リュカ伝の外伝
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地域の活性化とお父さんと愛娘
(ラインハット王国:アルカパ)
ビアンカSIDE
「居るんだよ……そんな奇特で便利なハゲが!」
「だ、誰ですか……ハ、ハゲって!?」
言っとくけど、一応あの人は私達の結婚の恩人よ!
「ハゲって言ったら一人しか居ないだろ!」
「いや居ますよ。世の中には沢山いますよ!」
「知らないの? 自称大商人のハゲマンの事を!?」
「ハ、ハゲって……そういう名前だったんですね。変わった名前ですね」
「いや本当にハゲてるよ。だからハゲマンって呼んでるんだ。そっかぁ……知らないかぁ……何だよアイツ、あんまし有名じゃ無いじゃん! デカい口叩きやがって」
「本名で呼びなさいよ失礼でしょ」
「え? 本名じゃなかったけ?」
「ルドマンさんよ! サラボナ通商連合のルドマンさん!」
「え!? あのルドマン殿と知己を得ているのですか!?」
「腐れ縁だよ、腐れ縁。女の事の腐れ縁だったら一向に構わないのに、選りに選ってあんなハゲじゃぁ胸やけもするってもんだよ」
「い、いや……まぁ……その……は、はははははっ……」
スネイ町長も苦笑いするしかないわよね。
「まあ兎も角アイツも巻き込んでブドウで有名な町にしようよ」
「……そうできれば良いのですけど」
確かに資金を手に入れただけじゃぁ……ねぇ。
「解ってるよ。今の提案は資金調達に成功するかも知れないってまでの話だ。ブドウの収穫量増大・販売網の形成・そして広い範囲への宣伝……これらを明確にしてこそ得られる融資だ。如何なハゲでもリターンが不明であればリスクなんて冒さない」
「そ、その通りです。収穫増大に関しては、時間を掛ければ我々だけでも何とかなるかも知れませんけど、販売網や宣伝などに関しては門外漢過ぎて如何にもこうにも……」
「そこは考えてあるよ。今回、故郷の飛躍を希望したビアンカは、それらの事を考慮したから僕にお強請りしてきたんだ」
「お、お強請りって……ちょっと……言い方!」
「? じゃぁ色仕掛け?」
「くっ……ひ、否定はしないわ。断ってきたら当分は寝室を別にするつもりだったし」
「じゃぁ問題無くなったね……今夜は激しくなりそうだ(笑) そういう訳で、僕は今すぐ魔法でそれぞれの担当者(候補)を連れてくるよ。ここでの立ち話もアレなんで、何処か会議室的な場所を用意しておいてくれない?」
「え!? あ……わ、分かりました! それでしたら宿屋の広間を借りましょう。今回の件の元となるブドウ棚は、現状では宿屋の所有になりますから……話を通す意味も込めて」
「了解」
世の中の女を虜にする甘い笑顔で一言言ってルーラで何処かに飛んでいくリュカ。
私は兎も角、プックルは無用の存在になりつつあるのだし、送り返してくれればスネイ町長やクリスチーネちゃんも安心できるのに。
スネイ町長に促されるまま、懐かしの元我が家である宿屋へと入る。
大半の事情はスネイ町長が話してくれたので手間は無かったが、やはりプックルに終始怯えて面倒ではあった。
でも私が昔ここに住んでいた事や、母が植えたブドウの事を話すと直ぐに打ち解けて会話も弾む。
私が住んでいた頃の様に夫婦で経営をしていて、寡黙で口数の少ない旦那さんがバーニィーさん、気さくで人懐っこい奥さんはレドナさん。
因みにプックルが大人しくて基本は人に危害を加えない事が判ると、レドナさんは抱きつくくらい慣れて可愛がってくれた。
そんな状態で和気藹々と会話をしていたら「ただいまーみんなどこー?」と入り口の方からリュカの声が聞こえてくる。
クリスチーネちゃんが即座に反応して玄関へ迎えに行ってくれた。
気の利く良い女性になったもんだわ。
彼女に連れられてこの部屋に入ってきたのは勿論リュカ。
その直ぐ後に……見覚えのある妊婦……そう、私がお腹を痛めて産んだ娘! 勿論その伴侶も連れてこられてる。娘とは手を握っていて仲良しアピールかしら?
そしてその後には何故だかフレイちゃんと可愛らしい男の子。……誰よ?
「まぁ座って」
リュカに言われこの大部屋に用意された大テーブルの周りの椅子に腰掛けていく。
でも何故だか席次を決めてたらしく、リュカの直ぐ隣に“妊婦”が、そしてその隣に“伴侶”が……更に隣には男の子か、そしてフレイちゃんが座ったわ。
手を握ったまま娘を隣に置く事に意味はあるのかしら?
