| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

体育祭の後② 〜真なる相棒〜

閲覧履歴 利用規約 FAQ 取扱説明書
ホーム
推薦一覧
マイページ
小説検索
ランキング
捜索掲示板
ログイン中
目次 小説情報 縦書き しおりを挟む お気に入り済み 評価 感想 ここすき 誤字 ゆかり 閲覧設定 固定
ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

<< 前の話
目 次
次の話 >>
55 / 77
アンケートの結果、ツナは生徒会に入れる事にしました!
反対を選ばれた皆様にも楽しく読んで頂けるよう、これからも頑張って書きます!

体育祭の後② 〜真なる相棒〜

 

「……わかりました」

「! 引き受けてくれるのか?」

「ええ。生徒会に入る事にします」

 

 色々考えた結果、俺は生徒会に入る事に決めた。

 

 生徒会に入る事で、リボーンからの最終課題がクリアしやすくなるかもしれないしね。

 あと、生徒会長から強い願いのようなものを感じたっていう理由もある。

 

「ありがとう、詳しい話は明日する。放課後に生徒会室に来てくれ。その時に他のメンバーにも顔合わせをさせよう」

「ええ、わかりました」

「……では、俺はこれで失礼する。体育祭の総括をしなくてはならないんでな。一ノ瀬、お前も後で来るんだぞ」

「はい、すぐに私も行きます!」

 

 そして、生徒会長は保健室から出て行った。

 

「……」

 

(いやあ……引き受けといてなんだけど、生徒会に入るなんて初めての経験だし緊張するなぁ。もう少し時間を貰えばよかった)

 

 すぐに返答した事に若干後悔を感じていると、一ノ瀬さんがニコニコ笑顔で話しかけて来た。

 

「にゃはは、これで一緒に生徒会として活動できるねっ!」

「あ、うん。その、生徒会の事とかよく分かってないけど、どうぞよろしく」

「うん♪  私も全然入りたてだから、一緒に頑張って行こうね!」

「うん、そうだね」

「あ、じゃあ私も生徒会の仕事しに行くね?」

「わかった。頑張ってね」

「は〜い♪」

 

 手をヒラヒラさせながら保健室を出ようとする一ノ瀬さんだったが、途中でいきなり足を止めた。

 

「……あ!」

「?」

 

 何かを思い出したらしい一ノ瀬さんは、俺が寝ているベッドまで戻って来た。

 

「ねぇねぇ!」

「ん? 何?」

「1年で生徒会に入ってるの私達だけだし、せっかくだからもっと仲良くならない?」

「もっと仲良く?」

 

 全然ウェルカムだけど、どうするつもりなんだろう。

 

「そう! あのね、お互いに名前で呼び合わない?」

「あ、そういう事ね。うん。もちろんいいよ」

「よかった♪ じゃあ、綱吉君って呼ぶね?」

「うん。じゃあ俺は帆波ちゃんって呼ぶよ」

「うんっ♪」

 

 嬉しそうにニコニコしている帆波ちゃん。

 そんなに嬉しがられると少し照れてしまうな。

 

 ——ガララ。

『!』

 

 その時、再び保健室の扉が開いて1人の男子生徒が中に入って来た。

 ……綾小路君だ。

 

「……沢田、起きたんだな」

「綾小路君。うん、ごめんね? 迷惑かけたよね」

「気にするな。お前のおかげでDクラスは最下位を免れたんだからな」

「! 本当? 最下位を脱出できてたの!?」

 

 そういえば、リレーが終わってすぐに倒れたから最終的な結果はまだ知らなかった。

 

「あ、私写真撮ってあるよ。最終結果の!」

 

 帆波ちゃんは学生証端末を操作して、一枚の写真を見せてくれた。

 

 それは、各クラスの黒板に貼り出された結果を記載した紙の写真だった。

 

 

 優勝組 赤組

 

 最優秀生徒賞 1年Dクラス 沢田綱吉

 

 最優秀クラス 2年Aクラス

 

 学年別最優秀生徒賞

 

 3年 Aクラス 堀北学

 2年 Aクラス 南雲雅

 1年  Bクラス 柴田颯

 

 1年生クラス順位

 

 1位 Bクラス

 2位 Cクラス

 3位 Dクラス

 4位 Aクラス

 

 最終結果としては、目標であった最優秀生徒賞を獲得。

 そしてクラスも最下位になる事は防げたようだ。

 

 ……でも

 

「……そっか。須藤君は学年別最優秀賞取れなかったか……」

「ああ。残念ながらな」

「? 何かあったの?」

「あ。……ううん。男の話ってやつかな?」

 

