魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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AXZ編
第160話:夏の日差しの下で
世界の裏で暗躍する錬金術の組織・パヴァリア光明結社。その影響力は人知れず多くの場所に伸びていた。
例えばここ、日本国内にあるホテルなどもその一つ。表向きは普通のホテルだが、このホテルも実態は結社の隠れ家の一つであり内部には結社の錬金術師が使える工房などが隠されている。
そのホテルの一室、上層階にあるスイートルームに結社の幹部であるカリオストロとプレラーティ、そして先日起動したオートスコアラー・ティキは滞在していた。
彼女らが未だ結社本部に戻らずこの地に滞在している理由はただ一つ。この日本と言う地が彼女らが為そうとしている計画を行うのに非常に都合がいいからだった。それは星図と惑星の運行を照らし合わせたティキにより齎された情報であり、彼女の記録の正確さを知るが故にこの日本での計画実行を決めていた。
彼女らの目標……曰く『神に喧嘩を売る』為に…………
ある意味手柄とも言える情報を齎したティキだが、肝心の彼女は現在ベッドの上で漫画を読みながら退屈そうにしていた。
「はぁ~、退屈ったら退屈~、いい加減アダムが来てくれないと、あたし退屈に縊り殺されちゃうかも~~かもかも~~」
見た目相応の子供の様に駄々をこねるティキを尻目に、プレラーティは手にしたカップの紅茶を一口飲む。一方カリオストロの方は、アダムの事よりもこの場に居ないサンジェルマンの方が気になっていた。
「ねぇ? サンジェルマンは?」
「私達のファウストローブの最終調整中なワケダ」
以前の魔法少女事変の際にもキャロルが纏ったファウストローブ。錬金術師版のシンフォギアと言えるその装備だが、つい先日までその開発と調整は半ば頓挫していた。
と言うのも、核となる聖遺物やそれに類する物が無かったのだ。当初の予定では、キャロルが万象黙示録を行った際にチフォージュ・シャトーが解析した世界構造のデータを流用して生み出したラピス・フィロソフィカス……賢者の石を用いるつもりだった。だがS.O.N.G.、と言うより颯人の手によりそれは失敗。万象黙示録は行われず、シャトーにより世界構造が解析される事も無かった。
ラピスが無ければ彼女らが望む性能のファウストローブは作れない。悩んでサンジェルマン達だったが、そこに助け舟を出したのが彼女らの局長であるアダムだった。
「あの男に感謝する時が来るとは思わなかったワケダ。まさか純正のラピス……本物の賢者の石を持ってきてくれるとは」
そう、一体何をどうしたのかは知らないが、アダムは世界構造データの解析から生み出すのとは異なる賢者の石を持って来たのだ。サンジェルマンが一体どこでこれを手に入れたのかと訊ねたところ、普段飄々としている彼には珍しく感情を滲みだした様子で『奪ってきた』と答えたと言う。
普段アダムに対して尊敬の念など微塵も抱いていないプレラーティだったが、この時ばかりは素直に感心した。
「お陰で随分と捗らせてもらったワケダ。後は……」
プレラーティが話を続けようとしていると、その横をカリオストロが通り過ぎていく。考えの読めない同僚に、プレラーティもカップを持ったままソファーから立ち上がり通り過ぎていったカリオストロの後ろ姿を見やる。
「何処に行こうとしているワケダ?」
「もしかしてもしかしたら、まさかの抜け駆けッ!?」
無邪気に訊ねるティキに対して、プレラーティは同僚の性格から次の彼女の行動を予想していた。
「ファウストローブの完成まで待機できないワケダ?」
「ローブ越しってのが、もどかしいのよね。あの子達は直接触れて組み敷きた~いの」
「直接触れたいって……まるで恋の様な執心じゃないッ! ああ~ん、あたしもアダムに触れてみたいッ! 寧ろさんざんっぱら触れ倒されたいッ!」
