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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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生徒会交替式と新しい友達

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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今回はいつもより少し短めです。
キリよくする為、ペーパーシャッフル編は次回からにします!

生徒会交替式と新しい友達

 

「…あ、綱吉君、ここ間違ってるよ?」

「え? あ、本当だ。ごめんね?」

「ううん。私が直しとくね」

「ありがとう、お願いね」

「うんっ♪」

 

 体育祭が終わって数日経った10月中旬。

 

 ある日の放課後、俺は生徒会室で帆波ちゃんと一緒に書類作業に勤しんでいた。

 

「ふ〜、このドタバタもあと数日だね〜」

「うん……入っていきなりこんな大変な作業をするとは思わなかったよ」

「あはは! だよね〜♪」

 

 明日行われる生徒会交替式。その準備で生徒会はここ2週間程てんやわんやだ。

 

 2日前には総選挙も行われ、南雲先輩が文句なしの生徒会長当選を果たしている。

 

 ちなみに俺は形式上、生徒会交替式から正式に生徒会副会長となる為に総選挙には不参加だ。

 

 なので、ここしばらくずっと生徒会の仕事ばかりで、授業中以外はほとんど帆波ちゃんとしか一緒に過ごしていない。

 

 帆波ちゃんとは波長が合うというか、なんとなく似ている感じがするから長時間一緒にいても何も気にならなかった。

 

「ふふ、相変わらずのおしどり夫婦ね〜w」

「2人とも、仲良いのはいいけど手は止めないでね〜w」

「あ、はいっ!」

「は〜いっ♪」

 

 上級生の生徒会役員の人達から注意を受けてしまった。

 

 あ、おしどり夫婦というのはからかって言っているだけだよ。

 

 生徒会長、副会長には書記を1人ずつ秘書として付ける事になっているらしく、同じ1年って事で帆波ちゃんが俺付きの書記に選ばれた。

 

 ——ガララっ。

『!』

 

 その時。生徒会室の扉が開き、中に4名の生徒が入ってきた。

 

「やぁ皆、頑張ってるか?」

「あ、南雲会長。はい、もちろんです」

「よしよし、それならいいんだ」

 

 新生徒会長の南雲先輩、そして書記の、桐山先輩・溝脇先輩・殿河先輩だ。

 

 南雲先輩は中に入るなり、俺に声をかけてきた。

 

「沢田、頑張ってるみたいだな?」

「あ、はい。なんとかやってます」

「うんうん、それでいいんだ。君にはこれから俺の歩む覇道についてきてもらわないといけないからな! 期待してるぜ!」

 

 パチンとウインクをし、南雲先輩は自分の席へと戻っていく。

 

(……南雲生徒会長か)

 

『……奴を更迭してくれ』

 

「……」

「? 綱吉君? 手ぇ止まってるよ?」

「あ、ごめん!」

 

 堀北先輩の言葉を思い返しているところを帆波ちゃんに声をかけられ、俺はまたすぐに仕事に集中する事にした。

 

 

 —— 翌日7限目。 生徒会交替式 ——

 

 翌日最後の授業では、旧生徒会から新生徒会への政権交代の式典が行われた。

 

 式典は準備の甲斐があり滞りなく進行し、最後の新旧生徒会長挨拶へと移った。

 

「続いて、堀北生徒会長より最後のお言葉を賜りたいと思います」  

 

 司会の言葉で、堀北先輩はゆっくりとステージへと歩み出た。

 これまでの生徒会として歩んできた時間を噛みしめるかのように。

 

「約2年もの間、生徒長として生徒会を率いて来られたことを、誇りに思うと同時に感謝します。ありがとうございました。短いですが、これを私の退任の挨拶とさせていただきます」

 

 1分もかからないであろう程短い挨拶を終え、堀北先輩は拍手を浴びながら舞台袖に戻ってきた。

 

「堀北生徒会長、ありがとうございました。続いて、新しく生徒会長に就任する2年Aクラスの南雲雅より、お言葉を頂戴いたします」

 

 そして、それと同時に入れ替わる様に南雲先輩がステージへと歩み出る。

 

「ご紹介にあずかりました、2年Aクラスの南雲雅です。この度、高度育成高等学校の生徒会長に就任させて頂くことになりました。どうぞこれからよろしくお願い致します」

 

 まるで桔梗ちゃんのようにニコニコ笑顔で挨拶する南雲先輩。

 だが、すぐにそのニコニコは鳴りを潜めた。

 

