるよ?」
「?」
頼りになる者たち……それは。
—————※—————
ここは虹ヶ咲学園理事長室……香港出身の女性が務める理事長が、職を執行する場だ。
この関東地域はエルシャム王国と日本政府が折衷したことで成立した自治区……と言う名のエルシャム王国と列強国との緩衝地帯に成り果てている。
このお台場に至ってはもはや日本の領土とは呼べず、多様な政治権力・財力・伝統的権威が入り乱れた国際地域。
当然この地域に立つ虹ヶ咲学園がその影響を受けないわけがないのだ。
「……この『高咲侑』という生徒がどうしたというのです?」
「彼女は我々の怒りを買った。私は君のBOSSとして、この学校に顔を出したわけ。」
理事長と話す男———彼はジェイコブ・ブルーバーグ。
大手プラットフォームIT企業 ATEM(アテン)のCEO。
ATEMとはSNSで、最も勢いのあるコンテンツ……当然彼は資産家、パワーエリートだ。
「組織としては、『彼女と周辺人物を事故や自殺に見せかけて死刑』……と言いたいところだが、彼女の関わる人物はやや多すぎる———そこで。」
「……?」
「私が直々に彼らをまとめて始末してやるのさ。そのためには、学校内の閉鎖的な権力は必要不可欠というわけだ。」
「————」
理事長は複雑な感情を抱く。命令している彼はグローバルエリート。逆らうわけにはいかない……とはいえ、生徒を始末するなどといった物騒な話に関わるほど自分の肝はすわっていない。
「承知しました……とはいえ、無関係な人間を巻き込まないという点を心がけていただきたい。」
「ほう———私に意見する気か?」
「私には学校を守る義務があります。その点を無視し、学校そのものを破壊する行為は」
「黙れ。君のくだらぬ愛情で組織の決定を覆すことはできない。全権は私に委ねられている……黙って従え。」
「うっ……」
ジェイコブの放つ異彩なオーラにこの場が飲み込まれる。
ただ暴論を言っているならば怒りが込み上げるだろう。しかし、彼の特異な……爬虫類を思わせる目がそれをさせない。人間以上の存在を思わせる———邪悪なオーラ。
だが……その雰囲気は急に崩壊を遂げた。
「全く、センスがないな。」
「「!!」」
蝶ネクタイをつけた意識高めな紳士が異様な空気をかき混ぜる。
「小原現照……!」
「おや、君とは初対面のはずだが。」
「何を———エルシャム王の第一子でありながら、伊口ファウンデーションのNo.2を務める謎多きチーフプロデューサー……この手の世界で知らない方がおかしいというもの。」
「ほう……君たちの臆病さが知れるよ。」
異様なオーラを纏うジェイコブに真っ向から棘のある言葉を投げかける現照。歯に衣着せぬ話を続ける。
「君たちがこの学校のマスターであること、これはリアルとして受け入れるが……思い通りにはさせない。」
「————」
「若い芽…本来、そんなのが木になったところで君たちなら簡単に倒せるだろうに。余程怖がっているらしい……君たちの信じてやまない『邪神様』ってやつはさ。」
「っっっっ!」
ミシ……ミシ…パキッ。
2人の人ならざる気迫………ガラスにヒビが入った。
—————※—————
「これでよし…と。」
「ようやく復活だね〜!」
スクールアイドル同好会の部室にあのネームプレートを設置するかすみ……以前、菜々もといせつ菜と取り合いをしていたブツである。
部室も整理整頓され綺麗になり、エマの言った通りようやくそのあるべき姿に復活したと言える。
ところで、音頭をとっているかすみだがこれでも同好会の部長なのである———この世界ではほぼいない純血の人間が……というのは関係ないか。
かすみは部室を背にしてみんなに宣言する。
「それじゃあ、スクールアイドル同好会!始めまー
「やっほー!」
「「「「「「「!?」」」」」」」
かすみの宣言の途中で割り込む元気な女子の声……現れたのは、いかにもギャルな金髪女子とピンクの髪の無表情な女の子———そう、宮下愛と天王寺璃奈。
「もしかして、スクールアイドルスクールアイドル同好会の人たち!?」
「そうですが……あなたたちは確か——情報処理学科2年 宮下愛さんと1年 天王寺璃奈さん?」
「そのとーり!」
中川菜々…もとい優木せつ菜は全校生徒の名と顔を覚えている。ゆえに突然現れた彼女らの名も紹介できる。
