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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ 作:コーラを愛する弁当屋さん
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今回で一区切りつけようとしたら……
1万文字超えてしまいました(≧∀≦)
Dクラス、平穏が戻る?
—— 堀北鈴音の独白 ——
私は、常に1人で生きて来た。
その理由は1つ。兄さんの様になる為、兄さんに近づく為。
目的を果たす為に、私は1人で努力を重ねてきた。
私は兄さんの様に天才じゃない、だから努力は必須。
そして努力し続ける日常に、人間関係は邪魔になる。
だから私は、常に1人で生きて来た。
そしてその努力が実り、今年の4月に私は兄さんと同じ高度育成高等学校に入学した。
嬉しかった……
ようやく兄さんと同じ舞台に上がれるんだ。
そう思うと、これまでの私の人生の全てが肯定された様な気がした。
しかし、配属されたのはDクラス。私は学校から不良品と判断されたのだ……
そんな事は認められない。私が不良品? そんな事はありえないのだ。
だから私は、必ずDクラスをAクラスまでのし上がらせると決意した。
しかし、その為にはクラス全体のレベルアップが必要不可欠。
私は人付き合いを避けて生きて来たので、私の代わりにクラスメイトとコミュニケーションを取ってくれる協力者が必要だ。そしてその人物はある程度の学力があり、コミュニケーション能力の高い人物が望ましい。
だから私は、沢田綱吉をその人物に選んだ。
沢田君は友達作りに失敗してはいるが、他人との会話等を苦手としてはいない。そして小テストで75点を取るほどには学力がある。協力者として理想の人物像だった。
必ずAクラスに上がって見せる。沢田君はその為の駒だ。……最初はそう思っていた。
しかし、彼は私が駒として扱えるような人間ではなかった。
沢田君はなんと、兄さんに拒絶されて絶望している私に「一緒にAクラスを目指して、お兄さんや学校に君が有能である事を証明しよう」と言って来たのだ。
しかも、「君を信じるから君も俺を信じてくれ」などと戯言を言う始末。
私は善性しか見せない人を信用しない。……そう思っていた。
なのに、なぜか沢田君から放たれる言葉は、自分の思考に関わらずに勝手に体の中に取り込まれてしまう様な感覚があるのだ。
(よく分からないけど、ひとまず彼の言う通りにしてみよう_)
そう思った私は彼の望む行動を取ってみた。すると、今までの事が嘘かのように全てが上手く進んでいった。
自分が指揮を取っていた時と、沢田君の言う通りにしてからの作戦の進行スピードの違いを目の当たりにして、私の方が彼に使われる立場なのね。そう思って自分の無能さを思わず呪った事もあった。
しかし、沢田君は私の事を駒ではなく、一緒にAクラスを目指すパートナーだと言ってくれる。
きっと私の様に人を上から判断するのではなく、同じ場所に立って人を見ているのだろう。
そういう考えにたどり着いた時、私は彼を駒ではなくパートナーと考えようと決めた。
沢田君と一緒にいれば、私に足りない物をいつか理解できそうな気がするから……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……次に須藤君、いや、Dクラスの誰かに直接手を出したらその時は……死ぬ気で相手するから。……それを覚えとけ」
沢田君が階段を下りて行く3人にそう言い放った時。
私はあの時の事を思い出していた。
そう。私が兄さんに無能の烙印を押された時に、兄さんの攻撃から私の身を守ってくれた時の沢田君。
あの時の、普段とは違う雰囲気を放っていた彼と同じ雰囲気を感じたのだ。
しかし、3人が去った後にこっちに振り返った沢田君からはそのような雰囲気は消えており、いつものように純真な子供の様な笑顔を見せていた。
「ふぅ! 作戦通りうまく行ってよかったね! 2人共ありがとう!」
「……はぁ」
笑顔でそう言って来た沢田君に、私は思わずため息をついてしまう。
