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夏休み最終日、episode of pool.
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あ、あれ……?
最長記録更新?
夏休み最終日、episode of pool.
夏休み最終日前日。
広場に来て欲しいと、綾小路君に呼び出された。
—— 広場 ——
「……大きなプール?」
「ああ。池達に誘われてな。沢田の事も誘っておいてくれって頼まれてるんだ」
夏休みの最終日に、敷地内にある大きめのプールに遊びに行こう、というお誘いの様だ。
「へ〜。でもさ、あそこって水泳部用の練習施設じゃなかった?」
確か水泳部以外は使用禁止だったはずだ。
「普段はな。だが夏休み最後の3日間のみ、一般生徒にも開放されるらしい」
「え! そうなんだ。じゃあ今年は明日がラストチャンスって事か」
「そう言う事だな。……で、どうだ? 行けそうか?」
「うん。特に用事もないからいいよ」
父さん直伝のトレーニングは、プールの後にこなせばいいしね。
それに、友達とプールに行くなんて久しぶりだから是非とも行きたい。
「そうか。よかった」
そう言うと、綾小路君は学生証端末を取り出して、誰かに電話をかけ始めた。
「……俺だ。沢田も来てくれるそうだぞ」
『おお! よくやった綾小路! よし、じゃあ沢田に変わってくれ!』
「わかった」
綾小路君は、自分の学生証端末を俺に渡してくる。
「池がお前に変わって欲しいそうだ」
「池君が? わかった」
電話の相手は池君だったようだ。
綾小路君の学生証端末を耳元に持っていくと、池君の声が聞こえてきた。
「沢田か?」
「うん」
「実はな、お前に頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事? 何?」
「あのな、女子を3人誘って欲しいんだよ」
男友達だけで行くかと思っていたけど、どうやら男女混合で遊ぶみたいだ。
「ちなみに誰を?」
「それはな……まずは俺の桔梗ちゃんだな」
「桔梗ちゃんね(俺の?)」
「……で、健の堀北だろ?」
「堀北さんだね(須藤君の?)」
「最後に春樹の佐倉だな!」
「佐倉さんね、分かった(……お、まだ諦めないんだね)」
うん、完全に池君達の好きな女子を集めて欲しいというお願いだな。
でも、なんで自分達で誘わないんだろう。
「……でもさ、自分達で誘った方が印象がいいんじゃない?」
「いや! それは無理! 難易度高すぎ! 来てくれる可能性低すぎだわ!」
「え〜、それは俺も同じだと思うんだけど……」
「何言ってんだ! 沢田は桔梗ちゃん達と仲良いだろう? 船でも記念撮影に呼んでたし!」
「それはそうだけど……」
記念撮影とプールへのお誘いじゃ、全然難易度が違わないですかね……
ここで、池君から端末を奪い取ったのか、須藤君の声も聞こえてきた。
「ツナ! 頼んだぜ! おそらく堀北を誘えんのはお前くらいしかいねぇからな!」
「須藤君、俺が誘っても来てくれる保証はないよ?」
「大丈夫だって! だってツナだしな!」
「そうだぜ! 沢田ならできる! 頼んだぜ、俺の佐倉を明日連れてきてくれよ!」
須藤君の声に混じり、山内君の声も聞こえてきた。
昨日失恋したばかりなのに、元気一杯だなぁ。
その元気さは見習うべきかもしれないな。
「てことで! お前には女の子達を誘うという、一番大事な任務を任せるぜ! あ、俺達は秘密兵器の準備をするからよ。へへっ、楽しみにしておいてくれよっ!」
「え? 秘密兵器ってな……」
「じゃあまた明日な! あ、プール前に8時半集合な!」
——ぶちっ!
締めの一言に返事をする間もなく、池君からの通話は切れた。
「……」
少しもやもやしながら、綾小路君に学生証端末を返す。
「……すまんな、面倒な役目を任して」
「ん〜、まぁいいよ。人数多い方が楽しいし」
「そうかもな」
「池君・須藤君・山内君・綾小路君・俺・桔梗ちゃん・堀北さん・佐倉さん。8人でプール行くなんて初めてだなぁ〜……」
「……? どうかしたか?」
「……いや、バランス悪いかなって」
明日の事を考えていたら、少し引っかかる事があった。
それは男女のバランスだ。今のままでは男5の女3になってしまう。
「別にいいんじゃないか?」
「でもさ、女の子も同じくらいいる方が、女の子的にも安心じゃない?」
「……まぁ、男の方が多いと怖いと思う奴もいるかもな。佐倉とか特に」
「でしょ? だからさ、もう2人女の子を誘おうかなって」
「いいんじゃないか? でも、誰を誘うんだ?」
「軽井沢さんとみーちゃん」
「……なるほどな。俺はいいと思うぞ」
「だよね! よし、じゃあ俺はさっそく電話で誘ってみるよ!」
「頼んだぞ。……俺は自分の部屋に帰るわ。暑くてかなわん」
そして、綾小路君はマンションへと帰っていった。
残された俺は、ベンチに腰掛けて早速電話でお誘いする事にした。
(え〜と、まずは桔梗ちゃんから)
——プルルルル、ガチャ。
桔梗ちゃんはワンコールで電話に出てくれた。
「もしもし? ツナ君、どうかした?」
「桔梗ちゃん、明日って用事ある?」
「明日? ううん、特にないよ?」
「そっか! じゃあさ、明日何人かで大きなプールに行こうと思ってるんだよ」
「プールって、あの普段は水泳部専用の?」
「そうそう。明日が一般開放の最終日だしさ、良かったら桔梗ちゃんも行かない?」
「……プールかぁ」
悩んでいるのか、少し沈黙する桔梗ちゃん。
「……女子も何人か来るの?」
「うん。まだ誘ってないけど、堀北さんと佐倉さん。あと軽井沢さんとみーちゃんにも声かけようと思ってる」
「! ……分かった、私も参加するよ♪」
「よかったぁ〜。明日の8時半に、プール前に集合する事になってるから」
「うん♪ 楽しみにしてるね♪」
「うん! じゃあまた明日ね」
「また明日〜♪」
——ピッ。
(よし! 桔梗ちゃんはオッケ〜。次は佐倉さんを誘ってみよう)
佐倉さんに電話をかける。
——プル、ガチャ。
「も……もしもしっ!?」
(え? まだ着信音鳴ってないんじゃない?)
