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船上試験最終日、ひよりの正体。

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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船上試験最終日、ひよりの正体。

 

 —— 船上試験最終日、14時 ——

 

 みーちゃんを小狼君から離れさせる事に成功した後、俺とみーちゃんは二階の休憩スペースにやって来た。

 

 ベンチでしばらくみーちゃんを休ませていると、メール受信音が鳴り響いた。

 

 ——ピロン。

 

 メールを開いてみると、そこには俺の予想通りの内容が記載されていた。

 

 TO 沢田綱吉

 

 巳グループの試験は終了致しました。

 以降、巳グループの方は試験に参加する必要はありません。

 

 from 高度育成高等学校

 

 俺達巳グループの試験が終了したらしい。おそらく小狼君が密告したのだろう。

 

 みーちゃんには山内君を通して小狼君にみーちゃんが優待者だと誤認させるように仕向けてもらっていた。

 

 このタイミングでこのメールが来ると言うことは、ほぼ間違いなくみーちゃんの裏切りに怒った小狼君の復讐に間違いない。

 

 みーちゃんから小狼君の性格は聞いていたから、みーちゃんが裏切ればきっと何かで復讐しようと考えると思っていた。

 

「……上手く行ったね」

「うん。みーちゃんのおかげだよ」

「……えへへ♪」

 

 ベンチで休んでいるみーちゃんが、微笑みながら俺にそう言って来た。

 

「でも……こんなに上手くいくとは思わなかったよ」

「そこはほら、俺の頼もしい仲間達の協力あってのことだからね」

「ふふ、そっか。ツナ君は凄いね、頼もしい仲間がいて」

「まあね。でも、これからは俺達も仲間だから」

「え? 私ボンゴレファミリーじゃないよ?」

「ボンゴレは関係ないよ。俺達はDクラスの仲間で友達でしょ」

 

 俺の答えが意外だったのか、みーちゃんは目を丸くした。やがて、柔らかい表情になってにこりと微笑んだ。

 

「ツナ君、本当にありがとうね」

「いいよ、仲間を助けるのは当然だからね」

 

 そんな会話をしていると、再度メールの受信音が鳴った。

 

 ——ピロン。

 

(? 誰だろう……あ、ひよりちゃんからだ)

 

 メールの送信者はひよりちゃんだった。

 

 TO ツナ君

 

 1人で巳部屋まで来てくれますか?

 約束通り、私の正体を教えます。

 

 from 椎名ひより

 

(! みーちゃんを小狼君から引き離す事に成功したからかな?)

 

「ツナ君? どうかした?」

 

 俺がメールをじっと見ているから心配したのか、みーちゃんが声をかけてくれた。

 

「あ、うん。ひよりちゃんが巳部屋まで来て欲しいって」

「ひよりちゃんが?」

「うん。……どう? もう動けるかな?」

「うん、大丈夫そう」

「そっか、客室まで送るよ。もう夜の試験もないし、部屋でゆっくり休んでね」

「ありがとう、そうするね」

 

 そして俺はみーちゃんを客室へと送り届けてから、1人で巳部屋へと向かったのであった。

 

 —— 巳部屋にて ——

 

 ——ガチャ。

 

「……お待ちしてました、ツナ君」

「うん。ひよりちゃん」

 

 ドアを開けて中に入ると、椅子に座っていたひよりちゃんがいた。そして俺に気づいたひよりちゃんは、隣の椅子に手のひらを向けた。

 

(……座れって事かな?)

 

 ひよりちゃんの隣に椅子に座ると、いきなりひよりちゃんに頭を下げられてしまった。

 

「……ありがとう」

「え! どうしたの?」

「みーちゃんを助け出してくれて、本当にありがとう」

「! ううん。当然のことをしただけだよ」

「ふふ……ツナ君は本当に優しいですね」

 

 そう言って微笑むひよりちゃん。俺も微笑み返していると、いきなり円卓の中央からウイーンという機械音が聞こえて来た。

 

 ——ウイーン!

