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ペーパーシャッフル② 〜雲達の宴〜
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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
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今回はなんと……18,000字超え!?
まぁ、少し投稿遅れたので長い方がいいよね!?
そして、今回は18,000字超えなのに主人公が一度も登場しません!
ペーパーシャッフル② 〜雲達の宴〜
—— パレット。綾小路side ——
放課後のパレットに、俺・堀北・櫛田・平田・軽井沢・須藤の6人が集まった。
「それじゃあ、作戦会議を始めましょうか」
「まずは小テストの対策からだね」
堀北が進行役を買って出て、平田がそのサポートをする形で作戦会議が始まった。
最初の議題は小テストについてだ。さぁ、堀北はどう攻略するだろうか。
「小テストについては、対策で勉強会を開く必要はないわね。中間テストも終わったばかりだし、小テストまでは休憩期間としましょう」
「……そうだね。僕も小テストに向けて勉強する必要はないと思うよ。でも、何もしないわけにはいかないよね」
「ええ。もちろんよ」
堀北と平田はお互いに同じ考えがあるらしく、2人の中ではスムーズに話が進んでいる。
だが、他のメンバーも同様に理解できるわけではない。
「洋介君、どういう事?」
「小テストがの学力を測る為でないなら、意味することは一つしかない。小テストの結果が期末試験でのペア選定に影響を与えてくる。だからその対策はしないといけない。そういう事だよね、堀北さん」
「ええ。その通りよ」
「でもさ、小テストの結果でどうペアを組むわけ?」
軽井沢は理解できない事にはどんどんと質問をするが、須藤は険しい顔をするだけで口は開かない。
「……須藤、理解できてるか?」
「……全然」
分からないから開き直っているようだ。1人ついてこれていないが、そんなことはお構いなしで堀北達の話は進行する。
「船上試験でもそうだったけど、この学校は基本的に全体のバランスが良くなるようにチームを組ませてくるわ。だからきっと、今回のペアにおいては成績の良い生徒を悪い生徒と組ませる事で平均点が同じになるようにしてくるはずよ」
「なるほど〜! クラスの全ペアが同じくらいの平均点になるようにしてくるんだね!」
「そういうことね」
櫛田はニコニコしながら堀北の発言に頷いている。全く見事な演技力だな。
「だから、私達が取るべき対策は1つ。確実に成績の良い者と悪い者とで組ませることよ」
「でも、その方法はあるのかい?」
「ええ。まずはDクラスを成績順にハイスコア・ミドルハイスコア・ミドルロースコア・ロースコアの4つのブロックに分ける。そして、ロースコアの生徒にはテストを白紙で出してもらい、ハイスコアには80点以上を目指してもらうわ」
「そっか! それならロースコアの人は確実にハイスコアの人と組めるんだ!」
堀北の提案に軽井沢が目を輝かせる。堀北は自分の作戦に自信もあるようだし、今は俺のサポートもいらなさそうだ。
「ミドルの2ブロックはどうするんだい?」
「そちらも確実にミドル同士で組めるように、ミドルローには答えの分かる問題を1問だけ解いてもらい、ミドルハイには答えの分かる問題だけを 50点を超える程度に解いてもらいましょう」
「うん。それなら事故も減らせそうだね」
つまり、ハイスコアとロースコアをペアを組ませ、ミドルはミドル同士で確実にペアになれるように回答を調整するという事だな。
「これが小テストに対しての私の作戦よ。何か反論はある?」
堀北がそう聞くも、誰も反論する者はいない。
もちろん俺もだ。小テストに対してはこの作戦で問題ない。
「では、次に対戦を希望する相手を選びましょうか。最初に言わせてもらうけど、私の答えはCクラス一択よ」
「理由は?」
平田が堀北がCクラスを選ぶ理由を聞くと、堀北は簡潔に答える。
「簡単な話よ。総合的な学力の問題で、今のDクラスではAクラスとBクラスに学力で劣っているから。でもCクラスならそこまでの開きは無いと思うわ」
今までのテストによるポイント変動率を踏まえると、確かに学力的にはCとDは大差ないだろうな。
そして、堀北の考えを聞いて平田達は納得したようだ。
「賛成だよ堀北さん」
「まぁ、AとB相手に学力勝負なんて無謀よね」
「うんっ! 私も賛成だよっ♪」
「俺もやるならCクラス一択だと思ってたぜ!」
堀北と同じ考えだとアピールするチャンスだと思ったのか、須藤は堀北にアピールするように自分の意見を高らかに宣言した。
「……綾小路君は?」
「……俺も文句はない」
「そう。じゃあ、希望する対戦相手はCクラスという事でいいかしら」
「うん」
「ええ」
「は〜いっ♪」
「……ああ」
全員が返事をすると、堀北は安堵のため息を吐いた。
(なんだ? 少し自信がなかったのか?)
「……じゃあ明日。ホームルームの時間を借りて、クラスでもこの作戦を共有しましょう」
「うん。そうだね」
「おし! じゃあ作戦会議はもう終了だな?」
「そうね。須藤君と平田君は部活の時間だし、今日はもう解散しましょうか」
ふと時計を見てみると、時刻はもうすぐ17時半になる頃だった。
「じゃあまた明日」
「ええ」
解散になり、部活組の平田と須藤は駆け足で部活に向かっていく。そして、軽井沢も誰かに電話をかけながらパレットから出て行った。
これで残ったのは俺と堀北と櫛田の3名だ。そしてなぜか、櫛田は席を立とうとしない。これから櫛田と話をするつもりだったからありがたいのだが……なんともきな臭い雰囲気だ。
動かない櫛田に警戒心を抱いているのか、堀北も話しかけようとしない。
そんな膠着した場を動かしたのは、櫛田だった。
「……ねぇ、2人とも」
『!』
「今から教室に戻らない? 話したい事があるんだぁ〜、……2人もそうだよね?」
そう言う櫛田はいつも通りの笑顔だが、貼り付けた笑顔である事は間違いなさそうだ。
「ええ。その通りよ」
「うふふ♪ じゃあ行こっか?」
「……そうね」
席を立ち歩き出す櫛田に、俺達はただ黙ってついて行ったのだった。
—— Dクラス教室 ——
教室に入ると、櫛田はニコニコしながら話始めた。
その瞬間。俺はポケットに手を入れて、学生証端末の画面に触れる。
「ねぇねぇ2人とも! 私と1つ賭けをしない?」
『!』
……その台詞は、本来堀北がお前に言う予定だった台詞なんだが?