佐倉さんのあまりの応答の速さに少し驚いてしまった。
俺が無言なのを心配して、佐倉さんが何度か呼びかけてくれた。
「もしもし? さ、沢田君? 大丈夫?」
「あ、ごめんごめん! 大丈夫だよ!」
「そっか、良かった。……そ、それでどうしたの?」
「うん。佐倉さん、明日何か予定ある?」
「明日? ……別に何もないよ?」
「そっか! じゃあさ、一緒にプールに行かない?」
「え? ぷ、プール?」
「うん。いつもは水泳部が使ってる大きいプールね。そこにクラスメイト何人かで行くんだけどさ、良かったら佐倉さんも誘いたいなぁ〜って」
「な、何人かでか。びっくりしたぁ〜」
「ん?」
「あ! ごめん、何でもないよ!」
「そう? ……それで、どう? 行かない?」
「……わ、私泳ぐの苦手ですけど、それでもいいのかな?」
「もちろん! 泳がなくても遊べる事は沢山あるよ」
「そっか。……じ、じゃあ行ってみようかな」
「本当? ありがとう! 集合時間は8時30分、プール前に集合だから」
「わ、わかった」
「じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
——ピッ。
よし。これで佐倉さんもOKと。次は堀……いや、先にみーちゃんを誘ってみよう。
(別に堀北さんに秒で断られるのを恐れているわけではない。なんとなくみーちゃんから先に誘いたくなっただけだ)
心の中で意味のない言い訳をして、みーちゃんに電話をかける。
——プルルルル、プルルルル、ガチャ。
「もしもし、ツナ君?」
「みーちゃん。あのさ、明日って予定ある?」
「明日? 別に何もないよ」
「じゃあさ、一緒にプールに行かない?」
「プール? 明日まで開放されてる所?」
「そうそう。クラスメイト何人かで行くんだけど、良かったらみーちゃんもどうかなって」
「……ツナ君以外にも男子がいる?」
「え? うん、4人いるけど」
「……女子は?」
「男子と同じく5人集めるつもり。今は桔梗ちゃんと佐倉さんが参加する事になってるけど、あと軽井沢さんと堀北さんも誘うつもりだよ」
「! そっか。ツナ君と軽井沢さんがいるなら行こうかな……」
(あ、そういえば……みーちゃんって男子が苦手なんだっけ。完全に気にしてなかった)
みーちゃんごめん。次に誘う機会があったらちゃんと配慮します。
「ありがとうね。明日は、8時半にプール前に集合する事になってるから」
「うん、わかった」
「じゃあまた明日ね」
「うん。また明日……」
「あ! ごめん、待ってみーちゃん!」
電話を切ろうとしたけど、ある事を思い出して慌てて制止する。
「ツナ君、どうかした?」
「うん……あのさ。バカンスから帰ってきてからも、小狼君や山内君に何かされたりしてない?」
「! うん、大丈夫だよ。接触もしてこないし」
「そっか、よかった」
みーちゃんが小狼君に何かされてるんじゃないかと思ったけど、大丈夫だったようだ。船上試験中の警告が効いているみたいでよかった。
これなら今後も大丈夫そうだ。
あ、でも用心に越した事はないよね。
「もし怖い事があったら、いつでも言ってね」
「うん。ありがとう。……あ、そうだ」
「? どうしたの? 何かあった?」
「そういえば、ツナ君に言ってなかったんだけど」
「何?」
「実はね、記念撮影した後に、アルロちゃんに声をかけられたの」
「アルロに?」
「うん」
(アルロが何でみーちゃんに?)
「何か用があったの?」
「うん。それがね、私に両親とのビデオ通話をさせてくれたんだよ」
「! ボンゴレで保護しているご両親に?」
「うん。アルロちゃんが本部に頼んでくれたんだって。それで、アルロちゃんが持ってるパソコンでビデオ通話させてくれたんだ」
アルロ、そんな事してくれてたんだ。
今度電話でお礼を言っておかないとな。
「ご両親は元気だった?」
「うん。元気だし心配ないって。今はボンゴレ本部で働かせてもらってるみたい」
「そっか。良かったね、みーちゃん」
「ツナ君のおかげだよ。本当にありがとう」
「いいよいいよ。みーちゃんは大切な友達だしね」
「えへへ。あ、そうだ。お父さんとお母さんが、私達が卒業したら真っ先にツナ君にお礼を言いに来るって」
「ええ? そんなのいいのに」
「どうしてもお礼が言いたいみたい。良かったら受け取ってあげてほしいな」
「ん〜、みーちゃんがそこまで言うなら。分かったよ」
「うんっ、ありがとう! じゃあまた明日ね!」
「うん、また明日」
——ピッ。
よし、これでみーちゃんもOKと。
みーちゃんの安全も確認できたし、一石二鳥だったな。
じゃあ次は……堀北さんいってみるか。
ラスボスにしたら余計に緊張しそうだし。
というわけで、次は堀北さんに電話をかける。
——プルルルル、プルルルル、ガチャ。
「……もしもし?」
「あ、堀北さん。今大丈夫?」
「ええ。問題ないわ」
「それなら良かった。あのさ、明日一緒にプールに行かない?」
「嫌よ」
「……」
にべも無い即答。
これぞ俺のパートナー・クオリティーさ。
しかし、俺も諦めるわけにはいかない。
呼べないと、何かアスファルトでプロレス技をかけられる気がするし!
「……そこをなんとか!」
「嫌よ」
「……お願いだから!」
「嫌よ」
「……」
取りつく島もないとはこの事か?
何を言っても「嫌よ」としか言わなそうだ……
どうしたものかと考えていると、なぜか堀北さんの方から声をかけてきた。
「……ねぇ。どうして私を誘うの?」
「え?」
「断られるのは目に見えてたでしょう?」
「……うん。悲しいけど」
「なら、どうしてそこまで誘い続けてくるの?」
「……それは」
何と答えるべきか。
須藤君に頼まれてるからなんて言えないし、そもそも俺自身も堀北さんを誘いたいとは思ってるしな。
ここは俺の気持ちを素直に答えた方がいいかも。
「だって……俺達の夏休み最後の思い出がさ、水筒に手が嵌まった事だなんて悲しくない?」
「うっ……その事はもう忘れなさい!」
「うん……その為にも、楽しい思い出で上書きしたいなぁって……」
「!……」
素直な気持ちを伝えると、堀北さんは沈黙してしまった。
そして、しばらくしてからため息を一つ吐いた。
「はぁ……分かったわ。私も行くわよ」
「え、いいの?」
「ええ。私も参加するわ」
「ありがとう! あ、8時半にプール前で待ち合わせだから!」
「了解よ」
——ピッ。
よかった。よくわからないけど、きっと気持ちが伝わったって事だよな!
これで4人集まった。後は軽井沢さんだけだな。
よし、さっそく勢いに乗って行ってみよう!
