家長の威厳
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第一章
家長の威厳
サラリーマンの大和不二雄は大和家の家長である、五十二歳になり黒髪には白いものが多くなってきていて長方形の顔で小さな目と細い眉と薄い唇がある。背は一七二位で痩せている。
その彼はある日家で夕食を食べた後妻の氷雨茶色にした髪の毛を長く伸ばしウェーブをかけメリハリの利いた顔立ちで一六七あるスタイルのいい彼女に言った。
「俺は家長だよな」
「うちの大黒柱でしょ」
妻もこう返した。
「私もパートしてるけれど」
「俺の稼ぎがあってか」
「それで旦那さん父親としてね」
「頑張ってるか」
「だから幸次も黒羽もよ」
大学を出て就職したばかりの息子と大学生の娘もというのだ。
「ちゃんとね」
「やっていけてるか」
「そうよ」
こう夫に言うのだった。
「あなたがしっかりしているからね」
「そうだよな、いやよくな」
不二雄は妻に言うのだった。
「家長っていうと昔ながらのな」
「昭和の親父?」
「それか戦前のな」
「ああした厳めしい家長ね」
「何か吐き気催す位傲慢でやりたい放題のな」
そうしたというのだ。
「家の独裁者とかな」
「そんな人ね」
「ああ、昭和の親父だとな」
不二雄はそんなサンプルとしてこの人物の名前を出した。
「息子巨人に入れる為に毎日虐待している」
「あの糞親父ね」
「ああ、うちは全員阪神ファンだから余計に言うけれどな」
「あの親父は最低の親父でしょ」
「それで家長っていったらな」
「あの糞親父ね」
妻もこのキャラについてこう言った。
「戦争であの親父だけ死んでくれていたら」
「よかったのにな」
「そう思わせる親父よね」
「あんなのってイメージあるけれどな、何か黙って新聞読んでるとか俺の言うことは絶対とか」
不二雄はさらに言った。
「あと飯風呂寝るしか言わないで酒と煙草でな」
「あなたお酒飲むけれど煙草吸わないし」
「愛人さんいるとかな」
「浮気したら離婚よ」
妻の返事は素っ気ないものだった。
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