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体育祭当日② 〜牙を向く悪意〜
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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
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体育祭当日② 〜牙を向く悪意〜
「くそがっ!」
「……須藤君」
龍園君の卑怯な策略に憤慨する須藤君。
一方、フィールドでは1年女子の玉入れ競走が始まっていた。
「……さぁ、次は綱引きだから準備しよう!」
「……わかった」
平田君の呼びかけで、Dクラスの男子達は綱引きの準備に向かった。
—— 第4種目「綱引き」 ——
次の種目は綱引きだ。
綱引きも棒倒し同様に簡単なルールで、先に2回勝利した組が勝ちとなる。
「綱引きなら変な小細工は出来ねぇだろ! 純粋なパワー勝負だ!」
「そうだね!」
綱引きなら無茶な勝負にはならないだろう。
今のところ団体戦は赤組が勝っている。個人戦はイーブンと言ったところだろうか。こうなると団体戦や推薦競技でいくつ勝ちをもぎとれるか、そこが重要になってきそうだ。
所定の位置で綱引きの準備をしていると、1年女子の玉入れ競走が終了したらしい。
『ピッ! 白組の勝利です』
「……女子は負けちまったか」
「そうみたいだね……」
「よし! 女子の分も勝つぜ!」
「うん!」
落ち着きを取り戻した須藤君と再度気合を入れ直し、俺達は綱引きの開始を待った。
そして、ついに始まると言う時に、なぜかAクラスで問題が発生した。
事前の話し合いで、AもDも前から身長順に並ぶ事に決めたんだけど、Aクラスの数名の男子がその決定に従わないのだ。
葛城君が従わない男子達を見回していると、その中の1人が口を開いた。
「なぁ、葛城君。いつまでも偉そうに仕切らないで貰えないかな?」
「……橋本、どういう意味だ?」
声のした方に目を向けると、橋本という名前の男子が手を上げていた。
長めの髪を後頭部にまとめていて、どこか飄々としている身長の高い男子だ。
葛城君の質問に対し橋本君は鼻で笑う。
「いや、そのままの意味なんだけど? あんたのせいでAクラスは最近負けっぱなしじゃないか。そんなあんたが立てた作戦で勝てるのか?」
まさか本番当日に異論を唱える人がいるとは。
Aクラス内でしっかりと話わなかったのかな。
Aクラスは葛城君と坂柳さんの2派閥に分かれているし、そうなっていても不思議ではないけど。
かと言って、当日……それも本番前にそんな事を言う理由が分からない。当日に言ったってクラスの成績が下がる可能性が高くなるのに……
Aクラスの派閥争いは、そうだと分かっていても止められないほどに苛烈なものなのだろうか。むしろ坂柳さんは同じクラスの橋本君を潰そうとでも考えているのか?
「……Dクラスの生徒が動揺している。今は内輪揉めなどせず、冷静に競技を進めるべきだ」
「答えになってないんだけど?」
「俺の立てた作戦を疑う気持ちは否定しない。だがここでAクラスの内輪問題が尾を引けば、坂柳の責任が生まれるとは思わなかったのか?」
「……葛城君は何にも見えてない」
橋本君はクスリと笑うと、ようやく決めていた位置で綱を握った。
「とりあえずやろうか。負けるのは嫌だしな」
橋本君に続き、坂柳さん派であろう人達も綱を握っていく。
それを見て俺達も綱を握った。
AD連合の最後尾は須藤君。身長もパワーも申し分ない。そしてその前には葛城君が陣取っている。
この2人が後ろにいれば、そうそう縄が引っ張られる事はないと思うんだけどな。
BC連合は真逆で身長が高い順に並んでいるようだ。最前線にはアルベルト君が陣取っており、その堂々とした立ち姿にはこちらもそう簡単には勝てないと感じてしまう凄みがある。
ちなみに龍園君は真ん中ぐらいに立っている。
きっとこの綱引きでも軍師的な役割に違いない。Bクラスが従うかは別だけど。
——ピイッ!
「行くぞ、おらぁ!」
試合開始のホイッスルとに須藤君が叫ぶ。
その声を合図に、両者は互いに綱を引き始めた。
「オー、エス! オー、エス!」
綱引きの標準的な掛け声と共に、AD連合は勢いよく綱を引いた。
最初こそ両者互角と思えたが、だんだんとBC連合がこちら側に引っ張られる。
「余裕余裕! このまま勝つぜ!」
——ピイッ!
