イベリス
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第百四話 八月の終わりその三
「お父さんってね」
「お蕎麦好きでしょ」
「ざるそばも好きだし」
「立ち食いでもよ」
こういった店でもというのだ。
「お蕎麦がね」
「好きなのね」
「やっぱり江戸っ子って言ってるから」
それ故にというのだ。
「お蕎麦はね」
「好きなのね」
「それでこだわりもね」
「あるのね」
「ざるそば食べる時はね」
この時はというと。
「噛まないでね」
「喉越しを味わって食べるの」
「それが江戸っ子の食べ方って言ってね」
それでというのだ。
「そうして食べるのよ」
「お蕎麦は噛まないのね」
「それで温かい汁そばの時も」
これを食べる時の話もした。
「勢いよくね」
「食べるのね」
「これは歌舞伎でね」
こちらの作品でというのだ。
「そうして食べる役があってね」
「お父さんその作品みたいになの」
「そう、温かいお蕎麦はね」
こちらはというと。
「勢いよくね」
「食べるの」
「そうしてるのよ」
「江戸っ子のこだわりね」
「そうなのよ、まあ噛んだ方がね」
「消化にいいわよ」
「だからお母さんとしては」
母は自分の考えも話した。
「お蕎麦もね」
「噛んで食べるべきよね」
「あれは元々こっちのおつゆは辛くて」
江戸今で言う東京のそれはとだ、母は素麺を噛んで口の中で飲みながら話した。
「噛むとね」
「よくなかったの」
「だからね」
「噛まずに飲み込んで」
「喉越しを味わっていたのよ」
そうだったというのだ。
「これがね」
「そうした理由があったのね」
「こっちのおつゆはおろし大根のお汁にお醤油かけたものでしょ」
「元々はそうだったのね」
「お醤油も辛いし」
「あっちの人やたら東京のおつゆ辛いって言うのよね」
「黒くてね」
関西人の間では伝説になっていることの一つだ。
「そう言うのよね」
「それはお醤油が辛くて」
そしてというのだ。
「だし自体もね」
「辛いのね」
「特にざるそばのおつゆは」
こちらはというのだ。
「元々ね」
「おろし大根のお汁にお醤油ね」
「そうしたものだったから」
だからだというのだ。
「飲み込んでいたし温かい方のお蕎麦も」
「おつゆ辛いのよね」
「昆布とか使ってないから」
このこともあってというのだ。
「そうなのよ」
「成程ね」
「それでお父さんもね」
「あの食べ方なのね」
「そうなのよ」
まさにというのだ。
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