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船上試験、2日目夜。

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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船上試験、2日目夜。

 

 —— 船上試験2日目、夜8時。巳部屋 ——

 

「……ん〜。今回は大富豪でもしますか?」

「いいよ」

 

 試験2日目、夜8時。俺は巳部屋で4回目のグループディスカッションに臨んでいた。

 

 Aクラスは今回も話し合い放棄。石崎君は参加するらしい。

 ひよりちゃんは今回も皆でのトランプを提案してきた。

 

 ……空き時間に色々考えてみた結果、Aクラスに話し合いを拒否されている以上は優待者を見つける為に出来る事は1つくらいしかないと思う。でもそれは、Aクラス以外のメンバー全員が協力しないと出来ない事だ。

 

 それに、やるにしても6回目のグループディスカッションにしないと裏切り者が出る可能性が倍になる。俺としてはその方が好都合だけど、俺と同じ考えを持ってる人がいたら提案した俺が優待者だと疑われてしまうかもしれない。

 

 ここは膠着状態を保ちつつ、どうやって俺が優待者だと悟らせずに裏切り者を生み出すかを考えるのが得策だろう。

 

 そして、4回目のグループディスカッションも大富豪で遊ぶだけで終了した。

 

 

 —— 船上試験2日目、夜9時半。デッキ ——

 

 4回目のグループディスカッション終了後、俺は1人で船のデッキに出て来ていた。

 

 考え事をするにはデッキがうってつけだからね。

 夜風に当たってる自分に酔ってるわけではないよ。

 

(……う〜ん。この分だと、最終日も他のクラスは動かないかなぁ。動くにしてもひよりちゃんくらいかな?)

 

 今までの巳グループの動きを見ていると、何かしようとしてるのはひよりちゃんしかいない様に感じる。石崎君はやる気を無くしている様に見えるし、他のメンバーは流れに任せるスタンスっぽい。

 

(……ひよりちゃんは何を考えているんだろう。Cクラスの為に動けるみたいだし、この試験にも勝つ気はあるんだろうけど、何をしてくるかは分からないな。進行役を買って出てくれたのは、思い通りに場を動かしたいからかと思うんだけど)

 

 そんな感じで1人で物思いに耽っていると、学生証端末のメール受信音が鳴った。

 

 ——ピコン。

 

(ん? メール? ……あ、リボーンからだ)

 

 メール送信者はリボーンだった。

 

 To ツナ

 美雨の両親は無事にボンゴレで保護したぞ。

 

(おお、上手く行ったみたいでよかったぁ〜) 

 

 俺はすぐに返信を返した。

 

 To リボーン

 ありがとう、助かったよ。

 

 返信をした後、俺はこの事をみーちゃんに伝える為にみーちゃんにメールを送ろうとした。

 が、すぐにできない事に気がついた。

 

「あ、そういえばみーちゃんの連絡先知らないじゃん」

 

 肝心の連絡先をまだ知らなかった……

(仕方ない。誰かにみーちゃんの居所を聞いてみよう)

 

 学生証端末をポケットにしまい、俺は客室の方面へと向かった。

 

 

 —— 船上試験2日目、夜9時40分。廊下 ——

 

 客室フロアのロビーならまだ誰かいるだろうと思った俺は、ロビーへ繋がる廊下を歩いていた。

 

(女子の誰かがいればいいんだけどな……ん?)

 

 ロビーまであと数十メートルくらいまで進んだ時、ロビーから誰かが出てくるのが見えた。

 

(山内君と……あ、みーちゃんだ!)