「じゃぁ紹介させてもらうね」
そう言ってリュカはスネイ町長やクリスチーネちゃんを紹介。
流れで宿屋の二人も自己紹介させ、プックルの事も紹介する。
「じゃぁ次は、新しく来てもらった有志の方々を紹介するね。僕の隣に座ったのが、僕の娘のポピーだ」
何時もの優しい口調で娘を紹介する。
でも何故か着席した時からずっとポピーの手を握って離さない。何を考えているのだろうか?
「その隣の男性はコリンズと言い、ポピーの旦那様。この国の流通とか、そういった政治的な事柄を担っている人物等にコネクションを持っており、そう言った面で協力してくれる男だ」
表情を見る限り、ここまでに何も聞かされていなかったんだろう事が覗える。
「更に隣の男の子だけど、彼はサンタローズの農村で農業に勤しんでいる将来有望な男。彼の名前はフェルマーくん……彼ならここのブドウ棚の収穫拡大に尽力してくれるはず」
なるほどね。若いけど農業に関してかなりの知識があるって事ね。
「更に隣は、このフェルマー君の彼女で、今人気が出てるサンタローズ聖歌隊のメンバーでもあり、サンタローズ教会を取り纏めているシスターの娘さんでもある。出来上がる名産品は、彼女を通して聖歌隊で宣伝してもらおう」
役者が揃ったって事かしら? 自分が育てた聖歌隊を使い、宣伝効果を上げるのが狙いね。
「あのぅリュカさん……皆さんの紹介も終わった事ですし、発言しても良いですか?」
「なんだい義理の息子のコリンズ君。発言は許可するけど、内容は却下するよ(笑)」
まだ内容は言って無いのにぃ?
「で、では一応言わせてもらいますけど、俺がこの町の活性化に協力しなきゃならない理由が見当たりません。勿論この国に住む者として中央・地方に関係なく発展する事は望ましいですが、この町限定に絞らせて協力を強要されるのは些か……」
「うん。例えばね……本当に例えで、実際に現実になるかは知らないけど、君の嫁が毎日の様にこの町の発展に協力する様に心身共に圧力を掛けてきたら、君は私生活で凶悪なストレスを抱え込む事になる……そうは思わんかね?」
「そうなれば非常に困りますが、俺の嫁は実の父親よりかは良識を備えているので、そうそう愛しの夫を苦しめるようなことはしませんけど?」
言う様になったわねコリンズ君。頑張りなさい。
「そうか……そう言えばちょっと話は変わるけどもポピーさん……お父さんはね、お前に訊きたい事があったんだよ。今回の件とは一切無関係なんだけど、序でなので話しておく。何か最近さぁ……サンタローズの男、特に若い独身男がオカマっぽくなっててさぁ……とある女の一言で事態が起こってるって事なんだよねぇ」
ずっと右手で握ってたポピーの左手を口元に寄せて口吻をしながら、笑顔で娘の顔を覗き込む父親……因みに目は笑ってない。
「わ、私が……そんな……お、お茶目な事をする様な娘に……見えました?」
「まさか! そんなお茶目をする様な娘を産んで育てた憶えは無いし、血を分けた実の娘のお前に限って……そんな事……なぁ(笑)」
ポピーも色々な面で厄介者である事は否めないし、ウルフ君と対等に渡り合えるのはこの娘しか居ないのは事実だけど、流石にリュカとでは渡り合うのは荷が重すぎる見たいね。
「あ、そうだゴメン! そう言えば大事な話の途中だったね……何の話ししてたっけ? 内容を忘れちゃったなぁ……コリンズ君?」
「い、いえ……この度のアルカパ活性化に全面的に協力させて頂くって話ですよお義父さん。なので私の嫁の手を離して頂けますか……嫉妬心で心が挫けそうです(泣)」
「おっと失礼。娘とは言え人妻である事を忘れていたよ。でもそれくらい娘を愛していてくれて嬉しいな(笑)」
この場の全員に見える様繋いでいた手をソッと離す優しい父親。
やだぁ……このパパ怖ぁい!
