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仮面ライダーAP

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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第4話

 ヘレンの頭を踏み潰す寸前で足を止め、咄嗟にその場から飛び退いたアイアンザック。彼が立っていた場所目掛けて、飛び蹴りを放つように現れたのは――深紅の鎧を纏う「仮面ライダーオルバス」だった。

「待たせたな、アーヴィング捜査官! ここからは俺に任せてくれ……!」
「う、うぅ……あ、あなたは……仮面ライダーオルバス……!? どうしてここへ……!」
「匿名でのタレコミが来たのさ。この島が、ノバシェードの根城になってるってな……!」
「あなたのところにまで……!?」

 予想だにしなかった新世代ライダーの登場に、混濁していたヘレンの意識も徐々に回復して行く。ふらつきながらもなんとか上体を起こした彼女に、オルバスは素早く手を差し伸べていた。

「……お互い、誰かに転がされてここまで来ちまったってことなんだろうな。だが、ノバシェードが居るって事実が変わらねぇなら俺達のやることは一つだ。そうだろ?」
「……えぇ、そうね!」

 オルバスこと忠義(チュウギ)・ウェルフリットの手を借りて起き上がったヘレンは、ようやく「持ち直した」らしい。彼女は毅然とした表情でアイアンザックをキッと睨み付け、片膝を着いた射撃姿勢でスコーピオンを連射する。
 忠義の元にも届いていたというタレコミ。それが誰の仕業なのかは定かではないが――今は、この得体の知れない強敵を倒して島を制圧するのが先決だ。

「よぉし……行くぜぇッ!」

 そんな彼女の判断を汲んだオルバスはスコーピオンでの援護射撃を背に、エンジンブレードを振り上げながら一気に走り出して行く。アイアンザックはスコーピオンの銃弾を片腕で凌ぎながらも、オルバスを迎え撃つべく拳を構えていた。

「仮面ライダーオルバス……! まさか、新世代ライダーにしてジャスティアタイプでもあるお前が来るとはな! どうやってこの島の実態を突き止めたのかは知らんが、これは僥倖だ……! 私の計画の成果を証明する上で、これ以上の相手はいないッ!」
「計画、だぁ……? 一体何が狙いなのかは知らねぇが……ロクでもないことってだけは間違いなさそうだなッ!」

 新世代ライダーの一員である現役警察官にして、一光(にのまえひかる)博士の成果物――ジャスティアドライバーの適合者でもある忠義。そんな彼が変身するオルバスに狙いを定め、アイアンザックが鉄拳を振るう。
 だが、ヘレンの射撃に気を取られていた彼の拳打は微かに精細さを欠き、オルバスの顔面を掠めるのみであった。その一瞬の好機に乗じて、深紅の悪魔はエンジンブレードを突き出して行く。

「でぇぁあッ!」
「ぐぉおッ……!?」

 アイアンザックは咄嗟に重心を後ろに倒し、仰け反るように斬撃をかわす。だが、真っ直ぐに伸びたエンジンブレードの切っ先は、胸部装甲の一部を斬り飛ばしていた。スコーピオンの銃弾を何発撃ち込まれても傷一つ付かなかったアイアンザックの外骨格に、大きな亀裂が走る。
 だが、勝負はまだ終わってはいない。

「……ぬぇえいッ!」
「くッ!?」

 斬撃のダメージに苦悶の声を上げながらも、アイアンザックはその場に踏み留まり、背部に隠し持っていた刀剣を引き抜いていた。オルバスの腕が伸び切る瞬間を狙っていたアイアンザックは、横薙ぎに刀剣を振るってエンジンブレードを弾き飛ばしてしまう。
 最も厄介な「得物」さえ弾いてしまえば、本体など恐るるに足らず。そう判断したアイアンザックは一気に、己の刀剣で斬り掛かるのだが――オルバスは颯爽と上に跳んで斬撃をかわしていた。

「条件が同じなら勝ち確、ってか?」
「ぬぅッ!?」

 アイアンザックの頭上を取ったオルバスは、彼の頭頂に両手を乗せると、側転の要領で大きく足を広げて彼の背後にくるりと着地する。即座にアイアンザックの腰に両腕を回したオルバスは――自分より遥かに大きなアイアンザックの身体を、ジャーマンスープレックスで後方に叩き付けるのだった。

「とぉあぁあッ!」
「ごあっ、はッ……!?」

 弧を描くように放り出されたアイアンザックの巨体が、シャドーフォートレス島の大地に後頭部から墜落する。あまりの衝撃による轟音が天を衝き、地面に激突したアイアンザックの鉄仮面に亀裂が走っていた。
 その仮面が減り込んでいる地面も大きくひび割れており、ジャーマンスープレックスの威力を雄弁に物語っていた。あまりのダメージに痙攣するアイアンザックの手から、刀剣が滑り落ちて行く。