 

 ロビーから出て来たのは、山内君とみーちゃんだった。2人はロビーから出ると、俺が来た方とは反対側のデッキに繋がる方の廊下へと進んで行った。

 

(付いていくか。2人の話が終わったらみーちゃんに声をかけよう)

 

 話が終わるまで近くで待っておこうと思った俺は、2人の後ろを付いて行く事にした。

 

 

 —— 歌劇場の裏 ——

 

 2人が向かったのは、船内にある歌劇場の裏側だった。

 

(わざわざこんな所に来るって事は、人に聞かれたくない話だろうな。よし、俺はもっと離れた所で待っていよう)

 

 俺は歌劇場の正面で待っておこうと思い、2人に見つからない様に離れようとすると、みーちゃんの大きな声が聞こえて来た。

 

「な、何言っているんですか!? 本気ですか!?」

 

 (! 何だ? みーちゃん、かなり驚いてるみたいだけど)

 

 大声に驚いて足を止めていると、小さく山内君の声も聞こえて来た。

 

「王ちゃん、声が大きいよ! それに何を驚いてんだよ? 元々そのつもりでこの学校に入ったんだろ?」

「……わ、私は。……そんな事したくないです」

 

 その会話内容からどこか危険な気配を感じ、悪いとは思ったけどこのまま覗いておく事にした。

 

「今更何言ってんの? もう小狼様から命令が下りたんだぜ。俺達schiavo Giapponeは従う以外に選択肢なんてないだろ?」

 

(! ……俺達schiavo Giappone? どういう意味だ?)

 

「……私は嫌です。人殺しなんて」

「はぁ? キングとクイーンの娘のくせに何言ってんの? 王ちゃんにも、人殺し集団のトップの血が流れてるんだぜ。裏の世界で生きていく運命なんだよ、君は」

 

(山内君が何でキングとクイーンの事を知ってるんだ? ……というか、何だよあの言い方。生まれつきの人殺しなんている訳ないのに)

 

 山内君の言い様に、思わず拳を握り締めてしまう。すぐにでも文句を言いたくなったけど、今出たらみーちゃんに何かされてしまいそうだから我慢する。それに、何か重要な情報が聞ける気がするし。

 

「……それでも、嫌です」

「……はぁ〜」

 

 頑なに拒否するみーちゃん。

 何を拒否しているのかは分からないけど、あの顔を見るに犯罪に関する事だろう。

 

 そんなみーちゃんに対し、山内君は大きなため息を吐いた。そして、面倒くさそうな顔になって再び話始めた。

 

「王ちゃんさ、何逆らおうとしてるの?」

「え?」

「小狼様、つまり未来のキング直々の御命令なんだぜ? 逆らって良い訳ないじゃん?」

「……山内君は、どうしてそんな命令を聞けるんですか?」

「はぁ? 何でそんな事聞くの?」

「だって……山内君もジョーコに縛られて辛い人生を送ってきたんでしょう? それなのに、どうしてそんなに素直に命令を聞けるの? しかも同級生の男子の命令なのに……。いくら家族を人質に取られてるからって」

「……」

 

 みーちゃんのその疑問に対し、山内君は不気味な笑いで答える。

 

「く、くくくくく……」

「……や、山内君?」

 

 いきなり不気味に笑い出した山内君に、みーちゃんは思わず後ずさる。

 

「くくくく……。家族の事なんて、もうどうでもいいんだよ」

「……え?」

「俺はどっちかって言うと、ジョーコより山内の家系を恨んでるんだ。だって先祖がジョーコの奴隷にならなければ、子孫である俺達まで奴隷になる事はなかったんだからな」

「……」

「もちろん奴隷でいる事は嫌だぜ? でもよ、小狼様に気に入られれば正式にジョーコに入る事だって夢じゃないはずだ」

「え?……山内君はジョーコに入りたいんですか?」

「当然じゃん? 昔からずっと思ってたよ〜。俺もいつか権力を手に入れて、schiavo Giapponeの様な奴隷を持つんだ〜……ってさ」

「……そんな」

「ん? 王ちゃんは思わないの? 親が中堅マフィアのボスなのに、自分も親の様になりたいってさ」

「……思いません!」

 

 強く否定するみーちゃん。

 育ての親にひどい事をした実親を、尊敬する事はできないのだろう。

 

(……というか、山内君はマフィアなのか? いや、でも奴隷って言ってるしなぁ)