恋バナにときめく少女の様に騒ぐティキだったが、カリオストロの抱くものがそんなものではない事は同僚であるプレラーティの方が良く分かっている。大人しくしていられないカリオストロに、プレラーティは思わずため息をついた。
「……あの小僧か?」
「えぇ……サンジェルマンがあそこまで入れ込むあの子。ちょっと興味が出てきたのよ。思わずちょっかいを掛けたくなるくらいにはね」
「否定はしないが、程々にしておいた方が良いワケダ。サンジェルマンの不興を買いたくないのならな」
とは言え本気で止めはしない辺り、プレラーティも興味はあるのだろう。寧ろ、カリオストロが1人不興を買ってくれるのであれば万々歳とでも思っていそうだ。
そんな同僚からの打算ありきの目を向けられつつ、カリオストロはホテルの一室を後にするのだった。
***
その頃、颯人達S.O.N.G.の魔法使いと装者一行は大型のトレーラーに乗ってある場所に向かっていた。
彼らが向かう場所は松代。多くの人々が平穏に暮らしていたその場所は、現在政府により退去命令が出され住民が自衛隊の先導の元手荷物を持ってバスに乗せられている。
その様子を奏と響がトレーラーの窓から何とも言えぬ目で眺めている。
「先の大戦末期、旧陸軍が大本営移設の為に選んだここ松代には、特異災害対策機動部の前身となる非公開組織……風鳴機関の本部も置かれていたのだ」
「風鳴機関……?」
「それって……」
聞き覚えのある名前が入った組織名に、もしやと思い奏達の視線が翼へと向く。肝心の翼は、何やら思いつめた様子で椅子に座り俯いている。
「資源や物資の乏しい日本の選挙区を覆すべく、早くから聖遺物の研究が行われてきたと聞いている」
「それが天羽々斬と、同盟国ドイツより齎されたネフシュタンの鎧やイチイバル。そしてガングニール……」
どれもこれも二課に所属していた者達からすれば馴染みのある名前だ。ある意味で途中参加のマリア達ですら知っている名が出てきた事に関心を隠せない。
その間にトレーラーは大型のゲートを潜り、山をくり抜く様に造られた施設の中へと入っていった。
「バルベルデで入手した資料は、かつてドイツ軍が採用した方式で暗号化されていました。その為、ここに備わっている解読機にかける必要が出てきたのです」
「それ、使い物になるのか? 大昔の骨董品だろ?」
「安心してください。ちゃんと使える様に整備と点検は怠っていませんから」
先の大戦時の技術が未だに使われていると言う事に不安を隠せなかった颯人が思わず横から口を挟んでしまったが、慎次はそれをやんわりと否定する。
余計な茶々を入れた颯人の脇腹を奏が小突き、窘められた彼は無言で肩を竦めた。
直後、それを待っていた訳では無いだろうが、翼は己の内に燻る納得できていない思いを吐き出した。
「暗号解読機の使用にあたり、最高レベルの警備体制を周辺に敷くのは理解できます。ですが……退去命令でこの地に暮らす人々に無理を強いるというのは……」
退去・避難とは、その血に暮らしていた人々からそれまでの生活を奪う行為に他ならない。逃れられない災害から人命を守る為にしなければならないと言うのであればまだ納得できたが、今回は必ずしもそうとは言い切れない。翼の中には今回の住民への退去命令は間違っているのではないかと言う気持ちが拭えずにいた。
それに対し、弦十郎は翼に背を向けながら告げた。
「護るべきは人ではなく国……」
「人ではなく……?」
「……少なくとも”鎌倉”の意志はそう言う事らしい」
弦十郎の言葉に翼は奥歯を噛みしめ、響も納得できていない様な顔をした。無理もない。彼女は人を守る為にシンフォギアを纏い、その拳を握るのだ。
いや、彼女だけではない。この場に居る力を持つ者全員がそうだ。皆国と言う大きくてあやふやなものではなく、すぐそこに居て手の届くものを守る為に力を手にしていた。
だと言うのに、その守るべき人々を蔑ろにして国を守れと言われても納得できるものではない。