たった今、自分の計画通りに訴えを取り下げさせる事に成功したというのに、自分の功績ではないかのように私達を労う彼が理解出来なかったのだ。
(自分だけそんなに怪我を負ってるのに、どうしてそんなに嬉しそうに私達を労えるのかしら)
そもそも、私が作戦を聞かされた段階では、「3人に一発づつ殴らせる」と言っていたのに、沢田君はそれ以上の暴行を受けた。それを見てさすがに止めようとしたら、綾小路君に止められてしまった。
きっと、沢田君が綾小路君に頼んでいたのだろう。「1発じゃ済まないだろうから、堀北さんが止めてこない様にしてほしい」とでも言って。
顔に青タンまで出来ているのに、まったく痛そうにしてないのも私達を心配させないように無理をしているのかもしれない。
……そう思った私は、沢田君の腕を掴んで階段へ引っ張り始めた。
「わっ!? ちょ、堀北さん!? どこに行くの?」
「Dクラスの教室よ。あなたの怪我の手当てをしないといけないもの」
「あ、それなら自分で保健室に……」
あくまで私に心配をかけまいとしているのか、沢田君は私から手当てされるのを受け入れない。
でもね、私があなたの手当てをしたいのよ。
パートナーとして、それぐらいはしないと気が済まないもの……
「養護教諭の先生はこの時間は学校には来てないわ。だから行っても閉まっているわよ」
「あっ、そうなんだ……」
そして私は、強引に沢田君の腕を引っ張りながらDクラスの教室へと戻った……
—— Dクラス教室、綾小路side ——
「ほら、席に座りなさい」
「う、うん」
教室に帰って来た俺達3人。
沢田を椅子に座らせると、堀北はカバンの中から小さなポーチを取り出した。
中には消毒液や包帯、絆創膏などが入っているようで、簡易的な救急箱みたいだ。
「救急セットを持ち歩いてるんだけど、持ってたのは正解ね。あんな無茶をするような人と一緒に行動するんだもの」
「あはは、返す言葉がないですぅ……」
堀北が沢田の手当てを始めると、クラスメイト達がざわつき始める。
「え? 堀北さんが沢田の手当てを!?」
「っていうか、沢田君の怪我すごくない? 痛そ〜」
そんな風にクラスメイト達がざわつく中、須藤が登校してきた。
「お〜っす、ん? なんだよこの騒ぎ……って! ツナ、その怪我どうしたんだよ!」
沢田が怪我をした事に気づくと、須藤が慌てて駆け寄った。
「あ、須藤君。心配しないで、ちょっと喧嘩しただけだから」
「お前が喧嘩!? いやそんな訳ねぇ……! そうか、あいつらだな? くそ、許せねぇ!」
「あっ……須藤君!?」
Cクラスの奴らにやられた事に気づいたのか、須藤が教室を出て行こうとする。
俺は出て行こうとする須藤の腕を掴んで引き留めた。
「待て、須藤」
「止めんな綾小路!」
「落ち着け、お前がまたあいつらを殴ったら、沢田の頑張りが無駄になるぞ」
「あ? どういう意味だよ!」
須藤に、沢田がCクラスに訴えを取り下げさせる為にわざと暴行させた事を伝えた。
「な……ツナ、なんでお前そんなこと」
「あはは……君を完全無罪にするにはこうするしかなくてさ」
「……そうだとしてもだ! 暴行されるなら、ツナじゃなくて俺の方……」
「! バカ!」
「っ!」
自分が殴られた方が良かったと言いかけた須藤の頭を、沢田がパシッと叩いた。
「何バカな事言ってるのさ! せっかくレギュラーになれた須藤君にそんな役をさせられないだろ!」
「……でもよぉ」
「でもじゃない! 約束しただろ? 試合に出て活躍するって!」
「……ツナ」
「俺に申し訳ないと感じるなら、バスケを頑張ってくれればいいから」
「……おお! わかったぜ! そうと決まれば、さっそく練習に行ってくる!」
「うん! 行ってらっしゃい!」
「……授業は受けなさい」
男の友情話を繰り広げる沢田と須藤に、堀北が冷静なツッコミを入れた。
それを皮切りに、沢山のクラスメイト達が沢田の元に群がって詳しい話を聞き始めた。
そんな最中。普段なら真っ先に沢田の元へ駆け寄りそうな櫛田が、一歩引いて沢田の様子を見ている事に気づく。
それが気になった俺は、櫛田に近寄り小さい声で話しかけた。
「櫛田。お前も作戦の内容は聞かされてたのか?」
「うん。……でもまさか、あそこまでボコボコにされるとは思わなかったけどね♪」