軽井沢さんに電話をかける。
——プルルルル、ガチャ。
「もしもし?」
「あ、軽井沢さん? 沢田です」
「うん。……で、何か用事?」
「あのさ、明日って何か用事ある?」
「明日? ……別にないわよ?」
「そっか。良かったら、一緒に大きなプールに行かない? ほら、明日まで一般開放されてるやつ」
「プール?」
「うん、クラスメイト何人かで行くんだけど」
「……」
「……?」
軽井沢さんは黙ってしまった。
プールはあんまり好きじゃないんだろうか。
「……あの、嫌だったら断っていいからね」
「……嫌、ってわけじゃないんだけど……」
嫌じゃないけど、悩ましいのだろうか。
「あのさ、返事をする前にちょっと会える?」
「え? うん。もちろん」
「少し話したい事があるのよ。今どこにいる?」
「今はマンション近くの広場にいるよ」
「わかったわ。私がそっちに行くから」
「うん、待ってるね」
——ピッ。
(返事をする前に話したい事ってなんだろうか)
まぁ軽井沢さんが来たら分かるか。
それよりも、外は暑いよな。出てきてもらうんだし、冷たい飲み物を準備しておこう。
という事で、俺は近くにある自販機に飲み物を買いに行った。
—— 自販機から戻ってくると ——
広場に戻ると、軽井沢さんがキョロキョロしているのが見えた。
俺を探しているのだろう。
「あ、ごめん軽井沢さん! 待たせちゃったね!」
「! 沢田君。どこに行ってたのよ」
「ごめんね。外は暑いから飲み物を準備しておこうと思って」
そう言って、買っておいたお茶のペットボトルを手渡した。
受け取った軽井沢さんは、すごくびっくりしている様に見える。
「あっ、ありがとう」
「ううん。じゃあベンチに座って話そうか」
「……ええ」
軽井沢さんと共にベンチに座る。
小休止で俺がペットボトルの蓋を開けてお茶を飲むと、軽井沢さんもお茶を飲もうとしてペットボトルの蓋を開けようとする……が、なぜか開かないようだ。
「ん〜、あれ? このペットボトルはずれのやつ?」
はずれ? 開けにくいって事で合ってる?
「ちょっと貸して?」
「え? うん」
軽井沢さんからペットボトルを受け取り、力を込めて蓋を回すと開ける事ができた。
結構硬かったから、女の子だと開けるのが難しかったんだろう。
「はい。開いたよ」
「あ、ありがとう」
ペットボトルを受け取り、お茶を飲んだ軽井沢さん。
ふぅ、と息を吐くと、本題に入り始めた。
「あのね、沢田君」
「うん?」
「返事をしなかった理由なんだけど、先に話しておきたい事があったからなの」
「話しておきたい事?」
「私が昔虐められてたのは、バカンス中に話したわよね」
「うん。聞いたよ」
「その時には言ってなかったんだけど。私、お腹に大きめの刃物の刺し傷があるの」
「えっ!?」
「中学の時にいじめっ子に刺されたんだ。随分深く刺されたから今でも痕が消えないのよ」
そう言うと、軽井沢さんは着ているTシャツを少しだけ捲り、お腹の傷跡をみせてくれた。
「! ……そ、そう言う事かぁ」
「……ええ」
(そういえば、軽井沢さんはプールの授業は全部見学してたよな)
水着に着替えるとなれば、クラスメイトの女子に肌を晒す事になる。そうなるとお腹の傷跡を見られてしまう可能性も高いわけで……
俺は、自分が軽井沢さんに対して最低な事をしてしまった事にようやく気づいた。
「ごめん! 本当にごめん! 軽井沢さんに嫌な思いをさせてしまった!」
「いいのよ。沢田君は知らなかったんだし」
「で、でも」
「いいの! ただ、沢田君にはこの傷の事も話しておきたかったから」
「……」
2人の間を沈黙が支配する。これは俺の責任なので、自分でなんとかしよう。
「本当にごめん。これからはもっと軽井沢さんの気持ちを考えて誘います」
「もう、いいって言ってるじゃない。それに、私はプールに行くつもりよ?」
「えっ!? で、でも着替えの時とか……」
「行きは下に水着を着ておけばいいし、帰りは、ちょっと嫌だけどまた水着の上から服を着るわ。下着を忘れたとでも言えば怪しまれないでしょ」
「……そこまで無理しなくてもいいよ?」
「無理してないわ。私が沢田君とプールに行きたいって思ったのよ」
「……そう? 本当にいいの?」
「ええ」
軽井沢さんが行きたいと思ってくれているなら、いいのかなぁ。
その分、遊んでる最中は軽井沢さんが楽しめるように頑張ろう。
嫌な思い出には絶対させたくない。
「ありがとう。明日は楽しい1日にしようね」
「うん。明日は何時集合なの?」
「8時半にプール前に集合する予定になってる」
「わかったわ。じゃあまた明日ね」
「あ、ちょっと待って!」
「何?」
ベンチから立ち上がった軽井沢さんを呼び止める。
「あの、2人で謝った後は、真鍋さん達からは何も言われたりしてないかな?」
「! ええ、何もされてないわ」
「そっか! 良かった。あ、でも不安な事があったらいつでも言ってね」
「うん。ありがとう」
そして、軽井沢さんはマンションに戻って行った。
その後。広場に1人残った俺は、まだ終わっていない今日の分のトレーニングに励むのであった。
——その頃、マンションに戻ろうとする軽井沢に声をかける者がいた。
(……なんで傷の事話しちゃったのかな〜私。別に話さないで断っても良かったのに。……でも、沢田君には私の事をもっと知って欲しいって思っちゃうのよね……)
「軽井沢」
「! 誰? ……って、綾小路君か」
「悪いな、急に話しかけて」
「別にいいけど。で、何か用?」
「ああ。沢田にプールに誘われたんだろ?」
「ええ。あ、綾小路君も来るの?」
「まあな。……それで、お前に頼みたい事があるんだ」
「頼み? 何?」
「それは……」
綾小路は小声で軽井沢に願い事を話した。
そして、それを聞いた軽井沢はすごく嫌そうな顔になった。
「は? 何それ、ありえないんだけど」
「分かっている、だからお前に対処を頼んでいるんだ」
「……あんた、何で私に教えたの?」
「は? なんでとは?」
「言わなければ、バレずにいい思い出来たかもしれないじゃない?」
「ああ……俺はこんな事で人生を棒に振りたくないだけだ」
「ふ〜ん、そう」
軽井沢は若干不安だったが、綾小路は真面目そうだから大丈夫かと納得する事にした。
「……沢田君は、この事知ってるの?」