「……イイの入ったろ」
「ぬぐ、ぁあッ……!」

 アイアンザックの腰を抱き締めながら弓なりに仰け反り、その巨体を真後ろに突き刺したオルバス。彼の技を受けた巨漢の老将は「でんぐり返し」の格好のまま、再び苦悶の声を上げている。技を仕掛けたオルバス自身は預かり知らぬことだが、この光景は先ほどの戦いでヘレンが受けた「恥辱」に対する、ある種の「意趣返し」のようであった。

「……ぬがぁあァッ!」
「うおっ……!」

 だが、これだけで完全に敗北するアイアンザックではない。彼は両腕で地面を押し上げるように、その体勢から力任せに脱出していた。ジャーマンスープレックスのホールド状態から力技で逃れたアイアンザックは、オルバスやヘレンに対して距離を取るように後ずさっている。

「……さすがだな、仮面ライダー……! この『コアフォーム』の装甲を一撃で抉った上に、300kg以上もの外骨格を軽々と投げ飛ばすとは。だが……この程度では、私を止めることは出来んぞッ!」
「あっ、ちょっ……!? 待ちやがれッ!」
「逃がさなっ……あうっ!」
「アーヴィング捜査官っ!? くそっ……!」

 やがてアイアンザックは破壊された胸の辺りを抑えつつ、逃げるように要塞内部へと走り去って行く。そんな彼を追うべく、オルバスとヘレンは走り出そうとしていたが――ヘレンは先ほどのダメージが響いたのか、足がもつれてしまっていた。彼女にオルバスが気を取られている間に、アイアンザックは足早に姿を消してしまう。

「はぁっ、はぁあっ、んはぁあっ……! ごめんなさい、ウェルフリット巡査……! 奴の攻撃、思ってたより効いてたみたいっ……!」
「謝ることなんかねぇよ、アーヴィング捜査官。あんたが1人でこの島をほとんど制圧してくれたおかげで、俺は全く消耗せずにここまで来られたんだ。そのうち、救援のヘリも来る。あの爺さんは俺に任せて、あんたはここでゆっくり休んでいてくれ」
「……ありがとうっ……!」

 片膝を着き、乳房と桃尻を揺らしながら、扇情的な甘い吐息を漏らしているヘレン。彼女の肢体にぴっちりと張り付いたスーツの内側では、激しく消耗している肉体から滲み出る芳醇な汗が、白い裸身をじっとりと濡らしていた。
 くびれた腰に反して大きく実っている特大の爆乳と、安産型の巨尻。その豊穣な果実は淫らに汗ばみ、スーツに閉じ込められた内側で芳醇な香りを熟成させている。仮面を破壊されたことによって、その汗の匂いがスーツの内側から僅かに漏れ出ていた。オルバスも仮面を装着した状態でなければ、彼女の肉体から漂う特濃のフェロモンに気を散らされていたところだ。

「さぁて……逃がさねぇぞ爺さんッ! 待ちやがれッ!」

 ヘレンの肩を軽く叩き、休息を促した後。オルバスは地面に突き刺さっていたエンジンブレードを引き抜き、要塞内部へと一気に突入して行く。ヘレンはそんな彼の背を、複雑な表情で見送っていた。

「……」

 ――その頃。遥か遠くからヘレン達の様子を見つめている、1人の美女が妖艶な笑みを浮かべていた。青いチャイナドレスのスリットによって露わにされた白い美脚が、月光に照らされ淫靡な輝きを放っている。凹凸の激しいその肉体からは、芳醇な女のフェロモンが隅々から滲み出ていた。
 ウェーブが掛かった黒のロングヘアは夜風に靡き、フレグランスな甘い香りを周囲に振り撒いている。ドレスを押し上げる釣鐘型の豊満な爆乳と、くびれた腰つきに反した特大の爆尻も、極上の色香にさらなる彩りを添えていた。尻肉にきつく食い込んだTバックのパンティは、ドレスの上からでも分かるほどに彼女のヒップラインを浮き立たせている。

「……ふふっ」

 月明かりの下で妖しく微笑む、蠱惑的な謎の美女。彼女はぴっちりと肢体に張り付いたチャイナドレスを翻し、その場から静かに立ち去ろうとしていた。引き締まった細い腰を左右にくねらせ、豊穣な乳房と安産型の桃尻をたぷんたぷんと上下に弾ませながら、踵を返した彼女は闇の向こうに消えて行く。その白く優美な手で、何らかの重火器らしきものを握り締めたまま――。

 ◆

 それから、僅か数分後。要塞内部に残っていた戦闘員達の妨害を斬り払いながら猛進撃していたオルバスは、薄暗い最深部の一室までアイアンザックを追い詰めていた。冷たい壁を背にしたアイアンザックはようやく足を止め、オルバスと真っ向から対峙している。