 

「ええ〜。理解できないわ。そんな恵まれた環境に生まれておきながらさぁ。……あ」

「……?」

 

 言葉を途中で止めた山内君は、何かに気づいたかの様に手をポンっと叩いた。

 

「そういえば、小狼様が言ってたなぁ。王ちゃんは忌み捨て子だから、平伏する必要はないって」

「……忌み捨て子」

 

 忌み捨て子というワードで、みーちゃんの顔がさらに曇る。

 

「そっか。忌みの部分はよく分かんねぇけど、王ちゃんは親から捨てられてんだ? しかも奴隷扱いまでされてるんだろ? そりゃあ親を尊敬できねぇわなぁ〜」

「っ!」

「あ。一般家庭の俺と、忌み捨て子の王ちゃん。同じ奴隷でも俺の方が立場が上なんじゃね? そうじゃね? って事はさ。王ちゃんは俺の命令を聞くべきじゃん?」

 

 ヘラヘラしながらひどい事を言う山内君。

 俺の嘘の噂を流していた時から感じてたけど、あんな嫌な事を言う奴だなんて。

 

 みーちゃんは曇った顔のまま首を横に振る。

 

「……奴隷に上下なんてないですよ」

「あぁ?」

 

 ——ガンっ!

(ビクッ!)

 

 イライラしたのか、山内君が歌劇場の外壁を殴りつける。

 

「俺は小狼様の直属の手下だぞ? 言う事聞けねぇの?」

「……て、手下じゃなくて奴隷ですよね」

「っ! うるせぇ!」

 

 ——ガンっ!

(ビクッ!)

 

 今度はみーちゃんの顔スレスレの壁を殴る山内君。

 

「……あんまりナメた口利いてると、小狼様に報告するぞ? 貴方の妹が言う事を聞きませんって。そしたら……お前の大事なモノはきっと壊されちゃうだろうなぁ」

「っ!」 

 

(! あいつ!)

 

 あまりの横暴さに、助けに行こうとした……が。

 

 ——がしっ。

 

 誰かに腕を掴まれて、動きを止められてしまった。

 

「! 誰だ……!」

「今はダメです、ツナ君」

「ひよりちゃん!?」

 

 俺の腕を掴んでいたのは、ひよりちゃんだった。

 

「い、いつからここに?」

「ついさっきです」

「……そうなんだ。あ、というか山内君を止めないと!」

 

 腕を振り払って動こうとすると、今度は両手で腕を掴まれる。

 

「だからダメです!」

「何で!?」

「……今ツナ君が出ていけば、みーちゃんの置かれている状況は更に悪くなります」

「でも、あんな辛そうな顔してるし!」

「今のみーちゃんなら大丈夫です!」

「……え?」

「今のみーちゃんなら。これくらいの状況は耐えてくれます」

「何でそう思えるの?」

「……見ていて下さい。みーちゃんは屈しませんから」

「……わかったよ」

 

 確信めいたひよりちゃんのその言葉に、俺も動くのを止めて見守る事にした。

 

(……本当に大丈夫かな)

 

 視線を戻すと、2人はまださっきの体勢のまま動いていなかった。

 

「……」

「……」

 

 しかし、山内君の顔が少し曇っているような気がする。

 何でだろうとみーちゃんに目線を向けると、みーちゃんはまっすぐに山内君を見据えていた。

 

「……」

「……」

 

 脅せば自分の言う事を聞くとでも思っていたのか、じっと自分を見て視線を外さないみーちゃんに戸惑っているようだ。

 

「……ちっ!」

 

 やがて、山内君は舌打ちをしながら自分から視線を外してしまった。

 

「……」

 

 しかし、みーちゃんはそれでも視線を山内から外さない。

 

(……みーちゃん。普通の女の子だと思ってたけど、すごい度胸があるんだなぁ。……ん?)