「……賭け?」
「そう! どうせ君達も私に賭けを持ちかけるつもりだったんでしょう?」
「! 何でその事を……」
「ふふふ♪ 何でだろうねぇ? 私と堀北さんは似たような人間だから……かな?」
櫛田と堀北が似てる?
むしろ正反対だと思うんだが……
「……賭けの内容は?」
「期末試験の8教科の内、どれか1教科の点数勝負だよ!」
『!』
驚いた。まさか賭けの内容まで一緒だったとは……
「うふふ、もしかして賭けの内容まで同じだったりぃ?」
「……そうよ」
「あはっ♪ やっぱり〜! 私達は似たような人間なんだねぇ〜。あはは♪……はぁ」
『……』
そう言って笑っていた櫛田だが、唐突に笑うのを止めて真顔になった。
「……人間性が似ているから、何となく考えてる事も似てくる。でも……だからこそ私は」
『……』
「……あなたの事が、だ〜いっ嫌い♡」
『!』
「あはははっ♪」
また急にいつもの調子で笑い出す櫛田。
感情がまるでジェットコースターの様に目まぐるしく変化していく。
「同族嫌悪っていうの? 自分の周りに自分と同じような奴がいてほしくないんだよねぇ。しかも私の大事な人のそばにいられちゃったら、我慢なんてできないよぉ〜♪」
「……同族、嫌悪?」
堀北は櫛田が何を言っているのか理解できないのか、冷や汗を流していた。
「そうそう! あ、でも性格が似てるわけじゃないんだよ? なんというか〜自分の芯みたいな根本的な部分が似てるんだよね〜」
「……どこが似てるって言うの?」
「うふふふ♪」
——ガララっ。
櫛田は笑いながら教室の窓を開けて、そこから空を見上げた。
「私ね? 自分を人間じゃないものに例えるとしたら、雲だなぁって思うんだよね♪」
「……雲?」
「そう、お空に浮かんでる雲ね。それも1つの雲って言うより、雲という概念そのものって感じ?」
そう言うと、櫛田は空に浮かんだ雲を指さした。
「曇ってさ、この世界のどこかの空には必ず浮かんでるでしょ? 東京は快晴でも他の県では曇りなんて事も普通にあるし♪」
「……ええ」
「それに、雨や雪、雷なんかの天候は雲から発生するよね」
「……ああ」
櫛田の言葉の意味を掴めないが、俺達はとりあえず頷いておいた。
「そういうとこ、私も同じだと思うんだ♪ 空を私のいる環境とするなら、私は自分のいる環境では多かれ少なかれいつも誰かの頭の上に浮かんでいる。そして、たまに悲しみの雨や癒しの雨、衝撃の強い雷をその場所やそこにいる人達に降らせちゃうの♪」
……雲は空に浮かんでいるから、当然常に人間の頭上に浮かんでいる。そして雨や雷で人間の生活に影響を与えてくる。
……クラス内で人気者として君臨している自分は、クラスメイトよりも上の立場とでも言いたいのか?
「……皆から信頼されているお前は、空における雲のように自分の下にあるものに影響を与えて操れる。……とでもいいたいのか?」
「そうそう! そう言う事!」
手をパチパチと叩いて正解である事をアピールする櫛田。
そんな櫛田に、堀北は複雑そうな表情で問いかける。
「……それは傲慢じゃないかしら。あなた1人の力でクラスをどうとでも出来ると言っているのと同じよ?」
「そうだよ?」
「なっ!?」
……こいつ、本気で言っているのか?
「今更何を驚いているの? 実際に昔、私は自分1人でクラスを変えちゃったもん。その事はあなたも良く知っているでしょ?」
「! やっぱり、あの事件もあなたが起こしたの?」
「そうだよ? てか知ってると思ってたのに、詳しい内容までは知らなかったんだね?」
「……事件の事は、櫛田さんのクラスで起きたことくらいしか知らなかったわ」
櫛田と堀北は何かの『事件』について話しているが、その事件を知らない俺は何も理解できない。
「……堀北。事件って何のことだ?」
俺も思わず口を挟んでしまったが、ここは聞いておかないと困りそうだ。
「……櫛田さん。話してもいいかしら?」
「綾小路君は私の本性を知っているからね。いいよ〜」
堀北は櫛田に確認を取ると、〝事件〟についての説明を始めた。
「私と櫛田さんが同じ中学出身だった事はこの前話したわよね?」
「ああ」
確か、他県にある特殊なマンモス高校とのことだったな。
「私達の学年が卒業を間近に控えた2月のある日、1つのクラスが集団で欠席する出来事があったの」
「集団欠席?」
「ええ。それも感染症の流行とかではなく、ある女子生徒が引き金となって、クラスが崩壊するほどの事件が起きた事が原因だという噂が流れていたわ。そして、そのクラスは卒業するまでの間に全員が復帰することはなかった。事件当時のそのクラスの教室はめちゃくちゃに荒れていて、至る所にクラスメイト同士の誹謗中傷の応酬が落書きされていたらしいわ」
中学の卒業間近、1つのクラスが学級崩壊を起こしたわけか。そしてそのクラスの使っていた教室はめちゃくちゃで、至る所にクラスメイト同士の罵り合いの落書きがあったと。
……ある女子生徒っていうのは考えるまでもないよな。
「……つまり学級崩壊があったってことだよな」
「そうね」
「で、その原因となったのが櫛田だと言うことか?」
堀北から櫛田に視線を移すと、櫛田は笑顔のまま頷いた。
「うん! その通りです♪」
「……櫛田さんがそのクラスにいた事は知っていたけど、まさか学級崩壊を起こした張本人だとは知らなかったわ」
「えへへ♪ 学校が情報統制を徹底していたからね〜」
なるほどな。情報統制がしかれていたなら同級生である堀北が真相を知らなくとも仕方がないか。
「……だが、そうなると気になるのは学級崩壊した理由だよな」
「……そうね。一体どうやったら1人でクラスを崩壊させられるの?」
個人でクラスを崩壊させて学級崩壊を起こすなら、見境ない暴力が一番手取り早いだろう。
だが、櫛田にそれが出来るとは思えない。
「……櫛田」
「ん? 何?」
「中学の学級崩壊。それがどうして起きたのかを教えてくれないか?」
「ええ? 知りたいの?」
「知りたい。それがお前を理解する上で必要不可欠だと思う」
「! ふふふ、私の事を理解してどうするつもりなの?」
「堀北が勝った後、お前とは仲良くしないといけないからな。沢田はお前を切ろうとはしないだろうし」
「へぇ〜。自分達が勝つ事を確信しているみたいだね?」
「まあな」
「……ちっ」
俺の挑発を受けた櫛田は、少し本性が出始めたのか小さく舌打ちをした。そして、また笑顔になると俺の質問に答え始めた。
「うふふ♪ まあいいや! どうせ君達は退学になるし、冥土の土産に教えてあげるっ♪」
笑顔のまま、櫛田は語り始める……
—— 櫛田桔梗の独白 ——
あの事件の事を話す前に、私って人間の事を話さないといけないかな。
綾小路君はさ、他人にはない自分だけの価値を感じる瞬間ってない?
