| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

夏休み最後の5日間SS、その①

閲覧履歴 利用規約 FAQ 取扱説明書
ホーム
推薦一覧
マイページ
小説検索
ランキング
捜索掲示板
ログイン中
目次 小説情報 縦書き しおりを挟む お気に入り済み 評価 感想 ここすき 誤字 ゆかり 閲覧設定 固定
ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

<< 前の話
目 次
次の話 >>
40 / 77
今回と次回で、バカンスから帰ってきてから、夏休み最終日までの数日間で起きたエピソードをショートショート方式でお届けします!

 つまりは原作4.5巻のお話を2話に分けますって事です✌︎('ω')✌︎

夏休み最後の5日間SS、その①

 

SS① Ⅹ世、かてきょーにしごかれる。

 

 

 昨日ついにバカンスから帰ってきた俺達一年生。

 

 夏休みはあと5日間残っているので、皆それぞれに満喫していることだろう。

 

 ちなみに俺は……絶賛トレーニング中です!

 

「……き、きつい」

「甘えてんじゃねぇ。お前が俺に指導を求めたんだろ?」

「そ、それはそうなんだけど〜」

「死ぬ気の到達点をモノにしたいだろ? それならこんくらいやらねぇとな。いや、むしろこれでもヌルいくらいだぞ」

 

 船上試験の時にひよりちゃんから出された課題、自力で死ぬ気の到達点に達する事。

 

 自力で死ぬ気にもなれない今の俺には、これはとてつもなく遠い目標だ。

 

 日本に帰る船旅の最中、まずどうすれば自力で死ぬ気になれるのかを考えたのだが、

 

(これは……1人で悩んでいてもやるべき事は思いつかないぞ)

 

 という結論に至り、かてきょーに頼る事にしたのだ。

 

 

 —— 昨日の夜 ツナの部屋 ——

 

「ふぅ……」

 

 自分の部屋につき、ベッドに腰かけて一息つく。

 キッチンではリボーンがコーヒーを煎れている真っ最中だ。

 

 ——コポコポ。

 

「……なぁリボーン」

「ん? どうしたツナ」

 

 コーヒーを煎れているリボーンに、帰りの船旅で考えた事をお願いしてみる。

 

「俺、自力で死ぬ気になれるようになりたいんだ」

「! ほぉ。どうしてだ? 小言丸があるじゃねぇか」

「ひよりちゃんと約束したからさ。死ぬ気の到達点に自力で到達してみせるって」

「ふむ……確かにしていたな」

 

 完成したコーヒーを、マグカップへと注ぎいれるリボーン。

 注ぎ切ると、一口だけ口にした。

 

「(ごくっ)……それで? なんでその話を俺にしてくるんだ?」

「基本的にボンゴレは学校内での出来事に干渉はしない。でも、お前は納得できる理由があれば指導はしてくれるんだろ?」

「そうだな。俺が納得できる事なら、かてきょーとして指導はしてやる」

「よし。じゃあ俺に死ぬ気状態に関する指導をしてくれ!」

「理由はなんだ?」

 

 ここで納得できる理由がなければ指導はしてもらえないだろう。ここが勝負だ。

 

「お前は死ぬ気の事にも死ぬ気の炎についても詳しいだろ。だから自力で死ぬ気状態になる術を知ってると思うんだ」

「そうだな。確かに死ぬ気については熟知しているつもりだ」

「だろ?」

「でもなんで教えて欲しいのが死ぬ気状態なんだ? 死ぬ気の到達点へ至るのが目標だろ?」

「自力で死ぬ気になれないのに、死ぬ気の到達点なんて到達できるわけないからだよ」

 

 質問への回答を聞いたリボーンはニヤッと笑った。

 

「ふっ。どうやら俺に指導を頼む前に、ちゃんと自分でもどうすればいいか考えたようだな」」

「もちろん。何も考えずにただ頼んでも、お前が受け入れてくれるわけないからな」

「俺の性格をよく分かってるじゃねぇか。褒めてやるぞ」

「伊達に3年間生徒をやってないよ!」

「ふふっ、そうだな」

 