 

 尊敬の念を込めてみーちゃんを見ていると、毅然とした顔とは違い、体は小刻みに震えている事に気づいた。

 

(……そりゃそうか。あんな事言われて平気なはずないよね。山内君に平伏したって思われない様に必死で耐えているんだろうな)

 

「……と、とにかく! 明日には実行に移すから、明日の朝には作戦内容を考えておけよ? 王ちゃん頭いいんだから、それくらいできんだろ。頼んだぜっ」

 

 そう言って、山内君はスタスタと客室方面へと歩いて行ってしまった。

 

「……はぁ」

 

 山内君が見えなくなると、みーちゃんは震えた声で息を吐き出した。

 

「……行きましょう、ツナ君」

「え? う、うん」

 

 ひよりちゃんに促され、俺達はみーちゃんの元に向かった。

 

「……みーちゃん」

「! あ……ひよりちゃん。ツナ君まで」

「……大丈夫かい?」

 

 声を掛けると、みーちゃんはこっちに振り向いた。

 俺が体調を心配すると、みーちゃんはぎこちなく笑った。

 

「……わかんない。でも、途中からもう山内君や小狼に従う必要はないって思いが強くなったの。……私、親不孝だったかな。まだ両親が無事かもわからないのに」

 

 自虐する様にそう言うみーちゃん。

 

 でもそれは違う。みーちゃんがそう思えたのはきっと、ご両親の方も日本でみーちゃんの事を思っているからだ。もう大丈夫だよ、安心しなさいってね。

 

 その事を伝える為に、俺はみーちゃんの言葉を否定する。

 

「そんな事ないよ」

「え?」

「きっと、みーちゃんは虫の報せを受けたんだよ」

「虫の、報せ?」

「そう! ご両親はもう大丈夫。安心していいよってね」

 

 俺のその言葉を聞き、みーちゃんがハッとした顔になる。

 

「そ、それってまさか……」

「うん。さっき報告を受けたんだ。みーちゃんのご両親はボンゴレで保護したから、もう心配しなくていいよ」

「! そ、そっか。よかった! 本当に! よか……った」

 

 —— バタン!

 

「! みーちゃん!」

 

 両親の無事が分かったみーちゃんは、目に涙を溜めながらスイッチが切れた様に倒れてしまった。

 

 怖い出来事と嬉しい出来事が同時に起きすぎて、ずっと張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。

 

「……気を失っているだけだとは思いますが、医務室で見てもらった方がいいかもしれませんね」

「医務室か。運ぶにしても結構遠いな……あ、それなら!」

「?」

 

 ある事を思いついた俺は、学生証端末を取り出して通話をかける事にした。

 

 ——プルルルル。……ガチャ。

 

「はい! アルロで〜す!」

 

 通話相手はアルロだ。

 

「アルロ、京子ちゃんとハルに連絡を取りたいんだ。2人に繋いでくれない?」

「京子とハルにですか? わかりました! すぐ近くの部屋だから、今から行くね!」

 

 そしてしばらく保留音が鳴り響いた後、女の子の声が聞こえて来た。

 

「……はい。京子です」

「あ、京子ちゃん。夜にごめんね?」

「ううん、大丈夫だよ。どうしたの?」

「あのさ、京子ちゃんとハルに診て欲しい子がいるんだ。あんまり動かすのも危ないかもしれないから、俺がいる所まで来てくれない?」

「わかった。ハルちゃんとすぐに行くよ」

「ありがとう。場所は歌劇場の裏手だから」

 

 ——ピッ。

 

 通話を終えた俺は、ひよりちゃんに報告した。

 

 

「姉妹校の看護に詳しい友達を呼んだよ。すぐに来てくれるって」

「そうですか。……でも、このまま床に寝かせるのもかわいそうですし、あそこに寝かせませんか?」

「?」

 

 ひよりちゃんは近くにあるベンチを指さした。

 

「わかった。なるべく動かさない様に運ぶよ」

 

 俺はみーちゃんを優しく抱きかかえた。

 いわゆるお姫様抱っこという奴だ。

 

