これが創り物の世界でも、僕らは久遠を願うのです
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「…ふう、大体書き終わったかな」
一枚の紙から、百ページ強の本へ生まれかわったページを見ながら、僕はほっと息を吐いた。
ずっと書き続けていたものだから、さすがに疲れてしまった。軽く伸びをしてみる。
あとは、後回しにしていた備考の部分。
この項目に書く内容は本当に自由だ。キャラクターや世界によって、テンプレートに書き込めない情報が出てきたら、全てこの備考の部分に書かれる。テンプレート自体、後から見返した時に見やすいようにとか、記入漏れがないようにある程度型があるだけで、必ずそれに沿って書かないといけないものでもないから。
元代理は、彼についてどのくらい細かく記述をしたのだろうか。
「...いや。もしかして…」
細かく。そう考えてずっと試行を重ねてきた。
きっと彼は元代理か作者のお気に入りで、細かい設定まで作り込まれている。だから、もっと細かいニュアンスの部分までキャラクターを指定しないと、再現は不可能だと考えていた。
だけど、面倒くさがりな元代理が細かく設定を指定するのか?ということを、ずっと疑問に思っていたのだ。他のキャラクターは書かれていてもせいぜい三行で、書かれていないキャラクターもいるくらいなのに。
一度、細かさにこだわることはやめよう。そして、今まで一度も試したことがない記述を試してみよう。答えはそこにあるかもしれない。
…でも、それが難しいんだけどなあ。
「備考って…本当に、便利な言葉だよなあ」
思わず笑いが溢れた。
だが、最初のうちは考えうる設定を全てリストアップして、それを順に試行していた。だから、そのリストにない設定を絞り出して試せばいいのだが、何かあるだろうか…
…今までに、「流石にないだろう」と思って試さなかったものを一つ思い出した。
「…彼も、管理者だった可能性」
管理者になれば、管理者としての役割を与えられるため、その前後で行動に違和感が出るものだ。うまく繕っていたとしても、僕はもう事情を知っているからその違和感にも気付けるだろう。
でも、特に違和感は感じなかった。急に行動や言動が変わることもなかった。だから、この可能性は排除していたが、この際試してみよう。
一言だけ、備考に書き加える。
『設定上、管理者に任命する。ただし、権限は持たない』
管理者に任命する必要はないため、この書き方をしてみる。これなら『実際に管理者権限があるわけではないけれど、自分を管理者として認識する』という状態を生み出すことができるだろう。管理者を創る際には他の管理者の承認も必要だが、この書き方なら必要ない。
ページの記述は終了。世界を創り出そう。
「…運行を、始めてくれ」
ーガコン。
周囲が闇に包まれる。
これで目が覚めた頃には、辺りには研究室の風景が広がっているだろう。
…そのはずだったのに。僕は何を間違えた?
「やあやあ!こんにちは…ん?こんばんは?おはようございます?…なんか格好つかなかった!てへっ!」
ヘラヘラとしていて、おちゃらけた声。驚いて目を開けると、視界いっぱいに満面の笑みを浮かべる女の顔が広がっている。
ぼんやりとした白い目。生気を感じない真っ白な肌。光を吸い込んでしまう黒い髪と、黒い制服。笑っているはずなのに、全く楽しそうな雰囲気を感じない。
「”セイ”」
「よすよーっす、フィーくんや。励んでるね!」
元代理、セイ。
どこかへ去っていったはずなのに。世界のことはいつもと同じように記述したはずなのに。
なんでこいつがここにいる?なんで世界は生成されなかった…?
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