 満足げに頷いたリボーン。しかし数秒後、今度はなぜか少し難しい顔になって考え込み出した。

 

「……すまねぇが、死ぬ気の到達点については俺から指導できる事はもうないかもしれねぇな」

「え? なんで?」

「……お前は一度死ぬ気の到達点を経験している。それはつまり、お前は死ぬ気の到達点に至れるだけの素質があるって事だ」

「素質?」

「そうだ。全身の細胞が死を覚悟するなんて、簡単にできることじゃねぇ。それが出来るだけの資質や強い意志が必要だからな」

 

 それと指導できる事が少ない事に何か関係があるのだろうか。

 

「で、だ。お前は死ぬ気の到達点に一度は到達した。つまりは体の細胞一つ一つに死を覚悟できる資質があり、経験がある。それに、アルコバレーノの奥義『特殊弾による技の継承』を使っても、体に死ぬ気の到達点に達する感覚を覚えさせることくらいしかできないだろうし、そもそも一番大事な自力で死ぬ気の到達点に達する方法が俺や家光にもわからねぇんだ」

「そ、そっか……」

 

 リボーンにも、あくまで俺に死ぬ気の到達点に到達させるサポートしかできないらしい。死ぬ気の到達点の事は自分で試行錯誤していくしかなさそうだな。

 

「だが、自力で死ぬ気状態になる術なら教えてやれるぞ」

「! 本当か!」

「ああ。……こいつを使ってな」

「?」

 

 リボーンはそう言うと、キッチンから自分のスペースへと移動し、何やら一冊のノートを持ってきた。

 

「ノート?」

「ああ。これにはな? 自力で死ぬ気状態になれるように奮闘した、1人の男のトレーニング方法が記されているんだ」

「1人の男? 誰?」

「家光だぞ」

「父さんかよ!」

 

 ノートをよく見てみると、表紙に『父から息子へ、愛の死ぬ気トレーニング大全!』と書かれている。小さく父さんのイラストも描かれているのは気にしないようにしよう。

 

「俺からお前にする指導は、このノートに記されたトレーニングを、お前の状態に合わせてこなさせる事だ」

「な、なるほど」

「よし、早速明日の朝からやるぞツナ」

「え? わ、わかった」

 

 この時の俺は、父さんのトレーニングがどれほど厳しいものなのか分かっていなかった。

 

 —— 現在 ——

 

「はぁ、はぁ……」

 

 と、いうわけで、今俺はトレーニングをしているわけさ。

 

 ……正直すごく辛い。今までのどのトレーニングよりもメニューが過酷すぎる!

 

「ダメツナ、何を辛そうな顔をしてんだ。もっと笑顔で走れ!」

「む、無理〜、しんどすぎて笑えないんだよ」

「このノートの1ページ目に、『全てのトレーニングは満面の笑顔でこなす事!』って書いてあるぞ」

「何だよそれ! 父さんの悪ふざけだろ!」

「いいから笑顔で走れ! このダメダメダメツナが!」

「ひぃぃ〜!」

 

 こうして、残りの夏休みの半分くらいを、笑顔でトレーニングをする時間に当てる事になりました……

 

 

SS② 占い師? ここ八百屋さんじゃ?