 ゆっくりと歩き、丁寧にベンチにみーちゃんを寝かせる。

 風邪を引かない様に、俺の上着を上からかけておいた。

 これでいいだろう。

 

「……後は待つだけですね」

「うん」

 

 京子ちゃん達が来るまでの間、俺は気になっていた事をひよりちゃんに聞いてみる事にした。

 

「ねぇ、どうしてみーちゃんは大丈夫だって思ったの?」

「……」

 

 俺の質問に、ひよりちゃんはゆっくりと答え始める。

 

「……日本に来てからずっと、みーちゃんは自分1人に家族の運命が委ねられているという状況にずっと置かれていたんです。本当に心が安らいだ事なんて無かったでしょう。でも今は……」

 

 ひよりちゃんは俺の目をまっすぐに見つめて来た。

 

「……でも今は、ツナ君がいる」

「!」

「ツナ君という強い味方がいるんです」

「……俺?」

「そうです。高度育成高等学校に入学してからこれまでも、みーちゃんはずっと辛い日々を過ごして来たと思います。この学校に入学してしまえば、中学までの様に親の近くにはいられません。でも、自分が行かないと親の命が危ない。みーちゃんは迷う事なく入学を選んだでしょう。しかし、入学してからも心の余裕なんてない。人の命を奪えという命令と、その命令が遂行できなければ大切な家族を失うという現実が常に頭の中で渦巻いてるでしょうから」

「……うん」

 

 考えてみるだけで辛いのだから、みーちゃんの感じていた苦しみは想像もつかない。

 

「だけど昨日。本来敵であるはずの相手から、絶対に助けると言ってもらえた。家族も自分自身も救うと言ってもらえた。みーちゃんはすごく嬉しかったと思います」

「……そうだったらいいな」

「そうですよ。だって今日の朝、みーちゃんと朝食を取ったんですけどね。その時に言ってました。『こんなに安心して眠って、気持ちよく起きれたのは、日本に来てから初めてだよ』……って」

「! そうなんだ」

 

 そんな事を言ってくれていたとは。

 自分の行いは無駄じゃないと証明されたのは嬉しい。

 

「……今のみーちゃんの背中には、ツナ君がいてくれてます。だから、みーちゃんはそう簡単には倒れたりしないって思ったんです」

「……そっか」

 

 ひよりちゃんは話を終えると、振り返ってどこかに立ち去ろうとし始めた。

 

「……じゃあ、後はお願いしますね」

「え? 行っちゃうの?」

「はい、ツナ君がいれば安心でしょうし。それに少しやる事があるもので」

「そっかぁ。わかった」

「はい。失礼しますね」

「あ、待って!」

 

 歩き始めるひよりちゃんに、俺はもう一度だけ声をかけて立ち止まらせた。

 

「はい?」

「君が何者かは……まだ教えてもらえない?」

「……ん〜」

 

 ひよりちゃんは少し考え込んで、大きく頷いた。

 

「そうですね。まだ、みーちゃんが完全に自由になった訳じゃないですし」

「……小狼君と山内君の事?」

「はい」

 

 確かに。その2人がみーちゃんを使う事を諦めないかぎり、本当にみーちゃんを救った事にはならないか。

 

 俺が納得したのを見て、ひよりちゃんは再び歩き始めた。

 

「……」

 

 しかし。数歩歩いた所で、なぜか今度はひよりちゃん自ら足を止めた。

 

「……ひよりちゃん?」

「……かわいそうなので、ヒントをあげようかなと思います」

「かわいそうって……まぁ欲しいけど」

「ふふ、ヒントを2つ教えてあげます」

 

 そしてこちらに振り返ると、ひよりちゃんはヒントを教えてくれた。

 

「実は私、両親が再婚してるので実母と義父との3人家族なんです」

「へぇ、そうなんだ」

「椎名というのは義父の姓です」

「うんうん」

「母が再婚したのが小4の時で、それまでは中国で母子2人で生活してました」

「! ひよりちゃんも中国にいた事あるの?」

「ええ。母も日本人なんですけど、海外暮らしをしてみたかったらしくて小学3年までは中国で暮らしてました」

「そっか。……あ、じゃあもしかして?」

 