「……そうか。……で? 」
「? で、って?」
「その作戦を見事に成功させた沢田を、お前はどう思うんだ?」
「……どうしようもないお人好しだと思ってるよ」
「……そうか」
櫛田との短い会話を終えた俺に、今度は軽井沢を連れた平田が話しかけて来た。
「綾小路君。本当に須藤君を助ける為に、沢田君はわざと暴行を受けたのかい?」
「ああ。本当だ」
「……そうか。すごいな沢田君は、須藤君の為に体まで張るなんて……」
「まじ? 須藤の為にそこまでやるなんて……」
平田は感心したように沢田を見ている。
軽井沢は、信じられないと言いたげだが、どこか希望を持っている様な目で沢田を見ていた。
「沢田君もクラスのリーダーに向いてそうなのに、彼はどうして先頭に立とうとしないのかな」
「……んー、まぁ沢田は平田と違うタイプのリーダーって感じだからな」
「僕とは違うタイプ?」
「ああ。平田は自らが集団の先頭に立って、他の奴らを導きたい方向へ引っ張るタイプだろ? でも沢田は、集団の中にいながら、他の奴らに自分と同じ方向を向かせるタイプだと思うんだ」
「……確かに、平田君は背中を見せて他の人の信頼を得ているけど、ツナ君は逆に背中を押す事で人の信頼を勝ち取ってるって感じだよね♪」
「なるほど。確かにその通りかもしれないね」
「……でもそんな沢田が、全員の信頼を勝ち得てクラスの先頭に立ったとすれば、Dクラスはすごい事になるかもしれないな」
『……』
それからしばらく、俺達はそれぞれ別の思惑を抱えながら、クラスメイト達の質問責めに合う沢田の事を見続けていた……
—— ツナside ——
皆から質問責めに合いながら1日を過ごした。
大変だったけど、ようやく授業が終わり放課後になった。
終わりのホームルームで、茶柱先生からCクラスからの訴えが正式に取り下げられた事が伝えられた。
そのおかげでまたもDクラスは歓喜に沸いたのだった。
ホームルームが終わってからすぐ、俺は博士の元に向かった。
「博士、ビデオカメラありがとう」
「おお沢田殿。あのビデオカメラが役に立ちましたかな?」
「うん、とってもね。それで、あと1時間くらい貸しておいてほしいんだけど。いいかな?」
「かまいませんぞ! 明日返していただければいいでござる」
「わかった。じゃあまた明日ね」
作戦に使ったビデオカメラだが、あと一つだけ使いたい事がある。
俺はビデオカメラを抱えて、ショッピングモールの家電量販店へと向かった……
—— 家電販売員の独白 ——
僕には、大切な彼女がいる。
その子はアイドル活動をしていて、彼女との出会いもSNSだ。
ちなみに名前は雫ちゃん。かわいい名前だろう?
僕の自慢の彼女さ。
雫ちゃんの写真を一目見た時、体に電流が走ったのをよく覚えている。
最初は僕も1人のファンとして応援をしていたのだが、ある時に気づいてしまった。
雫ちゃんと僕は運命の相手なのだと……
ある日にSNSに投稿された、カメラ目線でウインクをしている雫ちゃんの写真を見て僕はこう思ったのだ。
(……あ、雫ちゃんがカメラ目線の写真ばかりあげているのは、ネットの向こうで見ている僕への愛のメッセージなんじゃないだろうか)
そう思ったらもうそうとしか考えられなくなった。
雫ちゃんがネットに写真をあげるのは、未来の彼氏である僕に自分との運命に気づいて欲しいからだ。
きっとそうだ。そうに違いない!
その日から僕は彼女の投稿には必ず愛のコメントを付けるようになった。
返事はこなかったけど、他のファン共に自分達の関係を気づかれたくないからだろう。
その証拠に、運命の出会いから1年経った今年の4月。
なんと俺が勤務している家電量販店がある高度育成高等学校に彼女が入学してきたのだ!
メガネで変装しているけど、彼氏である僕には簡単に君が雫ちゃんだと分かったよぉ〜?
さすがにセキュリティーの厳しいこの敷地内で、マンションを探り当てる事はできないから、しばらくは今まで通りにSNSで愛のコメントをするしか出来なかった。
しかし、つい最近!
我慢が出来なくなった彼女の方から僕に会いに来てくれたんだ!
カメラが壊れたという名目だけど 僕はちゃんとわかっているよ。
修理の際に記入する依頼書で、僕に君の連絡先と住所を伝えようと思ったんだろう?