「いや、沢田には話していないから知らないはずだ。安心しろ、知ってて黙ってるような奴じゃない」
「そ、そうよね」
軽井沢は内心ほっとした。ツナがこの事を知っていながら隠していたとは思いたくなかったのだ。
「で? 対処って何をすればいいわけ?」
「簡単だ。……」
そして、綾小路からの説明を受けた後。
2人は明日行く予定のプールへと向かったのだった。
—— 翌日、朝8時50分。プール前 ——
約束の8時50分。プールの前に男女が5人ずつ集まっていた。
「わ〜、堀北さんも来てくれて嬉しいな♪」
「……沢田君がしつこかったのよ」
「軽井沢さん、プール大丈夫なの?」
「まあね、今は体調もいいから平気よ」
「……」
桔梗ちゃん、堀北さん、みーちゃん、軽井沢さん、佐倉さん。
クラスメイトの女子が5人も集まっている事に、俺は池君達からすっごい称賛された。
「おいおい沢田! お前ってなんて仕事のできる男なんだ!」
「さすがはツナだな! 俺の親友なだけあるぜ!」
「やべ〜よ、ここは天国かよぉ〜」
「……はぁ」
「ははは……」
池君、須藤君、山内君は目をギラギラさせて女子達を見ている。
もう少しやましい気持ちを隠せないのだろうか。
「じ、じゃあ全員集合したし、中に入ろ……」
「あ! 沢田君じゃん! 君達もプールかにゃ?」
俺の号令に割って入ってきたのは、一ノ瀬さんと神崎君。そして数名のBクラスの生徒達だった。
「あ、一ノ瀬さん! やっほ〜♪」
「櫛田さん! やっほ〜♪」
嬉しそうに笑い合う桔梗ちゃんと一ノ瀬さん。
この2人はやはり仲良しさんらしい。
「ねぇ、良かったら私達もご一緒していい?」
「うん、もちろん♪ いいよね、ツナ君?」
「え? ……うん、もちろん!」
桔梗ちゃんがBクラスの参加を俺に確認してきた。
チラッと池君の方を見ると、だらしない顔でサムズアップしていたので多分「是非ともご一緒します!」って事だと思う。
「……悪いな、沢田」
「神崎君。いいんだよ、人数多い方が楽しいしね!」
「ふっ、それもそうだな」
神崎君が申し訳無さそうにそう言ってきたので、俺は笑顔で首を振った。
せっかくだし、DとBの交流会って事でいいよね。
「じゃあ沢田君、着替えたら中で集合って事で♪」
「分かった、また後で!」
更衣室の前で女子と別れ、俺達は男子用更衣室に入っていく。
『ふぅ〜、ふぅ〜』
「落ち着けお前ら。興奮しすぎだ」
「?」
更衣室に入りながら、池君と山内君が鼻息を荒くしていたのを須藤君が窘めた。
(2人とも、相当泳ぐのが好きなのか?)
そんな事を呑気に考えながら、更衣室に入った。そして、なぜか入り口から一番遠いロッカーに池君達が一直線に向かったので、俺達もその周辺のロッカーを使用する事になった。
—— 男子更衣室、ロッカー ——
「……沢田」
「ん?」
着替えていると、神崎君が話しかけてきた。
「お前、結構筋肉あるんだな」
「あはは、一応毎日トレーニングしてるから」
「……確かに、1学期のプールの授業の時より筋肉ついてる気がするな」
「え、本当!?」
「ああ」
綾小路君が会話に入ってきて、トレーニングの成果がきちんと出てる事が分かった。
「……よし、着替え終わったぞ。皆は……あれ?」
着替えが終わり、皆の事も確認しようとしたら、なぜか池君達3人組が着替えもせずに壁際に固まっていた。
「池君達? どうかしたの?」
「……」
声をかけても反応がない。何かに集中していて気が付かないのだろうか。
仕方がないので近づこうとすると、綾小路君に止められてしまった。
「沢田」
「ん?」
「あいつらは俺が急がせる。お前はBクラスの奴らと先に行ってくれ」
「いいの?」
「ああ」
「うん、わかった」
綾小路君の好意に甘え、俺は神崎君達と先に更衣室から出る事にした。
「まだ女の子達は出てきてないみたいだね」
「そうみたいだな」
外に出ても女の子はまだいなかったので、俺はBクラスの人達と雑談でもしておく事にした。
—— その頃、女子更衣室では ——
「今日でプールの開放日も最後だしね〜♪」
「だよね〜♪」
「でもさ、何かDクラスって男女で遊んだりする事なさそうなイメージだったから意外だなぁ」
「え? そう?」
「うん、あっても平田君と女子数名で遊ぶくらいと思ってたよ〜」
「ん〜、まぁそうかもね。今まではそうだったと思う!」
ロッカーに荷物を預けながら、一ノ瀬は櫛田とそんな話をしていた。
「ねぇ、今日は何でこのメンバーで遊ぶ事にしたの?」
「男子5人は普段から仲良しだからかなぁ。女子は……ツナ君に誘われたから?」
「! へ〜、そうなんだぁ♪」
「皆ツナ君に誘われたんでしょ?」
櫛田がDクラスの女子陣に問うと、全員が頷く。
「そうね」
「……そ、そうです」
「そうだよ」
「まぁね」
「へ〜、沢田君って女の子の友達多いんだねぇ」
一之瀬のその発言に、櫛田は一瞬真顔になる。が、すぐにいつものスマイルに戻した。
「そうだねぇ〜。私も朝は驚いたよぉ! 堀北さんと佐倉さんは知ってたけど、王さんと軽井沢さんとも仲良くなっているなんて知らなかったもん!」
「……そうね。私も驚いたわ」
櫛田の発言に堀北が同意する。
視線が美雨と軽井沢に集中すると、美雨は少し顔を赤らめて答えた。
「私は、干支試験中に仲良くなったんだよ」
「……私もそんな感じ」
「なるほど〜。そういえばここにいるの子達は全員記念撮影の時にもいたもんね!」
「あ〜、確かにぃ♪」
ニコニコしている一之瀬だが、ここで変な事を言い出した。
「沢田君って人を惹きつける何かがあるよね〜。女の子の友達が増えるのも納得だよ!」
「うんうん♪ ツナ君って不思議と人を集めちゃうタイプだよね♪」
「……優しくて頼りになるしね♪ あ〜、沢田君をBクラスに引き入れられたらなあ〜」
「は?」
「は?」
「えぇ!?」
「え?」
「は?」
一之瀬の何気ない言葉に、Dクラスの女子陣に緊張が走る。
「……ん〜。いくら一之瀬さんでも〜。大事なクラスメイトを奪わせるわけには、いかないかな♪」
「……というか、そんな事無理でしょう」
「あわわわ……」
「つ、ツナ君がBクラスに行っちゃったら私!」
「……そんなの、絶対認めないわよ」
「……あはははっ♪」
5人の反応を見てケラケラ笑う一ノ瀬。