ホイッスルが鳴り、AD連合の勝利が告げられる。
「よっしゃあ!」
勝利の雄叫びを上げる須藤君。
そんな中、Bクラスから冷ややかな目を向けられながら龍園君が指示を出し始めた。
「……配置換えだ。でけぇ奴が後ろに並べ」
龍園君の命令により、1試合目と真逆の順番に並び直すBC連合。
そしてインターバルが終了し、2試合目がスタートする。
——ピイッ!
「今度勝つぞオラァ!」
またも須藤君の叫びと共に綱を引き始める両者。
「オー、エス! オー、エス!」
さっきと同じように勢いよく綱を引くAD連合。
それなのに、明らかに手ごたえがさっきまでと違う。
引いても引いても位置が変わらないのだ。
しかし、それは相手も同じはず……だったのだが。
「おらおら、お前ら粘れよ? 簡単に負けたら死刑だからな」
『……』
龍園君の緩いが黒い激励が効いたのか、強烈な力が綱にかけられたようにこちら側が引きずり込まれる。
じりじりとこちらの縄が引っ張られていき、結局AD連合は負けてしまった。
「くそ! 人の配置でこんなに変わんのかよ!」
「1試合目と全然別もんじゃんか!」
Cクラスにあまりの変貌っぷりにDクラスからは驚きの声が多数上がった。
「よし、テメエらにしちゃ上出来だ。次も今と同じことを繰り返せ。それだけでADのカスどもには余裕で勝てる」
一方BC連合では、龍園君が淡々と兵隊達に命令を下していた。
——ピイッ!
息吐く暇もなく、3試合目がスタートする。
この試合で勝った方が勝者だ。
「オー、エス! オー、エス!」
「しゃあ! ぜってぇ引っ張られんなよ!」
体育祭のリーダーである須藤君に発破をかけられ、俺達は全力で綱を引っ張る。
今度は両者の引く力が均衡しているのか、お互いに全く動かない状態だった。
「おしおし! このまま根比べだ! 全員諦めんなよ!」
『お、お〜!』
須藤君の言う通りに、このまま我慢比べに突入するかと思った。
……だが、試合は全く予想していなかった展開を見せる。
「……やめろ」
「は? ……うわっ!?」
なんとBC連合のうち、Cクラスだけが龍園君のやめろという一言で綱を引くのを止めてしまった!
お互いに引っ張りあっていた綱を、いきなり片方だけ力が極端に弱くなったらどうなるか。
……そう。全力で引っ張っていたのが逆に仇となり、引っ張りすぎて後ろに倒れてしまうのだ。
「……ふっ」
AD連合が後ろに倒れてしまうと、龍園君がニヤリと笑う。
現在、綱の中心に付けられた白旗は若干こちら側に寄っている状態だ。しかし、今の俺達は倒れているから綱には全く力がかかってない状態。
「よし、今だぞお前ら。全力でひっぱれ」
龍園君のその一言で、Cクラスは再び綱を掴み引っ張り始める。こちらは誰も綱を引いていないので、いとも簡単に白旗がBC連合に近づいていく。
「くそっ! させねぇよ!」
急いで立ち上がったAD連合も綱を掴んで引っ張り始める。
だが、すでに白旗は白組の陣地に侵入してしまっていた。
——ピイッ!