それは弦十郎も同じなのだろう。司令官と言う立場であっても、国と言う存在の前には頭を下げる事しか出来ない。やれと言われればやるしかないのが彼の立場故、表立って逆らいはしないが内心では納得しきれていないのが察せられた。
だから颯人もその事について茶化す様な真似はしない。彼自身、政府の意向に納得しきれてはいないが割り切れるだけの分別は持ち合わせていた。
そのまま施設内に入った彼らは、手に入れた資料が解読機にかけられるのをガラス越しに見ていた。白衣を着た人々が何処か古めかしさを残した機械を操作するのを眺めつつ、弦十郎が指示を出す。
「難度の高い複雑な暗号だ。その解析には、それなりの時間を要するだろう……翼ッ!」
「ブリーフィング後、雪音、立花を伴って周辺地区に待機。警戒任務に当たります」
「うむ」
翼の言葉に弦十郎が頷く。それに対し手を上げたのが調だった。
「あの……私達は何をすれば……」
警戒任務に参加しようにも、現状LiNKERが奏用の物しかない以上無理はさせられない。本当の緊急事態であれば止むを得ないが、そうでない場合無暗矢鱈に戦いに駆り出す事は出来なかった。
そんな彼女達に与えられたのは、残っている住民の避難誘導であった。退去命令に従わなかったり、単純に気付いていなかったりした住民が居ないかを探し、もし見つけた場合は避難させるのが彼女達に与えられた仕事だった。
もし戦闘に巻き込まれた場合に備えて、ガルドをお供にマリア達は周辺地域に逃げ遅れた人が居ないかを双眼鏡を手に探していた。
「9時方向異常なし」
調が双眼鏡を覗きながら報告する。彼女達の前に広がるのはのどかな田舎の景色。山や林を背景に、作物を実らせた畑が見える。
切歌も調べに合わせて双眼鏡を覗きながら遠くを眺めていると、トマト畑の傍に人影らしきものを見つけ声を上げた。
「12時方向も異常……あああああッ! あそこに居るデスッ! 252ッ! れっつらごーデスッ!」
「いやあれって……」
「真似してみたいのは分かるけど、切ちゃん、それは――」
切歌が指さした先にあるのは人ではなく案山子だった。確かに遠目に見れば人に見えなくもないが、それでもあれが案山子である事は一目瞭然。そんな案山子に切歌は駆け寄り、回り込んで話し掛けた。
「早くここから離れて……って、怖ッ! 人じゃないデスよッ!?」
「最近の案山子はよく出来てるから……」
一応調はフォローしてやるが、それでもやはり案山子を人と見間違えるのは無理があると心の何処かでは思っているのだろう。仕方がないと言う様子を見せながら切歌に歩き寄っていく。
その2人の姿を見ながらマリアはぼんやりと呟いた。
「LiNKERの補助がない私達に出来る仕事は、このくらい……」
「そう腐るな。今リョウコが頑張って新しいLiNKERの調整を行ってくれている。それが出来るまでの辛抱だ。日本の諺にも『金は寝て待て』とある。今は落ち着いて待とう」
気分が落ち込んだ様子のマリアをフォローしようと諺を口にしたガルドであったが、それが間違いであると気付いたマリアは苦笑しながら訂正してやった。
「それを言うなら『果報は寝て待て』よ。別の諺と混じってるわ」
「……本当?」
「セレナには黙っておいてあげるわ」
フォローするつもりが逆にフォローされてしまった事に、ガルドが頭をかいていると切歌はめげずに今自分達に出来る事に全力を尽くそうと意気込みを新たにした。
「今は、住民が残っているかを全力で見回るのデスッ!」
「でも、力み過ぎて空回りしてるわよ?」
「……正直、何かやってないと、焦ってワチャワチャするデスよ……」
「うん……」
気持ちの上ではやる気があっても、それを為す為の力が無い。厳密にはあるのだが、下手に力を振るえないと言うもどかしさが彼女達を苛んでいた。それはある意味でガルドには理解しきれない感情。容赦なく自由に力を振るえる彼では、何を言っても空しい慰めにしかならないだろう。
故に今回はガルドも何も言えず、切歌と調を見るしか出来なかった。