テストで1番を取ったり、運動会のかけっこで1番を取った時、皆が注目してくれるよね。
「凄い」
「格好いい」
「可愛い」
そんな視線を浴びる瞬間って最高だと思うんだぁ。
『承認欲求』……って言えばいいかな?
私は多分、それが人よりもずっと強くて依存してるんだと思う。
自己アピールをしたくて仕方がないし、目立ちたくて仕方がないし、褒められたくて仕方がないの♪
それが叶った瞬間に、私は自分の価値を実感するし、生きてるって感じれる!
……けど、私は私の限界を知ってる。
小学校までは問題なかったのに、中学に上がった途端に上には上があるって事を理解させられた。
もうどれだけ頑張っても、勉強やスポーツでは1番にはなれなくなったの。
1番じゃなきゃ私の欲求を満たすことが出来ないのにね。
……だから私、考えたんだ。
誰にも真似できないことをしようって。誰よりも優しく、誰よりも親身になれば、その場所では1番になれるって気づいたの!
勉強を見てやって! 手伝ってあげて! 慰めてあげて!
……そのお陰で私は人気者になれた。
男の子にも女の子にも好かれた1番の人気者にねっ♪
その時に、頼りにされたり信頼されることの快感を覚えたの。
あぁ〜、気持ちよかったなぁ〜♪
……でもね? やりたくもないことをやり続けるっていうのは、すごい苦痛を伴うんだよ。
毎日ハゲちゃうんじゃないかってくらいストレスを溜め込んでた。
自分の髪の毛を毟ったり、洗面台で吐いたりしたこともある。
だけど……人気を維持するためには、皆の好きな櫛田桔梗で居続けないといけない。
私は耐えて、耐えて耐えて……耐え続けた。
だけど、結局心は限界を迎えた。溜め込み続けることは不可能だったんだよ。
ほら、さっきも言ったけど、私は雲のような人間だからさ。
雷雲や雨雲がずっと雨や雷をため込んでいられないように、私も限界を超えちゃったんだ。
そんな時に見つけたの。私のストレスを吐き出させてくれる場所をね。
どこかって?……インターネット上のブログだよ。
誰にも言えないため込んだストレスを全部吐き出せるのは、そこしかなかった。
全て匿名で書き込んでいるけど、ありのままの事実を書き綴り続けた。
そしたらね、スッと溜飲が下がって行ったんだ。
……だけどある日、私の人気者生活はいきなり終わりを迎えたの。
私が書いていたブログをクラスメイトが偶然見つけてしまってさ。
幾ら名前を伏せてても、書いてる内容が事実だから気づかれても無理ないよね。
翌日にはクラスメイト全員にブログの内容が拡散されていて、全員が私を責め立てたよ。
今まで散々私に助けられてきたのに、全部手のひら返しして。
……皆、身勝手だよね。
私のことを好きだと言ってた男の子に肩を突き飛ばされたし、彼氏に振られた時に慰めてあげた子は私の机を蹴り飛ばして来た。
まぁ男の子は気持ち悪いから死んでほしいと思ってたし?
告白に失敗した女子なんて、顔を見れば失敗した理由は一目瞭然だったけどw
とにかく私は身の危険を感じた。30人以上いるクラスメイトが全部敵に回っちゃったからね。
——だから私、〝武器〟を使ったの。
当時のクラス内では、私は皆の人気者だったからさ。全員の心の中に私がいたはずだよ。
つまりそれは、クラスメイトの頭上に私と言う雲が浮かんでいるようなものだよね。クラス内に私という雲が密集しているわけだよ。
空ではさ、雲が密集したら曇り空になるでしょ?
だから、あの時の私のクラスは曇り空に包まれているようなものだったんだよ。
曇り空には雨や雷が蓄積されているよね。それと同じく私にも、ストレスの代償に集めたクラスメイト達の秘密が蓄積されていたんだよ。
人間って本当に信頼した相手には秘密を共有したくなるものなのかも。
つまりね、私の武器はクラスメイト達の抱えた黒〜い秘密♡
私はそれを全部ぶちまけた。
大雨を降らせたり大きい雷を落とすように、クラスメイト達に全部ばらした。
するとね? 私に向けられていた悪意が、私以外だけに向けられるようになったんだよ!