 南雲先輩はここから、急に意味ありげな不適な笑みを浮かべながらスピーチを始める。

 

「……早速ではありますが、まず始めに私の公約からお話したいと思います。初めに取り組みますのは……生徒会の任期と任命、総選挙のあり方を変更する事です。生徒会長及び生徒会役員は、その任期を在学中無期限とし、卒業まで継続できるように変えていきます。それと同時に生徒会役員の人数制限、総選挙自体を撤廃し、生徒会役員を常に受け入れられる体制へと変えます。……つまり、優秀かつ必要な人材はいつでも、そして何人でも生徒会役員に任命できるようになるのです。また、万一任期中に不適格だと判断された人材がいれば、会議にて多数決を行い、それをもって除名する規約も作らせて頂きます」

 

(……これだ。堀北先輩が言っていた、南雲先輩を更迭する唯一の抜け道だ)

 

 この時俺は、体育祭の翌日の放課後に、生徒会役員との顔合わせを済ませた後に堀北先輩から聞かされた話を思い返していた。

 

 —— 回想、体育祭の翌日。生徒会室 ——

 

「……沢田、俺がお前を生徒会に入れたかった理由を教えよう」

「! あ、はい。お願いします」

 

 他に誰もいない時に話してくるってことは、やっぱり他の人に聞かれたくないのかな?

 

「お前を生徒会に、しかも副会長に推薦したのは……南雲を止めてほしいからだ」

「! 南雲先輩を?」

「ああ。南雲は現在の高度育成高等学校に不満があるらしくてな。もっと実力主義な学校にするべきだと、生徒会に入った時から言い続けている」

 

 今の学校のやり方が気に入らないのは分かるけど、もっと実力主義な学校にしたいってどういう事なんだ?

 

「具体的に、南雲先輩は何をする気なんです?」

「……優秀な人間はとことん上に、逆に落ちこぼれはとことん下に。それが南雲の理想の実力主義だ」

「……そうなると、A~Bクラスは今より優遇されるけどC~Dクラスは今よりも格差が大きくなるってことですよね」

「そうだな。当然そうなっていくだろう」

「……」

「それとな。南雲は密かに、強制的にクラスから退学者を出させるような試験を行う計画も立てている」

「ええ!? そんなのありなんですか!?」

「安心しろ。さすがに学校側もそんな試験は認めたりはしない」

「そ、そうですよね……」

 

 しかし、そんな試験を計画するとは……

 南雲先輩が生徒会長になったらとんでもない事になるんじゃ?

 

「……南雲先輩、もうすぐ生徒会長になりますよね?」

「ああ、数日後の生徒会交替式でな」

「じゃあ、その日からいきなり学校は様変わりするんでしょうか?」

「いや、すぐには変われないだろう」

 

 堀北先輩は眼鏡をクイッと持ち上げて話を続ける。

 

「しばらくはこれまでの生徒会の伝統に縛られて動けないはずだ」

「伝統に?」

「ああ。生徒会長はなんでも好きに校則を変えられるわけじゃない。何かを変えるなら学校の職員や生徒会メンバーの過半数の承認を得ないといけないし、これまでの伝統を壊す様なやり方は学校側がすぐには受け入れないだろうからな」

「……なるほど」

 

 つまり、南雲先輩を止めるなら今がベストというわけか。

 

「……では、南雲先輩を止めるには今しかないと?」

「そうだ。……だが、そんな簡単な話でもない。南雲は本当に優秀な人間で、1年生の後半には同学年の全クラスを纏め上げてしまったほどだ。基本的に2年生はあいつのいいなりと思っても差し支えない」

「全クラスを纏め上げた!? え、それ本当ですか?」

 

 それが本当なら、南雲先輩は俺のやろうとしてる事をやり遂げている事になる。

 

「ああ。そして、南雲は入学時にはBクラスだった。だが、2学期にはもうAクラスに上り詰めていた」

「うわぁ……そうとう優秀なんですね」

「そうだ。だからこそ、南雲は2年生の絶対的なカリスマなんだ。沢田、お前もそのカリスマ性を交替式で目の当たりにするだろう」

「は、はぁ……」

 

 元々Bクラススタートだったとは。あ、だから帆波ちゃんをスカウトしたのかな?