 須藤君の名誉の為にもここは話を濁しておく事にした。

 

「ふ〜ん。……あ、私もう行くね? 生徒会の仕事あるし」

「あ、うん。お見舞いありがとうね」

「いいのいいの♪ 友達だもんねっ。じゃあ2人共またね? あ、綱吉君は明日からもよろしくね!」

 

 そして、今度こそ帆波ちゃんは保健室から出て行ってしまった。

 

「……一ノ瀬って、生徒会に入ったのか?」

「うん、最近入ったんだって」

「そうか……」

 

 少し意外そうな顔をしている綾小路君。

 あ、俺も入る事になったって言っておかないとだよな。

 

「綾小路君あのね。実は、明日から俺も生徒会に入る事になったんだ」

「! 沢田が生徒会? 本当か? すごいじゃないか」

 

 綾小路君にしては珍しく、目を見開いて俺の事を見ている。

 

「うん、生徒会長と一ノ瀬さんに誘われてさ。しかも副会長として……」

「! 1年で副会長? それはまた思い切った人事だな。お前もよく引き受けたよな、そんな責任のある立場を」

「あはは……うん。まぁAクラスに上がるのに役立つかもしれないし、それに……生徒会長がすごい必死な気がしてさ」

「必死? あの生徒会長がか?」

「そうなんだよ。なんか断っちゃいけない気がしてさ」

「……そうか」

 

 綾小路君は少し考え込むと、いつもの飄々とした態度に戻った。

 

「まぁいいんじゃないか? 沢田がそうしたいと思ったなら、俺は尊重するぞ」

「本当? ありがとうね」

「ああ。……あ、そろそろ時間だな」

 

 ふと、壁にかけられた時計を見た綾小路君は、俺に手を差し出して来た。

 

「沢田、もう動けるか?」

「あ、うん。もう大丈夫だと思う。……でもなんで?」

「実はな、体育祭が終わった後、Aクラスの神室って女子から声をかけられたんだ」

「なんて?」

「放課後、沢田が目覚めたら一緒に特別棟の3階に来てくれ、だそうだ」

 

 神室という名前に聞き覚えはない。まず話した事はないだろう。

 

「神室? ……面識ないな、綾小路君の知り合い?」

「いや、俺も面識はない」

 

 綾小路君も面識がないとは。じゃあいったい何で俺達を?

 

 それに何で特別棟の3階に? 

 監視カメラのない場所がいいのか?

 

「色々気にはなるけど……とりあえず行った方がいいよね?」

「そうだな。一応呼ばれてるわけだしな」

「……うん、じゃあ行こうか」

「ああ……その前に着替えだな。お前の荷物と着替えは持って来たから、着替えてから行こう」

 

 ということで、俺はベットから出て制服に着替え、綾小路君と共に特別棟3階へ向かうのだった。

 

 

 —— 特別棟 ——

 

 特別棟の入り口に着くと、1人の女子が立っていた。

 

「……あれが神室さん?」

「ああ」

 

 俺達が近づくと、神室さんもこちらに気付いた。

 

「……あ、来たね」

「まあな。……待ち合わせは3階じゃなかったか?」

「そうよ、3階であんた達を待ってる子がいるの。私はただの呼びだし係だから。ほら、着いたならさっさと3階に行くよ」

 

 終始面倒くさそうな神室さんに続き、俺達は3階へと上がった。

 

 —— 3階 ——

 

 3階に上がったが、そこには誰もいなかった。

 

「……誰もいなくない?」

「……ここで待ってて。呼んでくるから」

 

 俺達に待つように言うと、神室さんは教室へと続く廊下の角に向かった。

 

 そして、廊下の角にいる誰かに話しかける。

 

「連れて来たよ。もう帰ってもいい?」

「はい。ご苦労様でした、真澄さん」

「ああ」

 

 誰かと短い会話をすると、神室さんはこっちに戻って来た。

 

「後はあの子と話して。私はもう帰るから」

「え? は、はい」

「……わかった」

 

 そして、神室さんは特別棟から去って行った。  

 

 神室さんがいなくなると、彼女と会話をしていた声の主が、ゆっくりと姿を見せる。  

 

 ——コツ。コツ。

(! 杖の音?)