「白組の勝利!」
結局、綱引きは白組の勝利に終わってしまった。
「おい龍園! なんだあのやり方! ふざけてるのか!?」
「はぁ? ふざけてなんかねぇよ?」
「いきなり力を抜くとか、相手が怪我する可能性もあるし、負ける可能性だってあるだろ!」
「実際には勝っただろ。なんの問題もない」
「ぐっ……」
今のCクラスの動きには仲間のBクラスも憤ったのか、試合終了後すぐに1人の男子が龍園君に文句を言いだした。
「くそ、くそが!」
俺の後ろでは、須藤君が地面を何度も強く踏みつけている。
またも龍園君の卑怯な策略に憤慨しているんだろう。
そんな須藤君に、葛城君が近づいて行く。
「やめるんだ須藤。向こうのやり方は褒められたものではないが、ルール違反ではない」
確かに、綱引きのルールに「力を緩めてはいけない」とか「綱を離してはいけない」という項目はない。
「でもよ!」
「お前が憤慨するのも龍園の作戦の内かもしれないぞ。お前の体力を削ろうとしてるのかもしれないだろ」
「……ちっ!」
葛城君のおかげで、須藤君はテントへと帰っていった。
俺もテントに帰りながら、葛城君にお礼を言っておく事にした。
「葛城君、須藤君を止めてくれてありがとうね」
「気にするな。俺達は団体戦で殆ど役に立てていないからな。……それより、背中は大丈夫か?」
棒倒しでの事を気にしてくれているのか、葛城君は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「うん、全然平気だよ」
「そうか。沢田は心も体も強いんだな」
「あはは、そうだといいな」
顔に笑顔を貼り付けながら、頭の中では龍園君の策略について考えを巡らせていた。
これまでに龍園君やCクラスにされた事。今日の体育祭でされた事。それらを考えていると、最悪な事態を起こされる可能性が浮かび上がってくるのだ。
(……龍園君は俺だけじゃなく須藤君も狙ってきた。こうなると、やっぱり堀北さんが狙われるのは間違いない。……もしもの時の為に今のうちに手を打たないとまずいかもな)
不安と焦りが募っていくが、ちょうどいい事にこの後は10分間の小休憩だった。この時間を利用しない手はない。
『只今より、10分間の休憩とさせていただきます』
休憩時間が始まると、俺はすぐに白組の陣営の近くに向かった。
目的は白組にいる2人の友達と話をする為だ。
白組の陣地に近づくと、目当ての2人がこっちに近づいているのが見えた。
ちょうどいいので、俺は2人に呼びかける事にした。
「お〜い! 一ノ瀬さん! 神崎君!」
「! あ、沢田く〜ん!」
俺の呼びかけに気づいた一ノ瀬さん達は、俺の方に走って来てくれた。
「沢田君、ちょうど沢田君の様子を見に行こうとしていたの」
「え? そうなの?」
いきなり予想外の事を言われてしまった。
どうして俺の様子を気にしてくれたのだろう。
俺が首を傾げていると、神崎君が口を開いた。
「沢田、Cクラスの奴らに痛めつけられてただろ? その事を一ノ瀬に話したら、沢田の様子を見に行くって言いだしてな」
「そっか。2人ともありがとうね」
「えへへ〜♪ 気にしないでよ、友達だもん!」
「そうだな、友達だからな」
そう言ってにっこりと笑う一ノ瀬さんと。クールに微笑む神崎君。
今は敵チーム同士なのに、そんな風に心配してくれているなんて。
……いい友達を持ったもんだな!
「ありがとう。体は全然平気なんだけど、実は2人に頼みたい事があるんだ」
「はにゃ? 頼みたい事?」
「沢田、一応今の俺達は敵同士なんだぞ。それをふまえての頼みか?」
「うん。赤組と白組の対決には関係ない事なんだけど、どうしてもお願いしたい事があるんだ」
「そうなんだ〜。で、そのお願いって何かな?」
「実はね……」
俺は2人に頼みたい事の全容を話した。
「……ん〜。いいけど、それって私達が掴んだ証拠で告発されたりしたら、白組に不利益にならないかにゃ?」
「大丈夫。体育祭の最中に告発したり、それによって勝敗に影響がでるような事にはしない。約束する」
「……そうか。俺はかまわん。協力しよう」
「私もいいよ! ……あ、でも一つ条件をつけてもいい?」