雰囲気が沈んできたのを感じ取ったのだろう。切歌は気分を入れ替えるべく自分の頬を叩いて気合を入れ直した。
「にゃッ、にゃッ! よしッ! 任務再開するデースッ!」
意気揚々と振り返りながら駆けだそうとした切歌だったが、その直後実ったトマト畑の影から老婆が1人出てきた。顔はマリア達の方を向いている切歌はその事に気付かない。
「あッ!?」
「切ちゃん、後ろ……」
「危ないッ!?」
マリア・調・ガルドが慌てて引き留めようとするが間に合わず、切歌はこの畑の持ち主だろう農家の老婆とぶつかってしまった。
2人がぶつかりお互い転び、その拍子に老婆が背負っていた籠からトマトが転がり落ちる。
「わあッ!?」
「大丈夫ですか?」
転んだ2人の内、特に老婆の方を心配しながらマリアが声を掛ける。幸いな事にそこまで激しくぶつかった訳では無く、切歌は勿論老婆の方も特に大きな怪我は無さそうだった。
それでも自分の不注意でぶつかってしまった事は事実なので、切歌は慌てて老婆に頭を下げた。
「ごめんなさいデスッ!」
「いやいや、こっちこそすまないねぇ」
「怪我は? どこか痛いところがあったりしませんか?」
「大丈夫ですよ、ありがとう」
ガルドに手を借りながら老婆が立ち上がる。切歌と調が落ちたトマトを拾い上げる中、マリアは老婆に退去指示が出ている事を告げた。
「政府からの退去指示が出ています。急いでここを離れてください」
「はいはい。そうじゃね。けどトマトが最後の収穫の時期を迎えていてねぇ」
切歌達から落ちていたトマトを受け取る老婆の言葉に、料理人としてガルドの目がトマトに釘付けになった。色鮮やかに赤く、丸々と実ったトマト。見ただけで良いものだと分かるそれが、ガルドの料理人魂に火を付けた。
「ふむ……これは確かに良いトマトだ」
「分かるかい、お若いの?」
「これでも料理人の端くれ、いい食材を見る目はあるつもりなので」
「何だったら、一つ食べてみるかね?」
「いいのですか? なら、お言葉に甘えて……」
ガルドと、ついでに切歌と調もトマトを受け取り一口食べてみた。
一口齧って見ると、果肉が詰まったトマトから爽やかな酸味と甘みが口一杯に広がる。その味わいは普段仕入れるトマトとは一線を画していた。
料理人として良い食材に目が無いガルドは勿論、切歌と調も思わず目を輝かせた。
「これは……凄いな」
「美味しいデスッ!」
「うん! 近所のスーパーのとは違う……」
「そうじゃろう? 丹精込めて育てたトマトじゃからなぁ」
トマトの味に盛り上がる3人と、自慢の作物を素直に褒められて嬉しそうな老婆。その様子をマリアが何とも言えぬ顔で見つめていた。
その顔には今が非常時であると言う事以外に、話に入り込めない気まずさが見え隠れしている。
「あ、あのね、お母さん……」
それでも何とか言葉を振り絞って老婆をこの場から退去させようと試みるマリアだったが、そこに第三者の声が響き渡った。
マリア達はその声に聞き覚えがあった。
「きゃは~ん♪ 見ぃつけたッ!」
そこに居たのはパヴァリア光明結社の幹部、カリオストロ。姿を現した敵の幹部にマリアは老婆を守る様に立ち、ガルドは切歌達に先んじて前に出て対峙した。
そんな彼らを見て、カリオストロは少し残念そうに肩を落とす。
「あれま『じゃない方』……。色々残念な三色団子ちゃん達か」
「三ッ!?」
「色ッ!?」
「団子とはどういうことデスかッ!」
三色団子扱いされた事に憤るマリア達。一方ガルドは改めてマリア達を眺め、カリオストロが3人を三色団子と称した理由を考えていた。
「白……桃……緑……なるほど、ギアの色か」
「ピンポーン。見た感じね」
「ガルド、冷静に分析しないでッ!」
マリアに窘められてカリオストロに向き直るガルド。既に指輪をはめており、何時でも変身できるようにしている。そんな彼を前にしても、カリオストロは余裕そうな態度を崩さない。
「あらやる気? でもガッカリ団子三姉妹が一緒で戦えるの? それとも、あの子達はギアを纏えるのかしら?」
