兄は絶世の美女
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第一章
兄は絶世の美女
大学生の大阪妙子の兄勇気は非常に顔立ちが整っている、細面で色白で肌はきめ細かく二重の流麗な切れ長の目と細い見事な形の眉に高い鼻と奇麗な唇を持っている。歯は白く一八〇程の身体はモデルの様にすらりとしている。黒髪は短くしている。
仕事は役者であり舞台によく出ている、そんな兄を見て妙子はよく言っていた。
「妬けるわ」
「妬けるって何がだよ」
「お兄ちゃんが美形過ぎてよ」
「芸能界もっと奇麗な人幾らでもいるぞ」
兄はこう妹に返した。
「僕なんてな」
「私が知る限り一番よ」
兄の中性的な声を聞きつつ言った。妙子自身も色白で肌はきめ細かい。兄譲りの眉で大きなはっきりした目と唇で長い黒髪をストレートにしている。背は一五七位でありスタイルはまあ普通といったところだ。
「お兄ちゃんは」
「それは言い過ぎだろ」
「言い過ぎじゃないわよ、ネットでもイケメンで有名よ」
役者の中でもというのだ。
「だからテレビドラマにも出てるじゃない」
「ゲストのモブでね」
「それでも評判になってる位だから」
「そうなんだ」
「そうよ、それで今度の舞台招待されてるけれど」
その兄にだ。
「助六ね」
「僕お兄さんの役やるから」
「曾我兄弟の」
「あの作品実はそうだから」
歌舞伎でもあまりにも有名なこの作品は実は曾我兄弟ものであるのだ、即ち敵討ちの物語の一つである。
「それでね」
「お兄さんの役ね」
「それで出るから」
「わかったわ、じゃあね」
「楽しみにしておいてね」
「彼氏と一緒に行くから」
こう兄に応えた、そしてだった。
実際にその舞台に彼氏と共に行った、だが。
劇場に来てだ、妙子はその話を聞いて驚いた。
「えっ、配役変わってるわ」
「お兄さんはお兄さんの役じゃなくなって」
彼氏の兵庫助蔵も言ってきた、尖った口で波だった感じの目に細い眉で黒髪を短くしている。背は一七二位で中肉である。妙子と同じ大学で落語研究会に所属している。
「揚巻になってるね」
「それで揚巻の人がね」
「お兄さんの役になってるね」
「今回の舞台出るのは男の人だけで」
そうしたものでというのだ。
「それでね」
「お兄さんがイケメンだから」
「そうでしょうね、実際ね」
「お兄さん凄いよね」
「イケメン過ぎて」
それでというのだ。
「妹の私もよ」
「妬ける位って言ってるね」
「だから揚巻ね」
助六のヒロイン役である、歌舞伎のキャラクターの中でも特に美人だとされている役の一つである。
「そっちになったのね」
「そうなんだ」
「ええ、じゃあ今からね」
「舞台観ようね」
「そうしましょう」
彼氏の兵庫にこう言ってだった。
そのうえで舞台を観ることにした、そして舞台がはじまり。
揚巻が出るとだ、舞台を観ていた誰もが息を呑んだ。
「なっ、凄いな」
「凄い美人だぞ」
「揚巻は奇麗な役でも」
「この揚巻は絶品だな」
「玉三郎さんにも負けていないぞ」
「ああ、凄い奇麗さだ」
誰もが驚いた、それは妙子も同じで。
揚巻姿の兄に唖然となった、そこにいるのは紛れもなく絶世の美女であり。
息を呑んだ、その彼女に隣にいる兵庫が言ってきた。
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