「条件?」
一ノ瀬さんは、お願いを聞く代わりに条件を一つ掲示してきた。
「体育祭の後、私のお願いも1つ聞いて欲しいの!」
「一ノ瀬さんも俺にお願いがあるの?」
「うん♪ あ、安心して? 沢田君やDクラスの不利益になるようなお願いじゃないから!」
断る理由はない。お互いに助けあってこその友達だ。
「わかった。その条件を受け入れるよ」
「ほんと? よかった〜♪」
「じゃあ早速やってみよう。またな沢田。何かあったらメールで送る」
「うん、お願いします!」
一ノ瀬さんと神崎君と別れると、もうすぐ休憩時間が終わりそうな時間になっていた。
「もう戻らないと。一応は最悪の事態に備えた対策を打てたな」
—— 第5種目「障害物競走」 ——
テントに戻ると、須藤君が大声を出して皆に喝を入れていた。
「次は障害物競争だ! 不甲斐ない成績を出しやがった奴は全員しばく!」
「いやいや! なんでしばかれなきゃいけないんだよぉ!」
「俺はリーダーだからな。下の連中の尻を叩くのも仕事なんだよ」
須藤君の言い方に怪訝な顔になっている人が何名か見受けられる。しばくとか言われたらそうなっちゃうよなぁ。
(……須藤君、それでは龍園君のやり方と同じだよ)
怒りによる暴走か、無茶苦茶な事を言う須藤君に、池君が恐る恐る質問をした。
「健。参考までに教えてくれ。……何位からが不甲斐ない成績?」
「入賞以外は全部だ!」
「きつすぎる!」
男子障害物競走が始まり、皆次々と競技に挑むが、ほとんどのDクラス男子は須藤君の合格ラインには届く事が出来ていなかった。
「くそっ!」
須藤君は頑張っていたが、対戦相手が良くなったのか2位だったようだ。
そして、俺の出番である最後のグループが走る番になった。
「位置について! よ〜い!」
——パアン!
スターターピストルの音を合図に、俺達は一斉にスタートする。
障害物競走は、平均台・網潜り・ズタ袋という3つの障害を越えながら走る競技だ。
まずは第一の障害物、平均台に挑む。
バランスを保ちながらできるだけ早く平均台を渡り切らないといけないが、俺はなんとか1位で平均台を終えた。
しかし、後ろに2人張り付かれていて、ちょっとのミスで1位を奪われそうな感じだった。
走るだけの区間で少しは差を開けれないかと思ったが、後ろの2人もかなり足が速いらしくそれほど差は作れなかった。
そして、もうすぐで網潜りに差し掛かる時。急に変な事が起きる。
「……沢田!」
「おい! 沢田ぁ!」
「!?」
後ろにいる2人から名前を呼ばれたのだ。
今は競走中。そして面識のない相手にいきなり名前を呼ばれる事はおかしい。
ちらっと後ろを見てみると、後ろの男子達はニヤニヤしてこちらを見ている。
(なんだ? 何かの作戦か?)
集中力を削いで失速させようとでも思っているのか? と考えた俺は、呼びかけを無視して走り続けた。
しかし、無視をしても呼びかけは止まず、網潜りに入ってもそのままだった。
「待てよ沢田ぁ!」
「お話しようぜ〜?」
網の中を匍匐前進で進みながら、後ろから聞こえてくる呼びかけを無視し続ける。
そして、もうすぐ網から抜られると言う時。
いつの間にか差を詰められていた2人に、両足を掴まれてしまった!
「なっ!?」
「沢田〜そんな焦んなよ?」
「ゆっくり行こうぜ?」
「は、離せ!」
すぐに足を振りほどこうとするも、匍匐前進の状態なので上手く力が入らない。
そして網の目が細かいから、外部から見ても俺が妨害を受けている事を気づかれる可能性も低い。
死ぬ気の炎エネルギーを足に纏わせれば振り解けるかもしれないが、細かい制御がまだ上手く出来ないので、人相手に使えば大怪我を負わせてしまうかもしれない。
なんとか振りほどこうともがいている内に、4位の男子が迫ってきていた。
その男子は俺達の現状を見て驚く。
「何やってんだお前ら!」
「いいから、お前は早く行け。俺らが抑えてるうちに1位を取ってこいや」
「はぁ!? こんなの卑怯だ……」
「うるせぇよ! 龍園君に報告すんぞ!」
「……分かったよ」
龍園君の名が出たと言う事は、この2人はCクラスということか。
(くそ! また龍園君の卑怯な手か!)