 

「!?」

「……」

 

 機械音と共に、円卓の中央部分が開く。そして、中から2人の赤ん坊が現れた。

 

「ちゃおっす!」

「俺らもまぜろや! コラ!」

「リボーン! コロネロ!」

 

 現れたのはリボーンとコロネロだった。どうやらこの部屋にも秘密の通路が開通していたらしい。

 

 リボーンとコロネロは、円卓の俺とひよりちゃんの間くらいの位置に座り込んだ。

 

「急に出てくんなよ!」

「俺達もひよりの話を聞きてぇんだ」

「そうだぜ、コラ!」

「ええ、でも1人で来て欲しいって言われたし……」

 

(っていうか赤ん坊が喋ってたら驚かれないか?)

 

 チラッと横目にひよりちゃんを見てみると、意外にもひよりちゃんはリボーンとコロネロを見て微笑んでいた。

 

「……リボーンさんと、コロネロさんですね。話は父から聞いております。ツナ君、この2人にも聞いていただきましょう」

「……ひよりちゃんがいいなら」

 

 その後、改めて4人で話を続ける事になった。

 

「……どこから話しましょうか。まずは私の出生からですかね」

「……うん」

 

 ひよりちゃんは、自らの生い立ちを話始めた。

 

「私は日本の母子家庭で生まれました。私が物心付く前から中国に移住していたので、幼少時代は中国で過ごしたんです」

 

 ここまでは、前に聞かされていたので知っている話だ。

 リボーン達がいるので改めて話しているのだろう。

 

「それで……小学校3年生までは中国で生活していたのですが、4年生になる前に母が再婚する事になったんです。そして、その時に苗字が椎名になり、日本へと渡りました」

「ほお……」

「ちなみに、日本に渡る前の私の苗字は川平といいます」

「! 川平だと?」

 

 ひよりちゃんの旧姓を聞いて、リボーン達が反応を示す。

 

(この2人が反応するって事は……やっぱりそうなのか?)

 

 昨夜に聞いた時に感じた違和感。それが間違ってなかったのかもしれない。そんな事を考えながらひよりちゃんの話の続きに耳を傾ける。

 

「貴方達が想像している通りです。私の実父である川平は『7³』の管理者であるチェッカーフェイスです」

「ええ!? やっぱりそうなの!?」

「はい。本当です」

 

 どうやら本当の事らしい。まさか川平のおじさんに俺と同い年の娘さんがいたなんて……。

 

(ていうか子供作れたのか? あ、ユニの先祖も同じ種族だから普通に子供は作れるのか)

 

「……チェッカーフェイスの娘か。どうしてこの学校に入学した?」

「はい?」

「あいつの娘となれば、ツナと同じ学校に入学するのには何かしらの理由があるはずだ」

 

 リボーンが真剣な顔でひよりちゃんに問いかける。チェッカーフェイスの娘だから気に食わないのだろうか?

 

「……ふふ」

 

 ひよりちゃんは、リボーンの視線に怯える事もなく微笑んでいる。

 どことなく余裕があるみたいに。

 

「……そうですね。確かに私はある目的の為に高度育成高等学校に入学しました」

「やはりな。で、その目的はなんだ? コラ!」

「……それを話すには、私の事をもう少し話さないといけませんね」

 

 ひよりちゃんのその言葉で、リボーンもコロネロも一旦口を挟むのを止めた。静かになった所で、ひよりちゃんは再度話始める。

 

「……小学4年生になる時に日本に渡ってからも、数年間は普通な女の子として過ごしていました。特別な才能なんて一つもない、読書が趣味の一般家庭の女の子です」

「……」

「そんな私の人生に驚きのイベントが起きたのは、中学3年生になったばかりの頃でした。学校から帰った私に、母が手紙を渡して来たんです」

 

 —— 1年前 ——

 

