リュカ伝の外伝
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第二節:「みんなで一緒にアルペジオ」
前書き
後書きにて
オマケの替え歌掲載。
(グランバニア:芸術高等学校・音楽部特別教室)
ヨクスSIDE
「皆様、左手をご覧下さい」
リュカ先生が突然、観光地の案内役さんみたいな口調で窓際を指した。
“左手”と仰ったが左手側って意味だ。間違っても自分の左手を見るっていうボケをかましてはいけない。
「左手窓際に立て掛けてありますのは、本日より皆様の所有物となる新楽器……MGとMBでございます」
黒い布製のカバーケースで保護してあるMGとMB……
5機ずつ纏めて置いてあり、背の低い方がMGで高い方がMBだろう。
俺はギターの受講希望で応募したので、あの5機の中の1つが俺の物になるなんて……たまらない!
「黒板に近い方の5本がMG。残りがMBだ。自分の希望する楽器を1本持ってて」
リュカ先生は優しい声で楽器を手に取る様に促した。
皆“待ってました”とばかりに各々の希望楽器を手に取り、元いた席に戻っていく。
俺は教室に入って直ぐ近くの席に座ってしまった為、窓際からは一番遠く、残った最後の1本を手にする事になった。
一番窓際に居たピノさんは既にカバーを外しており、如何やら彼女はベース希望らしく、赤くカッコいいMBを既に構えている。
俺もワクワクとした気持ちで急ぎ席に着きカバーを外す。
中から出てきたのは俺の希望通りのMG……そして色はエメラルドグリーンだ。凄ー綺麗!
何コレ! 本当に無料で貰えるの!?
一生の宝物にしよう。
「さぁ、皆の手元に行き渡ったね。取り敢えず簡単に説明させてね。ギター・ベースでそれぞれ5色の色分けをしてる。赤・青・緑・白・黒だ。まぁ大きさが違うからギターとベースで同じ色でも見分けが付くと思ったけど、それぞれボディーに音楽記号を描かせてもらった。ギターにはト音記号。ベースにはヘ音記号を」
本当だ、よく見るとボディー部分に目立つ大きさでト音記号が黒く描かれている。
隣のジャコパ君は黒いベースに白字でヘ音記号が描かれてる。
ト音記号も良いが、ヘ音記号も格好いいなぁ。
「色やマークへの文句は受け付けないよ。取り敢えず君等が習得するまでの練習用楽器だから、卒業後に自分で好きな物を購入してくれ。半年後までには一般流通できるだけの数量や販売網は作り上げるつもりだ。まぁでも、まだまだお高いだろうけどね(笑)」
「文句なんてございません! 俺はこの青いボディーに白でヘ音記号が描かれたMBを一生大事にします!」
大きい声でポウル君が自身のMBを受け入れる。
正直同感だ。
俺もこのエメラルドグリーンのギターを一生大事にするだろう。
因みにジェーンは青に白色のト音記号。つまりギター志望だ。
如何やらギターは俺(緑)・エミーさん(白)・ジェフリー君(赤)・エルリック君(黒)・そしてジェーン(青)で、ベースはジャコパ君(黒)・ケティーさん(緑)・ポウル君(青)・クリスティーナさん(白)・ピノさん(赤)となっている。
「気に入って貰えたのなら幸いだ。じゃぁ続いて付属品を渡すから皆の席の後ろに置いてある段ボールを開けて」
俺等は言われるがまま席の後ろに置いてあった段ボール箱を開ける。
箱の存在には気付いていたが、まだ何か貰えるとは思ってなかった。
「中身はミニアンプ・チューナー・ケーブル・ヘッドフォン・ストラップ・ピックケース & ピック・そして楽譜」
そんなに大きな箱では無かったので、内容にビックリする。
アンプってスピーカーですよね! それにチューナーまで!!