男子は殴り合いを始めたり、女子も髪を引っ張ったり張り倒したりで教室の中はもう大騒ぎ♪
クラスの人間関係の内情を全部暴露したから、結局そのクラスはもう機能しなくなっちゃった。
私も当然学校に責められたけど、やったのは匿名でブログに悪口を書いただだし、この学校への入学も決まっていたからさ。
学校は利益を優先して事実を公表せずに隠す事にしたわけ。
そして、私は卒業まで保健室登校をする事になった。
……以上が事件の真相だよっ♪
—— 綾小路side ——
『……』
俺と堀北は櫛田の話に愕然としていた。
「仕方ないよねぇ。皆が私を裏切ってきたんだもん」
「……そこまでして、人気者でありたいの?」
「私の生きがいだもの! 皆から尊敬され、注目されることが何より好き! 私だけに打ち明けてくれる秘密を知った時、想像を超えた何かが自分に押し寄せてくるんだよ♪」
そう言う櫛田の顔は悦に入ったような妖艶な表情になっている。
そんな櫛田に今度は俺が声をかけた。
「……Dクラスでも同じ事をやっているのか?」
「もちろん! あ。中学の時とは違って、まだDクラスの仲間のことは詳しく知らないよ。だけど数人を破滅させるだけの真実はもう握ってる」
なるほど。すでに櫛田はDクラスにも曇り空を作り出しているということか。
……だが、Dクラスには沢田がいる。
沢田なら櫛田の武器を無効化してしまうんじゃないか、とかは考えないのか?
それに、あの時の沢田の名前を連呼する櫛田の表情。あれには恋愛感情以外の何かを確かに感じた。きっとそれにも、今聞いた櫛田桔梗の人間性が関係していると思う。
……せっかくだ。櫛田の本心を曝け出させるとするか。
「……櫛田」
「ん? まだ何か?」
「ああ。まだ分からない事がある」
「……何かなぁ?」
「お前の沢田への執着だ。さっきの話では、お前は他人に依存するような奴ではないだろう。なのにどうして、沢田のパートナーになりたがるんだ?」
「……」
櫛田は少し考え込むと、再び笑顔になって口を開いた。
「うん♪ ここまで来たら、教えちゃってもいいかな? それでツナ君から離れてくれるかもしれないし♪」
「それはないが……まぁ聞かせてくれ」
「……」
そして、櫛田は再び話し始める。
—— 櫛田桔梗の独白② ——
ツナ君に執着するきっかけは……あの事件の後にあるかな。
保健室登校していたある日、他クラスの男子が私を訪ねてきたの。
「よぉ。一緒に帰ろうぜ!」
とか声をかけてきたんだ。
その男子はサッカー部のエースストライカーで、サッカーの名門校に推薦入学が決まっているような子でね。学年一モテてた男子だったと思う。
「……うん」
素の私なら絶対に断ってたと思うんだけど、その時の私は人気者でなくなったショックで落ち込んでいてね。私の事をほめてくれそうだったから一緒に帰る事にしたんだ。
帰り道はたわいもない話をしながら歩いた。
正直自慢ばっかでうざかったけど、少しでも承認欲求を満たしたくて我慢してたの。
でね? 先にその男子の家に着いたんだけど、上がっていけって言うんだよ。
あんまり仲良くもなかった女の子を家に上げようとする時点で下心見え見えだったけど、やっぱり承認欲求を少しでも満たしたくて上がる事にしたんだ。
……もしもの為に鞄に仕込んでいた、ボイスレコーダーのスイッチを入れてからね♪
そして予想通り、その男子は私の事を押し倒してきたよ。
「お前の影口言う奴らから俺が守ってやる。だから俺の女になれ」
……とか言ってたっけ。
ふふふ、本当に最低だよね〜w
結局こいつもクラスメイト達と同じで、私の事を裏切ったんだよ。
だから私、その男子の事を破滅させる事に決めたの。
抵抗しないフリをして、胸を触ってくるのを少しだけ我慢した。
そして私の服に指紋がべったり着いたところで、その男子を突き飛ばしてそのまま家を飛び出した。
しばらく走ってからボイスレコーダーで録音した音声を確認すると、男子が私を襲っているって証明するには十分な証拠が取れてた。
だから、私は次の日に学校に報告したの。
「あいつに襲われました。証拠の音声があります。制服の胸の部分にあいつの指紋がべったりついているはずです!」
……ってね。
でも、学校はあの男子に何も罰を与えてくれなかった。
証拠不十分で本人に軽く注意するくらいしかしなかったんだ。
あいつもサッカーでの推薦が決まってたし、学校からしたらそんな生徒を罰したくないのかもね。
そしてね。注意を受けたその男子は、私に文句を言いに保健室に怒鳴り込んできたんだ。
「何チクってんだ! このクソ女! せっかく抱いてやろうとしたのによぉ」
って言われたからさ。私はあいつを許せなくって、その言葉も録音してあるボイスレコーダーを持って、帰りに警察に相談に行ってきたよ。
普段から学校以外でもいい子でいたからさ、警察の人も私の泣きの演技で激怒してくれたんだ。
……で、結局あいつは強姦未遂で逮捕。
推薦はもちろん取り消しだし、そのまま少年院にぶち込まれちゃった♪
あはははっw でも仕方ないよねぇ。
あいつの場合は本当に強姦未遂をしたんだし、捕まって当然のクズだもん♪
……でもね。あいつが捕まった後、ふと思ったんだ。
私、こんな感じでも誰かと恋に落ちたりできるのかなぁ……ってね。
だからその時、私にとっての理想を考えてみたの。
私は自分が1番でいないと気が済まない。
だけどもし彼氏ができるなら、彼氏も相当な人気者でないと嫌。
欲を言えば私の全てを受け入れて、他の奴らから守ってくれる人がいい。
……まぁそんな男見つからないし?
どうせ無理だから諦めようかなって思ったんだけどさ。
よくよく考えてみたら、私の周りでは普通にカップルが出来てるじゃない?
しかも私よりブスな子達がだよ?
……そんなのプライドが許さないよ。
だから私決めたの。高校で運命の相手、騎士様を探そうって!
—— 綾小路side ——
強姦未遂のサッカー部の男子の話を聞いて分かった。
俺と沢田が櫛田の本性を知った時に、櫛田が俺の手を自分の胸に当てがったのは、成功した前例があったからなんだな。
これを学校や警察に持っていけば絶対に俺を破滅させられると。
「……それで、見つけた相手が沢田なのか」
「うん♪ さっきも言ったけど、私の騎士様は人気者であり、私の全てを受け入れてくれる人じゃないとダメ」
「……確かに沢田はそれに当てはまってるな」
「うふふ♪ いやいや、ツナ君はそれを超える存在だよ」
ここで、今まで黙っていた堀北が再び口を開いた。
「……あなたは綱吉君が好きなの?」
「何その質問w 好きに決まってるじゃん。あ、でも今はもう愛してると言った方が正しいかな?」
「あ、愛してる?」
「そう! ツナ君以上の人なんてこの先一生現れない、そう私の女の勘が叫んでるからね♪」
櫛田の回答に堀北は困惑し続けている。愛してるなんてそう簡単に言えるセリフではないしな。
「……お前は沢田のどこに、そこまで惹かれているんだ?」
「ええ? だいたい分かるでしょう?」
「お前の口から聞きたい」
「……ふ〜ん、まぁいいけど」
—— 櫛田桔梗の独白③ ——
ツナ君ってさ、すっごく心が広いし優しいじゃない?