 

 片手で杖をつきながら、声の主は冷たい笑顔を浮かべながら現れる。その人物は……

 

 銀髪の美少女、1年Aクラスの坂柳有栖さんだった。

 

「お前が俺達を呼んだのか?」

「……」

 

 綾小路君の質問に、坂柳さんは何も答えないとしない。

 ただただ、冷たい笑顔でこちらを見てくるだけだ。

 

 しばらくの沈黙の末、ようやく坂柳さんが口を開いた。

 

「全学年合同リレー……大活躍でしたね。沢田綱吉君」

「え? は、はあ……」

「それに比べて、全然パッとしてませんでしたね。綾小路清隆君?」

「……俺の実力じゃ、そんなもんなんだよ」

 

 呼び出ししてきた以上、こちらの名前を知っていてもおかしくわない。

 でも、ようやく口を開いたかと思えば、少し嫌味っぽい事を言ってくるとは思わなかった。

 

「それで? お前でいいんだよな? 俺達を呼び出したのは」

「はい」

「何の用だ? 出来れば早く本題を切り出してほしいんだが」

「……今日1日、あなた達の事を見ていて思った事があるんです。その思った事を共有したいと思ってつい呼び出してしまいました。ふふ、まるで告白の前触れみたいですね」

「!? こ、告白!?」

「……何の事だかさっぱりだな」  

 

 綾小路君が俺の背中を叩いてくる。

 落ち着けと言いたいのかな。

 

 ——カツン。カツン。

 

 杖をつきながら、坂柳さんは俺達の目の前に来た。

 

「ふふふ、まずは挨拶からですね。……お久しぶりです、綾小路君。8年と243日ぶりですね」

「……は?」

 

 え? どういう事?

 2人は知り合いだったの?

 

「冗談だろ。俺はお前の事なんて知らないぞ」

「ふふ、そうでしょうね。私だけが一方的に知っているだけですから」  

「……何が言いたいんだ?」

「……ホワイトルーム」

「っ!」

(……ホワイト、ルーム?) 

 

 ホワイトルーム。

 

 その単語を聞いた瞬間、綾小路君は今まで見たことがないくらいに表情が変化していた。 

 

 何で? どうして? ただただ疑問だけが募っているような、そんな表情に。

 

「嫌なものですよねぇ。相手だけが自分の情報を握っているというのは」

「……お前、いったい……」

「懐かしい再会をしたんですから、挨拶しないわけにはいかないと思ったんです」

「……再会だと?」

 

 笑っている坂柳さんとは対照的に、綾小路君は今何が起きているのかも理解できていなさそうだ。

 

「……いや、やっぱりお前に会った事なんてないはずだ」

「記憶に無くても無理はありません。あなたは私を知りませんからね。でも、私はあなたを知っているんです」

「……意味が分からんな」

「あ、安心してください。あなたの事は、とりあえずは誰にも言うつもりはありませんから」

 

 ……何がなんだか分からない。綾小路君の事を坂柳さんは詳しく知っているって事?

 で、綾小路君は何で知られているのかが分からないのかな。

 

「……沢田君」

「! は、はい?」

 

 いきなり俺へと会話対象が移ったので、少し反応が遅れてしまう。

 

「沢田君とは一切面識はありません」

「あ、そうなんだ」

「ですが、あなたが何者なのかは私は知っています」

「……はい?」

 

 俺が何者なのかを知っている?

 坂柳さんがいったい俺の何を知っていると言うんだろうか……

 

 この時、俺は甘く考えていた。俺の秘密を一般人が知っているわけがない。そして、仮に知られていたとしても、それを一般人の前で堂々と話はしないだろうと。

 

 ……だが、それが甘い考えである事はすぐに思い知らされる。

 

「……ボンゴレファミリー」

「なっ!?」

(……ボンゴレ、ファミリー?)

 

 さっきまでとは正反対で、今度は俺が驚愕して綾小路君が理解できないという構図になった。

 

「あなたはその10代目。ボンゴレⅩ世デーチモですね」

「……ど、どうして君がそんな事を」

(デーチモ? 10世って事か?)

 

 

「……ふふ、ふふふっ」

『!』

 

 俺達の様子を見ていた坂柳さんが、ここで急に声に出して笑い始めた。

 

「その様子だと、あなた達は肝心な事は何一つ教えあっていないんですね? それでよく相棒とか言えたものですよ」

「な! どうしてその事まで」

 

 俺が綾小路君の事を相棒と思っているのは綾小路君以外知らないはず。

 

「私の手駒達に調べてもらいました。沢田君、あなたのこの学校での交友関係をね」

「! そ、そんな事をどうして」

「どうして? あなたの事をもっと知りたかったからですよ、沢田君」

 

 俺の事を知りたかったって……

 一体この子はなんなんだ?