侑はここでようやく2人が以前面識のある———同好会の部室を教えてくれた2人。一際、璃奈の「表情と乖離した感情」には少し驚かされた記憶がある———が、それっきりで、そこまで深く考えてはいなかった。
「あ、あの時の…!!」
「あ!2人とも同好会に入ってたんだ!!」
侑と歩夢を見てそう反応した愛は笑顔を絶やさず語り始める。
「実は愛さんたちもこの前の屋上ライブ見てたらなんかドキドキしてきちゃってさー!!」
「/////!!」
「本当に、凄かった。」
「あ、ありがとうございます…///」
ストレートに褒められて顔を赤らめるせつ菜。そして愛と璃奈は頷いてその意思を確認する。
「というわけで、2人とも入部希望ですっ!!」
「「「「お〜!!」」」」
歓声が起こり、愛と璃奈という2人の新入部員を喜んで迎え入れたのだった。
「ところでスクールアイドル同好会って何するの?」
「「「「えっ……」」」」
—————※—————
「とにかく!!このスクールアイドル同好会の第一の目標は……『ライブをすること!』これに尽きます!!」
かすみんこと中須かすみは部長として、同好会が歩んでいくべき道をドンとホワイトボードに書いてみせる。
そこから先は———
「カスミン全国ツアーがやりたいです!!」
「みんな永遠になって踊りたいな〜」
「ライブ中にお芝居をやるのはどうでしょう?」
「お昼寝タイムも欲しいな〜」
「みんなの大好きを爆発させたいですね!!火薬を大量に使ってドーンと!!」
「私はもっと可愛いのがいいなぁ。」
これがグループディスカッションならば、絶対に0点だ。
実際、愛と璃奈はそんなやりとりに驚きを感じていた。
「すごく白熱してる————」
「みんな言ってることはバラバラなのにすごいやる気だね〜」
愛の言葉に、隣に座っていた侑は困惑を含んだ笑いを返す。
「あははは……ちなみに2人はどう?」
「うーんそうだなぁ———とにかく!楽しいのがいいかなぁ〜!!」
「「「!!!」」」
愛の言葉を最もだと同調する全員を代弁するように、せつ菜は答える。
「それは確かにそうですね。最初は人も集まらないでしょうが、いつかたくさんの人の前で歌えるようになりたいですね!!」
「ではライブのことはおいおい考えるとして……」
かすみが咳払いをして、「まずは」と言い放ったその時……部室の扉がガタンと開けられた。
「まずは特訓『ここがスクールアイドル同好会かぁ〜!!!』ちょっとぉー!!!!」
かすみの言葉を強引に切った人物……それは。
「君は……この前の!!」
「また会いましたね高咲侑さん。」
浦野冥斗———この前のスクールアイドルイベントにて侑と邂逅した男。性格の一部にドン引きすると同時に、圧倒的な強さでタイフォンの3人を退けた。
「それよりスクールアイドル同好会の皆さま!今後の予『そんなことはいいんですよ!!』——おわっ!!」
キモオタ的な性格を見せはじめた冥斗を突き飛ばして、話の主軸になったのは———
「あっ……陽人くん。」
「ハル!?何でここに?」
「姉ちゃん———!」
学生隊の副リーダー 宮下陽人……その姉と思いがけずに出会う。
〜〜〜
「というわけで、小生たち政府特務機関ヘラクレスの学生部隊の本部が隣に入るわけです。今回はその挨拶と……」
一通りの事情を話した冥斗。そこにかすみは少し不審そうに語り始める。
「それってもしかして……かすみんたちを組織としてストーキングしてるってことですかぁ!?」
「それは違うよかすみちゃん。」
「否定早すぎますよ歩夢先輩……!」
場が苦笑いに満ちてしばらく閑話休題。陽人は真剣な面持ちで話し始める。
「侑先輩はなんとなく事情を知っていると思うが、スクールアイドルの活動に際して、怪人とか怪物の類いが人を襲う事例が頻発している。そこで我々ヘラクレス学生隊は、スクールアイドルを最前線で防衛しつつ、その怪人に対処するということになった。」
「あの〜少し、いい?」
侑は陽人に尋ねる。
「前に倒して逮捕された人って……」
「あぁ———タイフォン幹部のシンという奴か。奴はヘラクレスの特別収容所で治療中だ。傷がかなり酷くてな。」
「そっか……なんかすみません——///」
