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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第158話:君が欲しくて

 時は少し遡り…………

 奏達がサンジェルマンの召喚した新型の大型アルカノイズにより亜空間に引き摺り込まれてから少しして、颯人は現場へと到着していた。それに遅れる形で透も現場に到着し、2人揃って何か彼女達を救出する為の手掛かりが無いかと周囲を見渡した。

「とは言え、相手が亜空間? となると流石になぁ……。今俺が使える魔法で、異空間や亜空間に干渉できるような都合のいい奴無いし。透、お前は?」

 一縷の望みをかけて透に問い掛けてみたが、彼も残念そうに首を横に振った。大体にして、彼に何か特別な魔法があればいの一番に現場に駆け付ける筈だ。何しろ亜空間には奏だけでなく、透の想い人であるクリスに加え響と翼まで居るのだから。

 こういう時、颯人は融通の利かない指輪の魔法に歯痒さを感じずにはいられない。錬金術と違い魔法は一度才能が開花してしまえば、そこまで大きなリスクを考える事無くいろいろな魔法が使える。ただしそれは、予め専用の指輪を作ってあればの話だ。それぞれの魔法に合った指輪が無ければ、どれだけ大きな魔力を持っていてもそれは宝の持ち腐れとなってしまう。

 対して錬金術は、術の構築や使用に際して想い出や生命力を消費しなければならないと言う欠点はある。だがその代わりに、錬金術は術者が思うままに術を構築したり改良する事が出来る自由度があった。端的に言ってしまえば、術者の頭の出来によってはその場で即席の術を構築して場を切り抜ける事も不可能ではない。

 リスクを取るか、柔軟性を取るかでどちらがいいかは決まる。キャロルとハンスの顛末を知っている颯人からすれば、安易な判断はできないがそれでもこの時ばかりは錬金術の柔軟性を羨ましく思わずにはいられなかった。

「さて、どうしたもんか……」

 奏達に対し、何か出来る事は無いかと悩む颯人と透。

 その2人を、ビルの上に居るサンジェルマン達が見つけた。

「あら、あの子?」
「慌てて出てきたワケダね」

 遅れて到着してきた2人に、カリオストロとプレラーティは今更やって来て何をするつもりなのかと見下ろしていた。流石の魔法でも、亜空間相手に出来る事等何もない。彼らの行動は無駄足だと、心の何処かで小馬鹿にしてもいた。

 だがサンジェルマンは違った。彼女は颯人が来た事を確認すると、即座に周囲に結界を張った。外部との通信を妨害する類の結界だ。幸いな事に、その結界は亜空間を避ける様に張られていた。故に、奏達は本部と円滑な通信を確保し続ける事が出来ていた。
 それはつまり、通信の妨害から周囲の異変を察知する事が出来ないと言う事。本部の方も今は奏達のサポートに集中している為、その外で何が起きているかまではそこまで注意を払っていない。だから弦十郎達は、颯人と通信できなくなっている事に気付いていなかった。

 邪魔が入らないようにと準備を整えたサンジェルマンは、その場から飛び降り颯人の傍へと降り立った。突然その場を動いた彼女に、カリオストロ達も一瞬呆気にとられる。

「え、ちょっ!? サンジェルマン!?」
「何を!?」

 2人が止める間もなく颯人の傍へと降り立ったサンジェルマンは、彼の背に向けて声を掛けた。

「久し振りね」
「うぉっ!? あっ! アンタは……」

 突然背後から声を掛けられた事に、颯人は一瞬飛び跳ねるように驚き後ろを振り返った。そこに居たサンジェルマンの姿に彼は僅かに目を見開き、そしてこの事を即座に弦十郎に知らせようと通信機に手を伸ばした。
 だが前述の通り彼とサンジェルマンを囲むように通信妨害用の結界が張られている。故に颯人の通信機は無意味な雑音だけを彼の耳に届けていた。

