イベリス
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第百四話 八月の終わりその七
「一度ね」
「東京を出て」
「このお家もね」
「それで神戸に行って」
「あちらで過ごすのもね」
大学生の間というのだ。
「いいわよ」
「そうなのね」
「お父さんは生粋の江戸っ子でね」
「東京へのこだわり強いわよね」
「けれど大学はあそこで」
その八条大学でというのだ。
「関西に四年ね」
「いたのね」
「そうなのよ」
「あのお父さんがよく四年もいられたわね」
東京を愛して止まない父がというのだ。
「かなり凄いわ」
「そうね、けれど満喫してたわよ」
「神戸のキャンバスライフを」
「そう、それでね」
そのうえでというのだ。
「お母さんとも知り合って」
「結婚したの」
「結構大阪とかにも行ったし」
この街にというのだ。
「実はお父さん関西嫌いじゃないのよ」
「そういえば関西の悪口言ってるの聞いたことないわ」
咲はここでこのことに気付いた。
「東京が大好きなのはわかるけれど」
「そうでしょ」
「ええ、言われてみれば」
咲はおかずのシシャモを食べつつ頷いた、その他には漬けものとトマトそれに冷たい胡瓜のスープがある。
「関西の悪口はね」
「お父さん言わないでしょ」
「そうなのよね」
「四年いてね」
その関西にというのだ。
「満喫してたから」
「嫌いじゃないのね」
「そうなのよ」
「そうだったのね」
「それで咲もね」
母は胡瓜のスープを口にして話した。
「八条大学に行きたいなら」
「それならなのね」
「是非受験してね」
そうしてというのだ。
「合格したら」
「通えばいいのね」
「あの大学寮も下宿も充実してるしね」
「住むことにも困らないの」
「そうよ、だからね」
それでというのだ。
「合格したらね」
「神戸に住んで通えばいいのね」
「そうよ、まあゆっくり考えてね」
母は咲に微笑んでこうも言った。
「大学のことは」
「受験の時まで」
「そう、今あんた一年生だから」
高校のというのだ。
「まだね」
「二年以上あるわね」
「それだけあるから」
「ゆっくり考えたらいいのね」
「八条大学じゃなくてもね」
「他にも大学あるわね」
「東京だってね」
この街にもというのだ。
「かなりね」
「あるわね、大学」
「流石に東大は無理よね」
「考えてないわ」
咲はシシャモを食べつつ笑って返した。
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