 

「199……200……う、占いのお店?」

「はい。バカンス中に出来たそうですよ」

「へ、へえ〜」

 

 ある日の昼下がり、広場で筋トレに励む俺の元にひよりちゃんが訪ねてきた。

 そして、なぜか俺のトレーニングを見学していく事になった。

 

 

 その途中、ひよりちゃんに一緒に占いに行かないかと誘われたのだ。

 

「よく当たるらしいんですよ。私と一緒に行きませんか?」

「……い、いいけど。みーちゃんを誘った方が良くない? 占いって好きな女の子多いし」

「それが、みーちゃんは今日の午前中にクラスの友達と行ってきたそうなんです」

「なるほど……うん、分かった。後5分待ってくれる? このトレーニングを終わらせるからっ」

「はい。見学して待っておきます」

 

 と言う事で、俺はひよりちゃんに見られながら区切りの良い所でトレーニングを終わらせた。

 

 —— ショッピングモール ——

 

 敷地内にあるショッピングモール。その中には、安い食材を売っている小さめの商店街のようなスペースがある。俺達Dクラスには強い味方だ。

 

「で、占いのお店ってどこにあるの?」

「あそこですよ」

 

 商店街を歩きながら、とあるお店を指さすひよりちゃん。

 

 ひよりちゃんの指している方向を目で追ってみると……

 

「え? あれ?」

「はい。あのお店です」

 

 確かに沢山の人が並んでいるが……どう見ても占いのお店ではない。

 

「……八百屋さんだよね?」

「はい。八百屋さんです」

「……占いのお店は?」

「八百屋さんが占いを始めたらしいんです」

「ええ!?」

 

 八百屋さんと占いなんて全く結び付かないぞ?

 なんで占いなんて始めたんだ?

 

「……怪しくない?」

「でも本当によく当たるらしいですよ?」

「ええ〜」

「しかも料金は野菜を一つ分。なんでもいいから商品を購入すれば占ってくれるんですって」

「……意外と商売上手なんだなぁ、あのおばちゃん」

 

 俺も八百屋さんは結構利用しているので、店主のおばちゃんとも顔馴染みだ。

 だから、あのおばちゃんが占いを始めるなんて余計にびっくりなのだ。

 

「あ、そのおばちゃんは退職されてますよ?」

「え!? そうなの!?」

「はい。で、今は新しい人が店長みたいです。占いもその店長が始めたんでしょうね」

 

 バカンスに行っている間に色々あったんだなぁ……

 

「とにかく、私達も並びましょう?」

「……うん。ここまで来たしね」

 

 今から帰るのも勿体ないので、占いをしてもらう事にした。

 

 列に並びながら買いたい野菜を選んでおけばいいらしく、俺とひよりちゃんも適当に野菜を選ぶ事にしたのだが……

 

 野菜を物色していると、変な看板が目に入ってきた。

 

『マシマロベジタブル、おいしいヨ♪』

 

「……ま、マシマロ?」

「マシュマロの事でしょうか?」

 

 その看板の下には、いくつかの野菜が置いてある。試しに一つ掴んでみると……

 

「……ふわふわです」

「……マシュマロで出来た野菜みたいだね」

 

 なるほど、マシマロで出来た野菜でマシマロベジタブルか。

 

「俺、これにしよう」

「私もこれにします」

 

 何となく気になってしまったマシマロベジタブルを持ち、列に並ぶ事数分。

 

「……お客様、こちらへ」

「わっ!? ……は、はい」

 

 いきなり白いフードを被った男が現れ、俺とひよりちゃんを店の奥へと案内し始めた。

 

 店の奥には小さな部屋があり、そこが占いのお店になっているとの事。

 

 部屋に入ってみると、そこには小さい机を挟んで三脚の椅子が置いてあった。

 二脚がお客さん用らしく、もう一脚には占い師が座っている。

 

 占い師は顔を伏せているが、若い男のようだ。

 

「どうぞ、おかけください」

 

 フードの男に言われるままに俺達は椅子に腰掛けた。すると……

 

「……ぷっ♪」

「?」

「ハハハハハw」

 

 占い師が顔を伏せたまま笑い始めた。

 

「……あ、あの。どうして笑うんです?」

「ハハハハハ♪ いや〜ごめんね? 久しぶりの再会で嬉しくなっちゃった!」

「! その声……まさか!」

「うん! そのまさかさ♪」

 

 ゆっくりと顔を上げる占い師。

 

「び、白蘭!?」

「いえ〜い♪  驚いてるね〜綱吉クン!」

 

 そう、未来で死闘を繰り広げ、代理戦争では共闘もした白蘭だったのだ!