僕はその思いに応えるべく、雫ちゃんに修理依頼書を手渡したんだ。
……なのに、変な同級生に邪魔をされてしまった。
雫ちゃんと一緒に来た男子生徒が、彼女の代わりに依頼書に記入してしまったのだ。
注意しようとしたら怖い顔で問題ないと言い張る始末!
ピンときたね! こいつは雫ちゃんのことが好きで、彼氏である俺と雫ちゃんを引きはがそうとしているんだって!
俺の仕掛けている展示機に見せかけた本物のカメラまで触ろうとしやがって!
これは日々のストレスを癒す為の僕の宝物なんだぞ!
……僕はその男子の事を警戒するように雫ちゃんにコメントに書き込んだ。
やっぱり返事はこなかったけど、確実に僕の気持ちは伝わったはずだ。
だって……今日の朝。
雫ちゃんが別垢で俺にDMを送ってきたのだからぁぁぁっ!
from シズク
別垢でのDMごめんなさい。
本垢だとDMができないから、あなたとの連絡用に別垢を作ったの。
それで本題なんだけど……
今日の夕方、あなたの職場の裏にある貸し倉庫にきてくれない?
その中の一番手前の倉庫で待ってるから。
……私の気持ち、あなたに聞いて欲しいの。
……だってよぉ!
ああ! 僕は待ってたよこの時を!
君と結ばれるこの時を!
しかもわざわざ貸し倉庫で待つなんて、雫ちゃんは積極的だなぁ。
僕はその日はうきうき気分で仕事に取り組み、退勤時間になるとすぐに上がった。
(あ、展示機を戻すの忘れた! ま、いいか! 明日の朝イチに戻しにくれば!)
些細な問題は気にせずに、僕は建物の裏にある貸し倉庫へと向かった。
—— 貸し倉庫にて ——
一番手前の貸し倉庫にやってくると、南京錠は外されていて誰でも開けられる状態になっていた。
(ふふふ……雫ちゃん。今行くヨォ!)
貸し倉庫の重厚な扉を開き、中に入る。
照明は小さい電球が1つ真ん中から垂れ下がっているくらいだ。
なので薄暗いのだが、入った時から奥の方に布を被った誰かがいる事には気付いていた。
その人物は頭まですっぽりと布で隠れていて、微かに震えているようだ。
(布まで準備しているなんて……これは彼女もやる気ってことだなぁ、ぐふふ。震えてるし、緊張してるんだねぇ)
僕はゆっくりと近づきながら雫ちゃんに声を掛けた。
「し、雫ちゃん……DMありがとう。ぼ、僕、ずっとこんな日が来るのを待っていたんだ! う、運命の相手である君を、が、画面越しじゃなく実際に愛せるこの日を」
「……」
雫ちゃんは何も言ってこない。言葉より行動で愛を示してほしいってことかな?
「ぐ、グフフ……もう、雫ちゃんはせっかちだなぁ。あ、焦らなくてもこれから2人だけの愛の時間を朝まで過ごせるっていうのに」
僕は後ろから布ごと雫ちゃんを抱きしめた。
そして、両手を彼女の前面へと向かわせる。
「い、いいよね? き、君も待ちきれないんだろう? さ、触るからね」
そう言ってから、ついに彼女の胸を揉んだ! ……しかし。
(……あ、あれ?)
雫ちゃんの胸は筋肉で固く、脂肪が全く感じれなかった。
これではまるで男の胸じゃないか!
「! ま、まさか!」
慌てて雫ちゃんから離れて、雫ちゃんの被っている布を引っ張り上げた。
するとそこには……男がいた。
しかも。この前雫ちゃんとの時間を邪魔したあの男だった!
