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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第3部
ルザミ
  ただ一人の罪人

 
前書き
8/27 更新
最後の数行を改稿しました。 

 
「くそ……。こんなことならザルウサギのわがままに付き合うんじゃなかった……」
 午前中の水遊びを激しく後悔しながらユウリが鬱々と呟く。
 なぜこんなことを言い出したのかと言うと、フィオナさんの家を出た後、シーラの希望通り結局近くの海岸で水遊びをすることになったからだ。
「そうは言うけどユウリちゃんだって、滅茶苦茶はしゃいでたじゃない♪」
「ふざけたことを言うな。はしゃぎすぎて沖に流されそうになったのはどこのどいつだ?」
 シーラの話は明らかに盛っているが、彼女が沖に流されそうになったことは本当だ。私が砂浜で綺麗な貝を探していたころ、シーラは波打ち際でナギと遊んでいた。すると彼女は足を滑らせてしまい、たまたま来た大きい波に襲われ、危うく流されそうになったのだ。傍にいたナギがすぐに助けなければ、大変なことになっていただろう。
 ちなみにユウリは最初私たちから離れるように一人砂浜に座っていたが、シーラとナギに絡まれ喧嘩になりながらも、最終的には彼とナギでどちらが多く浜辺のカニを取れるかの勝負となり、珍しくナギが勝つという結果になった。往生際が悪いのか、ユウリはその後も何度かナギに勝負を挑んだが、小さいころからナジミの塔の近くの海でカニ取りをしていたナギにはどうしても勝てなかった。
 ……言われてみたら確かにいつものユウリよりははしゃいでいたかもしれない。
 そんな二人のやり取りを思い出したせいか、緩んだ顔になっているところをユウリに見られてしまった。
「おい鈍足。何人の顔見てニヤニヤしてるんだ」
「べ、別にニヤニヤなんかしてないよ」
 こういうことに目ざといユウリが私に突っかかってくる。
「もう、そんなことで目くじら立てたらミオちんに嫌われちゃうよー?」
 横から口を挟むシーラに、怒りの矛先が彼女へと変わる。
「黙れ! もとはと言えばお前が……」
「なあ、あの家がそうじゃねえか?」
 我関せずのナギが指さしたのは、木と石で組み立てた小さな家。フィオナさんが教えてくれたセグワイアさんという人の家の特徴にそっくりだった。ちなみにフィオナさんは自宅で研究を続けている。
「すいませーん!!」
 コンコン、と鍵のついていない扉を叩くと、ほどなく内側から扉が開いた。
「おお。あんたらはフィオナんとこの……。昨夜はありがとな。久々に楽しかったよ」
「いえいえ、こちらこそ……って、あれ?! あなたはあの時の……」
 そこにいたのは、私たちが昨日島に着いてから、初めて出会った島の人だった。この人に教えてもらったから、私たちはフィオナさんと会うことができたのだ。
「昨日は色々教えてくださって、ありがとうございました」
「いやあ。まさかそこの坊っちゃんが本当にフィオナの息子だとは思わなかったよ。すごい偶然だなあ」
 そういってナギの方を見て感嘆の声を上げるセグワイアさん。何か言おうとしたナギを押しのけ、割って入ったユウリがセグワイアさんに尋ねた。
「聞いたぞ。あんた昨日、罪人だった島民はほとんどいないとか言っときながら、実は自分が罪人だったんだってな?」
 もうちょっと穏便な言い方は出来ないのだろうか。まあ、もし仮にセグワイアさんが怒って何かするとしても、ユウリなら何とかしてしまうだろう。とはいえヒヤヒヤしながら、私は二人を見守る。
 けれど結局、セグワイアさんが怒ることはなかった。
「……フィオナから聞いたのか。まあ、旅人さんにわざわざ言うことでもないから言わなかったんだ。わしはもともとサマンオサで国庫を管理する役人でね。もう10年以上も前、当時サマンオサの上の連中にいいように利用されてな、とんだとばっちりで島流しに遭ったのさ」
「サマンオサ?」
 どこかで聞いたことのあるような地名に、私は思わずユウリに視線を向ける。
「確かここから北にある大陸がサマンオサ大陸だったはずだ。そこそこ大きな都市だった気がするが。というかお前、なんでそんなにピンとこない顔をしてるんだ」
「えーと……、聞いたことはあるけど……」
「勇者サイモンは、この国の出身だ」
「あ!!」
 そういえば、なんとなくそんなことを聞いたような気がする。
「なあ、あんたは役人だったんだろ? 当時サマンオサでこういう形の剣を提げた人物を見なかったか?」
 ユウリはセグワイアさんに、あらかじめ借りてきたガイアの剣の挿絵が載っている本を見せた。するとセグワイアさんはしばらくその挿絵をじっと見つめた後、はっと頭を上げた。
「この剣……、見たことあるよ」
「本当ですか!?」
 思わぬ収穫に、私たちは一様に目を丸くする。
「どこで!? どこで見つけたの!?」
 シーラが急かすように尋ねるが、セグワイアさんは落ち着いた調子で話し始めた。
「確かサマンオサの城にいた時、その国から魔王を倒すために旅に出るという若者が国王に拝謁するってことになってな。その時にやってきた若者の腰に提げていたのがこの剣だったんだ。随分と立派で目立っていたから、よく覚えてるよ」
「魔王を倒すために旅に出る若者……。それってやっぱりサイモンさんのことなんじゃ?」
 私の問いに、セグワイアさんはうーんと首をひねった。
「何しろ10年以上前のことだからなあ。それにわしは、そのあとすぐこの島に来たから、彼が君たちが知っているほどの有名人だってことも知らないんだ。けど、確かに魔王討伐の命を国王様から命じられたとき、そんな剣を持っていたのは覚えてるよ」
『……』
 勇者サイモンがサマンオサの国を出るときには持っていたガイアの剣。そのあと魔王の城を目指してネクロゴンドまで行ったが、途中魔王軍に襲われ、仲間とともに散り散りになった。以来消息不明となり、もちろん剣の行方もわからないが、彼の故郷がサマンオサならば、もしかしたらそこに行けば何か手掛かりがあるかもしれない。
「ジパングでパープルオーブの情報を得たあと、サマンオサに向かってみるか」
 ユウリも私と同じことを考えていたようで、すぐに次の目的地を決めた。
 するとセグワイアさんが、心配そうに口を挟んできた。
「サマンオサに行くなら気をつけな。あの辺の海域は波が高く潮も読めない。おまけに停泊できる港も少ないし、大陸の大半は周りを切り立った崖で覆われている。下手に上陸しようものなら波に流されて一発であの世行きになっちまうよ」
「じゃあ、どうやって行けばいいんですか?」
「初めてサマンオサに行くなら、ロマリアが管理している関所内に、サマンオサに通じる旅の扉がある。そこで旅の扉の通行許可を得たら、通れるようになるさ」
「随分と面倒なんだな」
 思わぬ長旅になりそうな事態に、深くため息をつくユウリ。最後の鍵を手に入れた工程を思い返すと、今回の冒険も一筋縄ではいかなそうだ。
「なんだかわからんが……、役には立ったかい?」
「はい!! いろいろと教えてくれてありがとうございます!」
 私が笑顔でお礼を言うと、セグワイアさんはそうか、と顔を綻ばせ、そのまま去っていった。その表情はかつて罪を犯したとは到底思えないほど、穏やかそうに見えた。
「……結局フィオナさんやミオちんの言うとおり、ただの取り越し苦労だったみたいだね? ユウリちゃん」
 皮肉めいた声で言い放つシーラに、ユウリはふん、とそっぽを向くだけだった。