 とある予想を立てて聞いてみると、ひよりちゃんは大きく頷いた。

 

「はい。みーちゃんとも仲良しのお友達でした。母が再婚して、日本に渡るまで」

「じゃあ高校で再会したんだね」

「そうなんです」

 

 なるほど、だから親友なのか。

 

「……で、なんですけど。再婚する前は、会ったことのない実父の姓を使ってたんです」

「うん」

「実父の姓は川平、といいます」

「へぇ〜、川平かぁ」

 

(……ん? 川平? いや、まさかねぇ)

 

「これが1つ目のヒント。もう1つは……」

「うん……」

「もう一つは……単語で言いましょうかね」

「え? 単語?」

「はい。私に関する単語です」

「うんうん」

 

 ひよりちゃんはゆっくりと、一回だけその単語を口にした。

 

「……ブックマン」

「……? 何それ?」

 

 意味が分からずに聞き返すと、ひよりちゃんはにニコっと笑って客室方面に振り返った。

 

「ヒントはこれだけです。じゃあ、おやすみなさい。みーちゃんの事お願いしますね」

「ええ……うん。おやすみ」

 

 そう言うと、ひよりちゃんは客室方面へと歩いて行った。

 

(……ブックマン、って何なんだろ。本の人?)

 

 分かるはずもないのに一生懸命に単語の意味を考えていると、京子ちゃんとハルがやって来た。

 

「ツナ君、お待たせ」

「ハル、参上です!」

 

 2人が来たので、ヒントの事は一旦忘れてみーちゃんの事に集中する。

 

「ありがとう2人とも。そこのベンチに寝かせている子なんだけど、気を失っているだけか診てほしいんだ」

「あの子ですね? すぐに診ます!」

「うんっ」

 

 京子ちゃんとハルはベンチに行くと、意識のないみーちゃんを診察し始めた。

 

 診察はすぐに終わり、2人は笑ってこっちを見た。

 

「大丈夫。気を失ってるだけだから、もうすぐ目を覚ますよ」

「そっかぁ、よかった」

「ねぇ、ツナさん。この子に何かしました?」

 

 急なハルの質問に、俺は慌てて首を横に振る。 

 

「え? いや、俺が気絶させたわけではないよ?」

「あ、疑ってないですよ? ただ、この子の心の中が暖かな光に満ちているので、ツナさんが何かしてあげたんじゃないかな〜って!」

「何だよそれ?」

 

 ハルの言ってる事が理解できないでいると、京子ちゃんが補足してくれた。

 

「ハルちゃんはね、人の心の情景を読み取る事ができるんだよ」

「え? 本当に?」

「はい! こむぎのリングを付けている時だけですけどね!」

 

 ハルが指にはめたアニマルリングを見せてくる。

 どうやら、ハルのリングにはそんな特殊な効果があるようだ。

 

「……暖かな光か。安心してるって事かな?」

「うん、きっとそうだよ♪」

「はい! 今頃幸せな夢でも見てると思いますよ!」

 

 その時、なんとなくみーちゃんの目から涙がこぼれた様な気がした。

 

「どうする? この子の部屋まで運ぶ?」

「ううん。起きるまでここで待ってるよ」

「そっか、わかった。じゃあ私達は部屋に戻ろうか?」

「そうですね〜。そろそろ寝ないと、乙女のお肌に悪いですし!」

 

 そう言うと、2人は自分の客室に戻って行った。

 

 去り際、「襲っちゃだめですよ?」と言ってきたハルには今度おしおきが必要だな。

 

 〜数分後〜

 

「……ん、んぅ」

 

 1人になって数分後、みーちゃんが目を覚ました。

 

「あ、起きたね」

「……ツナ君。私確か……あっ」

 

