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第八十四話 映画を観てその十四

「何が怖い」
「そうなるわね」
「ドラキュラ伯爵や狼男やフランケンが出てもな」
 それでもというのだ。
「襲い掛かってこないならな」
「ただお茶とか飲んで仲間内でお喋りしていたら」
「何でもない」
「幽霊にしてもいるだけなら」
「別に怖くない、しかし怨霊だとな」
「日本人にとっては一番怖いわ」
「俺もだ、祟られて死にたくない」
 越智はこの言葉を心から出した。
「絶対にな」
「その通りね」
「だからサンタさんも怖くない」
「ましてや同時上映のドラえもんだと」
「ためになってな」
 人生のそれにというのだ。
「怖い筈がない」
「まあ外国の人でも怖いとは思わないわね」
「そうだな、魔界でもな」
 ドラえもんのシリーズにはそちらに行く作品もあるのだ、そしてこの作品もリメイク版が存在している。
「そんなにな」
「怖くないわね」
「そうだな」
「子供の頃メデューサ怖かったけれど」
 この作品に出て来るというのだ。
「けれどね」
「大人になるとな」
「怖くはね」
「ないな」
「やっぱり幽霊の方がよ」
 それも怨霊の方がというのだ。
「怖いわ」
「そうなるな」
「いや、今日のデートでそうしたこともわかったわ」
 富美子はしみじみとした口調で述べた。
「何が一番怖いかも」
「その国の人それぞれでな」
「日本人は怨霊だってね」
「俺もだ、それで祟られたくない」
「何があってもね」
「よくわかった、じゃあな」 
 富美子に真面目な顔で話した。
「これからな」
「帰るのね」
「家までな、送っていいか」
「お願いしていい?」
 越智に顔を向けて微笑んで言った。
「団地の私のお部屋までね」
「それじゃあな、しかし梅田に行くのもな」
 二人が今いる百貨店のある場所である。
「暫く振りだったな」
「そうね、学校に行く電車は梅田から出ても」
「学園前まで直通のな」
「それでもね」
「梅田の何処かに行くのはな」
 このことはというのだ。
「本当にな」
「私も暫く振りだったわ」
「そうなんだな」
「そのことも嬉しかったわ」
 越智に顔を向けて微笑んで話した。
「だからまた何かあったらね」
「その時もだな」
「ここ来ましょう」
 梅田にというのだ。
「そうしましょう」
「そうだな、八条百貨店もな」
「神戸の本店もいいけれど」
「この大阪店もいいしな」
「だからね」
 それでというのだ。
「またね」
「ああ、行こうな」
「そうしましょう」
「それとな」
「それと?」
「最後に何か食わないか」
 こう言うのだった。
「軽くな」
「じゃあソフトね」
 富美子は笑って言った。
「あれ食べましょう」
「ソフトクリームか」
「あれならね」
「確かに軽いな」
「そうでしょ、じゃあね」
「ああ、あれ食ってな」
「帰りましょう」
「そうしような」
 越智も頷いた、そうしてだった。
 二人でまたスナックコーナーに行きそこで一緒にソフトクリームを食べた、越智は団地に帰ると富美子を彼女の部屋まで送った、そして別れる時に微笑んでこう言った。
「またな」
「ええ、またデートしましょう」
 富美子も笑顔で応えた。
「機会があれば」
「機会は作るものじゃないか」
「そうね、じゃあ機会を作ってね」
「またな」
「またね」 
 二人で言い合った、そのうえで別れ越智は自分の部屋に帰ったのだった。


第八十四話   完


                 2023・5・1 
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