 その後、空も暗くなりかけたころ、私たちはフィオナさんに別れの挨拶をすべく、再び彼女の家を訪れていた。
「世話になったな。またこのサルが寂しそうにしていたらここに来る」
「おいこら陰険勇者!! てめえがカニ取り勝負に負けたこと、島の全員に言いふらしてもいいんだからな!!」
「別にどうでもいい」
 ユウリとナギの小競り合いに苦笑しつつも、フィオナさんは少し寂しそうな顔で二人を眺めていた。
「こちらこそ来てくれてありがとう。私も久々に息子と過ごすことができて、とても幸せだったよ。できることなら、ずっとこのままいてもよかったんだけどね」
 その言葉が本気か冗談かわからなかったが、フィオナさんの瞳にナギの姿が滲んで映し出されていたのを、私は見逃さなかった。
 するとナギがフィオナさんの前に立つと、俯き気味に口を開いた。
「もし魔王を倒したら……また会いに来る。……母さん」
「!!」
 ぶっきらぼうなナギの言葉に、フィオナさんは今まで見たこともないほどの笑顔を見せた。
「はは、別に魔王を倒した後でなくてもいいだろ。またいつでも遊びに来てくれ、ナギ」
 フィオナさんが笑うと、ナギはどこか気まずそうに口をへの字にした。
「なんなら当分ここに置いていっても構わんけどな」
「へっ、冗談じゃねーよ!! 意地でもついていくからな!!」
 なんて言ってはいるが、ユウリも本気で置いてくつもりはないはずだ。……そのはずだよね?
 するとフィオナさんはナギの前で手を差し出した。ナギは無言でその手を取ると、気恥ずかしくなったのかすぐにぱっと手を離した。そしてそのままフィオナさんに背を向けて歩き出してしまった。
「あっ、ナギ、待ってよ!!」
「別れはこれくらいあっさりしたほうがいいさ。皆、ナギのことをよろしくね」
「オッケー!! ナギちんの手綱はあたしが握るね!」
「お前に握らせたら余計暴れそうだけどな」
「ユウリちゃん……。なんだか最近小粋なジョークを挟むようになったね……。おねーさんは嬉しいよ」
 わざとらしく嬉し泣きをするシーラに、ユウリは無言でシーラの頬をつねった。うん、これは下手に口出ししたら巻き込まれるやつだ。
「それじゃフィオナさん、お元気で!!」
 別れ際までドタバタしていたが、最後は笑顔で挨拶を交わし、私たちはルザミの島を後にした。


 ナギのお母さんに会うこともできたし、ガイアの剣の情報も得ることができた。魔王の城に少しでも近づくため、私達は次なる目的地を目指すのだった。

 
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