海底で微睡む
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狭間-6
無性に歩きたくなって、しばらく原っぱを歩いた。
何も考えずに、ずっと、ずっと歩いて。
…そして、ハッとして足を止めた。
「……危なかった」
気付いたら、私はとても高いところにいた。
空が近い。辺りには森。足元はコンクリート。前はコンクリートで覆われた絶壁で。後ろは青緑が綺麗な水たまり。
…ああ。ここはダムみたい。
今回のこの場所は、今までの中で一番よく覚えている。
ここで、死のうと思ったから。
お母さんと同じように水の中へ飛び込んで。そうすればきっと、またお母さんに会えるって。
「……できない。できないよ」
…お父さんがまた帰ってくるって、希望を捨てたくなかった。まだ生きていたかった。
ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。
本当に。まだ生きていたかった。
お母さんに会いに行けないけれど。たくさんお土産話を持っていくからって。
…この時は、本当にそう思っていたの。
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