「いや〜、沢田君って皆に頼りにされてるんだねぇ〜♪ ますますBクラスに欲しくなってきたなぁ〜」
『……』
冗談か本気かよく分からない一之瀬に、Dクラスの女子陣は少し嫌な気分になってしまう。
しかし、そんな空気を物ともせず、一ノ瀬は喋り続けた。
「うふふ〜、冗談だよ?」
「あ……あははっ♪ だよね〜」
「うん! でも、一緒に生徒会に入って欲しいとは本気で思ってる♪」
「なっ!」
今度は堀北だけが反応したようだ。
堀北は、怪訝な顔で一之瀬を見つめている。
「……生徒会に入ったの? 貴方が?」
「うん♪ 現副会長の南雲先輩に推薦してもらえたから、喜んで入らせてもらったの。元々生徒会に入りたいと思ってたからね♪」
「……そう。でもどうして沢田君を?」
「ん? 単純に私が一緒に何かしてみたいってのと〜、生徒会長が沢田君を狙ってるから♪」
「なっ!?」
堀北は驚いた。兄がツナの事を気にかけているのは知っていたが、まさかそこまでツナの事を買っているとは思っていなかったのだ。
「へ〜! ツナ君すごいね! 会長に認められるなんて♪」
「っ……」
「ねぇ〜堀北さん♪」
「……そうね」
少し暗い顔になった堀北は、それ以上何を言わずに着替え始めた。
「よおし、準備完了! 私達先にいってるね〜」
着替えを終えた一ノ瀬は、Bクラスの女子達を連れて更衣室から出て行った。
残されたDクラスの女子陣は、おしゃべりをする事もなく着替えを続けた。
が、全員が心中穏やかではなかった。
(……あの女。腹黒さなら私に負けないかもね)
(……沢田君が生徒会か……)
(うぅ〜。沢田君ってやっぱり人気あるなぁ)
(……ツナ君、私は卒業まで一緒のクラスでいたいよ)
(……沢田君は、私を見捨てたりはしないわ。気にするのもバカらしい事よ)
—— プールにて ——
池君達が合流後。
まずBクラスの女の子達が出てきて、すぐ後にDクラスの女の子達も出てきた。
よし、これで全員揃ったな!
と思ったけど、なんかDクラスの女の子達が暗い気がする……
気になったので堀北さんに聞いてみる事にした。
「……堀北さん。なんか皆暗くない?」
「……気のせいよ」
「え、そうかな?」
「そうなのよ」
堀北さんが何でもないと言うので、何でもないんだと思う事にした。
男子も男子で、なんか変になってるのが3名ほどいるし……
「……こ、ここが楽園か!?」
「おお……俺達のユートピアだぜ!」
「ふ、俺の刀が暴れたがってるぜ……」
変な事を言っているのは池君・須藤君・山内君の3人だ。
3人とも女の子を見ながらハァハァ言っている。
いや、それも仕方ないか。女の子の水着姿なんて滅多に見れるもんじゃないしね。
あんなに興奮するのはどうかと思うけど。
「新しい水着買っちゃった♪」
桔梗ちゃんはオレンジのビキニ。
「はぁ……競泳水着でも良かったのね」
堀北さんは白のビキニ。
「穂波ちゃん、スタイル凄すぎ!」
「そんな事ないヨォ〜♪」
「あるよ! 競泳なのに、この中で一番破壊力抜群だもん!」
一之瀬さん達Bクラスの女子は競泳水着。
「あ、佐倉さんはラッシュガード買ったんだね」
「肌を人前で晒すのは苦手で……」
佐倉さんはラッシュガードを着ている。
「軽井沢さん、暑くない?」
「大丈夫よ。男子に水着姿を見せたくないだけ」
軽井沢さんはパーカーを上に着ているが、みーちゃんが競泳水着なので軽井沢さんもそうなんだろう。
「わお! 沢田君、かなりいい体してるね!」
「あはは、ありがとう」
神崎君に続いて一之瀬さんにも筋肉を褒めてもらえた。
でも、ベタベタと体を触られるのは恥ずかしいです……
あと、堀北さんと桔梗ちゃんに睨まれてる気がするんですが……
「ね、ねぇ! 何しようか!」
2人の視線から逃れたくて皆に向けてそう言うと、一之瀬さんがハイハイと飛び跳ねながら手を上げた。
「はいは〜い♪」
「ぶふぉ!?」
「か、神は女の子だったのか……」
飛び跳ねる一之瀬さんを見て、池君と山内君がハッスルしている。
気持ちはわかるんだけど、もう少し隠す努力をしてほしい。
「一之瀬さん、何かあるの?」
「うん! プールでバレーやろうよ!」
バレー用のネットが設置されているプールを指差しながら、一ノ瀬さんはそう言った。
「おお! やろうぜ!」
一番乗りに賛同したのは池君だった。
でも、俺達は10人であっちは6人だ。人数差がある。
だけど、その問題はあっさり解決した。
「……私、スポーツ苦手だから見学するわ」
「あの……私も運動苦手なので遠慮します」
軽井沢さんと佐倉さんが見学を希望したのだ。これで、8対6。こっちが交代しながらでやればちょうどいいかもしれない。
それでいいかなと思っていたのだが、一之瀬さんからこんな提案があった。
「こっちが2人少ないから、そっちから1人助っ人をくれない? それで7対7になるし! 人数多めの変則ルールって事で!」
「それいいね♪ えっと、じゃあ誰が助っ人に行く?」
一之瀬さんの提案に桔梗ちゃんが賛同した。
「じゃあさ、サーブ権を決めるジャンケンで勝った方が選ぶって事でどう?」
「あ、それいいかも! 皆もそれでいい?」
全員が頷き、7対7での試合をする事になった。
「じゃあいくよ〜! じゃ〜ん、け〜ん」
『ぽんっ♪』
一之瀬さんと桔梗ちゃんのジャンケンの結果は、一之瀬さんの勝利だった。
「やった〜♪ じゃあ沢田君をもらうね!」
『!』
「分かったよ。皆よろしくね」
選ばれてしまったので、チームメイトとなるBクラスの5人に挨拶をする。
さすがはBクラスというべきか、皆喜んで迎え入れてくれた。
そのかわり、桔梗ちゃん達に睨まれてる気もするけど……
「……よ〜し! 皆、絶対勝とうねっ♪」
「おお!」
「桔梗ちゃんのためにぃ!」
なんでか分からないけど、Dクラスはやる気満々になっているようだ。
これは気合を入れて頑張らないと負けそうだ。
何てったって相手には須藤君がいるからな。
そして、ここで桔梗ちゃんから追加ルールの提案が出された。
「あ、ねぇねぇ一ノ瀬さん? 勝ったチームに負けたチームがお昼を奢るって事にしない?」
「お? いいねぇ! それ採用っ♪」
「うふふ♪ 負けないんだからっ♪」
「こっちだって負けないよ〜♪」
一之瀬さんと桔梗ちゃんの間に火花が見えるのは気のせいかな?
