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イベリス

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第百十二話 九月が進みその二

「確かに冬は寒いけれどな」
「からっ風のせいで」
「けれどな」 
 それでもというのだ。
「夏が過ごしやすいとな」
「それはいいわね」
「咲は夏苦手だろ」
「暑いのはね、冬は厚着して」
 実は咲は冬は自宅では愛用のどてらを着ている、そして足には毛糸の靴下を着けてジャージの下にはスパッツやストッキングを穿いている。
「それで済むけれど」
「夏はそうはいかないな」
「薄着してね」 
 そうしてというのだ。
「クーラーないとね」
「やっていけないな」
「暑い方が苦手よ」 
 咲は心から言った。
「私はね」
「そうだな、子供の頃から」
「からっ風吹いてもね」
「冬の方がいいな」
「私としてはね」
「それでその夏もな」
「東京はまだ涼しい」 
 咲は父にこれまでのやり取りから言った。
「そうなのね」
「ああ、本当にな」
「そのこと覚えておくわね」
「そうだ、ただ冬は火の元に注意することだぞ」
 父はこのことも話した。
「煖房は電気になってもな」
「よく使うから尚更ね」
「特に東京はな」
「そのからっ風ね」
「乾いた強い風だからな」
 からっ風はというのだ。
「火が出るとな」
「一気に広がらせるのよね」
「だからな」
 そうしたものだからだというのだ。
「危ないんだ」
「だから江戸時代何度も火事になってるのよね」
「東京は地震があってな」
 安政の大地震それに関東大震災とだ、東京はこの災害に悩まされてきたことで有名な街であるのだ。
「台風も来てな」
「火事もよね」
「あってな」
「災害で苦労してる街ね」
「火事でも大勢の人が死んでるんだ」
 この災害でもというのだ。
「江戸時代には大火事で十万人の人が亡くなってるんだ」
「天守閣も燃えて」
「大変だったからな」
「そうよね」
 咲もそれはと頷いた。
「だから火の元にはね」
「要注意だ」
 絶対にというのだ。
「火事になるからな」
「そうよね」
 咲もそれはと応えた。
「特に冬は」
「東京だとな」
「子供の頃から言われてきたけれど」
「本当に危ないんだ」
「地震の時もちゃんと消して」
「それでだ」
 そのうえでというのだ。
「ちゃんとな」
「やっておくんだ」
「地震の時もね」
「火の元はな」
「消すことね」
「そうしてな」
 そのうえでというのだ。 
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