「そっちこそ、1人で大丈夫なのか?」
挑発に挑発を返すガルド。彼はカリオストロと対峙しながら後ろ手でマリア達に逃げるよう指示した。現時点で全力を出して戦えるのは彼1人だけだ。
彼の意図を汲んで、マリアは老婆を背負い切歌と調と共にその場を離れた。その様子にカリオストロは物足りないと言いたげな様子でアルカノイズの召喚結晶を取り出した。
「やっぱりお薬を使い切って戦えないのね。それならそれで……信号機が点滅する前に片付けて――」
「させると思うかッ!」
カリオストロがアルカノイズをばら撒く前に、ガルドが接近し跳び蹴りを放つ。放たれた蹴りを回避して体勢を崩したカリオストロを見つつ、ガルドはキャスターに変身した。
「変身ッ!」
〈マイティ、プリーズ。ファイヤー、ブリザード、サンダー、グラビティ、マイティスペル!〉
キャスターに変身するなりガルドは槍をカリオストロに振り下ろした。彼女はそれを障壁で受け止め、僅かに身を反らして受け流した。
「っと! ふぅ……同じ魔法使いでも、あーしが会いたかったのはあなたじゃないのよねぇ」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味よ。でもま、あなたが相手してくれるならそれはそれで構わないわ。お邪魔蟲である事に変わりは無いし、ここで始末させてもらうだけよ」
「やれるものならやってみろ!」
アルカノイズの召喚の隙を与えず、ガルドがカリオストロに攻撃を仕掛ける。接近戦に強いのか、カリオストロは生身でありながらも拳を握り彼が振り回す槍に対抗してみせた。拳を錬金術で強化し、槍の柄を殴って弾きお返しとばかりに胴体に拳を叩き込む。
放たれた拳をガルドはバク転で回避しつつ槍のリーチを活かして反撃した。
「オォッ!」
「ととっ! やるじゃない! 面白くなってきたわ!」
「そんな事言っていられるのも、今の内だ!」
〈グラビティエンチャント、プリーズ〉
マイティガンランスに重力魔法を付与し、穂先をカリオストロに向ける。すると強力な重力に引かれてカリオストロの体が否応なく彼の方に引き寄せられていった。
「ちょ、マジッ!?」
「捕らえたぞ、そら!」
「なぁっ!?」
カリオストロが重力の鎖に捕らわれた事に手応えを感じたガルドは、魚を釣り上げる様に槍を持ち上げた。するとカリオストロの体もそれに合わせて引っ張られ、上空に向け投げ飛ばされた。
そこを狙ってガンランスを砲撃モードにして狙い打とうとするガルドだったが、その瞬間上空から幾つもの光弾が降り注いだ。
「ぐ、くっ!?」
「そらそらそら!」
上空に放り投げられたカリオストロからの空爆にガルドはその場に釘付けにされる。その間にカリオストロは召喚しそびれたアルカノイズをばら撒き、改めて逃げていったマリア達の追撃をさせようとした。
しかし召喚したアルカノイズは姿を現した端から、飛来した銃弾により次々と射抜かれていった。
「えっ!?」
「これは……!」
不規則な軌道を描き次々と飛んでくる銀の銃弾。それは颯人が変身するウィザードのウィザーソードガンから放たれる銃弾に他ならなかった。後退したマリア達からの報告に、待機していた颯人が駆けつけてくれたのだ。
ハリケーンスタイルで空を飛びながらやってきた颯人は、そのまま地上に蔓延るアルカノイズをソードモードにしたウィザーソードガンで切り裂きながらガルドに並び立つ。
「お待たせっと!」
「いや、いいタイミングだ!」
互いに腕をぶつけ合わせて挨拶する2人。一方カリオストロは颯人が来た事に笑みを浮かべていた。
「会いたかったわッ! ああ、もう、巡る女性ホルモンが煮え滾りそうよッ!」
喜びに打ち震えた様子で次々と攻撃を放つカリオストロ。身一つで強烈な弾幕を形成する彼女に、颯人とガルドは直撃を受けないように回避するのがやっとと言う様子だった。
一応颯人とガルドも放たれる光弾を銃撃や砲撃で迎え撃っているが、流石幹部と言うべきか途切れる事の無い光弾に後退を余儀なくされた。