(……あ、でもいきなり軽井沢さんに退屈させちゃうな。でも無理に参加させるわけにもいかないし……)
少し考えてみると、軽井沢さんも佐倉さんも暇しないで済む作戦を思いついた。
早速見学してる2人に伝えよう!
「佐倉さん! 軽井沢さん! Bクラスの応援を頼むね!」
「えっ? う、うん」
「普通Dクラスの応援じゃないの? まぁいいけど」
おかしいな。なんか2人とも困惑してる気がする。
—— 試合開始 ——
Bクラスwith俺対Dクラスの試合が始まった。
池君のサーブから始まり、ラリーが続いた後にDクラス側にボールが帰る。
「須藤君っ!」
「おうよ! ナイストスだぜ櫛田!」
セッターの桔梗ちゃんがトスを上げた。そして、そのトスに合わせて須藤君が飛び上がる。
「おりゃあっ!」
須藤君のスパイクが俺に向けて飛んでくる。
俺は、こっちのセッターである神崎君に渡るようにトスを上げようと手を構えた。
「が、頑張れ〜」
「しっかりやんなさいよ〜」
あんまりやる気なさそうな応援を受け、俺は須藤君のスパイクをレシーブする。
「うわぁっ!」
しかし。ちゃんと真上に上げられるようにボールを受けたはずなのに、威力のある須藤君のボールはラインの外側へとすっ飛んでいった。
「やったぜ!」
「須藤君すごーい♪」
先制ポイントに盛り上がるDクラス。
くそ、次こそは止めて見せる!
そう思って頑張るも、全然須藤君のスパイクを返す事ができない。
こっちのチームも攻撃が決まらない訳ではないので、互いに点の取り合いが続いていった。
そして、Bクラス22ポイント、Dクラス23ポイントでDクラスのセットポイント。
「皆、ここを止めるよ!」
「ああ!」
「うんっ!」
「お〜!」
一ノ瀬さんの言葉でチーム内に活気が出る。
(ここを抑えればデュースに持ち込めるし、俺も頑張るぞ!)
気合を入れて、相手のサーブに集中する。
「おりゃ!」
(ラストサーバーは山内君か)
山内君のサーブは、一ノ瀬さんの頭上に飛んでくる。
「一ノ瀬!」
「はいっ!」
一ノ瀬さんはなんなくレシーブし、セッターの神崎君にボールが渡った。
「沢田!」
「うんっ!」
スパイカーに選ばれた俺は、助走をつけてトスに合わせて飛び上がった。
「せいっ!」
バシッと言う音と共に、俺のスパイクは綾小路君に向かって飛んでいく。
(綾小路君か……頼む! 決まってくれ!)
「……よっ」
——ポーン!
俺の願いも虚しく、綾小路君の返したボールはセッターの頭上に綺麗な弧を描くように飛んでいく。
「須藤君!」
「よっしゃ!」
桔梗ちゃんに呼ばれて、須藤君が助走を始めた。
くそ、須藤君のスパイクか!
須藤君のスパイクは、今の所誰もレシーブ出来ていない。
(止めるには、ブロックするしかないか!)
レシーブできないなら、スパイクした瞬間にブロックするしかない。
しかし、須藤君のスパイクを止めるには相当力を込めてブロックしないと力負けしてしまうだろう。
(そういえば昔、体育の授業で獄寺君にブロックのコツを教えてもらった事があったよな)
「10代目! 大事なのは助走です! 助走のエネルギーでパワー不足を補える筈なので、エネルギーを下半身の力に変えてジャンプしてください!」
……助走からの、下半身に力を込めてジャンプか。
よし、一か八かやってみるしかない!
「が、頑張れ〜」
「これ取らないと負けちゃうわよ!」
試合の盛り上がりに比例して軽井沢さんの応援もパワフルになっている。
これは俺も答えねばなるまい。
須藤君がスパイクを打つ瞬間。そこに最大のパワーを持ってこれるように助走をする。
焦ってはいけない。最良のタイミングを狙うんだ。
「……今だ!」
直感で感じたベストタイミングで助走をスタートする。
(助走で生まれたエネルギーを、下半身の力に変える!)
下半身に意識を集中させ、全身のエネルギーを下半身に集める。
そして、ネット前に到達した所で全エネルギーを開放する!
「……うおおおおおおっ!」
——バシャン。
水しぶきを上げて飛び上がった俺は……
「……あれ?」
「ナニィィィィ!?」
「なんつうジャンプ力だよ!?」
須藤君や池君が驚くのも無理はない。
なぜなら……ジャンプした俺は、ネットを軽く超えるくらい高く飛んでいたのだから!
「須藤君! 決めて!」
「お、おらああああっ!」
俺のスーパージャンプで怯んだ須藤君だが、桔梗ちゃんの声援で我に帰ったのか、全力で腕を振る。
そして、須藤君の全力スイングを受けたボールは……
勢いよく、俺の股間にクリーンヒットした!