自分が倒した相手が瀕死の重傷であることに申し訳なさを感じる侑。本来そんな慈悲は持つべきではないのだが……この高咲侑という人物の甘さだろう。
言うまでもなく、これはこの場で限られた人物しか仮面ライダーであることを知らないために、言語化することは論外だ。
一通り話題が落ち着き、陽人は矮体の冥斗の後ろの襟を掴んで立ち上がる。
「というわけだが……姉ちゃん。それと璃奈さん。」
「「??」」
「スクールアイドルは今後危険なものになっていく。俺も全力で守るが、半端な覚悟でステージには立たないほうがいい。少なくとも俺は———
スクールアイドルはやめた方がいいと思う。」
そう言って、陽人と冥斗は去っていった。
—————※—————
放課後、虹ヶ咲学園前のゆりかもめ線の駅に向かう侑と歩夢、かすみ、そしてせつ菜。
「はぁ……」
かすみは大きなため息をつく。落胆したような態度に同行していた侑は気遣う。
「どしたのかすみちゃん?」
「なんかスクールアイドルもずいぶん世知辛くなったなぁって……」
「あぁ……でも任せてよ!私———いや、『僕』がみんなを守るからさ!」
侑は髪を下ろし、一時的に僕モードへと切り替える。
仮面ライダーゼロワンに変身し始めてからのことだが、この原理について侑自身、よくわかっていない。そもそも彼女はそこまでの重大さを感じていないのだろうが。
「スクールアイドルを支える……歩夢たちを支えるのが僕の使命だから!!」
『そんなことにはならないよ——高咲侑。」
「「「「!!!!!!!」」」」
突如として一同の前に現れた、ラフな格好をした少し若々しさのある白人男性————侑を否定する言葉と、その異様な雰囲気は彼女を警戒させるに十分だった。
「あなたは……!?」
「私はジェイコブ・ブルーバーグ。この学校の株主の1人である……ATEMのCEO。」
「「「ATEMの…!?!?」」」
そばで聞いていた歩夢たち3人は、とんだビックネームの出現に驚きを隠せない。
ジェイコブ・ブルーバーグは侑たちを指差して、話し始める。
「キミたちはこの学校の———いや、この世界にとっての危険分子と、『我々』は決断したということだ。」
「我々…?どういうこと!?」
「キミは私の力に屈し、その制御下に置かれるということだ———」
【サウザンドライバー!】
サウザンドライバー———この世界では数十年前に、とあるCEOが製作を命じ、使用していた代物。しかしそのオリジナルとは少し機能が違う。
以上の経緯、そしてなぜこの男がこれを装着しているか———それはこの場にいる生徒たちの知るところではない。
「このアテンサウザンドライバーは、数十年前に開発されたモノを現代用にチューンアップしたドライバーだ。」
「まさか…!」
【ゼツメツEVOLUTION!】
透き通ったブルーのゼツメライズキー———オジョケラトプスゼツメライズキーをセット。そしてもう一つの特殊な形状のプログライズキーを見せる。
「ゼツメライズキーとプログライズキー。その2つの力を掛け合わせることで、その強さは君のゼロワンドライバーの10倍となる———まさしく、アテン神の降臨である。」
「アテン神だって…?」
「エジプト神話にて全ての神を塗りつぶした唯一神の名だよ。」
侑の困惑とは裏腹に、ジェイコブはプログライズキーを自動展開する。
【セイクリッドホーン!】
アトラスオオカブトプログライズキー——ギリシャ神話における巨人アトラスの名を冠した最強とも名高い甲虫。
「変身。」
【パーフェクトライズ!】
プロフライズキーをドライバーに挿入すると同時に、アトラスオオカブトとオジョケラトプスのライダモデルが舞う。
【When the five lights cross, the BLUE BLOOD soldier ATEM is born. 】
【 I’m the Ruler. 】
2つのライダモデルが融合したと同時に、その強力な装甲が形成される。その姿はかつての仮面ライダーサウザーに酷似しながらも、爬虫類の血のように真っ青な仮面ライダー。
その名も……
「仮面ライダーアテン———私こそ新たなる支配者だ。」
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