 

「な、なんで白蘭が!?」

「あ、ボクだけじゃないよ? 後ろを見てごらんよ♪」

「え?」

 

 白蘭に言われるがまま後ろを振り向くと、そこには案内してくれた白フードの男が立っている。

 

「?」

「……(スっ)」

「あ!」

 

 白フードの男がフードを外すと、そこには……

 

「が、γガンマ!?」

「よぉ、代理戦争以来だな」

「えええ〜!?」

 

 白フードの男は、ユニの右腕であるγだった。

 

(な、なんでこの2人が?)

 

「ジョーコファミリーの強襲に供えての赴任ですね?」

「え?」

「そう! さすがはひよりちゃん♪」

「え!? どうして白蘭がひよりちゃんの名前を!?」

 

 さっきから驚いてしかいない俺に対し、ずっと冷静なままのひよりちゃん。

 

 驚愕している俺に見かねたのか、ひよりちゃんが説明し始める。

 

「この2人とは、入学前に一度お会いしているんです」

「!? そうなの!?」

「はい、ユニさんに協力を依頼する時に」

「あ、なるほど……」

 

 ユニに会うならミルフィオーレファミリーの所へ行かないといけないもんなぁ。

 

「……で、ジョーコの強襲に備えての赴任って?」

「ジョーコファミリーの幹部はボンゴレの壊滅を目論んでいます。バカンス中に仕留めきれなかった今、学校に強襲してきてもおかしくありません」

「そう! で、そんな時に綱吉クンの力になってあげてってユニに頼まれてさ〜、それでボク達が来たってわけさ♪」

「姫からボンゴレに掛け合ってな。ボンゴレも有事の為の人員を送り込むつもりだったそうだから、そこに俺と白蘭をねじ込んでもらったのさ」

「そんな事になってたとは……全然知らなかった……」

「ツナ君が学校生活に集中できるように配慮されたんですよ」

「そうそう♪ あ、ボク達は有事の時以外は学校に雇われたショッピングモール職員だから。学生生活を邪魔したりしないから安心していいよ♪」

 

 安心していいのか微妙だよ! 

 別に敵だとは思ってないけど……

 

「……それで、2人は八百屋を任されたんだね?」

「そう! でもそれだけだとつまんないじゃん? だから占いを始めたんだよね〜」

「……なんで占い?」

「女の子達が沢山集まるかな〜って!」

「そんな理由!?」

 

 ブルーベルが知ったら激怒するんじゃないか?

 この学校の女子が全員消されたりして……

 

 心配している俺の肩にγが手を置いてきた。

 

「心配すんな。学校の奴らに危害は加えない。姫との約束だからな。ブルーベルも白蘭が押さえるだろうよ」

「γ……俺の考えてる事がよく分かったね」

「俺も最初同じ事思ったからな」

「ああ……」

 

 気苦労が耐えなさそうなγに少しだけ同情してしまう。

 

「……でも、よく当たるって有名になってるね」

「うん! 平行世界に飛んで、お客さんに起こり得る出来事を調べてるからね、的中率は中々高いよ♪」

「それ占いなの!?」

 

 マーレの大空の適応者としての能力をそんな事に使うとは……

 いや、でも大繁盛しているからすごい有用な使い方なのかもしれないな。

 

「ところで、君達? お代は持ってきたかい?」

「ああ、これを買うよ」

 

 俺とひよりちゃんは、さっき選んだマシマロベジタブルを机の上に置いた。

 

「ワオ! さすがは綱吉クン。マシマロベジタブルを選ぶとはお目が高いねぇ〜♪」

「あはは……」

「よ〜し。早速占って上げようかなっ。ちょっと行ってきま〜す♪」

 