「うぼおぁっ!?」
「ツナぁっ!?」
俺のスーパージャンプは、完全に須藤君のスパイクタイミングと一致していたはずだ。
しかし、俺のスーパージャンプに驚いたせいで、須藤君のスパイクタイミングが少し遅れてしまった。
それにより、本来なら来るはずのタイミングにボールは来ず、少しずつ高度が下がっていき、ちょうど股間がネットの真上に来るタイミングでスパイクが放たれたわけだ。
おかげで股間にクリーンヒットですよ……
「ううっ、ゴボゴボ……」
「沢田っ!」
痛みに耐えきれず、立ってられずにプールの中に溺れそうになる俺。
そんな俺を神崎君が助けてくれた。
「だ、大丈夫か」
「うううっ……痛い」
痛みに悶えていると、……両チームの男子から拍手が送られてきた。
——パチパチパチ。
「すげぇよツナ! お前の勝ちたいという思い、ちゃんと伝わったぜ!」
「急所を犠牲にしてまでも、必ずブロックしてやるという決意。あっぱれすぎるぜ沢田っ!」
男なら分かるこの痛み。そんな思いをしてまでも、須藤君のスパイクを止めてやるという俺の決意を称賛してくれているようだ。
一方、女子陣はポカーンとしていた。
「……だ、大丈夫なの? 急所に直撃してたけど……」
「……もう子孫は残せないかもしれないわね」
「ほ、堀北さん。そんな怖い事言ったら可哀想だよ?」
(堀北さん。みーちゃんの言う通り、怖い事言わないでよ……)
「……神崎君、あれってそんなに痛いの?」
「ああ。相当な痛みだ。これは男としては拍手を送らねばならん行動だ」
一ノ瀬さんは気になるのか、どれほどの痛みなのか神崎君に確認していた。
「そうなんだ……あ、でもアウトになったから結局私達の負けだね」
(あっ……)
そういえば痛みで見てなかったけど、俺の股間に当たったボールはラインの外に落ちたのでアウトになったらしい。
『……』
『……』
一ノ瀬さんの一言に、BクラスもDクラスも沈黙した。
その原因を作った俺に出来ることはただ一つ。
痛みに耐えながら1人で立ち、深く深く頭を下げる事だけだ。
「ご、ごめんなさい……」
—— 昼ごはんタイム ——
「いただきま〜す♪」
「よっしゃ! たんまり食うぜぇ!」
設営された出店で好きなものを買いまくった皆は、美味しそうに食事を取っている。
費用は……全額俺持ちさ。
試合を変な感じで終わらせた事と、俺の股間に当たったボールをもう触りたくないだろうと言う事で、俺の1人負けで試合を終わらせようって俺からお願いしたんだ。
(とほほ……何でこんな事に)
あの時のスーパージャンプ……
あれはおそらく、全身のエネルギーを下半身に集中させようとした事で、生体エネルギーが下半身にあつまった事で下半身の細胞だけが死ぬ気状態になった事が原因ではないだろうか。
中一の時、バレーで今回のような股間ブロックをした事があった。
確かその時は、リボーンによって足に死ぬ気弾を打ち込まれたから、スーパージャンプが出来たはず。
その時と同じような現象なんだとしたら納得が行く。
自力で死ぬ気になるトレーニングの成果が、今日少しだけ出たのかもしれないな。
というか、そうとでも思わないとやってられないよ!
そんな考察をしながら焼きそばを黙々と食べていると、一ノ瀬さんが話しかけてきた。
「沢田君。本当にいいの? うちのチームが負けたんだから、私もポイント出すよ?」
「あ、いいんだよ。俺のせいで楽しい試合に水を刺しちゃったし」
「そんな事ないのに……むしろ皆の沢田君の評価が上がったんじゃない?」
「あはは……まさか」
「少なくとも、私は評価が上がったよ? 沢田君は、仲間の為になら痛い思いをしてでも頑張ってくれる人なんだなって♪」
「あはは……ありがとう」
……まぁ、皆に嫌われてないなら良かったかな。桔梗ちゃん達も心配してくれたし。
そして、午後は普通にプールを楽しみ、プールの閉園時間がやってきた。
—— 夕方、プール閉園時間 ——
「いや〜、楽しかったなぁ!」
「だなぁ! 最高だったぜ!」
「うん♪ じゃあ皆、そろそろ帰ろうか!」
桔梗ちゃんの号令で、俺達は帰りの準備をし始める。
そんな中、軽井沢さんに声をかけられた。
「……ねぇ」
「ん? 何?」
「ちょっといい?」
「うん」
軽井沢さんに連れられて、皆とは少し離れたプールサイドに向かった。
「……今日は、誘ってくれてありがとう」
「! ううん。軽井沢さんも楽しめた?」
「ええ、結構楽しかったわ」
「そっか」
午後からは軽井沢さんも楽しそうに遊んでたからな。
楽しんでもらえたならよかった。
しかし、軽井沢さんが悲しそうな顔をしている気がするのはなぜだろう。
気になるので聞いてみるか。
「軽井沢さん、何かあった?」
「え?」
「なんか悲しそうだからさ」
「……」
軽井沢さんは「あちゃ〜」と言いたげな仕草を見せ、言いにくそうに話を始めた。
「今日さ。沢田君の周囲を見ていたんだけど……」
「うん」
「……分かってたけど、沢田君の周りには人がいっぱいいるでしょ? それもアンタの事を頼りにしている人達がさ」
「……そうだといいな」
「そうなのよ。……でね、私少し不安になっちゃったのよ」
「不安に? 何が?」
「私を守ってくれるって約束が、うやむやになっちゃうんじゃないかなって」
「!」
「他に沢山頼りにしてくれる人がいたらさ。私の事なんて後回しになるんじゃないかな〜って」
「そっか……それが不安なんだね?」
「……そうね」
なるほど。俺が軽井沢さんの事を放置して、また誰かにいじめられるんじゃないかって不安になっちゃうのか……
—— 軽井沢side ——
……なんでこんな事言っちゃったんだろ。
こんなこと言ったら、めんどくさいって切られちゃうかもしれないのに。
でも、沢田君にはなぜか……全てを知って欲しいって思っちゃうのよね。
「……軽井沢さん」
「……ん?」
やば、さすがにめんどくさ過ぎたかも。
これでもう縁切りとか言われたらどうしたら……
そう思っていたけど、沢田君は全然違う事を言ってきた。
沢田君は少し遠くにある競技用プールを指差した。
「俺、今からあそこまで行くから。俺が手を降ったら俺の事を呼んでくれる?」
「……は?」
「頼むね!」
「え、ちょっと」
私の制止も聞かず、沢田君は走って行ってしまった。
やがて、競技用プールについた沢田君は私に向けて手を振ってきた。
……仕方がない。少し恥ずかしいけど、声に出して呼んでみるか。
「……沢田君!」
「!」
私が名前を呼んだ瞬間。沢田君はこっちに向かって全速力で走ってきた。
全速力なのもあって、行きの半分未満の時間でこっちに戻った。
さすがに疲れたのか息を切らしている。
「はぁ、はぁ……」
「……あの、何でこんな事したの?」
「はぁ、はぁ……い、今みたいにさ」
「え?」
「はぁ、ふぅ……」
一度呼吸を整えて、沢田君は再び話始める。
「今みたいにさ。俺、すぐに駆けつけるから!」
「駆けつける?」
「うん。軽井沢さんが俺を呼んでくれたら、今みたいに遠くからでもその声を聞いてさ、軽井沢さんの元に走っていくから」
「……うん」
「軽井沢さんに、辛い思いはさせないように全力を尽くすからさ。だから、俺の事を信じてくれないかな」
まさか、さっきのダッシュが私を安心させる為のものだったとは。
沢田君、わざわざそんな事までしてくれるの?