 

 だとすれば、帆波ちゃんは同じBクラススタートの身として南雲先輩を尊敬している可能性が高いな。

 

(保健室でこの話ができなかったのは、帆波ちゃんの前で南雲先輩の事を話せなかったからなのかも)

 

「……でだ。沢田、南雲は生徒会長になるにあたり、公約をいくつか考えている。その内の一つに、『生徒会役員の任期・総選挙の撤廃』というものがある」

「任期と総選挙の撤廃って……え? そうなったら南雲先輩は卒業まで生徒会長をし続けるって事ですか? 加えて総選挙が無くなったら、生徒会長の任命とかも南雲先輩の思いのままって事に」

「そうだ。南雲の息のかかった者を生徒会長に据えるだろうな。そして、南雲の理想の実力主義の学校を維持し続けるつもりだろう」

「……でも、そうだとしたら。もう南雲先輩を止めるのは不可能じゃないですか?」

「いや、そうでもない。難しいが、一つだけ南雲を止める手がある」

 

 そういうと、堀北先輩は一枚の紙を取り出して俺に手渡した。

 

「これは?」

「それには、先程言った南雲の公約内容が記載されている。よく読んでみろ」

 

 堀北先輩に言われるがまま、俺は紙の内容に目を落とした。

 

 公約① 生徒会役員の任期・人数制限の無制限化、及び総選挙制度の撤廃。ただし、任期中に役員として不適格と見做された場合、役員の決議によって生徒会から除名処分をする制度の追加をする。

 

 ……除名処分。なるほど。

 

「……除名処分。南雲先輩を止めるには、生徒会から除名させないといけないって事ですね?」

「そうだ。もうじき総選挙があるが、お前が参加する事ができない以上、南雲を止めるにはもうその手しかない」

「……あの、役員の決議というのは何人の賛成が必要なんですかね?」

「……過半数以上だ」

 

 過半数以上。それは今の俺には途方もない数字だ。

 

「……南雲先輩は2年生全体を纏めてるんですよね?」

「……そうだな」

「……3年生が退任したら、生徒会のほとんどは2年生ですよね?」

「……そうだな」

「……それでもやれと?」

「そうだ。すまないが、もうお前にしか頼めないんだ」

 

 その時、堀北先輩は俺に深々と頭を下げた。

 

「ちょっ、堀北先輩!」

「頼む沢田。南雲の粗をなんとか探し出し、それを使って奴を更迭してくれ。急げとはいわない。学校が南雲の理想に染まりきる前に成功させて、俺の守ってきたこの学校の伝統を守ってくれ」

「……」

 

 今はまだ現役の生徒会長が一年坊でDクラスの俺に頭を下げている。それほど南雲先輩のやろうとしている事を認められないのか……そして俺になら出来ると期待してくれているのだろう。

 

 ……断る理由もないし、俺的にも南雲先輩がしようとしている事は認めたくない事のような気がする。

 

 うん。引き受けよう!

 

「分かりました。なんとかやってみます!」

「! そうか……すまない、恩に着るぞ!」

 

 —— 回想終了 ——

 

(……南雲先輩が生徒会長として不適格だと証明する。それがどれほど難しいかはまだわからないけど、必ずやり遂げてみせるぞ)

 

 なおも、新生徒会長のスピーチは続いている。

 

「……これを手始めに、今日この場に集まっている皆さんに宣言致します。私はこれから生徒会長として、まずは歴代の生徒会が守ってきたこの学校の伝統を全て壊していくつもりです。本来ならすぐにでも私の理想の学校作りに動き出したいところなんですが、新米生徒会長には色々としがらみが多いのでそうもいきません」

 

 そこまで言い切ると、南雲先輩はスタンドに付けられたマイクを取り外し、マイクを持って舞台の最前面に歩み出た。

 

「ですが、近々この学校に大革命を起こすことを約束致します! 私の考えるこの学校のあるべき姿。実力のある生徒はとことん上に、実力のない生徒はとことん下に。この学校をそんな真の実力主義の学校に変えていきますので、どうぞよろしくお願いします」  

 

 南雲先輩がそう言った途端、2年生のほぼ全員が歓喜の叫びを上げた。

 

「南雲く〜ん♪」

「南雲会長〜!」

 

(なるほど、これが南雲先輩のカリスマ性か)

 

 盛り上がってる2年生を手で制すと、南雲先輩はステージ中央に戻ってマイクをスタンドに取り付けた。そして、締めの挨拶を始める。

 

「……以上で、私の挨拶を終わらせて頂きます。ありがとうございました」

 

 そう言って頭を下げる南雲先輩。これでスピーチも終わり、交替式も終了となる……はずだったのだが。

 

「……皆さん。式次第にはありませんが、ここでもう一つスピーチを追加させてください」

「え?」

 