「あ……?」
「悪いけど、邪魔が入ってほしくないから通信は妨害させてもらったわ」

 外部との通信が阻害された事を知り、颯人は溜め息を吐いて天を仰ぎ見る。見上げれば日が沈んできた事で空の色が赤から群青へとグラデーションが掛かっている。それを一瞥して気持ちを落ち着けると、手を振って透を遠ざけた。

「透、悪いが離れててくれ。どうやらこの人は俺に用事があるらしい」
「ッ!?」

 この状況で1人になるなど危険すぎると、透は彼に抗議しようとした。そもそも今回奏達が亜空間に引き摺り込まれたのだって間違いなく彼女達が原因なのだ。何を企んでいるか分からない相手に、1人で相対するなど何をされるか分かったものではない。

 だが颯人は考えを曲げる気はなかった。人を見る目に関して、颯人は絶対の自信を持っている。その自信が、サンジェルマンは争う気は無いと言う事を教えてくれていた。ならば、ここは相手を迂闊に刺激しない事が第一。颯人は敢えて自分から無防備な姿を可能な限り晒す事で、無用な争いを起こさないようにしていたのだ。
 それに、言ってはあれだが打算もある。ここでサンジェルマンと話し合う事で、もしかすると奏達を亜空間から出してもらえるかもしれない。仮に彼女が亜空間を消してくれなかったとしても、何らかのヒントは引き摺り出そうと考えていた。

「とりあえず……本当に久し振りだな。思い出したよ、アンタと最初に会った時の事」
「覚えててくれたのね。まだ君が子供の頃の事だったのに」
「ついこの間まで忘れてたがね。それで? 俺に話って?」

 物騒な内容ではないだろう事は予想出来たが、その代わり彼女が何を求めているのかが全く分からない。自分と彼女の繫がりは、子供の頃の1回の邂逅だけ。それ以上もそれ以下もない。そんな彼女が、一体何を求めて自分に接触してきたのかが颯人には分からなかった。

 探る様に颯人が問い掛けると、サンジェルマンは気合を入れ直す様に身形を整え直すと一歩彼に近付き右手を差し出した。差し出されたその手の意味が分からず、颯人は手と彼女の顔を交互に見た。
 僅かに警戒を見せた颯人に、サンジェルマンは単刀直入に用件を口にする。その要件は彼にとっても些か予想外のものであった。

「単刀直入に言うわ。明星 颯人君……君を我がパヴァリア光明結社の一員に迎え入れたいの」
「はぁ?」
「どうかしら? 来てくれるのなら、それなりの高待遇を約束するわよ」

 この要件は流石の彼も予想外だった。そもそもの話ウィズとアルドの話から、魔法使いと錬金術師は昔から不仲だったと聞いていた。それなのに生粋の魔法使いである自分を、錬金術師の組織である結社に勧誘する意図が理解できなかった。

 当然颯人はその手を取ることなく、その真意を問い質そうとした。

「どういう意味だ? 確か魔法使いと錬金術師は昔っから仲悪かった筈だぞ? それなのに俺を勧誘? しかも高待遇? それをいきなり信じろってのは難しい話だって、言われなくても分かるよな?」
「そうね……確かにその通りだわ。でも寧ろ安心したわ。一見軽薄そうに見えて、その裏で考えを巡らせる事の出来る思慮深さ。君は間違いなくあの2人の息子ね」

 サンジェルマンの発言に颯人は片眉をピクリと動かすが、それ以上の大きなリアクションは見せず努めて冷静に話しを進めた。

「父さんと母さんの事はどうでもいい。それより、これはお宅らの組織の総意か? それともアンタの独断か? 事と次第によっちゃ、アンタもただでは済まないと思うが?」

 そう問いかければサンジェルマンは何処か言い辛そうに言葉を詰まらせた。その反応だけで颯人は、この話が結社全体の決定ではなくサンジェルマンの独断だと言う事に気付く。彼女は後々罰せられる事を覚悟の上で、颯人を結社に勧誘しようとしているのだ。

