カリュアへの愛
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第三章
彼もまたカリュアに手を尽くして治療を行った、だがやはりカリュアの命の火は残り少ないものであった。
次第に床から起き上がれなくなり顔色は刻一刻と悪くなっていき遂にだった。
ディオニュソスに見送られながら世を去った、彼女は最後に彼に顔を向けて微笑んでこの言葉を残した。
「最後まで有り難うございました」
「当然のことだ」
これがディオニュソスの返事だった。
「では心置きなく」
「眠るのだ」
「そうさせて頂きます」
静かに目を閉じて世を去った、ディオニュソスはその死を目にして涙を落した。
だがすぐにだ、従神達に言った。
「彼女を木に変えよう」
「木にですか」
「それにですか」
「そう、そして」
そのうえでというのだ。
「ずっと傍にいる」
「そうされますか」
「これより木に変えて」
「これからはずっと一緒にですね」
「いる様にしよう、彼女は木の精の娘だったし」
このこともあってというのだ。
「そうする、そして髪の毛が栗色だったから」
「だからですか」
「そのことからもですか」
「お考えがありますか」
「その色の。胡桃の木にしよう」
こう言ってだった。
ディオニュソスはカリュアを胡桃の木に変えた、そうして亡くなった彼女をオリンポスの自身の館に置いた。
そしてだ、そのうえでだった。
「私の神殿の柱の木は胡桃と定める」
「カリュアですね」
「彼女にするのですね」
「これより」
「そうだ、そうしてだ」
そのうえでというのだ。
「常に彼女を見て愛そう」
「わかりました、それではです」
「その様にします」
「これより」
従神達も頷いた、そうしてだった。
ディオニュソスの神殿の柱の木も胡桃の木になった、ディオニュソスは常にだった。
自身の神殿に来た時は柱に触れた、そうしてカリュアのことを思い出した。そのうえで彼女のことを偲び続けた。ギリシアに伝わる古い話である。
カリュアへの愛 完
2023・3・12
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