さっきも言ったけど、私が求めているのは〝私の全てを受け入れて包み込んでくれる人〟だから。
……なんて言うのかなぁ。私が雲だからさ?
雲を包み込んでくれるのって大空くらいしかないと思うの。
ほら、大空って雨や雷、台風みたいな嵐が吹き荒れても翌日か数日後には穏やかな天気を取り戻しているでしょう?
だから私の全てを受け入れて、さらに包み込んでくれるのは大空みたいな人だけだと思うんだ。
それでね。ツナ君ってそういうタイプでしょう?
なんてったって、私や綾小路君が裏切っても見捨てない人だもの。
つまり、私はツナ君の大空のような懐の広さや際限ない優しさに惹かれているんだよ。
……え? いつからかって?
う〜ん。最初は別にツナ君の事を気にしてなかったかな。
むしろ平田君が私の騎士様候補になれる逸材かどうかが気になってたし。
まぁしばらく接してみて、平田君では役不足だってすぐに理解したけどね。
軽井沢さんと偽装恋愛してる時点で偽善者だってお察しだもん。
……は? なんで偽装恋愛って分かるのか?
あははは♪ あんなの見てれば分かるでしょw
他人感丸出しだしw
……ツナ君が気になり出したのは、PPの事をクラスで共有しようとした時かなぁ〜。
あの時は山内君が変な嘘を吐いてツナ君は言ってないみたいになってたけど、実際にツナ君はクラスメイト全員にその事を共有していた。
普通ならさ、せっかく有利になれる情報を手に入れたからってクラスメイトに共有しようとは思わないよね。
思うとしたら、私みたいに他人からの信用を得たい人間か、ものすごいお人好しだけだよ。
その時は、ツナ君はものすごいお人好しなんだろうなぁって思ってた。
でもさぁ、お人好しって3つのタイプがあると思うんだ。
私みたいに何かの目的の為に敢えて優しくしているタイプ。
中学で私を襲ってきたあの男子のように、優しくすると見せかけて牙を向くクズなタイプ。
平田君のように、優しいけど本当に助ける力はない口だけタイプ。
……最初は口だけタイプだと思ってたんだよね。
でも、ツナ君はその3つのどれにも当てはまらない人だった。
明確にツナ君を見る目が変わったのは、次に起きた須藤君の暴力事件だよ。
誰もが須藤君に怒りの感情を向ける中、ツナ君だけは相手のCクラスに向けて怒ってた。
そして、絶対に須藤君を助けるって言って行動をし始めたよね。
証拠を集められなかった時は私もさすがに助けられないかなって諦めかけたけど、ツナ君は須藤君を嵌めようとした石崎君達に自分に暴力を震わせる事で、事件自体を無かった事にしちゃった。
あの時は嬉しかったなぁ〜♪
こんな早くに騎士様候補に出会えるなんてってさ♪
だってツナ君は皆が見捨てるような人でも、見捨てずに助けてくれるって事がわかったんだもの!
それも自分を犠牲にしてまで!
……あ。でも、ツナ君を好きになった瞬間はそれとは別だよ。
ほら、あの時だよ綾小路君。
堀北さんへの黒い感情を剥き出しにしている所を、綾小路君とツナ君に見られた時。
当時は最悪な気分だったな〜、まさか2人の見られるとは思ってなかったもの。
(ああ……これで騎士様候補ともお別れかぁ)
そう思うと悲しかった。だって、私の秘密を知っちゃった人は同じクラスにいてほしくないし。たとえそれが、騎士様候補であってもね。
……だけどね。ツナ君は私のそんな悲しみを吹き飛ばしてくれたの!
『……じゃあさ、俺の知られたくない秘密も桔梗ちゃんに教えるよ。もしも俺がバラすような事があれば、その秘密を桔梗ちゃんもバラしていい。それでどうかな?』
って、言ってくれたんだよ?
すごくない? 私の素の姿を見ても嫌がったり幻滅したりせず、自分の秘密を教えて同じ立場であろうとするんだよ?
そんな人、ツナ君の他には絶対いないでしょ!?
その時にきっと私はツナ君に恋をしたんだと思う。自覚はしてなかったけどね。
……はっきりと自覚したのは無人島試験の時かな。
最終日の前日、綾小路君にツナ君が呼んでるって言われて佐倉さんと一緒に森に入った。すると、道中で龍園君がいきなり現れて気絶させられたの。
そのまま私達は海上スキーでの砂浜の反対側に連れて行かれて、干潮時だけ現れる小さい砂浜に置き去りにされた。
目が覚めて自分達の置かれている状況に気づいた時、佐倉さんは怖がってたけど私は何も心配していなかった。
女の勘っていうの? 絶対にツナ君が助けに来てくれるって確信がなぜかあったんだよね。
そして予想通り、ツナ君は私達を助けに来てくれた。その時のツナ君はいつもよりなんかカッコイイ感じだったな。あ、体育祭の後半と似たような雰囲気だった。
ツナ君って本気になると雰囲気が変わるのかもね。それもまた騎士様っぽくていいよねっ♪
客船に戻ってからは、ツナ君と綾小路君の関係性がどうなるのかを祈るように見守ったよ。
だって裏切ったら関係を切るような人だったら、理想の騎士様ではなくなっちゃうもんね。
でもその心配は杞憂だった。ツナ君は楽しそうに綾小路君と話している姿を見せてくれたよ。
……これで確信した。
ツナ君は裏切られても見限らないし見捨てない。
彼こそ私の理想の人、大空のような騎士様だって♪
そうと決まれば、次にするのは最終チェックだよね!