「……局長からは許可を得ていないわ。君の言う通り、これは私の独断。でも必要な事だと思ってる」
「どうして?」
「錬金術師と魔法使い……新たな世界を作り出す為には、この両者が過去の因縁を断ち手を取り合うべきだと考えているからよ」

 その為には颯人の存在が必要なのだと、サンジェルマンは静かに、だが力強く説いた。そこに嘘は感じられない。どうやらサンジェルマンは本気で颯人を結社に勧誘しているらしかった。その結果、自分の立場が悪くなろうとも…………

 大きな覚悟をして自分を勧誘しようとしているサンジェルマンの言葉に対し、颯人は直ぐに答えると言う事をしなかった。それは迷っているからではない。答えは彼の中でとっくに決まっているが、ここで即答せずに少し考えているような素振りを見せているのだ。あたかも迷っているかのように見せかける為に。

「仮に、俺がアンタらについて行くとしてだ……何処までだったら俺の要求に応えてくれる?」
「内容によるわね」
「例えば、今この場で奏達を亜空間の外に出してくれと言えば応えてくれるのか?」
「今すぐに、は無理な話ね。出した途端反故にされたら困るもの。ただし殺さない事は約束できるわ。彼女も、君にとっては大切な人みたいだしね」

 颯人が立派に成長していれば、当然奏だって立派に成長している。嘗て見た少女の面影を持つ奏が颯人にとってのアキレス腱である事にはすぐ気付けた。故にサンジェルマンは、彼の要求に対する落とし所を探しつつ答えを返した。
 流石にそう上手くはいかないかと肩を落としつつ、そろそろ十分かと自身の考えを口にした。

「あ、そ。ま、いいや。あぁ、それでどうするかだっけ? 答えは決まってるよ。お断りだ」
「理由を聞いても?」
「聞くまでも無いだろ? アンタらは平然と他人を犠牲にしちまえるような奴らだ。そんな奴らに俺がついて行く訳ないっしょ? んな事に加担して、俺はどの面下げて奏の前に立てばいいんだよ?」
「彼女を守る為だとしても?」
「アンタが思ってるほど奏は弱くない。余計なお世話って奴だよ」
「世界全部が敵になるとしても?」
「上等だ。世界を相手に奇跡を起こして見せるさ」

 颯人の心は揺るがない。サンジェルマンが口にした世界革命と言う言葉が、世界を相手に戦いを吹っかけて世界の在り方を変える事を目的にしていると言うのであれば、それに乗っかる訳にはいかなかった。そんな事をすればどれ程の命が失われるか分かったものではない。どれ程の血を被ることになるか想像もしたくない。
 そしてそんな血まみれの姿を、奏に見せる様な事は絶対にしたくはなかった。

 そんな事をするくらいなら、颯人は茨の道であっても彼女を相手に胸を張れる生き方をしたかった。今の世界が続いた末に世界が奏を害そうとすると言うのであれば、颯人はその世界を舞台にして奇跡を起こす覚悟がある。
 それは希望ではない。誇りであり確信だ。奇跡を起こす男の息子としての誇り、そして受け継いだ技術と知識でそれを為せると言う確信が彼にはあった。

 事ここに居たり、サンジェルマンは颯人の説得が不可能である事を悟らざるを得なかった。自分がそうであるように、彼もまた強い信念を持っている。それは余人の言葉で簡単に動かせるものではない。
 サンジェルマンは心底残念そうに息を吐いた。

「ふぅ……そう、残念ね」
「悪いね、折角のお誘いを蹴っちゃって。でも俺、奏と一緒に居られる今で十分満足してるからさ」
「いえ、いいわ。今回は諦める事にするから」
「今回は……って事は、完全に諦めた訳じゃないって事?」
「そうね。また今度、君が首を縦に振ってくれるような――――」

