これが創り物の世界でも、僕らは久遠を願うのです
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空白のページを用意する。
まだ、ただの紙でしかないが、ここに文字を書き込んでいくことで、このページは世界を構成する設計書になる。
あなたがロマンがあると思ったなら…まあ、そうなのかもしれない。僕にはよくわからないけど。管理する立場からすれば、こんな紙切れが一つの世界なんて本当に勘弁してほしい。せめて、鉄製のプレートとか。もう少し頑丈なものにして欲しかったとしみじみ思う。
筆を用意する。僕はガラスペンが好きだから、お気に入りのインクも用意しなくては。
ボールペン、万年筆、毛筆など、今まで色々と使ってきたけども、書きごこちはもちろん、ペンの柄の部分がキラキラと輝いているのが好きなんだ。僕と違って、どこまでも透明に、澄んでいて。
さあ、元のページを書き写していこう。
これまで何百回とやってきたから、もう元のページを見なくてもいいくらい、この作業には慣れている。
まずは世界観。
『舞台・ヨーロッパ。フランス。別時空に存在する研究所』
『時代・現代。2024年12月ごろ』
『文明・現在より少し進んでいる。ハイテク。異能の概念がある』
これ以外にも、用語、要素、法則、常識、情勢、生活など、どんどん書き込んでいく。
片面に書き終わったらその裏に。それも埋まったら、このページはおもしろいことに勝手に枚数が増えていってくれるから、次のページに書き込みを続ける。
最終的には本のように分厚くなるので、僕ら管理者はそれを蔵にしまいこんだり、本棚に収納したりして管理している。確か、琴葉はあの破天荒な性格に反して、丁寧にしっかりとした表紙まで用意して管理していたはずだから…彼女の保管庫はきっと壮大になっているだろう。時間があったらあなたにも見てもらいたいし、琴葉は多少面倒くさいけど見にいくことにしよう。
話が脱線した。ページの話に戻そう。
あの世界は現実世界と、そこから隔離された研究室の二つの舞台があったり、異能について細かい指定があるから、その分基本的な世界のページより少し書き込み量が多い。
研究室は、そこのリーダーによって現実世界とは別の、異能によって作り出された空間に存在している。時間の進みを自由自在に操ることができたり、実験で爆発が起きても周りには何も被害が出なかったりなど、研究にはもってこいの素晴らしい場所だった。
この世界においての異能は、全てが仕組まれていて、異能が与えられるキャラクターはもちろん、与えられる異能の内容も、使い方も、結果も、全てが丁寧に決められていた。世界によっては、不確定因子として仮置きしておいて、どのように発展していくかをキャラクターたちに委ねることもあるが、この世界ではそうじゃなかったのだ。
ここまで、八ページ。
ずっと書き続けているが、全く苦ではない。
あなただって、どうしてもアイスが食べたかったら、コンビニまで行って、アイスを買うだろう。それと同じだ。
次はキャラクター。
メインキャラクターは僕を含めて六人。少し多いだろうか。でも、作者がそういう作品が好きだった結果だから、許してやってほしい。
メインキャラクターの記述に関しては、丸写しではなく、僕の部分に少しだけ追記をする必要がある。管理人である僕が、キャラクターとして創作世界の中に入ること。それを断っておかないと、自我を持った僕がもう一つ生まれてしまうからだ。
ちなみに、ここの編集が復元に支障をきたしているわけではないことは検証済みだ。素直に自分を複製することも試したが、それでもうまくいかなかった。
最初に書くのは、僕が殺した人。
僕の後悔。
『名前・カリル/Khalil』
『年齢・不詳』
『職業・研究室長』
この後、続けて体型や生い立ちに関する情報を書き込んでいく。初めてこのページを見つけたときは「僕の観察は割と正確なんだ」と驚いたものだ。身長、体重が小数点以下まで一致していたり、聞いたこともない生い立ちが、彼の口調や普段の行動からほぼほぼ正確に予想できていたのだから。
…そんな、冷静に考えれば狂気的だ、と思うくらい、僕は彼を熱心に慕っていたのだ。
でも、僕は彼を殺すことになった。その話はまた後でしよう。
さあ、まだまだページ作りも序盤だが、問題の箇所が来た。
彼の、性格に関する情報と、備考の部分。
ここが、問題の焼けてしまった箇所だ。
あの世界を作ったのは元代理なはずだ。だから、元代理が作った他のページを参考にしつつ、あの人の性格を再現していく。
一度、惜しいところまでいったことはあるのだ。ただ、何かが足りなかったから、失敗だと思ってあの世界のページは消去してしまった。
性格に関しては多分あの記述で問題ないはずだ。思い出しながら書き込んでいく。
多分、備考の部分が足りないのだ。
何かないかとずっと考えているが…まだ答えには辿り着けない。
…先に、他の部分を書いてしまおう。
焼けてしまった部分は不幸中の幸いか、ここだけだ。もし他のキャラクターや、世界観の部分が欠けていたら、僕は絶対に復元なんてできない、とすぐに諦めただろう。
先生のことをずっと見ていた。追いかけていた。だから、先生のことならなんでもわかる…つもりだ。
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