私慎重だからさ、大事な事は二重チェックをしないと気が済まないの♪
1回目のチェックとして、干支試験でDクラスを裏切ってみる事にした。
龍園君に近づいて取引を持ちかけたの。君に協力するから私にも協力しろってね♪
でもグループが違うから、もしも最終結果を見ても裏切りに気づかれなければ意味ないよね。
だから、頭が回れば簡単に私が裏切ったと分かる裏切り方にしたの♪
それに加えて、ツナ君があなた達と話し合いをしている所の近くで龍園君を呼び出しして、ツナ君がその場所を通る頃にちょうど龍園君が来るように調整もした。龍園君との繋がりを匂わせるようにね。
まぁあんな事しなくてもツナ君は気づいてくれたと思うけど、無事に気づいてくれてたよね。
しばらく何も言ってこないから心配したけど、体育祭の準備期間中に私も裏切りについて触れてくれた。
そして、やっぱりツナ君は私の裏切りを責める事はなかった!
『クラスを裏切ってでも解決したい悩みがあるんだったら、俺に相談してもらえないかな。何が出来るかは分からないけど、絶対助けるから!』
そう言ってくれた!
あの時は顔に出さなかったけど、本当は抱きつきたいくらいに嬉しかった♪
でも、なんとか理性で抑えたよ。だってチェックはあと1回残ってるもの。
それをクリアして初めてツナ君は本当の意味で私の騎士様になる!
……で、2回目のチェックが何なのかはもう分かるよね?
……そう! 体育祭での参加表の流失だよ♡
龍園君は堀北さんを潰したがってたし、私も堀北さんが嫌いだからWIN-WINの関係だったからちょうど良かったよ。
まぁどうせ、ツナ君なら龍園君の策略には負けないだろうと思ってたし?
その過程で堀北さんが潰れればいいな〜くらいの期待しかしてなかったけど?
この裏切りで大事なのは、2回も裏切った私をツナ君はどうするのかって事だけだからね♪
そして、やっぱりツナ君は龍園君の策略には負けなかった。
龍園君の策略を跳ね除け、赤組を勝ちに導き、最優秀生徒賞まで取った!
私の事を責めることもしなかったし!
これはもう決まりだよね♪
ツナ君こそ私の騎士様だったんだよ♡
しかも生徒会にまで入って、副会長の座に付いて私の想像を超えてくれた!
……うふふふ♡
ツナ君は最高だよ♪
もう好きを軽く通り越して、愛しちゃってるよね♪
—— 綾小路side ——
『……』
俺も堀北も言葉が出ない。
まさか櫛田が、そんな事を考えながら学校生活を送っていたとは……
「……く、櫛田さん」
「ん? 何?」
堀北は絞り出すような声で櫛田に話しかけた。
「あなたの綱吉君への想いは分かったわ。……だけど、中学では自分の承認欲求を満たす事が第一だったのに、いきなりそんな好きな人の為に変われるの?」
「は? 変わる?」
「ええ。今の話を聞くと、これまでの学校生活のほとんどを理想の騎士探しに費やしていたように感じるの。その間は承認欲求は爆発しなかったの?」
「……ははは♪ 何を言ってるのかなぁ? ツナ君を想うのも、承認欲求を満たすための行動に決まってるじゃん?」
『え?』
沢田を想う事が承認欲求を満たす為? どういう事だ?
「……どういう事だ?」
「……私ね、年々承認欲求が強くなっているんだよ。小学校では友達の中で1番であればよかったのに、今は学校内で1番でないと気が済まなくなってる。このまま行けば大人になったら世界で1番じゃないと気が済まなくなるんじゃないかって最近思うこともあるんだ。……でもさ。ツナ君なら、例え私がそうなっても受け止めてくれるし、その欲求を満たしてくれると思うんだ」
そう言う櫛田の目は、遠い未来を夢見ているかのように輝いていた。
「これは私の勘でしかないんだけどさ、ツナ君は将来すごい大物になると思うんだよね。だから、ツナ君のそばにいれればそれだけで承認欲求を満たしていけると思うの! 今はパートナーでも、いずれは恋人。最終的には夫婦にでもなれれば、大物の恋人、妻って事でずっと承認欲求を満たせるじゃない? だってそうなったら、周りから羨望の眼差しを向けられる事は間違い無いもん♪」
「……それは、愛と言えるものなのかしら」
堀北の意見は最もだ。聞いている分には愛などじゃなく、沢田のそばにいれる事で受けられるメリットを重視しているようにしか思えないからな。
しかし、櫛田は堀北に呆れたような視線を向ける。
「……話聞いてた? 私は私の全てを受け入れてくれる人じゃないと嫌なの。だから、私の承認欲求も受け入れてくれないと意味がないんだよ」
「綱吉君なら受け入れてくれると?」
「そうだよ? だって裏切っても関係を切らないんだよ? 個人の承認欲求くらい、受け入れて満たしてくれるよ♪」
櫛田の中では、もう沢田は完全に騎士様扱いのようだ。まぁ確かに沢田なら将来大物になるし、際限なく膨らむ承認欲求も満たしてくれるだろうが……
(櫛田は沢田がマフィアのボスだって事は知らないはずだよな。……なのにここまで予測ができているとは驚きだ)
「……やっぱり、私とあなたが似ているとは思えないわね」
「まぁ性格が似ているわけじゃないしね。似ているのは人間性というか、根本の考え方だし」
「それもおかしいわよ。私はあなたのように承認欲求は強くないわ」
「ええ? 強いじゃん? 私とあなたの違いは、承認欲求が向けられるのが集団か個人かって違いだけだよ」
集団か個人か。櫛田が自分を取り巻く環境の全てで1番になりたいのに対し、堀北の場合は……なるほどな。
「……元生徒会長か」
「!」
「そう! 堀北さんは他人に興味はないけど、お兄さんに対する執着はものすごいでしょう? だってお兄さんに認められる為に、周囲との関係は拒絶して自分を高める事だけをやってきたんだもんね♪」
「そ、それは……」
「ね? 私とほとんど同じでしょう? 私もあなたも自分が1番大事なんだよ。違いは私が周囲にちやほやされたいのに対し、あなたはお兄さんに認めてもらいたいという承認欲求を向ける相手の人数のみ」