 

「あ、勘違いしないでくださいね? 私は別に沢田君の事を見下しているわけではありません。むしろ尊敬すらしています。私と同い年で、そこまでの死線を潜り抜けているんですから」

「……俺が何をしてきたか知っているの?」

「ええ、知ってますよ。ユニから聞いていますからね」

「!」

 

 なるほど、ユニから聞いているのか……

 

 いや、それにしてもなんでユニはそんな事をわざわざ話したんだ?

 

 一般人をマフィア関係の事に巻き込む事を嫌っているはずなのに……

 

「ただ……」

「……ただ?」

「あなたは甘すぎる。世界を支配できるほどの権力を有しているのに、それを使おうともしない。自分より他人を優先して、自分が傷つくのも厭わない自己犠牲の精神を持っている。……そんなあなたでは、あなたの持っているものは全て宝の持ち腐れです」

「! ……何でそんな事言うんだよ」

「私はがっかりしているんです。私と同じで生まれながら突出した才能を有していて、支配者としての器を持っているのにその体たらく。あなたとなら楽しい勝負ができると、この学校に入学する時はワクワクしていたのに」

 

 ……という事は、この学校に入学する前から俺の事を知っていたと言う事か?

 

「だから……私はあなたの事を矯正しようと思うんです。その力を正しい方向で、正しく使う為に」

「! き、矯正?」

「はい。支配者とはどういうものか、力を持つ者がどう生きるべきなのか……私が直々に叩き込んであげましょう。天才であるこの私がね」

(……自分で天才とか言うなんて。相当自分に自信があるのか?)

 

 いや、Aクラスのトップにいるんだし、天才である事は真実なのかもしれない。

 

「そして……その為には、沢田君の周りに紛い物がいられては困るのですよ」

 

 坂柳さんはそう言うと、再び綾小路君に視線を向けた。

 

「……綾小路君、あなたのような偽りの天才がいては沢田君に悪影響です」

「……相変わらず意味がわからんな」

「あなたも沢田君のやる事に違和感を覚えているはずです。偽りとは言え、天才に近いものは持っているはずですからね。それなのに、その事を進言するわけでもなく、サポートまでしているそうじゃないですか」

「……そうだな。俺は沢田のサポートをしているぞ」

「ふっ。やはり紛い物など底が知れていますね。綾小路君、あなたは沢田君のそばにいるべきではないです」

 

 軽蔑に似た眼差しを綾小路君に向けると、坂柳さんは俺に視線を戻した。

 

「……沢田君。あなたも自分の運命を受け入れたのなら、その力を正しく使いましょう。あなたと同じく、生まれながらに力を有した私が手伝います」

「……なんで、俺の手伝いなんてしたいわけ? そっちこそ天才的な頭脳を自分の為に使えばいいじゃないか」

「ふふふ、沢田君。天才というものはね、1人ではその力を完全に発揮する事はできないんです。力を完全に発揮する為には、その頭脳を存分に活用できる器と土台が必要なんです」

「……器と土台?」

「ええ。例えば天才発明家なら、その頭脳で思いついた発明を実現するための道具や資金。そしてそれを世界に発信するスポンサーが必要ですよね? それと同じで、私のような天才的な支配者にはその支配力を存分に振るえる土台と絶大な力を持った器が必要なんです」

「……なるほど。君にとってのその土台はボンゴレファミリーであり、器は俺だと言いたいんだね?」

「ふふ、察しが良くて助かります。……さぁ、一緒に頑張りましょう」

 

 そう言うと、坂柳さんは俺に手を差し伸べて来た。

 

「……」

 

 だが、俺は全くその手を取る気にはなれなかった。

 

「悪いけど、その手は取れないかな。俺は今の考えを変える気はないし、大事な相棒の事を紛い物とか言われちゃってるしね」

「……沢田」

「……ふふ。そうですか。まぁいいでしょう」

 

 冷たい笑顔を浮かべながら、坂柳さんは手を引っ込める。

 

「まず先に、偽りの天才を葬る方が先ですね。沢田君を取り込むのはその後です」

「……」

「綾小路清隆君。近いうちにあなたを潰してあげます」

「……俺を潰せるのか? お前に?」

「もちろんです。あなたのお父様が作り上げた最高傑作を破壊してこそ、悲願も達成できるというものですからね」

「……そうか。そう願いたいものだな」

「ええ。……では、私はこれで失礼しますね」

 

 そう言って微笑むと、坂柳さんは杖をつきながら去って行った……

 

 

「……」

「……」

 

 坂柳さんがいなくなると、俺達の間に重い沈黙が訪れた。

 

(やば、どうしよう……坂柳さんの対応で頭いっぱいだったけど、綾小路君にボンゴレの事知られちゃったよ!)