「アンプは小さいけど結構良い音が出るよ。開発してくれたリューナって美少女が、とことんまで仕上げてくれた。あとヘッドフォンも大きいけど中々の仕上がりだ。それを使えば夜中でも近所迷惑を気にせず練習できる」
ヘッドフォン!?
如何やらコレもスピーカーの様な物らしい。
リュカ先生が自らの頭に装着して用途を説明してくれる。
凄いな……こんな小型化しちゃうなんて。
「あと、楽譜なんだけど……ギター・ベースで分けずにフルスコアにしました。全体的に曲を理解して欲しかったから。各々が自分用に書き加えていってね」
なるほど……自分用に自ら作り上げてくんだな。
「楽器との接続方法は簡単。僕が先刻まで弾いてたのと同じように……これはギターだけど接続方法は共通で、楽器の側面にあるジャックにコードを差し込んで、コードの反対側をアンプのこのジャックに繋げる。ヘッドフォンを使う場合はアンプのこっちのジャックに……」
リュカ先生がご自身のギターを見せながら説明をしてくれる。
俺も説明通りに繋いで、そしてストラップを付けて肩からギターを提げてみる。
ヤバい、何だこの高揚感は!?
「あぁそうだ。音を奏でる前に一つだけ言っておくけど、最初は音量を小さめで開始してね。僕の知り合いじゃないんだけど、自分の背丈の倍以上あるアンプにギターを繋いで、いきなり最大音量で奏でて吹き飛んだ男を見た事があるから……まぁ吹き飛ぶかどうかは兎も角、鼓膜が破れる可能性があるから、徐々に大きな音量にしていってね」
え!?
人間を吹き飛ばす衝撃を発生させるアンプって、如何な大きさだ!?
興味はあるが怖くもある。
「さて……もう既に奏でてる子も居るけど、30分ほど自由に弄くってみようか? AGやABを専行してた子は、もう既に譜面をなぞってるみたいだけど、そうじゃない子等も好きに弾いてみてよ。ただ常軌を逸した扱い方をして壊さないでね。これから少なくとも半年は君等の相棒になる楽器なのだから、愛情を持って接してあげてね」
うん。言われるまでもなく俺にとっては宝物だ。
ウッカリ落として破損とか、長年の使用による摩耗での劣化とかはあるかもしれないが、わざと壊す様な真似はしない。
「特にジミヘ……エミヘンちゃんは、ギターに火を付けて燃やしたりしないでね」
「エ、エミヘンって私ですか!? そ、そんな事しませんよ!」
何故エミーさんが例に挙げられたか解らないけど、燃やしちゃダメだろ。あと何故か勝手に“エミヘンちゃん”と渾名を付けられてる。可愛い。
「ピノちゃんが持つとベースがよりデカく見えるなぁ」
「うッス! 私が持つとバイオリンもヴィオラに見えるッスよぉ~」
確かに彼女は胸以外が小さいから、ギターよりも長いベースは大変そうだ。ってかベースのエッジに胸を乗せて弾いてる……あのベースになりてぇ~。
「よ~し……そろそろ30分経過したね。多少はMG・MBが手に馴染んできたかな?」
少しの間だが何か教わるわけでもなく自由にギターを弾いていたけど、とうとう授業に入るらしくリュカ先生の合図があった。
「これから正式にMG・MBを学んでもらうんだけど、もう一度心に留めておいてほしい事を伝える」
間違いなく真面目な話だろうから、皆が静かにリュカ先生を注目する。
「新楽器のお披露目会でも言ったけど、この特別授業の目的は『新しい楽器の講師を育成する』事にある。君等の中から各1人を来年度から芸高校音楽科のMG専行・MB専行講師として採用する。僅か半年で他人に教える立場へとなってもらうワケだけど、必ずしも天才であったり超絶技巧の演奏者だったりが教師に向いてるとは限らない。僕の様なイケメンが『女の子は笑顔で口説けば落とせる』って言っても、“それは出来る者の意見”だろ? 誰にでも如何な顔面の男にでも、女性を口説き落とせる話術や身形を教える事が出来なければ、ナンパの講師としては失格だ。君たちには、自分には超絶技巧は無理だけど、そこまでの道筋を示してあげる事は出来る講師になってほしい。その為にAGやAB専攻者じゃない者も選出した。だから技術を憶えるよりも学び方を憶えて欲しい。学び方を憶え、自身の経験として後進の者へ伝えていってほしい」
格好いい。
リュカ先生が言うから余計に格好いい。
それほど優秀ではない俺が、今回の授業に応募した理由がコレだ!