「……」
堀北は何も言い返さない。櫛田の言う事は的を得ているのだろう。
確かに、堀北は沢田と交流するまで他人を全く気にかけなかったからな。
「また例え話になるけど、あなたも雲みたいな人なんだよ。私は雲という概念そのものみたいなのに対して、堀北さんは……そうだなぁ。あ、積乱雲だね♪」
「積乱雲?」
積乱雲は、強い上昇気流によって鉛直方向に著しく発達した雲の事だ。雷雲の別名でもある。
「堀北さん、あなたは小さい頃に天才であるお兄さんと自分の違いに絶望したんじゃない? だから、お兄さんに少しでも早く近づいて隣を歩きたくて頑張ってきたんだよね♪」
「……」
「きっと自分とお兄さんの間には天と地との差があると思ったんだろうね。だから周りとは一切関わろうとせず、天へと上がっていく為に努力して自分を大きくし続けた。内側に沢山の鬱憤や傲りという雷をため込みながら、脇目も降らずにまっすぐに♪」
なるほど。だから積乱雲か。
「高校に入って、ついにお兄さんと同じ舞台に立てたって思ったよね? ……でも残念♪ 蓋を開けてみれば、まだまだ差は開いたままだった。お兄さんは入学時からAクラスなのに、自分はDクラススタート。しかも、先生から不良品扱いされる始末」
「……」
堀北の顔が曇る。当時の事を思い出しているのかもしれない。
「学校にも天才であるお兄さんとの格差を見せつけられたけど、それでも諦めない堀北さんはDクラスをAクラスに上げる為に動き始めた。だけど……1番最初の中間試験の勉強会、うまく行かなかったよね。その結果を受けて、もしかしたら周りのせいで自分はDクラスから抜け出せないかもと怖くなった。だから……あなたはお兄さんに直接アピールしに行ったんだよね」
『!』
櫛田の言うアピールとは、俺と沢田が堀北を助けた時の事を言っているのか?
あの場に櫛田はいなかったはずだが。
「何で知ってるのかって顔してるね? うふふ、実は隠れて見てたんだ♪ 壁に耳あり、障子に目あり。クラスメイトの近くに桔梗あり、だよ♪」
笑えない自作のことわざを披露する櫛田。
もうクラスメイトのプライベートは全て監視していると言われても驚かなさそうだ。
「うふふ♪ まぁそれでさ? 溜め込んでいた雷を大放出してお兄さんにアピールしてたよね。でも、お兄さんは受け止めてくれなかった。しかも、この学校をやめろとまで言われちゃってたね」
「……」
「溜め込んでいたものを全て吐き出して、ショックを受けたあなたは小さく萎んだ。もう消えてしまうんじゃないかってくらいにね。でも、そばにいたツナ君の励ましのおかげで雲としての形を保つ事が出来た」
「……そうね。あなたの言う通りよ。私は兄さんに拒絶されて絶望してた。そんな私を沢田君が支えてくれたおかげで今がある」
そう言い返す堀北には、どことなく誇りのようなものを感じた。
しかし、櫛田はそんな堀北を嘲笑う。
「ははは、何をそんな誇らしげに言っているの? 結局はあなたは間違った努力をしていた。そのせいでお兄さんに拒絶された事には変わらないんだから」
「……そうよ。私は兄さんに拒絶されたわ。でも、まだ兄さんに認めてもらう事を諦めてはいないのよ」
「……ふ〜ん」
櫛田の煽りに毅然と答える堀北に、櫛田は意味深な笑みを浮かべながら追撃する。
「……じゃあさ。どうして同じ高校入れたのに、お兄さんとの差が開いちゃったのか教えてあげようか?」
「! ……どういう事? あなたには分かると言うの?」
「分かるよ〜」
そう言うと、櫛田は教室の黒板の所に移動した。そして、黒板の真ん中に短い線を引いて見せた。
「今引いたこの線を凡人とするでしょ? で、この線より上を天、下を地とします」
そう言いながら、櫛田はさっき引いた線の上に天、下には地と記した。
「堀北さんは、自分が地でお兄さんが天の人だと思ってたから地から天に上がろうと努力したわけ。でもね? 実際にはお兄さんは天にはいなかったし、自分も地じゃなくて真ん中にいたんだよ。お兄さんがいたのは天の真逆、地の方にいたの」
「……どうしてそう言い切れるの?」
地の方に「堀北学」と記した櫛田に、堀北は疑問をぶつける。
確かに、何を持って天と地を区別しているのかは分からないからな。
「簡単だよ。さっきからツナ君を大空みたいな人って言ってるでしょう? ツナ君も堀北さんのお兄さんもカリスマ性は高いけど、全然違うリーダーだよね。ツナ君が周りを取り込みながら強く大きい集団を作っていくのに対し、お兄さんは自分という最強の個を主体に、その後ろを勝手に信奉している人達が追随していく感じじゃない? だからさ、堀北さんのお兄さんは大空の対である〝大地〟みたいな人だと思うんだぁ」
『……大地?』
「うん。その人が歩くと、その後ろを勝手に人がついてくるタイプのリーダーって事ね。人の輪に入り込んで、一緒に道を探すリーダーであるツナ君とは対極的な存在でしょう?」
なるほどな、確かに2人のリーダーシップは真逆だな。
櫛田の説明に納得していると、櫛田は話を続けた。
「……で、その事から私達がDクラス配属の理由が分かるよね」
「は?」
「……なぜ分かるの?」
櫛田の言葉に首を傾げる俺達に、櫛田はやれやれと頭を振る。
「ふぅ〜、しょうがないから詳しく説明するね?」
そう言うと、櫛田は黒板に追加で何かを書き込んでいく。
書き込まれたのは、天の方に沢田・堀北・櫛田の名前。
真ん中の線の部分に一之瀬と龍園の名前。
そして地の方には坂柳と葛城の名前だ。
「いい? 大地のような堀北さんのお兄さんはAクラス。反対に大空みたいなツナ君、そして雲みたいな私達はDクラスなんだよ。そして同級生で言うと、絶対的なカリスマ性を誇る坂柳さんと保守的な葛城君はAクラス。つまりさ。この学校における正解の生徒像っていうのは、絶対的なカリスマ性を持つリーダー、そしてそのリーダーに追随できる人間の事だと思わない?」