「ではフェルマー君。君の方は問題無いかな?」
「は、はい。俺は大丈夫です。ブドウ棚を拡張するだけの土地さえあれば、土壌改良とかは出来るでしょうし、お力になれると思います。ですが……サンタローズに住んでいるので、そんなに頻繁に来る事が出来ません。アルカパとサンタローズは俺の足でも半日かかりますから……」
「その点は、そうだなぁ……アルカパに来る日を事前に決めておけば、コリンズ君の愛妻が魔法で送り迎えしてくれるよ。ね、ポピーさん!」
「も、勿論お力添えはさせて頂きますけど……私の記憶では、そちらの少女の姉君も魔法の使い手だと存じますが……如何でしょうか?」
確かにリュリュの方が一緒に住んでいる分、協力させるには適していると思う。
「記憶に間違いは無いけど、あの女性は今回の件に関わらせたくない。素直で良い娘だから最終的な宣伝には協力してもらうつもりだけど、途中で関わらせると僕の私生活に支障をきたすから絶対にダメだね。似た様な理由でグランバニアで活動するアイドルデュオの娘にも知らせたくない」
完全に個人的理由だったわ。
「あの……因みに私は如何様な宣伝をすれば良いんでしょうか?」
「そうだね。現状はまだ企画段階で明確なヴィジョンが何も無いけど、ブドウを使った名産品なんて大体が飲食物だから、君等聖歌隊はソレ等を飲食して『健康になった』とか『美容に最適』とか言って観光客にアピールして欲しい」
「それは……大丈夫なんですか?」
「懸念は解る。健康にも美容にも適さない物に『良い』と言うのは詐欺行為だ。僕ンとこの末娘なら笑顔で熟してくれそうだけど、誰にもそんな事はさせたくない。だからそこはアルカパ側に任せるしか無いけど、生産・品質に付いてはフェルマー君が協力してくれるから変な物は出来上がらないだろう」
「それなら安心できます」
チラリと彼氏を見て納得するフレイ。
本当に彼氏の事が好きなのね……可愛いわぁ。
「ただ……ちょっとはウソを吐いてもらう」
「嫌です!」
即答(笑)
「まぁ聞いてよ。君や君のお姉さん……更には君のお母さんに出来上がった名産品を飲食してもらい『私は健康です』とか言って欲しいんだ」
「? でもそれが宣伝ですよね。ウソになりますか?」
「健康や美容に効果がある飲食物……まぁ運動行為とかもそれに準ずるけど、そう言うのって持続してこその効果だと思うんだ。でも君等には昨日今日に“食べた”“飲んだ”だけで宣伝してもらう。特に君のお母さんが笑顔で宣伝してくれれば、美しく健康を維持できると世の女性方に勘違いしてもらえるだろう。なんせ君のお母さんは20歳を超えた娘が居る様には見えないからね……エルフやホビット、天空の血とかよく解らないモノを持ってるわけでも無いのにね」
よく解らないモノ代表の私に娘夫婦の視線が突き刺さる。
「如何だい、正直ウソになるだろ?」
「とんでもないウソですね」
これからは兎も角、出来たてなら継続はしてなかった事になるのだものね。
「だから『これのお陰で……』的な台詞は言わない様にしてもらうけどね」
「よく解りました……けど、正直言うと本当に嫌ですね」
潔癖症ねぇ。
「う~ん……でもなるべくウソを少なくして購買者の勘違いに頼ってるんだけど」
「そこじゃありません。母や姉は兎も角、私が自分の美しさを誇示してる様に見えるのが嫌なんです」
あら? 意外に自己評価が低いのかしら。
「君は自分に自信を持って良いと思うよ。十分すぎるくらい可愛いんだから。ねぇフェルマー君」
突然名前を呼ばれて慌てるフェルマー君。
オーバーアクションとも思えるくらい頷いている。
「違います。私も他の姉妹と同じで美形な遺伝子を引き継いでいて今も将来も美人である事は自負しています。ですが私は見た目で勝負したくないんです! 悪い見本が居まして、腹違いの姉妹に見た目だけを武器にして大衆の面前で芸事をしてる者が居るんです。ですがその娘の内面は最悪でして……本当に両親の顔を見たくなるレベルなんですよ。まぁ両親とも美形なのは予測できるんですけどね」
如何しようかしら……この娘見た目とは違って結構キツいわね。
コリンズ君は右手で口元を隠し俯いて笑いを堪えている。
ムカつくわ。アンタの義理の妹でもあるのよ。
「でも見た目は重要じゃん。特に宣伝効果を考えると……その為に少しだけ脚色するだけ。それに協力してよ」
「協力はしますよ。フェルマーの才能の産物なんですから……そりゃぁ世の中に売り出す事に吝かではありません」
「なんか釈然としないものがあるが、サンタローズ聖歌隊の協力を取り付けたと思って納得しよう」
珍しい……自分の娘なのに、思いの外扱いづらい事に少し困ってるわ。
じゃぁ妻の私からの慰めの言葉は……
「彼女は見た目と違って結構意固地で口が悪いわね。私もお母様とは知己だから言えるけど、きっとフレイちゃんは父親似ね」
「「ププゥゥゥゥっ!!」」
私の台詞に私の娘夫婦が一斉に笑い出す。
お腹を抱えて涙を流して……
失礼な夫婦ね!
ビアンカSIDE END
後書き
悪戯をすればお父さんに叱られます。
それはポピレア様も例外では無い。
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