……でも、どことなく雰囲気が違う気もする……
「き、貴様っ! なんでここにいる! 雫ちゃんをどこにやった!?」
「……そんな奴はここにはいないぞ?」
「嘘つけ! お前がどこかに監禁したんだろう!」
「そんな訳ないだろ。今朝お前にDMを送ったのは俺だからな」
そう言うと、男はスマホを操作して画面を見せて来た。
表示されていたのは、確かに僕に送られてきたアカウントのDMだった……
「くそっ! 騙したのか! どうせ僕と雫ちゃんが付き合ってるのが気に食わないんだろう!?」
「……付き合ってること事態、お前の妄想だろう。彼女はお前に怯えていたんだぞ」
「嘘だ! 彼女と僕は愛し合っているんだ」
「……はぁ。ならば、その雫ちゃんのお前に対する本心を聞かせてやるよ」
「ああ!?」
「伝言を預かって来た」
「! 雫ちゃんの伝言だと?」
その男は雫ちゃんからの伝言を話し始めた……
「私がSNSに写真を投稿しているのは、ファンの皆様へのサービスであって、個人の誰かに対してではありません。なので、あなたの事を愛している事実はありませんし、ストーカー行為に非常に迷惑をしております。お願いします。あなたが私のファンであるならば、もうこんな事を辞めて他の方と同じ様に応援をして欲しいんです。……これが、私の本心です。どうか理解して下さい』
その伝言を聞いて、僕の頭は真っ白になった。
「……う、嘘だ。僕達は運命の相手なんだぞ? そんな事を彼女が言うわけがない! 全部お前の嘘だ! ふざけるな! 僕の雫ちゃんを愚弄するなぁ! うわぁぁぁぁ!」
湧き上がる怒りのままに、僕は男に殴りかかった!
僕の拳が男に当たる寸前、後ろの方で倉庫の扉が勢いよく開かれた。
「……そこまでっ!」
「なっ!? 誰だ!?」
「通りすがりのヒロインだよ! 未成年を襲った現行犯で、あなたを警察に逮捕してもらいます!」
扉から入って来たのは高校生の女の子だった。
雫ちゃんには及ばないにしろ、一応美少女だ。
しかし、その子の後には数名の警察官が待機していた……
「た、逮捕ダァ!? ぼ、僕はこの男に騙されてここに呼び出されただけだ! お、女の子を襲ってなんていないぞぉ!」
僕がそう言うと、女の子はチッチッチと指を振った。
「未成年淫行に男も女も関係ないんだよ? あなたは男の子を襲おうとした。それに間違いはないでしょう?」
「そ、そんな事していない! し、証拠でもあるのかよ!」
叫ぶような反論をすると、女の子は倉庫の真ん中らへんの壁際に歩いていく。そして、壁際で何かのボタンを押すと、ピッという電子音が聞こえて来た。
(今の音は、カメラの録画モード時になる音……! ま、まさか!?)
目を凝らしてよく見ると、女の子のいる所に真っ黒のビデオカメラが設置されている!
「き、貴様ぁ! 最初から録画していたのかぁ!」
女の子から男に視線を移して怒鳴る。
男は薄ら笑いを浮かべていた。
「ふふ……お前を現行犯で捕まえるつもりだったんだ。まさかあそこまで証拠になる発言をしてくれるとは思わなかったがな」
「ぐっ!」
倉庫に入ってからの自分の発言……今からいかがわしい事をしようとしてる様にしか思えないものばかりだ。
完全に男の手の平で踊らされてたということか!
「さぁ、警察のみなさん。あの男を現行犯逮捕して下さいっ!」
「……く、くそおおおおっ!」
倉庫に入って来た警官により、僕の腕に手錠が掛けられる。
(くそ! 僕が捕まったら雫ちゃんに会いに行けないじゃないか……でも、初犯だし、未遂だからすぐに出れるだろう。そうだ。出所したら雫ちゃんとどこかに掛けおちしよう! あんな男と同じ学校に雫ちゃんを通わせてはおけない!)
僕が出所してからの事に思いを馳せていると、警察の中にいた刑事らしき人物が、ビデオカメラに入っていたSDカードを男から受け取っていた。
「このデータを調べれば、奴が何度か雫という名前を口にする。その雫はこの学校の生徒だ。そして奴は雫に対してネットストーキングをしている。その事も調べて罪に問うてくれ」
「わかった。その件もしっかり調べよう」
「なっ!?」
なんてことだ! 僕をストーカーとしても捕まえる気なのか!?
僕らは愛し合ってる恋人同士なんだ! 決してストーカーなんかじゃない!
そう警察に弁明しようとした瞬間。男が別の事について話始めた。
「あともう1つ。奴の職場である倉庫の裏にある家電量販店。そこのサービスカウンターに設置された展示機を調べてくれ。奴は展示機を本物のカメラにすり替えていて、録画モードで女性客の胸元を盗撮しているはずだ」
「はああっ!?」
思わず暴れながら叫び声を上げてしまう。
誰にもバレていないはずの秘密が、なんでこの男が知っているんだ!?