「……これは?」

「お父さんからよ。……あなたの本当のね」

「! 本当の……お父さん? 蒸発したって言っていた、あの?」

「……ええ」

「なんで? 会った事もなかったのに、何で今さら?」

「……ごめんね。これは貴女に課せられた使命なのよ」

「……使命?」

「そう。……ひより、川平の娘として生まれた以上。貴女には果たさねばいけない使命があるの」

「……意味が分かりません」

「そうでしょうね。……でも、それもお父さんに会えばわかるわ。とにかくその手紙を読みなさい」

 

 母から渡された手紙を開くと、同封した地図に記載されている並盛町にある不動産家に来て欲しいと書いてありました。

 

(……)

 

 行きたくなんてありませんでしたが、手紙を読み終えると、なぜかすぐにでも並盛まで行かないといけないような気になってきたのです。

 

 並盛までは私の住んでいた地域からバスで30分程度で行ける距離だったので、結局その日の内に並盛へ向かいました。

 

 バスで並盛に着くと、5分程歩けば目的地の不動産屋でした。

 

(……普通の不動産屋みたいですが……)

 

 不動産屋のドアを開けようとすると、ドアノブを触る前に勝手に回って、中から1人のおばあちゃんが出て来ました。

 

「……」

「……」

「……」

「……あ、あの」

「……ひよりちゃん、だね?」

「え? は、はい」

「息子から聞いているよ、さぁどうぞ」

 

 見知らぬおばあちゃんに案内され、応接スペースに通されました。

 

 机を挟んで向かい合ったソファーに座ると、おばあちゃんがお茶を机に置いてくれました。

 

「息子はすぐに来るから、少し待っていてね」

「はい……」

 

 おばあちゃんの言う通り、すぐに父はやって来ました。

 初めて見た実の父は、メガネをかけた着物姿の男性でした。

 

「ひより……かい?」

「! は、はい……」

「……そうか、そうか」

 

 初めて交わした親子の会話はとても短い物でしたが、父は満足そうに何度も頷きながら反対側の椅子に座りました。

 

「……さて、急に呼びつけて申し訳なかった。だが、そうせざるをえない状況なんだよ」

「……何かトラブルでも?」

「そうだね……ひよりが思っているよりもずっと大きな、ね」

「……」

「百聞は一見にしかずだ。話すより見るが早いだろう。すごい情報量になるだろうが、私の娘だし、君のお母さんから聞いたが君は本を読むのが好きらしいし、きっと耐え切れるだろう」

 

 そう言いながら、父は私の頭に手を伸ばし始めました。

 

「……何を言っているんです?」

「直にわかるよ。……ほら」

「? ……っ!」

 

 そして、父が私の頭に触れた途端。私の意識は父の中に取り込まれていきました。

 

 父の中に入り込むと、私は真っ黒な空間に立っていました。

 頭の中には父の声が直接響いて来ます。

 

「……ここは?」

『ここは私の頭の中だ』

「!」

『今から、君には私達の刻んできた業の記録を体感してもらう』

「……業?」

『そうだ。これを知って初めて、ひよりは本当の私の娘となるだろう』

 

 父のその言葉の後、私は父の歩んできた長い歴史をビデオの早回しを見る様に体感しました。

 

 父は生粋の地球人である事。

 7³を守る存在であった事。

 

 7³の一部をおしゃぶりにし、それを存続させる為のアルコバレーノによる人柱のシステムを生み出した事。

 

 やがて仲間が2人になると、7³の残りを14個のリングにして2つのファミリーへと託した事。

 

 その後はずっとチェッカーフェイスや川平のおじさんなどの複数の姿を使い分けて7³を見守って来た事。

 

 そして2年前。ツナ君の活躍によって、アルコバレーノという人柱を作らずともおしゃぶりに炎を灯し続ける事を可能にする方法を見つけ出した事も知りました。

 

「……! はっ、はっ……」

 

 全ての記録を見終えた後、意識が体に戻った途端に全身をひどい倦怠感が襲い、身体中から汗が吹き出す。そしてずっと呼吸をしてなかったみたいに息も絶え絶えになっていました。

 

