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イベリス

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第百七話 秋がはじまりその十

「あの人は」
「それって凄いですね」
「最強はね」
「努力を努力と思わない、ですか」
「モーツァルトがそうだったのよ」
 音楽の天才と言われた彼はというのだ。
「あの人いつもね」
「作曲してて」
「そうしないと苦しかったそうだから」
「もう作曲中毒ですか」
「そう、作曲の努力はね」
 これはというのだ。
「あの人にとってはね」
「何でもなかったんですね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「伊達に子供の頃からね」
「作曲してた訳じゃないですか」
「もう字を書くより先に」 
 そうした年齢から作曲していたという、だからこそ彼は神童と言われ注目されていたのである。無論子供で作曲なぞそうは出来ない。
「それ位だったそうだし」
「その頃から作曲していて」
「それでね」
 そのうえでというのだ。
「三十五歳で亡くなるまで」
「ずっと作曲していて」
「もうそのことでの努力なんてね」
 それこそというのだ。
「全くね」
「考えなかったんですね」
「そう、だって作曲をしていないと」
 そうでないと、というのだ。
「苦しくて仕方ない」
「そうした人なので」
「もう飲んで食べる位にね」
「作曲していたんですね」
「そんな人なら」
 それならというのだ。
「もうね」
「努力、作曲のそれも」
「努力とはよ」
「思ってなかったんですね」
「ゴッホだってね」
 この画家もというのだ。
「やっぱりね」
「何か千点は描いていたそうで」
「絵を描くこともね」
 これもというのだ。
「努力とはね」
「思ってなかったんですね」
「そう、ただひたすら描いていたのよ」
 絵をというのだ。
「それでその勉強もね」
「していて」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「そうしたこともね」
「当然で」
「飲んで食べることと同じで」
「努力とはよ」
「ゴッホも思っていなかったんですね」
「そしてね」
 それでというのだ。
「モーツァルトは子供の頃から名声を得ていて」
「実際お金はあったんですよね」
「才能なくてただ遊んでるだけのビリヤードに夢中でね」
 どうも彼はこちらの才能は乏しくまた上達する為の努力もしていなかったらしい。あくまで音楽に全てを注ぎ込んでいたということか。 
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