 南雲先輩のその言葉で会場が騒がしくなる。

 しかし、そんな事は気にも止めずに南雲先輩は言葉を続けた。

 

「今日から新しく生徒会に加わり、副会長として私の覇道を共に歩んでもらう相棒をご紹介します! 1年Dクラス、沢田綱吉です!」

「なっ!?」

 

 俺の名前を言うと、南雲先輩は俺を手で示した。

 

「さぁ新副会長! 君のスピーチの時間だぞ!」

 

 ニコニコ笑いながら俺の事を見る南雲先輩。

 2年生の拍手の音だけが体育館内に響き渡っている。

 

 このままいても俺がスピーチするまでは終わらなそうだ。

 そう思って、俺はステージ中央に歩み出た。

 

「……よろしくな」

「……ええ」

 

 すれ違い様、南雲先輩に肩を叩かれた俺はマイクの前に立った。

 全校生徒の視線が俺に注がれている。

 

(……何を言おう。副会長として言うべき事を言いつつ、自分の意思表明もしっかりとした方がいいか?)

 

 スピーチの内容を急速に組み立て、俺は口を開いた。

 

「ただいまご紹介にあずかりました。生徒会新副会長、1年Dクラスの沢田綱吉です。副会長に選ばれたからには、学校をよくする為にも全力で生徒会長をサポートしていきたいと思います」

 

 ここまでは、ステージ袖に引っ込んだ南雲先輩もニコニコしながら聞いている。

 

「……ですが」

「!」

 

 しかし、この後の俺の発言で南雲先輩は真顔に戻った。

 

「ですが、自分の信念を持つことも忘れません! 私の信念とは、この学校をより良いものに導く生徒会である事です! その信念に基づき、もしも生徒会としての方針と私の考えに齟齬が生まれた場合には、1年である事や副会長である事は関係なく、自分の意見を述べる所存です。生意気と感じられる方々もいるかもしれませんが、以上を私の挨拶……そして決意表明とさせて頂きます!」

 

 スピーチを終えた俺が頭を下げると、今度は1年Dクラスの方から歓声が上がった。

 

「いいぞ〜! 沢田ぁ!」

「沢田く〜ん♪」

 

 クラスメイト達の歓声を浴びながら舞台袖に戻ると、南雲先輩が冷たい笑顔で俺の事を見ている事に気づいた。

 

 南雲先輩は俺が舞台袖に戻るなり声をかけてくる。

 

「……いいスピーチだったな」

「……どうも」

「だが、最後のアレはどういう意味かな?」

「そのままの意味です」

「そうか……君は生徒会と意見が食い違ったとしたら、例え反対しているのが君1人でも反対をすると。そういう事だな?」

「そうですね。生意気言ってすみません」

 

 俺がそう返すと、南雲先輩は笑い出した。

 

「ククク、あっはっはっ!」

「……」

「……すばらしいよ沢田。体育祭で初めて話した時もそうだったが、君のその闘士溢れる目を俺は気に入っている。俺と共に覇道を歩んでもらうんだ。それくらいの気概がないと務まらんだろう。ふふふ、これからもよろしく頼むよ? 沢田副会長」

「……ええ、南雲生徒会長」

「よろしい」

 

 そう言うと、南雲先輩は舞台袖から消えていった。そして、それと同時に交替式も幕引きとなる。

 

『以上で、生徒会交替式を終了致します』

 

 アナウンスが流れる中、ふと視線を感じた俺はその方向に顔を向ける。

 

 ……そこにいたのは、堀北先輩と橘先輩だった。

 

「……」

『……(こくり)』

「! ……」

 

 先輩方は何も言わないが、俺の事を見て微笑んでいる。そして、ゆっくりと頷いて見せてくれた。

 

 俺のスピーチを褒めてくれているのかもしれない。そう思った俺は嬉しくなって、笑顔で頷き返したのだった。

 

 

 —— 交替式終了後 ——

 

 交替式の後に教室に帰ろうとすると、桔梗ちゃんと軽井沢さんが俺に声をかけてくれた。

 

「ツっ君、目立ってたね〜」

「うんうん、まるで生徒会長に喧嘩売ってるみたいで驚いたよぉ〜♪」

「あはは……やっぱり喧嘩売ってるように見えた?」

「見えたよ〜。でもそこに痺れたけどねっ!」

「うんうん♪  ツナ君とってもかっこよかった〜♡」

「え? く、櫛田さん?」

「え? あ、ありがとう」

「ふふふ〜♪」

 