 

 どう説明しようかと頭を高速回転させていると、ふいに綾小路君が深いため息を吐いた。

 

「……はぁ」

「!?」

「……なぁ、沢田」

「は、はい!?」

 

 ついに来たか。ボンゴレについてあれこれ聞かれちゃうのかと身構えた俺だったが、意外にも綾小路君は自分の事を話し始めた。

 

「……この際だ。お前には全てを話しておく。いつかは話そうと思ってたしな」

「え? は、話すって……坂柳さんが言っていた〝ホワイトルーム〟ってやつのこと?」

「そうだ」

 

 驚いた。話したくないだろうから聞かないでおこうと思ってたんだけど、自分から教えてくれるとは。

 

「ホワイトルームというのは、天才を人工的に作り出す事を目的とする教育施設の事だ。表社会では一切存在を公表されていない超秘匿教育機関でもある」

「……人工的に天才を作り出す?」

「そうだ。そこに収容された子供は、学問学術に問わず武術や護身術、処世術など様々な科目において徹底的に英才教育を施される。そして、施設内は全てが真っ白な壁や床で構築されていて、ホワイトルームの理念にそぐわない娯楽品などは一切存在しない。外界とも完全に隔離されていてほぼ自由はなく、ひたすら独自のカリキュラムを受けさせられる日々が続く」

「そ、そんな場所が? も、もしかして綾小路君もそこの出身なの?」

 

 そんな場所があるなんて信じられない。だが、綾小路君は俺の質問に無言で頷いてしまった。

 

「そうだ。俺は生まれてからこの学校に入学するまで、ずっとホワイトルームの中で生きて来た」

「そんな……そんな教育を子供にする施設があるなんて」

「だから世間には秘匿されているんだ。ホワイトルームは人道的に認められるような施設ではないし、もし外界にもれれば大バッシングは避けられないからな」

「……で、でも。綾小路君は高校からは自由になったんだよね?」

 

 高校入学を機にホワイトルームを出たのなら、もう綾小路君は自由になったって事だよな。

 

 だが、綾小路君はこの質問には首を横に振った。

 

「……いや、自由にはなっていない。俺はホワイトルームを脱走してこの学校に入ったからな」

「ええっ!? 脱走したの? じ、じゃあもしかして追われてる身だったりする?」

「多分な。脱走はホワイトルームの関係者が手引きしてくれたんだ。この学校なら外界とも隔離されてるし、生徒でいる間はこの学校が守ってくれるからと、この高校に入学する事を勧めてくれた」

 

 飄々としていた綾小路君に、そんな暗い過去があったなんて……

 

 もしかして、普段から目立たないようにしているのは突出した能力を周りに悟らせないようにする為なのかもしれない。

 

「……つまりな。俺はそういう教育を受けて育ってきてるし、勝つ事が全てという考えを刷り込まれてるんだよ」

「……なるほど。だから前に、俺のやり方が理解できないって言ってたんだね」

「そうだ。ホワイトルームでは脱落するものに手を差し伸べる事なんてないからな」

 

 綾小路君がどうして無人島で俺に勝負を挑んできたのか。その理由が分かった気がする。

 

「坂柳が俺を紛い物だと言ったのは、俺がホワイトルームの出身だからだろう。何であいつが知っているのかは分からないが、作られた天才は生来の天才には勝てないと言いたいんだろうな」

「……そっか」

 

 綾小路君の過去を聞いた事で、2人の間がいい感じに縮まった。

 

 ……って事で終わりにはならないよねぇ。

 

「俺の話はこれで終わりだ。……で?」

「ん? で、って?」

「次はお前の話を聞かせてくれよ。ボンゴレファミリーってのは何なんだよ」

「あはは……やっぱり聞きたいよねぇ」

「まあな」

 

 綾小路君は自分の秘密を話してくれたのに、俺だけ話さないってのはフェアじゃないか。

 ……仕方ない、もう話すしかないな。

 

「ボンゴレファミリーっていうのは、イタリアンマフィアの名前だよ」

「イタリアンマフィアだと?」

「そう。ボンゴレファミリーは、世界中でも様々な影響力を持つ裏社会でも最大手のマフィアなんだ。10,000近いマフィアのファミリーを傘下に抱えているしね」

 

 ここまでは「へ〜、そんなマフィアがいるんだ」くらいで済むかもしれない。でも。この先の話はそうはいかない。確実に話した相手の自分への見る目が変わってしまう。

 