……私は、完全に沢田君の事を信頼しきれてなかったのかもしれない。だからあんな事まで言っちゃったんだ。
……うん。もう不安になるのは止めよう。ここまでしてくれる沢田君が、私を見捨てるはずなんてないじゃないの。
私は、沢田君の事を信じて付いて行く事に決めた。
彼となら、私の過去を乗り越えることも出来る気がするの。
「うん。ごめん、沢田君の事を信じるわ」
「そっか! よか……」
「こらぁっ! プールサイドを全力疾走するんじゃない!」
沢田君が微笑んだその時。監視員が沢田君に怒鳴りながら近づいてきた。
「わっ!? ご、ごめんなさい!」
「全く、二度とするんじゃないぞ!」
「はいいっ!」
監視員さんに深く頭を下げる沢田君。
さっきまでのカッコいい姿と今の沢田君の背中が対照的すぎて……私は思わず笑ってしまった。
「ぷっ! あはははっ♪」
「! よかった。元気になったね」
「あ、ありがとう、あはははっ♪」
「えへへ、めっちゃ怒られちゃったね」
「あはははっ♪ も、もう、皆の所に帰ろう」
「うん! そうだね!」
そして、私達は皆の所に戻った。
その道中。笑いが治った私は、可愛い水着を来た女の子達を見つめながら歩いていた。
(私も可愛い水着が着れたらなぁ……)
そして、その事に気づいた沢田君はこう言ってきた。
「ねぇ、高校を卒業したらさ」
「え?」
「俺の知り合いの、医療関係者を紹介するよ」
「医療関係者? なんで?」
私がそう聞くと、沢田君は私のお腹に視線を落とした。
「そのお腹の傷跡。綺麗に消してくれると思うんだ」
「……え?」
「もし、傷跡が消えたらさ。軽井沢さんも好きな水着を着てプールに行けるよね。あ、海にだって行けるよ」
「!……沢田君、ありがとう」
今の話がたとえ冗談だったとしても、卒業後の私が沢田君の事を軽蔑する事はないだろう。
それくらい、その言葉は嬉しかったんだ。
—— 帰り道 ——
「ねぇ、アイス食べない?」
プールからの帰り道。
一ノ瀬さんのその一言で、皆で近くのコンビニでアイスを買って食べる事になった。
それぞれアイスを買い、コンビニの周りの広いスペースで食べ始める。
ちなみに俺は、ソーダ味のアイスキャンディーだ。
「う〜ん♪ おいしいにゃあ♪」
「疲れた時は甘いものだよねぇ♪」
「男は黙ってデカチョコバー!」
「俺はホソホソ君一択よ!」
皆美味しそうにアイスを食べている。
そんな中、綾小路君は特に美味しそうに食べている事に気がついた。
「こ、これは……おいしいな……」
(まるで初めてアイスを食べたみたいな反応だな。それくらいアイスが大好きなのかも)
あんまり自分の事を話さない、綾小路君の貴重な情報だ。これは覚えておく事にしよう。
そんな事を考えていると、佐倉さんが話しかけてきた。
手には俺と同じソーダ味のアイスキャンディーを持っている。
「あ、あの沢田君」
「うん」
「き、今日は誘ってくれてありがとう」
「ううん。楽しかった?」
「うん。と、とっても楽しかった。Bクラスの子とも少し仲良くなれたし」
「そっか! 良かったね!」
そういえば、結構佐倉さんとBクラスの女子が話している場面があったなぁ。アットホームなBクラスの女子だから、佐倉さんも接しやすかったのかもね。
「そ、それでなんだけど……」
そう言って、佐倉さんはカバンからデジカメを取り出した。
「ま、また……ツーショットを、撮ってくれないかな」
「うん、いいよ」
「ほ、本当!?」
「うん。思い出だしね」
「うん! ありがとう!」
佐倉さんは嬉しそうに片手でカメラを持ち、俺に近づいてきた。
どうやら今回は自撮りするらしい。液晶部分を自撮り用に外側に開けるタイプのようだ。
今回はアイス食べた記念なので、アイスを見せびらかしながら写真を撮る。
——カシャ!
シャッターを切ると、佐倉さんは嬉しそうにデジカメを抱きしめた。
「あ、ありがとう!」
「ううん。あ、またその写真は送ってくれる?」
「もちろんだよ!」
佐倉さんがデジカメを大事そうに仕舞おうとすると、桔梗ちゃんが声を張り上げた。
「あ〜! 2人だけずるいよ! 皆で写真撮ろうよぉ♪」
「え? デジカメあるの? じゃあ皆で撮ろうよ♪」
桔梗ちゃんに続き、一ノ瀬さんも賛同した事で、全員が記念撮影モードに入ったらしい。(堀北さんと綾小路君は除く)
佐倉さんはカバンに入れかけのデジカメを取り出した。
「佐倉さん、また使わせてもらっていいの?」
「うん、記念だもんね。それにツーショットは撮れたし」
「え?」
「あ! な、なんでもないよ!?」
「そう?」
「あ、私が撮るよ!皆私の周りに集まって!」
立候補した桔梗ちゃんの周りに皆で集まる。
「行くよ〜? はい、チーズ♪」
——カシャッ!
今年の夏、2つ目の思い出が記録された。
「よし、オッケ〜♪」
「佐倉さん、また写真は2学期にでももらえるかな?」
「は、はいっ!」
「じゃあ皆、そろそろ帰ろうか♪」
マンションまで一緒に帰り、それぞれの部屋へと帰る。
明日からは2学期。また学校生活が始まる。
どんな事が起きるか分からないけど、Aクラス目指して頑張るぞ!
決意を新たに最上階の自分の部屋のドアノブを握る。
すると、一つ大事な事を忘れていた事を思い出す。
「あ……。今日はまだトレーニング終わらしてないじゃん! やばい、早くやらないと夜中までかかるぞ! 今すぐ始めないと!」
そして、俺は急いでエレベーターへと向かったのだった。
—— その頃。綾小路の部屋にて ——
綾小路は、部屋の中で誰かと通話していた。
「……無事成功したな」
「はぁ。まさか本当に仕掛けられてるとは思わなかったわ」
「すまんな。面倒かけた」
「……いいのよ。今日は楽しかったし」
「そうか? それならよかったが」
「……でも、なんで沢田君には教えなかったの?」
「絶対挙動不審になって他の女子に怪しまれるだろ」
「……確かに」
「だろ?」
「ええ……じゃあまた学校で」
——ピッ。
「……」
綾小路は電話を切ると、部屋の中で悶えている男達を見下ろした。
「……なぁ。もう帰れよ」
「あああ〜、なんで撮れてないんだあ〜」
「俺達の希望がぁ〜!」
「ちくしょう! こんなのってありかよ!」
「……はぁ」
悶えているのは、池・須藤・山内の3人。
そして、その3人の近くにある勉強机にはパソコンが置いてあり、その画面は真っ黒な画面を表示し続けていた。
『俺達の青春がぁ〜っ!』
by馬鹿3人組☆
読んでいただきありがとうございます♪
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