 なんか……今日の桔梗ちゃんはいつもより距離が近い気がするな。

 軽井沢さんもなんか桔梗ちゃんに戸惑ってるみたいだし。

 

 そうして3人で歩いていると、後ろから声をかけられた。

 

「ね、ねぇ!」

「ん?」

「?」

「ん〜?」

 

 声につられて後ろを振り向くと、そこにはクラスメイトの佐藤麻耶さんが立っていた。

 

 若干顔が赤い。最近風邪が流行ってるのかな。

 ここ数日で、何人か顔が赤い女子を見ているから心配だ。

 

「あのさー。なんていうか、ちょっと顔貸してくんない? 話があるんだけど」

「え? 俺に?」

「う、うん。沢田君に話があるの」

「わかった。軽井沢さん、桔梗ちゃん、先に戻っててもらえる? 俺は佐藤さんの話を聞いてから戻るよ」

「う、うん」

「わかった〜♪」

「あ、あの。ここじゃ何だから、場所を変えてもいいかな」  

「うん」

 

 そう言って歩き始める佐藤さん。俺もその後についていく事にした。

 

「……ちっ、佐藤もかよ」

「え? く、櫛田さん?」

「ん? なあにぃ? 軽井沢さん♪」

「……い、いえ。なんでもないわ」

「そう? じゃあ教室に戻ろっか」

 

 後で何か2人の話し声が聞こえる中、佐藤さんは体育館裏へと向かった。

 

 —— 体育館裏 ——

 

「ちょっと変なこと聞くけどさ。……さ、沢田くんって誰か付き合ってる人とかいるの?」

「え? 彼女って事? 」

「う、うん。彼女はいるのか聞いてるの。……どうなの?」  

「彼女なんていないけど。俺モテないし……」

 

 俺の答えを聞いた佐藤さんは、少し嬉しそうな顔になる。独り身仲間がいて嬉しい的な感じだろうか。

 

「ふ、ふぅん。そうなんだ……。じゃあさ、今彼女は募集中ってこと?」

「うん。まぁそうなるかな」

 

(別に今すぐ彼女が欲しいとかそういうことでもないけど、いたら学校生活に花が出るんだろ〜な〜)

 

「あの……友達からでいいからさ。その、連絡先交換してよ」

(友達から? 友達になりたいって事だよね?)

「うん。もちろん」

 

 なんだか周りくどい言い方だけど、男に友達になってほしいと伝えるのは女子としては恥ずかしいものなのかもしれない。

 

 俺は学生証端末を取り出し、佐藤さんと電話番号を交換した。

 

「これで完了、だね」  

「うん。俺も登録したよ。……でも、何で急に友達になってくれるの?」

 

 俺がそう聞くと、佐藤さんは視線を逸らしてしまった。

 

「どうして、って。というか友達って……もう。あのね? 体育祭の時の沢田君が凄くかっこよかったっていうか。今まで全然ノーマークだったっていうか。クラスでは平田くんが一番かなって思ってたけど軽井沢さんの彼氏だからどうしようもないじゃない?」  

「そう? 別に彼女がいても友達にはなれるんじゃない? 平田君優しいし!」

 

 俺がそう返すと、佐藤は困ったような表情で俺を見てきた。

 

「あはは……正直ここまで伝わらないのはびっくりっていうか。あ! でも沢田君が平田君以下なんて思ってないっていうか! 正直、良く見ると平田君よりかっこいい気がするし! 優しくて頼れそうだし! ……でもそこまで鈍感だと困るっていうか」

 

 佐藤さんは何を言いたいのかわからなくなったのか、少し考え込む佐藤さん。

 

 やがて佐藤さんは意を決したように話を続けた。

 

「さ、沢田君!」

「うん?」

「もう一つ……お願いしてもいいかな……」

「うん、いいよ?」

「! ありがとう。あ、あのね?」

 

 俺が受け入れると、佐藤さんは両手を後でモジモジしながら願い事を話し出した。

 

「わ、私も……つ、ツナ君って呼んでもいいかな?」

「! なんだ、それくらい全然いいよ!」

「ほ、ほんと? じゃあツナ君って呼ぶね? あ、それと……」

「ん?」

「その……ツナ君も、私の事を名前で呼んでくれないかな」

「ああ、うん。分かった。じゃあ麻耶ちゃんって呼ぶね」

「う、うんっ! えへへ、じゃあ教室に戻ろうか♪」

「そうだね! 」

 

 そして、俺と麻耶ちゃんは一緒に教室に戻ったのだった。

 



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