「ほお、流石は私の娘。これだけの情報を一度に頭に入れて、その程度で済むとは」

「はっ、はっ……い、今見た物は、全て事実ですか?」

「事実だ」

「……では、どうして私は生まれたのでしょう」

「何?」

「川……お父、さん。あなたが子供作ろうとした様子はありませんでした」

「……ふむ、そうだな。あえて見せなかったが、君のお母さんとは15年前に恋人関係にあったんだ」

「! まさか、恋愛する様な人には思えません」

「そんな事はないさ。アルコバレーノの入れ替えの時期以外、私は静かに暮らしていたからね。まぁでも、子供を作ったのは君のお母さんとの間にだけだが」

「……では、どうして母と結婚なさらなかったのですか?」

「……それは、私は複数の顔を持っているからね。家庭を持つ事が難しかったのさ。だから、君のお母さんには君を成人まで育て上げられるくらいのお金を渡して別れたんだよ」

「……そうですか」

 

 なぜこんなことを聞いたのか。

 

 自分の両親は今の両親しかいないと思っていても、やはり自分のルーツについては知りたくなってしまうものなのかもしれません。

 

「それで、今になって私に接触してきた理由はなんですか? アルコバレーノが必要なき今、私にこの事を伝える必要がどこに?」

「……私の時間は残り少なくてね。終わりを迎える前に、後継者を作らねばならないと思っていたんだよ」

「……終わり?」

「死、だよ。私も永遠に生きられる訳ではなかったようでね、死ぬ前におしゃぶりを存続させる方法が見つかって本当によかった」

 

 突然現れた実の父。それなのに、今度は突然の寿命が近い事を宣言された。その時の私は、悲しいのか悲しくないのか分からない微妙な気持ちで心が満たされていました。

 

「……で、本題に戻るが。ひより、私の唯一の娘である君には全うしてほしい使命がある」

「……はい」

「現在7³は、おしゃぶりを『復讐者ヴィンデチェ』が。マーレリングは『アルコバレーノ』により封印。ボンゴレリングはボンゴレギアに形を変えて『ボンゴレファミリー』が管理をしている。しかし、その3つ全てを見守る役目が必要なんだ」

「……お父さんの様に?」

「そうだ。私がずっと7³を見守って来た様に、ひよりにもその責務を果たしてもらいたい。これは、生粋の地球人の血を引く君にしか頼めない事なんだよ」

「……」

 

 使命だのなんだの、そう言うのとは無縁な人生を送って来た私ですが、父の記録を見たからでしょうか。生粋の地球人の血が目覚めたのでしょうか。……父の頼みを断るという選択肢は存在しませんでした。

 

「……分かりました。世界の為、お父さんの為。責務を果たしたいと思います」

「……そうかい。よく言ってくれた、ありがとう」

 

 こうして、私は自分の正体と運命を知る事になったのです。

 

 

 —— 現在 ——

 

「……」

 

 ひよりちゃんから聞いた話に、俺達は言葉が出なかった。

 

 急に現れた実のお父さんを名乗る人物からそんな事を言われるなんて。ちょっと違うけどリボーンと出会った時の自分を思い出した。

 

 いや、俺とは比べ物にならないか。いきなり自分は世界を安定させる為のアイテムを見守る運命にあるんだよ〜なんて言われても、俺だったら変な顔して呆けるに違いない。

 

「……それで。お前は大空のボンゴレリングを持つツナを監視する為に、高度育成高等学校に入ったのか?」

「……少し違いますね」

「じゃあどうしてだ?」

「……私が高度育成高等学校に入学したのは、貴方達のボスがこの学校に入学した理由の一つに関係してます」

『!』

「?」

 

 貴方達のボスという言葉に、リボーンとコロネロが反応する。

 

(? 2人のボスって……ユニだよね? え? なんでここでユニの話?)

 

 俺がよく理解できずにいても、話は勝手に進んでいく。

 

「正確には、私が父より受け継ぐ役目は7³を監視する事ではありません。私が任されるのは『ブックマン』と呼ばれている役職です」

「!」

 

 ブックマン。これも昨夜に聞いていた言葉だけど、俺には意味がわからなかった。リボーン達にはわかるのだろうか?