 これ以上の説得は無理と判断し、この場は引き下がる事を考えたサンジェルマン。決裂に終わった交渉だが穏便に終わりそうだと颯人も肩の力を抜いたその時、突如2人の間に何かが降り立った。

 砂埃を巻き上げながら降り立ったそいつの姿を、日が暮れて光が灯った街灯の明かりが照らし出す。

「何だッ!?」
「エキサイティング……エキサイティングッ! 素晴らしい、世界を相手にしようとも愛する者の為に戦う覚悟を持ったその心! その生き様、素晴らしく美しい!」
「お前は……!?」

 そこに居たのはレギオンファントム。以前サンジェルマンにより強制的に何処かへと飛ばされた奴が、再び颯人の前に姿を現したのだ。

 突然のレギオンファントムの乱入に颯人とサンジェルマンは身構える。対してレギオンファントムは颯人の方を向くと、彼を喝采しながら手には薙刀を持ち近付いていった。

「お前のその美しく気高い心、ぜひ壊してみたい!」
「この変態野郎……やれるもんならやってみな!」
「ッ! 待って! コイツと戦っては……!?」

 レギオンファントムと戦う意思を見せる颯人だったが、サンジェルマンは彼を止めようとした。彼女は知っているのだ。このファントムがどれほど恐ろしい相手であるのかを。故に彼女は颯人を止めようとしたのだが、生憎と今の彼には彼女に対してそこまでの信頼感が無い。

 故に、颯人は彼女の制止を聞かず変身して戦い始めてしまった。

「変身!」
〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉

 颯人が変身する際に出現した魔法陣により、レギオンファントムは弾かれ体勢を崩す。その間に変身を終えた颯人は、まだ奴が怯んでいる隙にウィザーソードガンを手に素早く接近し斬りかかった。

「ハッ!」

 鋭い斬撃がレギオンファントムの表皮を切り裂き火花が散る。その後も颯人は薙刀と言う長い得物を武器とするレギオンファントムを相手に、可能な限りの接近戦で対抗した。あの手の武器は攻撃の威力が乗せ辛い至近距離での戦闘に弱い事を彼はよく理解している。このまま粘り、奏達が亜空間から出てきてくれることを願っていた。

 だが…………

「フンッ!」
「グッ!?」

 レギオンファントムは腕の一振りで颯人の動きを止めると、前蹴りで強制的に彼を引き剥がしてしまった。ワイズマン性質でさえ倒さず封印するのが精一杯だったレギオンファントムは、この程度の攻撃で消耗する程弱い存在ではなかったのだ。

「チィッ!」

 距離を離されたのなら仕方がない。颯人はガンモードに変形させたウィザーソードガンの引き金を引き何発もの銃弾を浴びせたが、レギオンファントムは放たれた銃弾を薙刀で切り払って接近してくる。

 その際、薙刀ハルメギドに魔力が集まっていた。その光景にサンジェルマンは奴が何をしようとしているのかに気付き、それを止めるべく錬金術で攻撃を仕掛けた。

「待って! 止めなさいッ!?」

 錬金術により作り出された無数の光弾がレギオンファントムに向け飛んでいく。さらに離れていた透がメイジに変身して颯人を援護すべくレギオンファントムに立ち向かっていった。

 だがサンジェルマンと透の攻撃は、レギオンファントムの薙刀の一振りにより弾かれてしまった。大きく円を描く様に振り回された薙刀の一撃で、光弾は切り裂かれ透は吹き飛ばされ壁に突っ込んでしまう。
 しかし彼らが僅かに時間を稼いでくれたお陰で、颯人は体勢を立て直す事が出来た。