俺はきっと凄いギタリストにはなれないだろう。
でも及第点は超えてる先生にはなれると思う。
勿論努力をしないとダメなのは当然だけど。
「あともう一つ注意事項な!」
何だろうか?
リュカ先生の口調が少し厳しくなった。
「お前等からでも生徒側からでも同じだけど、肉体関係を迫ったり迫られたりして、その結果で成績を左右するなんて事は言語道断だ! 美少女もしくは美少年が目の前で裸になってお前等の一部をその身体に出し入れしてくれても、その美少女もしくは美少年の実力以上の評価をしてはならない。寧ろ辛口になれ! 厳しく技術や経験を積ませろ! 他人にモノを教えるとはそういう事だ。世の中での生徒の評価が、それ即ちお前等への評価である! 『あのギタリスト(もしくはベーシスト)、上手くもないのに色んな所で演奏してる(笑)』って言われてたら、お前等の育て方が間違ってた事になるんだ。賄賂や色気を差し出して巣立った者は、一人前になっても同じ方法でしか仕事を得られない。その方法しか学ばなかったからね。ちゃんと成長する方法を学ばせるのがお前等の仕事である。それを絶対忘れない様に」
きっとサム・ラゴウス先生の事だろう。
元先生と言うべきか……?
急に退職されて何があったのかと不思議に思ってたが、少しして女子生徒に手を出していた事が噂で広まってた。
「さてさて……難しい話はここまでにして、これから半年間の事をザックリ説明しよう」
先刻までの険しい表情はなくなり、優しい笑顔に戻ったリュカ先生。
俺等を見渡しコクリと頷く。
「君たちには今日この場でペアを作ってもらう……と言っても強制だ。ギターとベースの同じ色同士でコンビとして学んでもらう」
同じ色……と言う事は、俺の相方はケティーさんか。
みんな同じ事を思ったのか、それぞれの楽器の色を確認する様にキョロキョロする。
俺は端に座ってるから一目で全員を確認できた。
各人の楽器を確認していたケティーさんと目が合い、何となく無言で頷く。
「ペアを組んでもらう理由だが、何度も言うが君等に一番学んでもらいたいのは教え方だ。君等は今日から僕の生徒になると同時に、相方……つまり自分の専攻した楽器とは違う分野を学んでいる者……に教えていく先生とまではいかないが先輩として君等が教えていくんだ」
なるほど!
インプットをして直ぐにアウトプットをすることで、効率的に学べるって事か。
普段の勉強でも行う事だね。
「だから僕は、それぞれ専行している楽器以外の質問には答えない。ギター専行の者にならギターの事を、ベース専行の者にならベースの事しか教えない。疑問を持ったのなら相方に聞いてくれ。聞かれた方も無理矢理答えなくて良い。知ったかぶりは皆に迷惑だ。相手も専行している楽器の事じゃないのだから、そんなには急いでないだろう。一旦は僕に聞いて、それを君等の中で正しく理解して、そしてそれを相手に教えてあげてくれ。教わった方も遠慮はするなよ。相手の教え方では理解出来ないのであれば何度でも聞いて理解出来るまで終わらせるな。教え方も人それぞれあるし、理解力も人せれぞれ違う。試行錯誤することが、上達への近道だから」
流石リュカ先生だ。
色々と考えているんだなぁ。
俺も心して学ばないと!
「それと卒業試験に付いてだけど……」
卒業試験!?