 

「リボーン、ブックマンって何なんだ?」

「……世界で起こった裏の出来事を記録する者。という話を昔に聞いた事がある」

「実在するとは思わなかったけどな、コラ!」

 

 どうやら2人は知っていたようだ。でも、2人とも実在はしないと思っていたらしい。

 

 リボーンとコロネロの答えを聞いて、ひよりちゃんは微笑んだ。

 

「ふふ。そう思っていても当然ですよ。ブックマンは決して表舞台には出て来ませんからね」

「……どう言う事だ?」

「ブックマンというのは、父の目的を偽装する為の役割なんです」

「偽装だと?」

「そうです。7³の存在を世界に悟らせない為の、ね」

 

 そしてひよりちゃんは、ブックマンについて詳しく語り始めた。

 

「ブックマンが作られた理由は、父ともう1人を除いた同族が全員が死んでしまった事に起因します。皆さん知っての通り、2人の地球人では7³を存続させ続ける事は不可能でした」

 

 代理戦争の最後にチェッカーフェイスが言っていた話か。確か生き残ったのはチェッカーフェイスとシビラって言うユニの先祖だったっけ。

 

「7³の力で地球を守るという役目を持っていた父達地球人は、母なる地球を守っていく為に7³をおしゃぶりと14種類のリングに生まれ変わらせて、新しい地球人に託しました」

「おしゃぶりはアルコバレーノの人柱に、マーレリングはシビラに、ボンゴレリングはボンゴレⅠ世ことジョットに託したんだよな」

「その通りです」

 

 リボーンの問いかけにひよりちゃんは頷き、続きを話し始める。

 

「でもいくら手を離れたとはいえ、7³が存続していける様に見守る必要もありますし、定期的にアルコバレーノの人柱を選定する必要もあります」

「……」

「しかも、それと同時期にバミューダさんにより『復讐者ヴィンデチェ』が結成されて、裏社会の法の番人を名乗り始めます。そこで父は『復讐者』の動きを監視する事と、本来の目的である7³の管理とアルコバレーノの人柱システムの管理を秘匿する為に、裏社会の出来事を監視・記録するという表向きの役割でカモフラージュする事にしたんです。そして、その役割こそがブックマンの正体です」

 

 ……なるほど。復讐者やリボーン達がいくら探してもチェッカーフェイスを見つけられなかったのは、ブックマンがいるからか。

 

 ブックマンとして裏社会の全てを監視していたのなら復讐者やアルコバレーノの動きを知っててもおかしくないもんな。

 

「……中国にいると噂が流れているのはなぜだ?」

「父は複数の顔を持っています。父は中国で暮らしている顔も持っていて、主にブックマンとしての役割はその顔でこなしていたらしいので、それが理由だと思います」

「なるほどな……」

 

 川平のおじさんもチェッカーフェイスの顔の一つだったはずだ。もしかしたら、未来のイーピンと仲が良くしてたのも中国で暮らしている顔があったからなのかもね。

 

「お前の事はよく分かったぜ。だが、肝心のお前が高度育成高等学校に入学した理由がわからねえぞ、コラ!」

 

 ひよりちゃんの話の中には、確かに彼女がこの学校に入学した理由を示す内容がなかった。コロネロがそこを突っつくと、ひよりちゃんは微笑みながら再び話を始めた。

 

「私が高度育成高等学校に入学した理由。それは……ツナ君にお願いしたい事があったからです」

「……え? 俺?」

 

 まさかの理由だった。

 まさか俺に頼み事をしたいが為に俺と同じ高校に進学するとは。

 

「どういう事だ?」

「……私は、父の記憶を見せられた事で自らの運命を受け入れました。ブックマンとして世界の安定を守る運命を。……しかし、それと同時にとある事に思い至ったんです」

「とある事?」

「ええ。それは復讐者達の事です」

 

 ひよりちゃんは、少し悲しそうな顔になりながらも話を続けた。

 