「……で、そんなすごいマフィアとお前にどんな関係があるんだ?」

「俺はボンゴレファミリー10代目ボス。ボンゴレⅩ世なんだ。今はまだ現ボスの9代目が指揮を取っているけど、この学校を卒業したら、俺は正式にボスを引き継ぐ事になってる。俺の先祖がボンゴレの初代ボスらしくて、その血縁者って事でボスに選ばれたんだ」

「……沢田が、マフィアのボス?」

 

 さすがにスケールがデカすぎるのか、綾小路君も目をパチパチさせている。

 まぁいきなりこんな事言われても信じにくいよね。

 

「……全然想像つかないな」

「あはは、まぁそうだよね」

「お前程のお人好しがマフィアのボスとか、命も精神も保たないだろ」

「そうだね、今まで色々な事件があったし、死んでもおかしくなかった事も沢山あるよ」

 

 俺の話を聞いて、綾小路君は俺を嫌いになるかもしれない。日本で言う所のヤクザのような団体のトップだなんて、そんな奴のそばにいたくないと思う人が大多数だろう。

 

 俺は周りに恵まれて、俺がマフィアだと知っても付いて来てくれる友達しかいなかったけど。

 

 果たして綾小路君は俺の正体を知ってどう思うんだろう。

 心配になりながら綾小路君の顔を見てみると、彼は何かを考え込んでいた。

 

「……なぁ沢田」

「ん?」

「お前、なんでマフィアのボスになろうと思えたんだ? いくら血縁関係だからって、わざわざ裏社会に飛び込む必要なんてないだろ」

「あはは、うん。俺もずっと絶対にマフィアのボスになんてなりたくないって思ってたよ」

「なら、どうしてだ?」

 

 綾小路君のその質問に、俺は昔の事を思い出しながら答えた。

 

「中2の終わりぐらいにさ、複数のボンゴレに敵対しているファミリーが合同で学校に攻めて来たんだよ」

「!」

「仲間達と頑張って対処して、死者は出なかったんだけどね。戦いの影響で数名の生徒が怪我を負っちゃってさ。そしてその中に、俺の大事な人もいたんだ」

 

 今でもその時の彼女の怪我を思い出すと胸が痛む。

 結構深い傷で入院する事にもなってしまった。

 

「でさ。思ったんだよね。学校を攻めてきたのは、俺がボンゴレⅩ世として生きる覚悟をしてないのが原因だって。うじうじしている俺の隙を付いて消そうとしたんだってさ」

「……」

「だから、大事な人の病室で決めたんだ。もう二度とこんな事が起きないようにしようって。マフィアに関係ない人達を巻き込む事だけは絶対にしないでおこうってさ」

「……それで、ボスになる事に決めたのか?」

「まあね。まぁでもボスになっても俺を狙ってくる輩なんて沢山出てくるじゃない? だから俺、自分の手でボンゴレ変えようと思うんだ」

「は? ボンゴレを変える?」

 

 綾小路君は目を見開いて俺の話を聞いている。

 

「そう。元々ボンゴレファミリーは、大事な人達を守る為の組織だったんだ。それがだんだんと大きく膨らんでいって今のボンゴレの形がある。俺は変わってしまったボンゴレをあるべき姿に戻したい。そして、ファミリーの力は守る為に使うんだ。俺の大事な人達や、ファミリーの大事な人達。そして、そんな俺に賛同してついて来てくれる人達と、その人達の大事な人達を守る為にね」

「……」

「裏社会やマフィアをどうこうするってのは、世界中に競争がある限り難しいと思う。だから、せめてマフィアや裏社会のごたごたで関係ない人達が傷つかないように守りたい。それが俺の目指すボンゴレⅩ世の姿なんだ」

「……」

 

 途中から綾小路君が一切しゃべらなくなってしまった。さすがに大きな目標すぎて引かれてしまったのだろうか。

 

「あ、あはは……いきなりこんな話して引かれちゃったかな」

「いや……純粋にすごいなって感心してたんだ」

「え?」

 

 綾小路君は目を瞑り、何かを考え込んでいる。そして、再び目を開いた彼の目には何かの決意が見て取れた。

 

「……よし。俺は決めたぞ」

「決めたって……何を?」

「俺、正式にお前の相棒になる事にする」

「え? 正式にってなに?」

 

 綾小路君は俺に背を向け、窓ガラスの方へと歩いていく。

 

