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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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地域の活性化とペットの躾

 
前書き
久々のビアンカ視点。 

 
(ラインハット王国:アルカパ)
ビアンカSIDE

やっぱり故郷は懐かしいわ。
実家が現存するわけでもないし、大親友が居るわけでもないから、あまり帰っては来ないけど。
でも実家だった宿屋が健在なのを見ると安心するわ。

でも今日アルカパに帰って来たのはノスタルジーに浸る為じゃない。
ある種ノスタルジーな感情だけど、やっぱり故郷は活気づいていてほしい……
そんな気持ちからの帰郷だ。

何故そんな気持ちになったかと言えば……
グランバニア城に勤めている女の子等の話が耳に入ってきたからだ。
その内容はラインハット王国にある田舎の村の事。

その村は元々有名ではなく、近隣の町村や一部の人々(極少数)が知っている程度の知名度だったのだが、その村のシスターが寂れる教会を憂い王様に嘆願書を出した所、外国のコンサルタントを雇うことが出来、教会のみならず村全体が観光名所として脚光を浴びる事が出来た……

まぁ他人行儀に言ったけど、全部身内が絡んでる事なのよね。
田舎の村ってサンタローズの事だし、外国のコンサルタントってリュカ(私の夫)の事だし……
裏での事情は聞いていたし、良い事だと本心から思うわ。

でも驚いたのは、サンタローズって村の事を全く知らないグランバニア出身の女の子等(メイドや女兵士)が、休暇でラインハットへ海外旅行へ行き、本来は観光地として巡る予定には無かったけど、あの国では凄く有名になっていて行ってみたら凄く感動したって話を帰国後に話題にして、それが広まっている。

夫が当事者(首謀者?)でリアルタイムに話は聞いていたから、何時(いつ)から着手し始めたのかを知っている。
なのに、この短時間でラインハットの国中に知れ渡り、他国に住む私の耳にまで入ってきた事に本当に驚いたわ。

リュカは色んな事が出来る人だと思っていたけど、地域の活性化までもやってのけるのは凄いと思えるし、なんかズルいって感じてしまう。
まあ……その裏で酷い目に遭わされている人々が居る事も知っているけどね。ヘンリーさんとかルドマンさんとか……

でも、そうなってくると自分の故郷が気になってしまう。
廃れてるって話は聞かないが、繁栄してるって事も聞こえてこない。
人間で言えば『便りのないのはよい便り』とか言われるが、近隣の村が繁栄してるのに自分の故郷が音沙汰無い状態に悔しさを感じてしまう。

しかしながら私は気付いてしまいました!
(くだん)のイケメン有能コンサルタントって私の夫じゃん(笑)
ちょっとくらいお願いしたって罰は当たらないと思うのよね。

だから女の子達の話を聞いた直後にリュカの執務室へ行ってお願いしてみたの。
そうしたら『胸を押し付けてのお強請りはズルいなぁ』って言ったけど『兎も角はアルカパの現状を視察しよう』って言ってくれて、そのまま直ぐにルーラで帰郷しちゃったのよ。

リュカは自分の意思って物をしっかり持っているから、意外にも色仕掛けって効かないのよね。
女癖が悪いから勘違いされるけど……
だから即日に行動するのって、彼の優しさだと思うわ。惚気じみてるけどね(笑)

飲食店が混むであろう昼食時を過ぎ去り、主婦は夕食の献立を考え始める頃、リュカのルーラでアルカパの町に降り立った。
着地の瞬間に魔法(ルーラ)の影響が切れ、短いスカートだと捲れて見えてしまう事をリュリュの一件で学んだ私は、しっかりスカートの裾を押さえ懐かしい町並みを見渡したわ。

先ずは軽く散策をして、宿屋の前の木陰の芝生に座って休憩する。
リュカには何か町興しになる案は出るかしら?
やっぱりサンタローズの様に教会の聖歌隊とかを使う方法になるかしら?