「復讐者は父に復讐を果たす為、少しでも7³の情報が集められるように、マフィア界に掟の番人としての組織を作りました。それから長い間、父を探す傍で復讐者達は番人としての役目をしっかりと全うしてくれていました。……しかし、それも全ては父に復讐を果たす為にやっていた事。おしゃぶりの命運を握り、父に復讐を果たした復讐者達にはもう掟の番人をやる意味はないのではないかと。そう思ってしまった私は、父に聞いてみました」

 

 —— 再び一年前 ——

 

「……お父さん」

「なんだね?」

「お父さんに復讐を果たした復讐者達は、もう掟の番人をする意味はありませんよね。では今、マフィア界は誰が番人をしているのですか?」

「変わらず復讐者達がやっているよ。おしゃぶりに炎を灯し続けながらだから、前ほど厳格な番はできていないみたいだがね」

 

 父は、興味なさげに私の質問に答えました。

 そんな父に、私が考えた事をぶつけてみる事にしました。

 

「……お父さん。復讐を果たした彼らに、これからも掟の番人を任せるのは良くないのではないでしょうか」

「……何? どうしてかな?」

「復讐者達は、これからもずっとおしゃぶりに炎を灯し続けるという役割を請け負ってくれたのですよね? それなのに、やりたくもない役目を担わせ続けるのはおかしいと思うのです」

 

 そう言った私の言葉に、父は少し考え込む様な素振りを見せました。

 

「……しかし、復讐者君達が番人を辞めたら、マフィア界は大混乱に陥ってしまう。おそらく完全な無法地帯と化すだろう。7³を見守り地球を守るべき立場の私達が、そんな危険な行いを考えてはいけないよ」

「でも、私はおかしいと思うんです」

「……聞き分けのない子だ」

 

 譲らない私に父は呆れている様に見えました。が、私の思いが伝わったのか、父は私に聞き返して来ました。

 

「では、もし復讐者君達に番人を辞めさせるとして。何か代わりのマフィア界を制御する手段があるのかな?」

「……」

 

 復讐者の代わりにマフィア界を安定させる手段。父の記憶を見て来た私は、一つだけ手段があるのではないかと考えていました。

 

「……今の地球人に助けを借りましょう」

「……何?」

「はるか昔、お父さんは7³を新しい地球人に託しました。それと同じ様に、私も目的の為に地球人を頼ろうと思うんです。ただし、今度は犠牲の必要のない協力を」

「ほう? して、犠牲の必要ない協力とは?」

「復讐者達は、バミューダさんという力と目標を与えてくれる絶対的リーダーの元に結束し、お父さんへの復讐を果たすべくマフィア界の掟の番人となりました。そこで私も、1人のリーダーとそこに集う仲間に法の番人を任せたいと思います」

「……バミューダ君程の力を誇るリーダーねぇ。そんな奴がいるのかい?」

「いるじゃないですか。お父さんの長年の憂いを晴らし、アルコバレーノという人柱を作る必要を無くしてくれた、大空の様な人が」

「! ……なるほど。沢田綱吉君か」

「はい」

 

 私が考えた、復讐者達の代わりにマフィア界の掟の番人となってくれる集団。

 そのトップにはツナ君。貴方が相応しいと思ったんです。

 

 —— 現在 ——

 

「……ええ? 俺が復讐者の代わり?」

「そうです」

 

 ひよりちゃんから聞かされた話はまたも驚きのものだった。まさか復讐者の代わりに俺が法の番人になってほしいと言われるとは。

 

「大空と謳われたボンゴレⅠ世。その真の後継者であるツナ君こそ、私の思う最高のリーダーだと思うんです」

「いや〜、そう言ってもらえるのは嬉しいけど……」

「安心してください。何もツナ君にだけその責任を担わせる訳ではありません」

「え? どう言う事?」

「私が考えた復讐者に変わる新たな法の番人。その集団には、3人の創設者が必要なんです」

「? 3人の創設者?」

「そうです。大空のボンゴレリングを持つツナ君。ブックマンである私。マーレリングを封印せし大空の巫女。この3人で創設するのが新たなる法の番人となる集団。そのリーダーをツナ君にお願いしたいのです」

『……』

 

 大空の巫女……ってユニの事かな?