「……この学校に入ってからずっと、特に何の目標もなく過ごして来たんだ。3年間ホワイトルームから逃れればそれでいいってな。お前のサポートをしていたのは、俺とは全く違う価値観を持ってるお前に興味があったからだ」

「う、うん」

 

 そこで話を区切ると、綾小路君はこちらに振り返り、俺に向かってまっすぐに歩いてくる。

 

「だが、さっきのお前の話を聞いて、俺の中の何かが変わった気がするんだ」

「?」

「先祖がマフィアのボスだから、次期ボスに選ばれた。そんな自分ではどうしようもない事でほぼ強制的に決められた道なのに、お前は腐る事もなく、むしろその環境を自分から変えようとしている。俺はその姿勢に……羨ましいというか、尊敬のような感覚を覚えた」

「……綾小路君」

「……俺は、ホワイトルームの〝正解〟が詰め込まれただけの人間だ。そこに自分の意思はなく、強制的に埋め込まれたもの。俺がこれまでの人生で自分の意思で決めて動いた事なんて、お前に戦いを挑んだ事くらいだ。……そして沢田。お前に言われた〝仲間〟や〝相棒〟という言葉は、俺が生まれて初めて自分の頑張りで勝ち得た……数字では表せない評価なんだ。だから、俺はお前からのその評価を大事にしたい。そして、お前からもらった〝相棒〟というポジションを、そう簡単に誰かに譲りたくない……と思っている」

「……うん」

 

 綾小路君のこの言葉を、一言一句漏らさずに心の中に刻み込んでおこう。

 

「だから……俺は坂柳なんぞにお前の相棒のポジションは奪わせない。その為に、俺はお前の相棒として恥ずかしくない行動を取ろうと思う」

「綾小路君……それじゃあ、これからの特別試験では本気を出してくれるって事?」

「いや、基本的に目立ちたくないというスタンスは変わらん」

「えっ! じゃあどういう事?」

「お前の相棒でいる為に必要な事なら、俺は本気で取り組むって事だよ。例えば、坂柳と勝負する事になった時とかな」

「! ……そっか。ふふっ、それだけでも俺は嬉しいよ」

 

 俺が笑うと、綾小路君は微笑みながら俺に手を差し出して来た。

 

「おそらくお前には、この学校でも成し遂げたい目標でもあるんだろ?」

「え。よく分かったね?」

「簡単だ。ボスになることが決まっているのに、わざわざこんな学校に入ってきてるんだ。何かしらの理由があると思うだろ」

「あはは、さすがは天才な相棒だね。そう、俺にはこの学校で成し遂げたい目標があるよ」

「よし、じゃあ俺は相棒としてお前が目標を達成できるように力を尽くそう。これからもよろしくな、ボス」

「ははっ、ボスはやめてよ」

 

 そして、俺は綾小路君と堅く握手をした。

 

 きっとこの瞬間に初めて、俺と綾小路君は真の意味での相棒になったんだと思う。

 

 

 ——この時、廊下の隅で2人の会話を聞いていたものがいた。

 

 そしてその人物は安心したように目を閉じて、誰にも聞こえないように小さな声で呟いた。

 

「……さすがです沢田さん。有栖さんを止めるには、きっと彼の力も必要です。だって……彼は未来でも、沢田さんの為に力を貸してくれていたのですから」

 

 

 

 

 〜おまけ〜

 

 

 —— 調停者コンチリアトーレ 幹部の独白 ——

 

「……!」

 

 目が覚めると、そこはいつもの天井だった。

 

「またあの夢か。……全く、10年も前の話なのに、よく何度も同じ夢を見るもんだ」

 

 ブツクサと独り言をいいながら、制服であるスーツに着替え身支度を行う。

 

 洗面所の鏡を見ながら頭髪を整えていると、部屋の扉を誰かが叩き始めた。

 

「ちょっと〜? あんたまだ準備できてないワケ?」

「……すまん、もう終わる」

「全く……今日は朝から会議だって言ってあったでしょ?」

「悪かったよ。……よし、これでいいな」

 

 身支度を終えた俺は、廊下へ繋がる扉を開けて外に出た。

 

 外で待っていたのは、長い金髪をポニーテールで纏めた成人女性だった。

 

「……待たせてすまん」

「はぁ……ほら、さっさと行くわよ?」

「ああ」

 

 女性と共に長い廊下を歩き始める。

 

「……今日は何の会議だった?」

「はぁ? それも覚えてないワケ?」

「……すまん」

「はぁ、何であんたがNo.2なのかしら」

「……ごめんって、No.4様。で、何の会議だ?」

 