 そう言うと、白蘭は目を閉じた。並行世界へ飛んでいるのだろう。

 

「……これ、どれくらいかかるの?」

「ほんの数秒で戻ってくるぜ」

 

 γの言った通り、白蘭はすぐに意識を取り戻した。

 

「ただいまっ! 綱吉クンの占い結果から教えちゃうね」

「うん」

「えっとね〜。夏休み最終日、プールに行くお友達に注意! 以上♪」

「えっ? それだけ!?」

「マシマロベジタブルは安いからね〜♪ これぐらいが適正さ」

「看板でおすすめしてたくせに!?」

「おいしいよって味のオススメだよ? 別に占いのお代にオススメしますとは書いてないし〜」

「ぐっ!? 確かに……」

 

 完全に白蘭の言い分が正しくてグゥの音も出ない。

 あくまで商売なのですね……

 

「……私の占い結果は?」

「ひよりちゃんはね〜。……2学期になったら、綱吉クンがいいものを見せてくれると思うよ♪」

「いいもの?」

「そうさ! これ以上は教えないよ♪」

「ふふ、わかりました」

 

 俺とは違い、なんか満足そうなひよりちゃん。

 

「ごめん、もっとお話したいんだけど、後ろが詰まっているから今日はお引き取り頼むよ」

「ああ、うん。わかった」

「ありがとうございました」

 

 占い結果を言い終えると、白蘭は俺達に退出を促した。

 

 が、言われた様に椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとすると、白蘭が声をかけてきた。

 

「あ、ボクらは基本ここにいるから、たまには遊びにきてね。マシマロパーテーしようよ♪」

「う、うん……(マシマロパーテーて……)」

 

 手を振る白蘭に背を向け外に出る。

 

 最後に、レジでマシマロベジタブルの精算をした。

 γがレジ担当の様だ。

 

「マシマロベジタブル1つで、20Pだ」

「安っ!」

 

 読み取り機に学生証端末をかざして、それぞれ支払いをすませた。

 

「白蘭のおやつ用マシマロの余りから作ってるからな、安くていいらしい」

「余り物なんですか……まぁ有効活用かもしれないですが」

 

 ひよりちゃんもあまりの安さに苦笑いしてしまっている。

 

「そうだ。言い事を教えてやろう」

「良い事?」

「二学期が始まったら、野菜はスーパーで買え。ここはもうじき、マシマロベジタブル専門店になっちまう」

「なんで!? それはもうマシマロ屋じゃん!?」

「店長の独断だ……すまん」

「……いつもご苦労様です」

 

 やはり苦労していそうなγに労いの言葉をかけ、俺達はマシマロ屋を後にした。

 

 そしてマンションへの帰り道、ひよりちゃんがこんな事を言ってきた。

 

「さっきの私の占い結果……」

「うん」

「良い事って事は、ツナ君が私の課題をクリアしてくれるって事かもしれませんね」

「え! い、いやぁ〜、どうかなぁ〜」

「ふふふ、二学期が楽しみですね」

「あ、あははは……」

 

 ものすごいプレッシャーをかけられてしまった……

 

 あ、ちなみにマシマロベジタブルの味はまんまマシュマロでした。

 

 

SS③ 誕生日プレゼントを送れ!

 

 

「はっはっ……あっ!」

「……」

 

 ある日の午前中。ランニングをしていると、ベンチに座っているAクラスの葛城君を見つけた。

 

「……はぁ」

「?」

 

 葛城君はため息を吐きながら、手に持った赤い紙で包装された小さな箱を見つめていた。

 

(……どうかしたのかな。悩んでいるっぽいけど)

 

 葛城君が心配なのと、ちょっとした好奇心から葛城君に声をかけてみる事にした。

 

