野生児お爺さん
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第一章
野生児お爺さん
父の実家に帰ってだった、小学四年生の井上真希やや丸顔ではっきりとした大きな目と細く長い眉に赤い唇と茶色がかったショートの髪の毛を持つ彼女は驚いて言った。
「えっ、お祖父ちゃん山の中をなの」
「ああ、今だってだぞ」
古稀を過ぎたばかりの祖父の虎雄は笑って答えた。
「毎日みたいに入ってな」
「山を見て回ってるの」
「祖父ちゃんの山だからな」
自分が持っている土地だからだというのだ。
「ちゃんとな」
「中に入ってなの」
「見て回ってるぞ、そこの木を売ったり椎茸を栽培したりな」
そうしたことをしてというのだ。
「祖父ちゃんは暮らしているしな」
「田んぼも畑もしてるわよね」
「ああ、あと山で採れた山菜や果物も売ってるぞ」
そうしたものもというのだ。
「ちゃんとな」
「そうなの」
「ああ、それで毎日泳いでもいるぞ」
孫娘に笑ってこうも言った。
「川でな」
「プールでなくて?」
都会で生まれ育っている真希にとって泳ぐ場所はそこだった。
「川なの」
「ああ、そうだぞ」
「お祖父ちゃん凄いね」
「ははは、子供の頃からそうしているだけだ」
祖父は笑ったままこう返した、そしてだった。
自分の畑で採れた西瓜や茄子、胡瓜等を食べさせたり真希を村の色々な場所に連れて行った、そんな祖父についてだ。
夫と二人で一緒にいた母の多香子が彼と離れた時に来てこう言った。
「お祖父ちゃん凄いね」
「いや、お祖父ちゃんにとっては普通だから」
母は自分がそのまま小さくなった様な外見の娘に答えた。
「もうね」
「凄くないの」
「お祖父ちゃんにとってはね」
「そうなのね」
「お母さんはね」
今度は自分のことを話した。
「そのお祖父ちゃんとね」
「子供の頃暮らしていたのよね」
「このお家でね」
田舎の大きな家にというのだ。
「そうだったのよ」
「それでお祖父ちゃんその頃からなの」
「そうよ」
実際にというのだ。
「ああだったのよ」
「そうなの」
「毎日山に入って田んぼや畑のお仕事をして」
そうしてというのだ。
「川でも泳いで」
「暮らしていたの」
「そうなのよ、冬だってね」
「今は夏だけれど」
「それでもね」
その季節でもというのだ。
「雪かきをしたりね」
「してたの」
「そうよ」
「そうなのね」
「そう、ずっとああだから」
皺だらけの顔で痩せた一七〇位の身体で面長の顔に小さな目と唇があり白くなった髪の毛を短くしている自分の父について娘に話した。
「お祖父ちゃんは別にね」
「凄くないっていうのね」
「あんたがそう思ってもね」
「何か」
少し考えてからだ、真希は母に言った。
「野生な感じがするけれど」
「あんたはそう思うわね」
「だってね」
母にさらに言った。
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