 そして立ち上がった颯人は、素早くウィザーソードガンをソードモードにするとハンドオーサーを開き左手を添えた。

〈キャモナ! スラッシュ! シェイクハンズ! フレイム、スラッシュストライク! ヒーヒーヒー!〉
「ハァァッ!!」

 至近距離から、透とサンジェルマンの攻撃を凌ぐ為に後ろを振り返ったレギオンファントムに向け放たれる一撃。この距離でこのタイミングでの攻撃はどう足掻いても対処しようがない。防御も回避も不可能と思われる一撃だった。

 だがしかし、レギオンファントムはそれに対処してしまった。奴は後ろを向いたまま、ハルメギドの後ろの刃で颯人の胸を突いたのだ。

「フッ……」
「が、はぁっ?!」
「颯人君ッ!?」

 ハルメギドの石突の部分にはもう一つの刃がある。この刃が、ウィザードの宝石のように輝く鎧を切り裂いたのだ。

 不意を突く筈が逆に不意を突かれて、颯人は動きを止めてしまう。レギオンファントムは悠々と振り返ると、動けない颯人に向けハルメギドの刃を振り下ろした。

「ガハァッ!?」
「あぁっ!?」

 颯人の悲鳴とサンジェルマンの悲鳴が重なる。サンジェルマンの視線の先では、ハルメギドにより切り裂かれた颯人の体に大きな赤い亀裂が走るのが見えた。

「さぁ、お楽しみはこれからだ……!」
「待て、”レン”ッ!?」

 サンジェルマンが手を伸ばしてレギオンファントム……『レン』を制止しようとする。だがレギオンファントムはそれを聞き入れる事無く、そのまま亀裂の中へと入っていってしまった。
 レギオンファントムの姿が消えると亀裂も消え、颯人はその場に力無く倒れ変身も解除される。

 その直後、亜空間を作り出すアルカノイズを倒した奏達が姿を現した。

「え?」

 最初奏は目の前に広がる光景に理解が追い付かなかった。だが颯人が倒れており、その前にサンジェルマンが手を伸ばした状態で佇んでいる姿に、一気に頭に血が上り彼女を颯人から引き離すべくアームドギアを振り下ろした。

「お前ぇぇぇぇッ!!」
「ッ!? 待って、違う!?」

 慌てて誤解を解こうとしたサンジェルマンであったが、彼女の声は届かず奏のアームドギアが迫った。それを彼女はギリギリのところで防ぎ、奏を宥めようと声を掛け続けた。

「待って、待ちなさいッ! 彼が倒れているのは――」
「うるせぇッ!!」
[ MAJESTIC∞METEOR]
「ぐぅっ!?」

 正に聞く耳持たず。サンジェルマンの弁明も説明も聞かず、奏は必殺技で彼女を吹き飛ばした。
 その奏の背後からは、倒れた颯人に駆け寄って容体を診ていた翼からの声が響いた。

「奏ッ!? 颯人さんがッ!!」
「ッ、颯人!」

 焦った様子の翼の声に、奏はサンジェルマンへの追撃を止め颯人に駆け寄った。

 そこでは颯人が、何かに苦しむように胸を抑えて脂汗を流していた。

「ぐぅっ!? が……!? はぁ、はぁ……!? ぐぅ、あぁ……!?」
「颯人さん、しっかりしてください!?」
「司令ッ! 至急、救護班をッ!」
「おい、どうしちまったんだよッ!?」

 一見外傷は無さそうなのに、颯人は絶えず何かに苦しんでいた。まるで体の中で何かが暴れているかのような苦しみ方だ。
 指先が冷えて冷たくなる感覚を感じながら、奏は何がどうして颯人がこうなったのかをサンジェルマンに問い質した。

「おい答えろ!? 颯人に何があった? どうして颯人は苦しんでるんだ!?」

「それに関して、サンジェルマンは何の関係も無いワケダ」

 奏の問いに答えたのはサンジェルマンではなくプレラーティだった。彼女はサンジェルマンに掴み掛らんとしていた奏の前に降り立つと、錬金術で牽制しながら簡単に事の顛末を話した。