「あの……葛城君?」

「! ……お前は、Dクラスの沢田だったか?」

「うん。そうだよ」

「……俺に何か用か?」

「あ、ううん。偶然ここを通ろうとしたら、葛城君が悩んでるっぽかったから」

「……それだけで声をかけたのか?」

「そうだよ?」

「……俺はAクラスだぞ? 敵の事を心配するとは思えんがな」

「試験中でもないし、今は夏休みだよ? 少しくらい同級生同士の交流を深めても良いと思うけどな」

「本気でそう思っているのか?」

「もちろん」

「……」

 

 その時、葛城君は急に何かを思い出したかの様にハッとした。

 

「……そういえば、バカンスの最終日に、複数のクラスの人間が入り混じって記念撮影をしていたそうが……お前の発案か?」

「うん。思い出に残しときたかったからさ」

「そ、そうか……」

 

 葛城君は怪訝な表情で俺の事を見つめている。

 変な奴だとでも思われているのだろうか。

 

 やがて、葛城君はもう一度ため息を吐いた。

 

「はぁ……お前には無人島で龍園の作戦を阻止してもらったからな。恩返しって程でもないが、質問には答えよう。お前からは危険な雰囲気が感じれないしな」

「あはは、それはどうも」

 

 葛城君は箱をポケットに仕舞い込むと、ゆっくりと話し出した。

 

「実は、俺には双子の妹がいるんだ」

「! へぇ〜、妹さんはこの学校にいないよね? 実家に残っているの?」

「いや、俺達は祖父母も両親もすでに亡くなっていてな。今は親戚の家に住まわせてもらってるんだ」

「あ、ごめんね。嫌な事聞いちゃった……」

「気にするな。それで、じつは明日が俺達の誕生日なんだよ」

「! そうなんだ。あ、もしかしてその箱?」

「ああ、妹への誕生日プレゼントだ」

 

 妹の為にプレゼントを送るとは、葛城君は優しいなぁ。

 

「じゃあそれを妹さんに……あれ、どうやって渡すの?」

「……そこなんだ。俺が悩んでいたのは」

 

 この学校は卒業するか退学しない限り、外に自由に出入りする事も外部との連絡を取る事もできない。無論、宅配便もだ。

 

 つまり、妹さんに会う事もプレゼントを送る事もできないわけだ。

 

(なるほど、プレゼントを送りたいのに送る手段が無くて困っているというわけか)

 

「……どうしたものかと思ってな。生徒会長にも相談したんだが、やはり規則違反は許されなかった」

 

 この学校、規則は厳しいけど学校にバレなきゃなんでも有りだと思うんだけど。

 

「……規則違反なんてそこら中で起きてる学校なのに。特に龍園君!」

「ふっ、そうだな。あいつならバレなければ違反行為も普通に出来るんだろうが、俺は慎重でな。そんな危ない橋を渡る事はできんのだ」

「そっか……」

 

 その時、俺達の前を2人組の男女が通った。そのままどこかに行くと思ったのに、なぜか俺達の目の前に止まった。

 

 知り合いかと思って顔を上げると……

 

「……! 生徒会長と橘先輩」

 

 生徒会長の堀北学先輩と生徒会書記の橘先輩だ。

 

「……沢田か。もしかして隣の男の相談に乗っていたのか?」

「この男の相談は、生徒会で正式に否認しました。まだ何とかなるとでも?」

 

 生徒会長達の冷たい視線に、思わず葛城君は下を向いてしまう。

 

「あの、生徒会長。この学校って表沙汰にならないだけで、違反行為を行っている生徒もいますよね?」

「……そうだな。でもそれは、この学校のシステム上致し方ない事だ」

「クラス対抗だから、上を目指す為に仕方ない違反もあると」

「そうだ」

「じゃあ、生徒会長が葛城君の代わりに宅配便を送ったりはできませんか? 生徒会長ならそういう事もできるんじゃ?」

「……確かにできるが、俺がその男の為にリスクを犯す理由がない。何か得があるなら別だがな」

「まぁ……そうですよね」

「それに本当にやり遂げたい事なら、リスクを犯してでも裏道を探そうとするものだ。だが、その男は最初からその選択肢を手放している。つまりその程度と言う事だ」

 