そんな事を宿屋を見上げる夫の横顔を見詰めながら思っていると……
「あれ? もしかして……ビアンカ? ここの宿屋の娘だったビアンカだよね!?」
と、突然誰かに声を掛けられた。

振り向くと、そこには40歳前後かと思われる身形のきちんとした男性が立っていた。
誰かしら……全然思い出せないわ?
リュカに訊いても……分からないわよねぇ。

「いやぁ……懐かしいなぁ。俺だよ、スネイだよ。この町の町長の息子だったスネイだよ。憶えてないかなぁ?」
「あぁ~……憶えてるわ。ボンヤリだけど(笑)」
何となくだけど憶えてるわ。何時(いつ)も私にちょっかい掛けてきてた悪ガキの一人よ。

「ビアンカのお知り合い?」
「まぁそうね。知り合いではあるわね。憶えてないリュカ? 子供の頃に苛められてるプックル(子猫ちゃん)を助けた事があったでしょ。その時に苛めてた男の子よ」
この事は結構記憶に残っている。

「あぁ! あったなぁ、そんな事。そうか、あんときのガキか!」
如何(どう)やら思い出したらしく、凄く懐かしい……と言うより、楽しそうな事を思い付いた時の顔をしてるわ。こういう時は碌な事を思い付いてない証拠よ……不安だわ。

「よ~し、ちょっと待ってろ。あの時に苛めてた子猫ちゃんを連れてきてやるよ(笑)」
「ちょ……や、止めなさいよ!」
言うや否や、スクッと立ち上がり即座にルーラで飛んで帰るリュカ。
こういう事に関しては取り分けフットワークが軽いのよねぇ……

「か、彼は……?」
「ごめんなさい。私の夫のリュカよ。憶えてる? 貴方たちが苛めてた子猫を助けた男の子を」
「あぁそうなんだ。あの時の男の子とご結婚なさったんだね。おめでとう。そっか……君も結婚してるよねぇ、そりゃ。今も昔も美人だしね」

「ありがとう。貴方は? ご結婚はされてるのかしら?」
「お恥ずかしながら結婚もして、16歳の娘も居るよ。最近その娘に彼氏が出来たらしくて、その事が気がかりで……(笑)」

「あら良い事じゃない。私にも1人の男子と2人の女子の子供が居て、孫まで居るお祖母ちゃんなのよ」
「幸せそうで何よりだよ。そう言えばご両親は元気なのかい?」

「残念ながら母はこの町から移って数年後に……でも父はまだ元気よ」
「そうか……お悔やみを申し上げるよ。俺の両親も10年ほど前に病気で他界してね。親は何時(いつ)までも元気で居るものだと勝手に思い込んでたけど」

「そうなのね……お悔やみを申し上げます」
「今は俺が町長として、何とか頑張っているよ」
あらあら……失礼ながらちょっとだけ頼りなさげな町長ねぇ。

「あ、そうだ。(つい)でなんで俺も妻を紹介するよ。君の旦那さんが魔法で飛んで行っちゃったから、帰って来た時に備えてさ」
「えっ……あっ! や、止めたほうg……」

こっちもこっちで言うや否や走って自宅と思われる方へ行ってしまった。
リュカが驚かせる為だけを目的としてプックルを迎えに行ってるから、出来れば無関係な奥様は連れてこない方が良いのだけれど……私も慌てて立ち上がったけど、手遅れ感が否めない。

「これはこれはお美しいマダム。こんな所でお一人ですか? 貴女には似付かわしくない……私めと一緒にそこの宿屋で寛ぎませんか」
振り返るとそこには息子(ティミー)と同年代くらいの優男が近付いてきていた。

リュカやティミー……中身で劣るけどもウルフ君等を見てなければ、そこそこいい男に感じる青年。
でも、その口調とニヤけた顔つきの所為で、如何(どう)にも好感が持てない。
私の事をナンパしてきてるんだと思うけど、それが自惚れである事を祈りたい。そして自惚れでないのなら、リュカが戻ってくるまでに何処かへ消えて欲しいわ。

「あ、どうも……間に合ってますから、向こう行ってもらえますか」
「これは失礼しました。名乗りもせずに無粋でしたね」
名前なんか如何(どう)でもいいのよ。お願いだから消えて!

「私は“ドン・ファン・ネル”と申します。ご存じだと思いますがネル子爵家に名を連ねる者です。以後お見知りおきを……」
知らないわよ、この国の貴族の事もアンタの事も!

だが私の感情が露わになった表情を気にもせず、更に近付いてきて勝手に手を取り口吻をしようとしてきた!
慌てて手を引っ込める……その瞬間!

「行けプックル! 其奴を引き摺り回せ!!」
とリュカの声が聞こえた。
……と同時に、黄色い何かが目の前の男に襲いかかる。

あぁ……遅かった様だ。
流石にプックルも優男を直接噛んだりはしてない様子だが、上等そうな服の襟を咥えて服の中身ごと地面をのたうち回してる。

「あれぇ? 先刻(さっき)の男じゃないぞ……誰だぁ?」

ビアンカSIDE END



 
 

 
後書き
また出てきたドン・ファン・ネル君。
私のお気に入りキャラです! 
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