「だぁぁ、ったくもう。クリスちゃんみたいな事しやがってよぉ」
「おまけに接近戦も強いぞ。どうする?」
「取り合えず下がる!」
颯人は地面を切り裂き土煙を巻き上げ、ガルドと共に後退した。即席の煙幕を前にカリオストロが攻撃を中断した隙に、ガンモードにしたウィザーソードガンでシューティングストライクを放つ用意に移る。
〈キャモナ・シューティング・シェイクハンズ。ハリケーン! シューティングストライク! フーフーフー!〉
煙幕越しにカリオストロを狙おうとする颯人だったが、彼が煙幕の向こうから狙ってくるだろう事はカリオストロも読んでいた。彼女は攻撃を中断すると躊躇なくその中に飛び込み、逆に煙幕を利用して颯人の懐へと潜り込んでいた。
煙幕が晴れた瞬間、そこには颯人の死角に入り込んだカリオストロの姿があった。
「焦って大技。その隙が……命取りなのよねッ!」
「同感だね。焦って近付いてきたのが、あんたの運の尽きだ」
「――ッ!?」
それは颯人の作戦であった。ガルドの言葉から、カリオストロが遠距離での戦いより接近戦を好む事を見抜いた彼は、ここぞと言う時の決め技で近付いてくる事を読みその隙を敢えて作りだした。自らを囮として、狙ってきたところを逆に仕留める為に。
案の定カリオストロは颯人の方に意識が向きガルドの存在を忘れていた。颯人の後方、カリオストロが背を向けている所には、既に砲撃用意を整えたガルドの姿があった。
「そこだッ!」
「くっ!?」
ガルドが放った砲撃を、カリオストロは障壁で防ごうとした。だが完全に防御態勢を整える前に放たれた砲撃を前に、足は踏ん張りがきかずそのまま吹き飛ばされて地面に叩き付けられた。
「おぶっ!? ぐぅ。やってくれる……ッ!?」
何とか体勢を立て直したカリオストロだが、彼女の目にはカリヴァイオリンを構えるメイジに変身した透の姿があった。振り返れば颯人とガルドも居て、彼女は3人の魔法使いに囲まれていた。
流石にこの状況には焦りを隠せないのか、額から冷や汗が流れ顎から落ちていく。
「あらら……これはちょっとマズいかも……?」
カリオストロが焦りを感じてきた頃、そのタイミングを見計らったかのように彼女の脳裏にサンジェルマンからの念波による通信が入った。
『私の指示を無視して遊ぶのはここまでよ』
「――ッ!?……仕方ないか」
戻れと言われてしまえば仕方がない。カリオストロは残念そうにしながらも、転移結晶を地面に叩き付けた。
姿が消える直前、カリオストロの視線が颯人の方へ向く。
「次の舞踏会は、新調したおべべで参加するわ。その時はもっといろいろ話しましょう。バァ~イ」
そう言ってその場から消えたカリオストロ。残された3人は周囲にアルカノイズが残っていない事を確認すると変身を解いた。
元の姿に戻った颯人は、肩と首を回しながら疲れを吐き出す様に息を吐いた。
「やれやれ……何しに来たんだ、あいつ?」
「さてな」
未だに敵の狙いが今一理解できない事にもどかしさを感じる3人。
その彼らの間を、湿気を含んだ夏場の熱い風が吹き抜けていった。
後書き
と言う訳で第160話でした。
サンジェルマン達のファウストローブにはラピスが使われていましたが、本作ではキャロルの計画が颯人により思いっ切り邪魔されたのでラピスが手に入りませんでした。その代わりに手に入ったのがある意味で純正の賢者の石。錬金術に頼らず生み出された賢者の石を、アダムがある経緯から手に入れた物になります。
原作ではカリオストロとはクリスを始めとして響と翼が相手をしましたが、本作では話の都合上ガルドに颯人、透という魔法使い3人が相手をする事になりました。クリスと透は相変わらず仲違い中なので別行動。奏はもしもと言う場合に備えて待機中です。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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