そ、そうか……これも正式な授業の一環だし、最終的には試験があるんだな。
「君等には二種類の試験を受けてもらう」
二種類?
筆記と実技か?
「当然だが一つは君等自身の専行した楽器の実力だ。この試験の如何では何も芸高校の講師じゃなくても、直ぐさまプロの音楽家として活動できる」
つまり俺ならプロのギタリストって事か。
「もう一つは、君等と相方の楽器を交換して実力を測る」
え!?
それってベースの勉強をしてきたケティーさんに、ギターの実力を示させるって事!?
「何度でも言うが、君等に求めるのは教える力だ。君等にとって最初の生徒が相方になるわけだし、その相方の理解度が君等の講師としての実力となる」
確かに言わんとしてることは理解出来るけど、実践形式過ぎると言うか何と言うか……
「一つ目の試験……今後は“正規技能試験”と呼ぶが、そちらは僕だけが判断・評価をさせてもらう。もう一つ……こっちは“講師能力試験”と呼ぶことにするけど、そちらには僕以外の者にも評価を下してもらう。まぁ誰を呼ぶかはまだ決めてないけど、君等の授業内容は一切見せず、最終的な結果だけを見てもらって判断してもらう。僕の……王様としての権限で、一流のプロからズブの素人まで、幅広い試験官を用意する予定だ」
これはプレッシャーだぞ!
「でも安心して欲しいのは、君等は既に芸高校の卒業資格単位を取得してるので、この授業の単位を落としても卒業は出来るって事だ。尤も……卒業までの短期間で不祥事を起こせば笑顔で退学にするけどね(笑)」
笑えない。
「正規技能試験に関しては相当下手じゃない限り、落第することはないだろう。多少演奏をミスっても、その後に笑顔でカバーするとか、テクニックでカバーするとか……最悪、4~5回のリテイクも視野に入れている。まぁ僕的にはやり直しは何度もOKなんだけど、試験で100回も200回もやり直されるのは困るから、一応4~5回まで。同じ所を何度もミスられたら、それはもう実力不足って事で落第ね」
リテイクOKってだけで寛大だと思う。
「でも講師技能試験は一回限り。測りたいのは相方の演奏者としての実力では無く、君等の講師としての実力だからね。でも試験官には判断基準は教えない。君等の演奏を聴いて、素直に誰の演奏が良かったかを決めてもらう。特に素人の判断は貴重だよね」
結構意地が悪い。
自分自身の演奏はやり直しも出来て成長を示せるのに、教え子の実力は1回限りでしか示せない。
「僕の友達にさぁ……ラインハットの王様が居るんだけど……試験官になってもらおうと思ってる。断ったらブン殴るし(笑)」
な、何で俺等の技能試験に他国の王様を巻き込むのぉ!?
って言うか、他国の王様を殴らないで!!
ヨクスSIDE END
後書き
デカいアンプで大音量で吹っ飛ぶ……
これは元ネタがあります。
何のことか分かった方はコメント宜しくお願いします。
「ヘッポコハートの子守歌」(Vocal:G国の王様)
♪ちっちゃな頃からクソガキで♫
♪15で王家に返り咲く♫
♪ナイーブみたいに言われたが♫
♪やる事なす事、仇(アダ)になる♫
♪ああ、分かってくれたの嫁だけだ♫
♪そんなにオレはヘッポコか?♫
♪ララバイ、ララバイお休みよ♫
♪ヘッポコハートの子守歌~♫
♪恋したあの娘(こ)が気になって♫
♪獄卒相手に喧嘩売る♫
♪あっという間に囲まれて♫
♪力任せに、殴られた♫
♪ああ、分かっていたけど弱かった♫
♪こんなにオレはヘッポコだ!♫
♪ララバイ、ララバイお休みよ♫
♪ヘッポコハートの子守歌~♫
『この曲は事情により個人名を伏せてあります』
※リズムは「ギザギザハートの子守歌」です。
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