すまぬ
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第四章
容堂は酔い潰れつつだ、こんなことを言っていた。
「すまぬ」
「すまぬ?」
「すまぬ、半平太」
「半平太とは」
武市の名であるとだ、桂はすぐにわかった。
「ご自身が腹を切らせた」
「実は大殿はです」72
これまで酒を入れていた小姓が言ってきた。
「勤王党への初段の後はです」
「それからはです」
「この様にか」
「武市殿に詫びておられます」
「吉田殿を殺した御仁でもか」
「そして郷士であられても」
「それでもか」
「その優れた資質とまっすぐなお心は愛しておられたので」
その為にというのだ。
「この様にです」
「そうであられるか」
「桂殿、それでなのですが」
小姓は彼にあらためて言ってきた。
「この度は」
「いや、それがしは今言った通りだ」
桂はその小姓に確かな声で答えた。
「そうしたことはせぬ」
「そうですか」
「だからな」
それでというのだ。
「お主もな」
「安心してよいですか」
「存分にな」
こう言うのだった。
「そうせよ」
「そう言って頂き何よりです」
「うむ、しかし人はわからん」
桂は今度はこう言った。
「幕府に忠義を尽くしな」
「佐幕派ですね」
「そして志士達を殺しながら」
武市半平太、彼もというのだ。
「仇と思いつつ」
「その資質とお心はよいと思われていたとは」
「わからぬ、容堂公にしてもな」
桂は深く考える顔で言った。
「そうした御仁か」
「左様です」
「容堂公を嫌う者は今多いしだ」
桂はさらに言った。
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