 橘先輩が隣でうんうんと頷いている。

 

「では失礼する。まだ仕事があるんでな。バスケ部の試合の承認をせねばならんのだ」

「……」

「沢田、今度借りは返してもらうぞ」

「! はい」

 

 生徒会長達が去っていくと、葛城君は立ち上がった。

 

「すまない。俺のせいで嫌な思いをさせたな。もう諦める事にするよ。どうしようもないだろうしな」

 

 どこかに行こうとする葛城君。

 彼を止めるべく俺も立ち上がった。

 

「待って葛城君。プレゼントを送る方法を見つけたよ」

「……何?」

「生徒会長がヒントをくれたんだ」

「生徒会長が? で、その方法とは?」

「その方法は歩きながら話そう。まずはバスケ部用体育館に行くよ!」

「あ、ああ」

 

 その後、歩きながらプレゼントを送る方法を説明した。

 

「……なるほど。バスケ部の校外試合か」

「そう。部活動の試合なら敷地内に出る事ができる。もちろん監視はつくと思うけど、ポストに封筒を入れ込むくらいの事は出来るんじゃないかな。封筒に貼る発払いの伝票は俺が郵便局で買ってくるよ」

「確かにそれならいけそうだが……バレた時のリスクが高くないか?」

「それも大丈夫さ。生徒会長がなんとかしてくれる」

「何?」

 

 さっきの会話の中で生徒会長の口から発せられた、得がないと協力しない。そして、今度借りを返せという言葉。

 

 今の所、俺は生徒会長に借りを作った事はない。つまり、もしも問題行動が発覚した際にもみ消してやるから、今度その借りを返せという事だろう。

 

 生徒会長を信用しても問題ないかはわからないが、直感であの人は嘘を吐いてないと思ったんだ。

 

「あとは、それを実行してくれるバスケ部員が必要と言う事か」

「そう。須藤君に頼もうと思ってる」

「須藤……あの粗暴な奴か。そいつは引き受けてくれるのか?」

「大丈夫さ。須藤君は情に厚いし、きっと引き受けてくれる。お礼にポイントを俺から渡すし、交換条件としても十分なんじゃないかな」

「……わかった。沢田を信用する。だが、ポイントは俺から渡させてくれ。それが依頼者の責務というものだろう」

「そう? わかったよ」

 

 会話が終わる頃、俺達は体育館に到着した。

 

 —— バスケ部用体育館 ——

 

「……で、それを俺に頼みたいってのか?」

「うん。お願いできないかな? 頼れるのは須藤君しかいないんだ」

 

 部活終わりの須藤君を呼び出して、さっきの作戦を説明した。

 

 作戦を聞いた須藤君は困った様に頭を掻いている。

 

「ん〜。親友のツナからの頼みだし、罰則を受ける事もないならかまわねぇけどよ」

「けど?」

 

 須藤君は葛城君を睨みつけた。

 

「ツナ、葛城は信用できんのか? お前を騙してDクラスを貶めようとしてるんじゃね?」

「そんな事ないって。俺が見る限り、葛城君は何かを隠している様子はない」

「……ツナがそこまで言うなら、わかったぜ」

「本当? ありがとう!」

 

 俺が須藤君に頭を下げると、葛城君も頭を下げた。

 

「おお!? なぁツナ! こいつ、頭を下げたぜ! この俺に!」

「ほらね、信じても大丈夫さ」

「……須藤、すまない。妹の誕生日を祝ってやれる家族はもう俺だけなんだ。迷惑をかけるがよろしく頼む。礼もきちんとする。PPを10万ポイント支払う事を約束しよう」

「じ、10万ポイント!? こ、これは俄然やる気が出てきたぜ!」

 

