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犬にとってのヒーロー

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第二章

「あなたがよ」
「ふわりにとってヒーローだからか」
「それでなのよ」
「成程な、俺は別にな」
 ここでも自分が思っていることを言うのだった。
「凄いことはな」
「していないわね」
「あんなこと当然だろ」
 ふわりを助けたことはというのだ。
「本当にな」
「当然のことね」
「放っておけるか」
 絶対に、そうした言葉だった。
「捨てられてるのにな」
「それでだったわね」
「もうな、あの時はな」 
 それこそというのだ。
「すっ飛んでいったんだよ」
「保健所に」
「ふわりを助ける為にな」
「それが当然のことね」
「そうだよ」
 言葉にも当然といったものが出ていた。
「ああしたことはな」
「そう言えるのが余計によ」 
 妻はその夫に笑顔で話した。
「ヒーローなのよ」
「柄じゃないな」
「けれどふわりから見たらね」 
「俺はヒーローか」
「自分を助けてくれたね」
「だから一番懐いてるんだな」
「そういうことよ」
 こう言うのだった。
「ふわりからしたらね」
「そうか」
「ええ、それでもうね」
 妻は夫にあらためて言った。
「お散歩の時間よ」
「ああ、そうか」
 文太はここでも素っ気なく応えた。
「もう時間か」
「だからね」
 それでというのだ。
「行きましょう、今から」
「そうだな、ふわり行くぞ」 
 文太は妻の言葉を受けてふわりに声をかけた、今度の声は暖かく実に優しくかつ穏やかなものだった。
「散歩にな」
「ワンッ」
 ふわりは彼の言葉を聞くとすぐに嬉しそうな声をあげた、そして彼の前に来て目をキラキラとさせて座ってだった。
 尻尾を振りながら首輪にリードを付けられた、そのうえで彼と百合子と共に散歩に出たのであった。


犬にとってのヒーロー   完


                  2023・6・24 
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