 女性はジト目で俺を見ながら面倒くさそうに答える。

 

「今日は門外幹部達の報告会でしょ?」

「あ、そういえばそうだったな」

「そうよ。きっともう皆待ってるわよ」

「まだ朝の8時だろ?」

「皆出勤前に来てくれてんのよ!」

「ぐっ!」

 

 女性が手にしていた電子機器で頭を叩かれてしまった。

 

「……にしても、あいつらもモノ好きだよな」

「は? 何がよ」

「だって普通の仕事してるのに、わざわざこの組織の手伝いもしてくれてるんだぞ?」

「それはボスの人徳が凄まじいからでしょうよ」

「……まぁ、そりゃそうだな」

「というか、皆からしたらこっちを本職にしている私達の方がどうかしてるって思ってるかもよ?」

「……ありえるな」

 

 途中でエレベーターに乗り、別の階へ向う。

 そして、会議室と表示された一室に入った。

 

 ——ガチャ。

 

 会議室には数名の男女が集まっていた。

 

「あ〜! 遅いよ2人ともぉ! プンプン!」

「こいつがなかなか起きなかったのよ」

「にゃふふ、お寝坊さんはよくないよ?」

「……すまん」

 

 可愛らしい洋服の女性とカッチリしたスーツ姿の女性。

 スーツ姿の女性の襟元には、キラリと光る小さなバッチが付けられている。

 

「今日は1日オフだからな。別に時間は気にしなくていいぜ〜」

「なぁなぁ、昨日の試合でも大活躍だったらしいな。NBAも近いんじゃないか?」

「へへっ! まあな?」

 

 ジャージを着たガタイのいい男性とタクシーの運転手のような風貌の男性。

 

「……うう、今日もボスはいないんだね。元気無くなってきた」

「ちょっ、おい! この後グラビアの撮影だぞ! そんなテンション落とされたら困る! スポンサーをしてくれてるボスの為にも笑顔で頑張れ!」

 

 可愛らしい服を着た芸能人のような女性。

 そして、そのマネージャーのような動きをする眼鏡をかけた男性。

 

「今日はボスはどうしたんだい?」

「No.3と一緒に新総理に挨拶に行ってるわよ」

「あ、そっか。ついに総理になったんだね」

 

 警察官の制服を着た男性。

 

 それぞれが楽しそうに会話をする中、俺は上座の椅子に腰掛ける。すると、一気に空気が変わり、全員が真剣な表情に変わった。

 

「よし、じゃあ今月の門外幹部の活動報告会を始めようか」

 

 そして、俺は今日の仕事に取り掛かったのだった……

 

 

 ——その頃、首相官邸では……。

 

「……」

「緊張してる?」

「……ええ、5年ぶりですもの」

 

 総理執務室の前で、男性と女性が話をしていた。

 女性のほうは少し表情が固い。

 

「もっと気楽に行こうよ。総理も軽い気持ちで来いって言ってたじゃない」

「それは社交辞令でしょう。首相官邸に気楽に来る人がいるわけないわよ」

「ん〜。それもそうか」

 

 あんまり緊張感のない男性。その男性のネクタイを、女性はきつく締め上げた。

 

「ぐえ!」

「……こういう場では、ネクタイはきちんとしなさいって言ってあったはずよ」

「ご、ごめんね? 昨日までイタリアでガチガチな話し合いばっかだったからさ」

「はぁ、全く……」

 

 女性は深くため息を吐いた。

 

「……昨日、本部の参謀長にもため息を吐かれたよ」

「……目に浮かぶわ」

 

 その時。執務室の扉が開き、中から秘書らしき小柄な女性が出てくる。

 

「お待たせしました。どうぞ中へ。総理がお待ちしてます」

「はい」

「ありがとうございます」

 

 2人が執務室に入ると、中では来客応対用のスペースに総理が立っていた。

 

「よく来てくれた。調停者コンチリアトーレ総裁、そして日本支部副支部長殿」

「こちらこそ、お招きありがとうございます総理」

 

 総理と握手を交わす男性。その姿を見て、女性2人は同じ事を思った。

 

『この2人が握手するのを見たのは……3回目か。10年前の体育祭と卒業式以来ね』

 

「あの、それで本日はどのようなご用件で」

「ああ。実は危険なテロ組織が最近作られているそうでな。それをお前達に……」

 

 そして、本題に入った2人を見て……

 

『……クスッ』

 

 2人の女性は小さく笑ったのだった。

 



読んでいただきありがとうございます!
次回からペーパーシャッフル編です!
<< 前の話
目 次
次の話 >>



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