「離せ!」
「おお、いいぜ?」
「もうあいつが網を抜けたからな」
4位だった男子が網を抜けたのを確認すると、Cクラスの2人は俺の足を離した。
急いで俺も網を出ようとするが、Cクラスの2人はまだ後ろから声をかけてくる。
「沢田、もう無理だぜ?」
「あいつ俺らと同じ陸上部で、1年の中でも優秀だって評判だからなぁ」
どうやらこの2人と4位だった男子は陸上部だったらしい。
道理で走るだけの区間でも引き離せないわけだ。
最後の障害であるズタ袋も、追い上げはしたものの追い抜くまではいかなかった。
そして結局、俺は2位という結果に終わってしまった……
競技が終わりテントに戻った俺に、綾小路君が話しかけてきた。
「……惜しかったな、沢田」
「網潜り中に足を掴まれちゃったよ」
「! 妨害があったのか?」
「うん。だから堀北さんも心配なんだ……」
——パアン!
その時、ちょうど女子の障害物競走が始まったらしく、最初のグループである堀北さんが走り出す所だった。
俺は自分の件もあり、少し緊張しながら堀北さんの試合を見始める。
最初こそトップに躍り出た堀北さんだが、平均台に入る前くらいから時々後ろを気にする様な素振りを見せた。そして、堀北さんの後ろには女子が1人張り付いて走っている。
(……堀北さんも後ろから声をかけられているのか? じゃあ、あの女子もCクラス?)
平均台を終えた後も、堀北さんは後ろを気にし続けている。
俺と同じ様に縄潜りで足止めされるかと思ったが、網潜りは特に何事もなく堀北さんが1位で突破する。
ただ、それでも後ろにはCクラスの女子が張り付いていて、このグループは2人の1位争いの場と化している。
(このまま……何もないといいんだけど)
そんな俺の願いは、数秒後に脆くも崩れ去った。
『!』
ズタ袋の後。最後の走るだけの区間で、堀北さんと堀北さんに迫っていた女子が絡まるようにして派手に転んでしまったのだ。
「堀北さんっ!」
テント内から名前を呼んでも、競技中の彼女には届かない。
俺は自分の考えの甘さを呪った。
(くそ! まさか怪我を覚悟で接触しにいったのか!? 自分も痛手を追うのに、そこまでするくらいCクラスにとっての龍園君の存在は絶大なのか!?)
今の接触。普通だったら不運な事故だと思うだろう。だけど俺は、自分にも行われた妨害工作と堀北さんが後ろをチラチラと見ていた事から、間違いなく龍園君によっての指示だと思っている。
そして転んだ2人だが、Cクラスの女子は怪我がひどいらしく棄権。堀北さんは試合続行で再び走り出した。
しかし。捻挫でもしているのか満足に走る事はできず、結局最下位という結果で終わってしまった。
競技が終わり、テントに帰ってきた堀北さんに俺は話しかけた。
「堀北さん、大丈夫!?」
「……ええ。少し休めばなんとかなるわ」
そう言いながらも、戻って来てる時の堀北さんは、明らかに足首を庇っているのが分かる歩き方だった。
「足首……痛めちゃったんだね」
「いえ、そんな事は……」
苦しい誤魔化しをする堀北さん。そんな彼女の足首に、ふいに現れた綾小路君が触れてしまった。
「つっ!?」
「……そんな事あるじゃないか」
「勝手に触らないで! 大丈夫よ、我慢して参加するわ」
「堀北さん……でもその足じゃ」
「……大丈夫よ。それに、私が棄権したらDクラスは……」
大丈夫と言って譲らない堀北さん。
その視線はグラウンドにある電光掲示板に向けられていた。
電光掲示板には現在の両組の得点と、学年毎の得点が表示されている。
現在の点数は……赤組2,900点、白組2,950点。
そして、Dクラスは学年の中で……最下位だった。
綱引きや玉入れでの負け、個人競技で得た得点。それらを総合した現時点でのDクラスの得点は、Cクラスに負けているという事だ。
堀北さんの言う通り、今堀北さんが棄権したら得られる得点が減ってしまうから、Dクラスが学年最下位になってしまう可能性が高くなるだろう。
(……このままじゃ、負けてしまうかもしれない)
堀北さんを心配する気持ちと、勝ちたいと言う気持ち。そして龍園君への怒りが混ざり合い、俺の心の中はグチャグチャになってしまっていた。
読んでいただきありがとうございます♪
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