 倒れた時の事を思い出したのか、みーちゃんは慌てて謝ってきた。

 

「ご、ごめんねツナ君、迷惑かけちゃったね」

「いいよいいよ、気にしなくて」

「あ、ありがとう」

 

 2人の間に沈黙が流れる。そして、みーちゃんがおずおずと口を開いた。

 

「……あの、どうしようツナ君。小狼はやっぱりツナ君を殺そうとしてる。山内君を使って私の事も脅してきた」

「うん。隠れて見てたから分かってるよ」

「そっか……」

「ねぇ、山内君って何なの? 山内君もマフィアなの?」

 

 みーちゃんはすぐに首を横に振った。

 

「ううん。山内君は私と同じ。schiavo Giapponeだよ」

「schiavo Giappone?」

「そう。ジョーコファミリーが世界中に飼ってる一般人の奴隷の事。ジョーコは雑事や殺しに関係ない任務とかは、基本的にschiavo Giapponeの様な、仲間じゃない人間を使い捨ての駒として使うの」

 

 遊園地でコロネロが言っていた世界中に飼ってる奴隷ってのはschiavo Giapponeの事なんだろうな。そして、山内君もその1人だと。

 

(……もしかして、俺に関する嘘の噂を流してたのも、俺を陥れる為だったのかもな。そう考えると、山内君があんな事をした説明もつくし)

 

「……山内君も俺を消すように言われてるのかな?」

「うん。そのはずだよ」

 

 やっぱりか。で、小狼君は周りが海に囲まれている今がチャンスだと判断したわけか。

 

「山内君からはなんて言われたの?」

「……ツナ君を海に落として溺死させようって。その為の作戦を私に考えろって言ってた」

「なるほど……それは小狼君の命令なんだよね?」

「そうみたい。何でか分からないけど、山内君は小狼の直属の奴隷になったみたいだし」

「……山内君はマフィアになりたいのかな」

「さっきの口ぶりからすればそうだと思う」

「そっか」

 

 自分から殺人集団に入りたがるなんて、理解できないな。

 

 というか、小狼君は自分では何もしない気なのか?

 

「小狼君は、自分でやろうとはしないのかな?」

「しないと思う。汚れ仕事は奴隷がするべきって思ってるはずだよ」

「……かなりプライドが高いの?」

「うん。奴隷が逆らったり、自分の思い通りに行かない事を何よりも嫌うから」

「……そっか」

「……あ、でも」

「ん?」

「この学校に入ってすぐ、誰かにコテンパンに負けたって話を聞いた事がある」

「え? そうなの?」

「うん。Aクラスを支配しようとしたけど誰かにボロ負けして、それからは負けた相手のいいなりみたいだよ」

「……ええ、負けたらいいなりになるなんて」

「……きっと、この学校内ではジョーコの威光とか使えないから、1人ではどうしようもないと思ったんじゃないかな。偉そうにしてるけど、一度折れたら長い事引きずるタイプだと思う」

「……なるほどね」

 

(あんまり芯が強い訳じゃないのかもしれないな)

 

 この時、俺はひよりちゃんの言葉を思い出していた。

 

『まだ、みーちゃんが完全に自由になった訳じゃないですし』

 

 みーちゃんが完全に自由になるには、小狼君と山内君に干渉させない様にするしかない。

 

 その為には……

 

 俺は頭をフル回転させて、みーちゃんを助け出す方法を考え出す。

 

(……海、溺死、豪華客船、俺、作戦、山内君、小狼君、みーちゃんに干渉させない様に。……ボンゴレ、ジョーコ、Otto talenti、裏切り者 ……!)