「佐倉のカメラを修理に出した時。お前はあの展示機の位置を調整していたからな。あの位置だと依頼書を書くときに、ちょうど胸元がアップになるはずだ。きっとカメラを仕掛けてると思ったよ。それに、俺が触ろうとしたらお前は激怒していたからな」
「っ! あの時か……」
確かにあの時、男に展示機を触られそうになって慌てて隠したはず……
その行動で怪しまれたって事か!
「……すぐに確認しよう。おい、誰かその展示機を押収してこい」
「はっ! わかりました!」
「や、やめろぉぉっ!」
手錠をかけた警察官を振り切り、カメラを押収に向かった警察官を止めようと暴れようとした。でも、俺の力では警察から逃げる事は出来なかった。
俺が観念して項垂れると、女の子が俺に話しかけて来た。
「……もういいでしょう? さっさと連れて行かれなさい!」
「うぅぅぅぅ……くそおぉぉっ!」
そして僕は……パトカーに乗せられて警察署に連行される事になった……
カメラがバレてしまったから、罪は重くなるだろう……
ああ……雫ちゃん。
どうしてこんな事になってしまったんだよぉ……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
—— ツナside ——
無事に男を逮捕させる事に成功した。
連行していくパトカーを見送っていると、一之瀬が話しかけて来た。
「やったね沢田君! 無事に逮捕させられたね♪」
「ああ。一之瀬の協力のおかげだ。本当に助かった」
「いいよいいよ! 沢田君には借りがあったし♪ (……一之瀬?)」
この作戦を遂行するにあたり、貸し倉庫を借りる必要があった。
だから俺は、一之瀬に頼んで1日だけレンタルをしてもらったんだ。
綾小路によると、一之瀬は大量のポイントを所持しているらしい。
だから貸してもらえるかもしれないと頼んでみたわけだ。
そしてそれだけじゃなく、当日のサポートまで一之瀬は引き受けてくれた。
「レンタル代は毎月1万PPずつ返す。それでもいいか?」
「毎月じゃなくていいよ! 卒業までに返しきってくれればいいから」
「そうか? すまない、助かるよ」
「気にしないで、友達なんだからっ♪」
そう言うと、一之瀬は手を振りながらどこかに歩いて行った。
「……佐倉に報告しないとな」
1人になった俺も、佐倉に報告するべくビデオカメラを抱えてDクラス教室に戻ることにした。
—— Dクラス教室 ——
「佐倉さん、お待たせ!」
「! 沢田君!」
「あ、おかえりツナ君♪」
佐倉さんは、俺が声をかけるとびっくりしながら立ち上がった。
桔梗ちゃんも佐倉さんと一緒に待っててくれていた。
「……ど、どうなったの?」
心配そうにそう聞いてくる佐倉さん。
安心できるように笑顔を作って頷いてみせた。
「うん! 無事に解決したよ。あのストーカーは警察に逮捕されたからね」
「っ! ほ、本当?」
「もちろん! ストーカーの証拠も警察に渡したから、もう二度と佐倉さんに近づけないようになると思う」
「……よ、よかったぁ〜。沢田君……本当にありがとう」
安心したのか、佐倉さんは床に崩れ落ちて泣き始める。
桔梗ちゃんが屈んで佐倉さんの背中を撫でてくれた。
俺も屈んで佐倉さんに話かけよう。
「これで、佐倉さんも安心してアイドル活動できるね」
「! え?」
「あれ? 好きでやってるんじゃないの?」
「う、うん。そ、そうなんだけど……」
「?」
「沢田君は、変だと思わないの?」
「え? なんで? 佐倉さんすごい可愛いんだし、アイドルになれて当然だよなって思ってたんだけど」
「えっ!? ……か、かわいい?」
「うん。すごい可愛いと思ってる」
「……あ、ありがとう///」
そう言うと、佐倉さんはメガネを外して俺の顔を見て来た。
「……やっぱり伊達だったんだね」
「! 気づいてたんだ?」
「うん。レンズの向こうが歪んでなかったから」
「そっか……ふふっ、本当にすごいね沢田君って」
「俺? そんな大したもんじゃないって」
「ううん。私に勇気をくれて、しかも怖い人から助けてもくれた。沢田君はすごいよ。……だから、沢田君には私の本当の顔を見て欲しいって、今思ったんだ」