 そんな俺の疑問はリボーンが代わりに口にしてくれた。

 

「おい、大空の巫女ってユニの事だよな?」

「ええ、そうです」

「と言う事は……お前はさっき、俺達のボスがこの学校に入学した理由の一つが自分の目的と同じだって言っていた。……つまり、ユニはもうお前の考えに賛同しているって事か?」

「はい。ユニさんには入学前に私の口からさっきの考えを伝えました。そして心よく引き受けてくれましたよ」

「……そうか。おいツナ、ユニが引き受けているならお前も引き受けるべきだぞ」

「ええ!? なんで?」

 

 さっきまで警戒してるっぽかったのに、なんで急にそんな事を?

 

(……というか、ユニがこの学校に入学するって何? ユニが同級生の中にいるとでも?)

 

「ユニが受け入れてるなら、それは間違いなく必要な事のはずだ」

「ユニには未来が見えるからって事?」

「そうだぞ」

「ん〜、でもなぁ」

 

 いまいち踏み切れずにいると、ひよりちゃんが微笑みながら椅子から立ち上がり、俺に近づいて来た。

 

「さっきの話だけでは決断しきれないですよね。なので、ユニさんにも話した内容をツナ君にもお伝えします」

「?」

「一年前、さっきの私の考えを聞いた父はなぜか笑い出したんです。そして、笑いながらこう言いました。『さすがは我が娘だ。いいだろう、やってみるといい。自らの運命を受け入れる勇敢な娘への餞に、父から最初で最後の贈り物をしてあげよう』……と」

「チェッカーフェイスからの贈り物?」

「ええ、その後父は私の頭にもう一度手を置きました。すると、大量の炎が私の体内に流れ込んできたのです。おかげでしばらくの間、炎が入り込んだ細胞が産声をあげる様に目覚めていく感覚を味わいました」

「炎を体内にって……何の為?」

「おそらく、私の体内にある父から受け継いだ能力を呼び覚ます為でしょう。炎が体内を巡り切ると、私は自分の体の中に眠る古代の生命エネルギーを自覚できるようになりました」

 

 ……チェッカーフェイスの娘って事は、ひよりちゃんの炎の最大量もとてつもない大きさなんだろうか。

 

「そして、父から受け継いでいる細胞に刻まれた炎の扱い方の通りにやってみると、手の平に小さな炎が灯りました」

「え? 小さな炎?」

「はい。今の私も完全に覚醒してるわけではないみたいで、己の能力を発揮しきれないようです」

「そ、そうなんだ」

 

 少しだけ安心した。同級生にチェッカーフェイス並に強い奴がいたら、学年全体をまとめ上げるって課題のクリアは絶望的になるもんな。

 

 この時、ひよりちゃんはもう俺の目の前まで近づいていた。

 そして、俺の前に掌を差し出した。

 

「……?」

「これが私の炎です。よく見てくださいね?」

「え? !」

 

 ひよりちゃんの掌に、拳くらいの大きさの炎が灯った。

 これが今のひよりちゃんの出せる最大出力なのだろうか?

 

 いや、それよりも気になる事がある。

 ひよりちゃんの放つ炎は、今まで見た事のない炎だった。

 

「……これ、夜の炎?」

「ふふ。いえ、夜の炎ではありません。これは『夜空の炎』です」

「!」 

 

 夜空の炎。聞いた事のない炎だった。それも当然、ひよりちゃんが少しだけ覚醒した時に生み出された新種の炎だったようだ。

 

 その炎はネイビーブルーで、なぜか時々小さな金色の輝きが一瞬だけ見える。

 

「夜空の炎とは、大空と夜のちょうど中間点の様な炎。固有の能力は『融和』です。全てに染まりつつ、全てを包容する大空と、全てを黒く染め上げて飲み込む夜。相反するこの2つを繋げる為の炎だと、私は思っています」