「……とうとう追い詰めたぜ、アイアンザック中将。あんたの計画ってのが何だったのかは知らねぇが……そろそろ年貢の納め時らしいな?」

 軽装型を装着したヘレンを圧倒していたアイアンザックの外骨格。その性能はかなりのものだったようだが、それでも数多くの死線を潜り抜けて来たオルバスの敵ではなかった。このまま正攻法で戦い続ければ、オルバスのパワーが競り勝つのは目に見えている。
 アイアンザックもそれを肌で理解しているのか、先ほどのように拳を構えようとはしなかった。だが、その仮面の下に隠された双眸に諦めの色は無い。むしろここからが「本番」なのだと、彼の目が訴えている。

「ふっ……そうか、知らんか。やはり……お前達でさえ知らんのだな。私の……『スパルタン計画』を」
「スパルタン計画、だと……?」
「知らないというのなら、それも良かろう。……今すぐに教えてやる! この下(・・・)でなァッ!」

 一瞬のうちに殺気を剥き出しにしたアイアンザックは、白銀の剛腕で地面を殴り付け、部屋の底を破壊してしまう。足場を自ら殴り壊して「大穴」を開けるという彼の暴挙に瞠目する暇もなく、オルバスは彼と共に、この部屋の真下に隠された「地下格納庫」へと落下してしまうのだった。

「おわぁあぁあッ!? ……く、くそッ! あの野郎、一体何を考えてッ……!?」

 咄嗟に空中で体勢を切り替えたオルバスは何とか着地に成功する。だが、顔を上げた彼の眼前には――さらに驚くべき光景が広がっていた。
 オルバスが降り立ったこの広大な地下格納庫には、さらにもう1機の強化外骨格が佇んでいたのである。それはアイアンザックが着ていたものよりも、さらに禍々しい外観を持っていた。しかし、驚くべき点はそこではない。

「な、なんだよこりゃあ……! こんなデカブツ、一体どうする気なんだ……!?」

 アイアンザックが着ていた鎧よりも、さらに大型なのだ。全長はおよそ315cm。並の人間が扱うような代物とは到底思えないサイズだ。その胸部装甲には、「ICBMR」という謎のイニシャルが記載されている。背面には超大型の刀剣が装備されており、両腰部や両脚部、側頭部には単装砲まで搭載されていた。
 そんな大型外骨格の巨躯を仰ぐオルバスの眼前で、その胴体部に位置するハッチが開かれる。どうやら、このハッチの内側がコクピットになっている構造のようだ。その中から現れたのは――先ほど床を殴り砕いていた、あのアイアンザックだった。

 ただでさえ大柄なアイアンザックは、元々装着していた外骨格の上に、さらに巨大なアーマーを「二重」に纏っている。より凶悪になった大型外骨格の面相は、見た目以上の迫力を見せていた。崩落の混乱に乗じて、彼はさらに強大な外骨格を「重ね着」していたのである。

「……これこそ、我が『スパルタン計画』の最高傑作。仮面ライダーSPR-30こと、『ミサイルスパルタン』の真の姿……『フォートレスフォーム』だ」
「……どの辺が『ミサイル』なのかは知らねぇが、随分と物騒なマトリョーシカだな。そいつがあんたの切り札ってことか?」
「半分は、な。私の計画はまだ完成には至っていない。このミサイルスパルタンの真価を発揮するには、もう一つのピースが必要なのだよ」
「へぇ……? どうやら、あんたの計画は志半ばで頓挫することが確定しちまったようだな。完成前から俺達に見つかっちまったからにはよッ!」

 速攻で決着を付けるべく、オルバスは一気に距離を詰めてエンジンブレードを振るう。しかし彼の刃がアイアンザックに届くよりも速くハッチが閉じられ、切っ先が弾かれてしまった。厚く強靭な巨人の装甲は、エンジンブレードも通さないほどの硬度であるようだ。

「ちっ……! 見掛け倒しであって欲しかったぜ!」
「御期待に添えず何よりだ。……そう言えば先ほど、どの辺が『ミサイル』なのだと言っていたな。教えてやろう」

 並外れた防御力に舌打ちしながらオルバスが後退した瞬間、歪な駆動音と共に起動したミサイルスパルタンが、全身の装甲を展開して行く。両肩、胸部、大腿部、爪先、頭部の装甲。それら全ての装甲によって隠されていた、ミサイルポッドが露わにされた。さらに後方の壁面から伸びて来た2本のロボットアームが、巨人の両腕部に大型ミサイルランチャーを取り付けて行く。

「……あぁ、そういうこと?」

 仮面の下で頬を引き攣らせたオルバスが、乾いた笑みを浮かべた瞬間――全門から一斉に発射されたミサイルの大群が、彼目掛けて一気に襲い掛かって来る。猛烈な爆炎がこの地下格納庫を照らしたのは、その直後だった。
 
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