 こうして、須藤君はやる気になってくれた。

 

 翌日には無事にポストへ投函が成功したそうで、葛城君は須藤君に10万ポイントを支払ったそうだ。

 

 

 

 

 —— 誕生日の夜。葛城side ——

 

「ふぅ……」

 

 晩ご飯を作り終え、テーブルに皿を並べる。

 今日のメニューはカレーだ。

 

 今日は兄妹の誕生日なので、妹との写真を入れたフォトスタンドも一緒に並べよう。

 

 そう思って、壁に設置された棚からフォトスタンドを取りに行く。

 

「……プレゼント、喜んでくれたか?」

 

 そう独り言ちながらフォトスタンドを見つめていると、あの男の顔が頭に浮かんだ。

 

 いきなり目の前に現れ、俺の悩みを簡単に解決してしまったDクラスの沢田綱吉。

 

 あの男は本当によく分からない。最初は気にする必要のない雑魚だと思っていたのに、バカンス中にはDクラスをいい結果に導いていた。

 

(龍園のような危険人物か……いや、今日は感謝以外の気持ちを持ってはいけないな)

 

 頭を振って余計な考えを消し去る。

 

「……沢田にも、今度別で礼をせんとな」

 

 フォトスタンドをテーブルに置いて、椅子に座ろうとした瞬間。来客のチャイムが鳴り響いた。

 

 ——ピンポーン。

 

「宅配便でーす」

 

(? 宅配なんて頼んでいないんだが……)

 

 一体何の荷物かと玄関に向かう。

 

「あ、葛城さんですね? 沢田綱吉さんからお届けものでーす」

「! ……はい、ご苦労様です」

 

 伝票にサインをし、荷物を受け取る。荷物は冷蔵の発泡スチロールだった。

 

(沢田……なんであの男から宅配が?)

 

 荷物を送られる理由がわからずもやもやする。

 中身が気になり伝票を確認すると、内容物には製菓食品と記載があった。

 

(……製菓? 開けてみるか)

 

 危険物ではなさそうなので、キッチンに持って行って発泡スチロールを開封してみる事にした。

 

 —— ガサガサ、パカっ。

 

「……! ……ふふっ、本当によく分からない男だ」

 

 中身を確認すると、思わず笑ってしまった。

 

 発泡スチロールから中身を取り出し、フォトスタンドの前に置く。

 

「ライターは……あった。後包丁と小皿だな」

 

 キッチンからライターを見つけ出し、ダイニングの椅子に座った。

 

「俺の……友人からの贈り物だ。一緒に味わおうじゃないか」

 

 同封された数字の16の形をした蝋燭を突き立て、ライターで火を付ける。

 

「……誕生日おめでとう」

 

 小さく息を吹きかけ、蝋燭に灯った火を消した。

 

 蝋燭を取り外し、包丁で4分の1を切り分けて小皿に乗っける。

 

「お前にホワイトチョコのプレートもやろう。俺は甘いのが得意じゃないからな」

 

 そう言って、取り分けた残りをフォトスタンドの前に置いた。

 

「いただきます」

 

 まずは夕食のカレーを平らげ、その後にデザートに移る。

 今日のデザートはチョコケーキだ。

 

「(パクッ)! ……ふふふ」

 

 ケーキを口にしたら、予想外の味に思わず笑ってしまう。

 

「……ビターチョコだったとはな。俺でも全部食べられそうだ」

 

 そう言って、もう一口ケーキを口に運んだ。

 

「うん、美味いな」

 

 

 ——フォトスタンドを見ながら微笑む葛城。

 

 フォトスタンドの前に置かれたチョコケーキには、チョコペンでメッセージが書かれたホワイトチョコのプレートが置かれている。

 

 そしてそのプレートには……

 

『葛城君、妹さん、誕生日おめでとう!』

 

 と、書かれていた。

 



読んでいただきありがとうございます♪
<< 前の話
目 次
次の話 >>


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