『!』
「私や堀北さん、平田君だって成績でいえばAクラスでないとおかしいでしょう? なのにDクラス配属。これはつまり、クラス分けには生徒の人間性も関係してくるんだよ。生徒に実力があるかどうかは基本だけど、それだけじゃなくてこの学校の定めた理想の人物像に近いか遠いかでクラスを決めるんだと思う。だから、実力があっても地じゃなくて天に近い私達はDクラスに配属された。そして身体的にハンディのある坂柳さんだけど、この学校の定める正解の人物像に当てはまってるからAクラスに配属された。葛城君は成績も文句なくAクラスだろうし、地に足の着いた堅実で保守的な性格が、絶対的なカリスマに追随する人間だと判断されたんだと思うよ」
櫛田の話を聞きながら、真ん中に書かれた2人はどうなるのかが気になった俺は、櫛田に質問を投げかけた。
「……一之瀬のBクラスと、龍園のCクラスはどうなんだ?」
「一之瀬さんは大空とも大地とも言えない人だもの。ツナ君みたいに懐が広くて優しいけど、坂柳さんのように目標に対してはしたたかな一面もあるし。龍園君はどちらでもないよね。強いて言うなら……大空みたいなツナ君に突っかかってる所とかは、大空に吹き荒れる〝嵐〟みたいだよね。だからどっちかっていうと天に近いんじゃない?」
……大空とか大地とか抽象的な話をしているのに、どうしてここまで説得力があるのだろうか。
……そうなると、一つ気になる事がある。櫛田が俺も目障りだと言うのなら、俺も雲みたいな人間なのだろうか。
「櫛田」
「ん?」
「お前は堀北が嫌いな理由は同族嫌悪と言ったな。ならば、俺の事を排除したい理由も同族嫌悪なのか?」
「……ん〜。そうだねぇ。綾小路君は、雲になりかけの霧って感じだからね。後々目障りになりそうだから、今の内に排除したいのかも♪」
「……雲になりかけの霧?」
「うん。綾小路君ってさ、最近まで空気みたいな感じだったじゃない?」
……まぁそうだな。目立たないように頑張ってきたしな。
「空中に漂う実体のない霧。それが1学期の綾小路君だったと思う。でもさ、ツナ君と仲良くなった事で少しずつ実体を持ってきてると思うよ。始めは無人島試験だよね。綾小路君って自分がないっていうか、ただ生きていれればいいみたいな印象だった。だけどツナ君の器の大きさに触れて行く内に、対抗心を燃やしたのか知らないけど、ツナ君に勝負を挑んだわけじゃない? そしてその時から少しずつ自分という形を持ち始めたんじゃないかな。今も私にツナ君の両翼の座を奪われたくないって思ってるんだろうし、〝沢田綱吉のそばにいる綾小路清隆〟っていう自分が好きになったんじゃないかな」
……こいつ、本当に人の事をよく見てるな。
人気者になる為に人を見る目を養っていったのか?
「……」
「あはは♪ 図星?」
「……まあな」
「やっぱり? 堀北さんも同じでしょ? お兄さんを追いかける事は諦めていないだろうけど、その目標を叶えた時には隣にツナ君がいて欲しいんだよね」
「……」
堀北は答えないが、表情を見れば図星なのは分かる。
「ま、そういう訳だよ。お兄さんとの差が縮んでいなかったのは、お兄さんと違って堀北さんには自分の後ろに人が追随してくるようなカリスマ性がなかったから。今まで他人を蔑ろにして自分の事だけを考えてきたんだもん、そんな人間になってて当然でしょう?」
「……そうね」
堀北は櫛田の言う事に納得したのか、特に反論もしなかった。
まぁ俺も反論なんて出来ないがな。櫛田の言う通りなんだろうし。
「どう? 今の話を聞いてみて、ツナ君の両翼を降りる気になった?」
「ならん」
「ならないわね」
「……」
櫛田の質問をばっさりと切り捨てる俺達。
何を言われたって、俺達はパートナーと相棒というボジションを譲る気なんてない。
だからこそ櫛田に賭けを持ちかけるんだしな。
「……そっか、残念。じゃあやっぱり賭けで決めるしかないね♪」
「ええ。私と櫛田さんのサシ勝負よ」
「……私が勝ったら、堀北さんと綾小路君には自主退学してもらうよ」
「分かったわ。私が勝ったら、もうクラスの邪魔をするのは辞めてちょうだい」
「いいよ。あ、あとさ。ツナ君にはこの賭けの事は内緒ね?」
「ええ。元よりそのつもりよ」
「……勝負する教科はどうする?」
「あなたに委ねるわ」
「そう? じゃあ数学で勝負しよう。同点なら賭け自体が無効って事で♪」
「分かったわ。……もし負けた方が約束を違えようとしたら……」
「その心配はいらないでしょ? どうせ綾小路君が今の会話録音してるだろうし♪」
櫛田と堀北が俺の事を見てくる。俺は無言でポケットに入れていた学生証端末を取り出して、録音を停止した。
「……ね? 問題ないでしょ?」
「……そうね」
「うふふ♪ ペーパーシャッフルが楽しみだねぇ」
「ええ。お互いにベストを尽くしましょう。……あと、クラスでの事なんだけど」
「大丈夫。ちゃんとクラスの為に動くよ。勉強会にも参加するし」
「……助かるわ」
「じゃあ、私もう帰るから」
そう言った櫛田は、黒板に書いた図を消し去ると鞄を持って教室から出て行った。
「……勝てそうか?」
「……必ず勝つわ」
2人だけになった教室で、堀北は決意を新たに固めるのであった。
——その頃、廊下を歩く櫛田はとある人物に電話をかけていた。
——プルルルルル。ガチャ。
「あ、もしもし? 私だけど。……うん、そう。昨日の件引き受けるよ。だからさ、CクラスもDクラスを指名してくれる? え? 最初からそのつもり? ……ははは♪ まだツナ君にちょっかいかける気? ……まぁいいけど。今回はそっちが勝つ事になるだろうし、それで満足してくれるといいけど〜」
そして、櫛田は薄暗い廊下の奥に消えて行った……
読んでいただきありがとうございます♪
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