「……そんな事できるの?」

「ええ。この炎は、私の願いに応じて生まれた炎ですからね」

「ひよりちゃんの願い?」

 

 掌に灯る炎を、もう片方の手を包み込むひよりちゃん。

 

「私の願いは、父が起こした悲劇とそれによるマフィア界の崩壊。この2つの間違いを正し、世界を正しき姿に戻す事。そしてその為には、チェッカーフェイスの娘である私と、マーレリングの管理を引き受けたシビラ。そしてシビラにボンゴレリングを託されたボンゴレⅠ世ことジョット。その2人の子孫であり真の後継者であるツナ君とユニさんの力を借りる必要があるんです」

 

 そう言うと、なぜかひよりちゃんは俺の片手を掴んだ。

 

「私の夜空とツナ君の大空が融和した時。その可能性を示す鍵が現れます」

「……鍵?」

 

 そして、ひよりちゃんは俺の手を掴んだまま手に炎を灯し始めた。

 

 ……すると!

 

「! なんだこれ!」

「……これが、私達なら世界を正しき姿に戻せるかもしれない可能性を示す鍵です」

 

 俺とひよりちゃんの手からは、先程よりも大きなネイビーブルーの炎が灯っていた。

 

 しかし、明らかに違う点が一つだけある。それは、先程の炎からは時々しか見えなかった小さな金色の輝きが、今は複数箇所で常に輝いているという点だ。

 

(なんだろうこれ、満天の星空を見ている様な……そんな感覚になる)

 

「これは、私とツナ君、もしくは私とユニさんの力が合わさった時にのみ発生する炎。私はこの炎を『星空の炎』と呼んでいます」

「星空の炎……」

「はい。夜の闇すらも払い除け、世界に光を届ける力。それが星空の炎です。ツナ君の元で私達が力を合わせれば、きっと混沌とした今のマフィア界にも光を届ける事ができるでしょう」

 

 そう言い終えると、ひよりちゃんは俺の手を離した。同時に夜空の炎も消えた。

 

「……」

「どうですか? ツナ君。私のお願いを受け入れてくれますか?」

「……う〜ん」

 

 一気にいろんな情報が入って来たせいで、頭が混乱して考えがまとまらない。

 そんな時、リボーンが声をかけて来た。

 

「引き受ければいいじゃねぇか、ツナ」

「……簡単に言うなよ」

「簡単に言ってねぇぞ。ひよりの目的は、お前の目指してる最高のボンゴレと同じ様なもんだろ?」

「え? ……まぁそうか」

 

 Ⅰ世とDスペードの意思を継ぎ、大空の元に存在する全てを正しい方向へ導く。それが俺の目指す最高のボンゴレだ。

 

(……確かに、俺の目標とひよりちゃんの目標は同じ様なもんだなぁ)

 

「それにさっきも言ったが、ユニが引き受けてるって事は、未来ではひよりの言う集団は確かに存在しているってことだろ」

「そうですね。ユニさんは私の話を聞いた後、未来で私達が協力し合っている姿が見えたそうです」

「ほらな、これはもうやるしかないだろ」

 

 ボンゴレⅩ世になる事を決めた時から、7³の一つであるボンゴレリングの管理者としての運命を受け入れている。

 

 それに俺も、未来永劫おしゃぶりに炎を灯し続ける役目を受け入れてくれた、バミューダ達の手助けをしたいとは考えていた。

 

 そしてユニも協力する事を決めていると。

 ……これは俺も協力するのが当然だよな。

 

 それにひよりちゃんは大事な友達だし、彼女の役にも立てる。

 

 俺はひよりちゃんのお願いを聞くことにした。

 

「わかったよ。協力させてもらうね」

「! 本当ですか? ありがとうございます!」

 

 そして、俺とひよりちゃんは硬い握手を交わしたのだった……

 

 

 この時、未来でマフィア界の正義の行使者と呼ばれる様になる機関がひっそりと発足された。

 マフィア界の自警機関、「調停者コンチリアトーレ』の始まりである。

 

 

 



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