 

 

 思考する中で、俺は一石二鳥の作戦を思いついた。

 みーちゃんを助けつつ、小狼君を罠に嵌められる作戦だ。

 

「……みーちゃん」

「何?」

「小狼君の策略に乗ってみようか」

「えっ!?」

 

 何を言ってるんだという顔になるみーちゃん。

 

「大丈夫、殺されるわけじゃない。みーちゃんを2人からも解放する為の作戦に利用するんだよ」

「……そんな事できるの?」

「うん。きっとうまく行くよ」

「……分かった。ツナ君の事を信じるよ」

 

 それから、俺は思いついた作戦をみーちゃんに説明した……

 

 

 —— その後、ツナの客室にて ——

 

 みーちゃんの客室まで送り届けた俺は、自分の客室に戻って来ていた。

 

 部屋の中には、手鏡で自分に見惚れる高円寺君と、なぜかイライラしている幸村君だけがいた。

 

(綾小路君と平田君はいないのか……)

 

 俺が自分のベットに腰を下ろすと、気づいた幸村君が話しかけてきた。

 

「沢田、帰って来たか」

「うん。……幸村君、何かあった?」

「……まぁな」

 

 明らかにイライラしている様子だったので、何かあったんだろうとは思っていた。

 

「何があったの?」

「……それがな」

 

 幸村君が話してくれたのは、4回目のグループディスカッションの後に、軽井沢さんがCクラスの真鍋という女子生徒達にどこかに連れて行かれたという話だった。

 

「俺と綾小路でこっそり付いて行ったんだよ。なんか危険な感じがしたからさ」

「うん」

「付いて行ったんだら、案の定軽井沢に暴力行為をしようとしていたんだ」

「殴る蹴るみたいな?」

「いや、髪を掴んで謝罪を強要してた。あと顔写真を撮ろうともしてたな。はたから見てたら完全ないじめ現場だよ」

「そっか……」

「それで、さすがに見ていられなくて止めようとしたら、綾小路に止められたんだよ。『まだ早い』ってさ」

「ええ? なんで?」

「やっぱりそう思うだろ? それで、その後もしばらく軽井沢がいじめられているのを見てたんだけど、あまりにも綾小路が動かないから、俺が我慢できずに止めに入ったんだ」

「うんうん」

「ちゃんと真鍋達を追い払う事には成功したんだけどな。助けた軽井沢から『そんな事頼んでない!』ってキレられたんだ。……ったく、綾小路も軽井沢も何なんだよ」

「そんな事があったんだ……」

 

 綾小路君、なんで幸村君を止めたんだろう。

 何か考えでもあったのかな?

 

 話し終えた幸村君は、舌打ちをしてベットに潜り込んだ。

 

「ちっ、気分悪いからもう寝る」

「あ、うん。おやすみ」

 

 頭までシーツを被った幸村君をしばらく見ていたら、学生証端末から着信音が鳴り響く。

 

 ——プルルル。ピッ。

 

 慌てて通話に応じると、相手は平田君だった。

 

「もしもし?」

「沢田君、今時間あるかな?」

「あ、平田君。うん、大丈夫だよ」

「ありがとう。じゃあ悪いけど2階の休憩コーナーに来てくれるかい?」

「うん、すくに行くよ」

 

 通話を切ると、俺は待ち合わせ場所へと急いだのであった……

 

 

 —— その頃、2階巳部屋にて ——

 

 誰もいない巳部屋で、椎名ひよりは誰かと会話をしていた。

 

「……はい、ボンゴレがジョーコにはやられる事はないかと」

「そうか……分かった。でも、ボンゴレⅩ世とキングⅡ世の行く末はしっかりと見続けてよ?」

「……分かってます、父に約束しましたから」

「ふん。君の父の話はしないでくれよ」

「……すみません。そうでしたね」

「忘れないでよ? 君に僕らの法の番人としての役目を担わせるかどうかは、3年間で積み上げる君の有用さ次第だと。本来ならば、奴の血を引く君には関わりたくもないんだからね」

「もちろんです。先の短い父の為、そして世界の為。かならず有用性を示して見せます」

「……そうかい。期待はしてないけど、やってみるがいいさ。ブックマンさん」

「はい。バミューダさん」

 

 その言葉を最後に、椎名ひよりは巳部屋を後にしたのだった……

 

 



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