そう言う佐倉さんの顔は、カメラに向かって微笑む雫というアイドルそのものだった。
人気アイドルにそこまで言ってもらえるのは悪い気はしないね。
「……そっか。人気アイドルの素顔を見れるなんて、俺ってラッキーだね」
「ふふふ、私の素顔を見たのは沢田君が初めてだよ」
「そうなの? じゃあさらにラッキーだ!」
それから俺達は、一緒にマンションに帰りながらたわいのない会話をし続けていた。
女子用マンションの前で2人と別れて、自分の部屋に帰っていると、
学生証端末に、桔梗ちゃんからメールが届いた。
from 桔梗
ねぇツナ君。
さっきの佐倉さんとのやりとり見てたら、なんかイライラしちゃった♪
今度、私の話も聞いてね? (≧∀≦怒)
……。
一体、どんな話をされるんだろう。
顔文字的に何か怒ってるのはわかるんだけど……
(と、とりあえず謝っておこう……)
from ツナ
ご、ごめんなさい……
その後、桔梗ちゃんから返事が来る事はなかったので許してもらえたかと思ったのに……
「このヘタレが!」
と言われて、帰宅早々にリボーンに蹴りを喰らわされたのだった……
—— 2週間後 ——
問題を同時解決してから2週間。
特に問題もなく日々は過ぎていき、期末テストがやって来た。
須藤君の事件後、クラスはなんとなく纏まりが出て来たのか、一丸となって頑張ろう的な空気に溢れていた。
その影響か、今回は勉強会もスムーズに行われ、無事に全員が赤点を回避することに成功した。
須藤君、池君、山内君は今回もギリギリだったが、確実に点数はアップしていると堀北さんが言ってくれた。
期末テストも終わったので、明日の終業式が終われば夏休みなんだけど、夏休みにはバカンスに連れて行ってもらえると言う噂が1年生の間で出回っていた。
テスト返却後のホームルームで、池君がその噂の真偽を茶柱先生に尋ねた。
「佐江ちゃん先生! 夏休みはバカンスに連れて行ってもらえるって本当なんですか?」
「ほお。耳が早いな池。その通りだ。1年生は明後日より、約2週間のバカンスに参加する事になっている」
「おおおっ! バカンスってどこに行くんですか!?」
「海外の南の島だ。そこで1週間過ごした後、次の1週間は豪華客船でクルージングの予定になっている。日本から島へ向かう日程も入れて、約2週間のバカンスだな」
『おおおおっ!』
クラス中がバカンスに沸き立つ中、俺は少し考え込んでいた。
(この学校が、ただバカンスに連れて行ってくれるかなぁ。なんか急に試験を受けさせられたりしそうな気もするし、警戒は怠らないようにしよう!)
そう心に決めた俺は……そこからは皆と一緒に2日後のバカンスに心を躍らせる事にしたのだった。
—— その頃、とある南の島にて ——
とある南の島の海辺に、銀髪の少年が空を見上げて立っていた。
「……あ、あんなとこにいたぜ!」
「ふん、こんなとこでサボってたのか、コラ!」
その少年の後ろから、黒髪の少年が肩に迷彩服を着た赤ん坊を乗っけて近寄っていった。
「……もうすぐ、だよな?」
「あ? なにがだ? コラ!」
「……高度育成高等学校の1年生が、この島に来るのがだよ」
「! なんだ、それが気になって授業に身が入ってなかったのか? コラ!」
「……すまん」
赤ん坊が黒髪の少年の肩から降り、銀髪の少年の隣に立った。
「……はぁ、3日後にはこの島に接近するぞ。コラ!」
「! そうか! つ、ついにこの時が来たんだな!」
拳を握りしめる銀髪の少年。
その様子を見て、黒髪の少年も銀髪の少年の隣に笑いながら立った。
「はははっ、お前ずっと楽しみにしてるもんなぁ」
「当たり前だコラ! 約4ヶ月ぶりなんだぞ! お前は嬉しくねぇのか、山本!」
「ん? もちろん俺も嬉しいぜ!」
「そうだろ! ああ〜、早くその日になって欲しいぜ!」
銀髪の少年は、大空を見上げて両手を広げた。
「……早く、早くお会いしたいです! 10代目!」
読んでいただきありがとうございます♪
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