「今その小僧の中にはファントムが入り込んでいる。放っておけば、ただでは済まないだろう」
「なッ!?」
「別に私はその小僧がどうなろうと知った事では無いワケダが、まぁサンジェルマンが気に掛けているからな。助けたいのならさっさとする事なワケダ。早くしないと手遅れになる」

 話しながらプレラーティは転移結晶を取り出した。自分共々この場を離れようとしている事に、サンジェルマンは彼女を引き留め出来る限り颯人の手助けをしようと言いだした。

「待ってプレラーティ! 彼をこのまま放っておく訳には……」
「それは出来ない相談だ。これ以上はきっと局長も黙っていないワケダ」
「でも……」
「私はサンジェルマンほどあの小僧に入れ込んではいない。だからこの場はサンジェルマンの安全の方を優先させてもらう。嫌とは言わせ無いワケダ」

 そう言うとプレラーティは問答無用で転移結晶を起動させ、サンジェルマン共々その場から姿を消した。

 姿を消す直前、奏は確かにサンジェルマンが申し訳なさそうに頭を下げるのを見た。その事に多少頭が冷えたが、ともあれ今優先すべきは颯人の容態であった。

「颯人! 大丈夫か、しっかりしろ!」
「ぐぅぅ……!? コイ、ツ……俺の中で、暴れて……!?」

 胸の中を掻き毟られる様な苦痛に、意識を失う事も出来ずに苦しむ颯人。そこにウィズとガルド、そして回復した透が駆け寄ってきた。

「颯人!?」
「ハヤト、どうした!?」
「ウィズ! 颯人の中にファントムが入ったって……!」

 奏の言葉にウィズの仮面の奥から絞り出すような唸り声が上がった。

「マズイな……クソッ! ワイズマンの奴、何故奴を解き放ったのだ!」

 文句を垂れながらウィズが颯人の右中指に指輪を嵌めさせる。そしてその手を自分のハンドオーサーに翳させた。

〈エンゲージ、ナーウ〉
「コイツは私達で何とかする。ガルド、行くぞ」
「分かった!」
〈エンゲージ、プリーズ〉

 魔法を発動させると、颯人の上に魔法陣が浮かび上がる。ウィズとガルドがそれに飛び込むと、魔法陣は何事も無かったかのように消えた。

 その光景を見て、透は一度クリスに目を向けた。透からの視線を感じ、一瞬そちらを見たクリスだったが直ぐに顔を逸らしてしまった。
 自分から顔を逸らしたクリスに透は肩を落としつつ、自分も颯人を助けるべく彼の手を取りハンドオーサーに手を翳した。

〈エンゲージ、ナーウ〉

 2人に続き、透も魔法陣の中へと飛び込んだ。それを見送った奏は、颯人の苦しみを少しでも和らげようとしているかのように彼の手を握りしめる。

「颯人……」

 心配そうに呟く奏の声。それをかき消す様に、周囲には颯人の苦しむ声が響き渡っていた。 
 

 
後書き
と言う訳で第158話でした。

サンジェルマンにはサンジェルマンなりに色々と思うところがあって颯人を勧誘したかったのですが、やってる事がやってる事だったので断られた感じです。周りからも理解を得られないままに行動に移した、そこまでする理由に関してはまたおいおい明らかにしていきます。

そして前回颯人が倒れていた原因はレギオンファントムにありました。ちょうどレギオンファントムが入って颯人が倒れたところで奏が出てきてしまったので、どう足掻いても勘違いせざるを得ない状況になってしまった訳です。
因みに本作のレギオンファントムは本名をレンと言います。これは特に捻っている訳では無く、原作のレギオンの本名が内藤→ないとう→ナイトウ→ナイト→仮面ライダーナイト→レンと言う感じでこじつけた結果こうなりました。
サンジェルマン達と昔から知り合いなのに内藤と言う名前なのも違和感があったので。

次回は本作初のアンダーワールドでの戦いとなります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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