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天武帝の栗

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第三章

「行きたい、いいか」
「はい、帝がそう言われるのなら」
「即位もされましたし」
「それなら」
「ではな」
 こうしてだった。
 帝は田原に赴かれた、するとだった。
 里の者とその妻は帝を見て飛びあがらんばかりに驚いた。
「あの、まさか」
「帝であられるとは」
「普通の方でないと思いましたが」
「そこまでの方だったとは」
「あの時は世話になったな」
 帝は夫婦に明るく笑って言われた。
「感謝しておるぞ」
「いえ、とんでもない」
「失礼がなかったかと」
「今そのことばかり考えていますが」
「至らぬことばかりで」
「ははは、よいもてなしだった」
 帝は夫婦に笑ったまま言われた。
「感謝しておくと言っておくぞ」
「それならいいですが」
「いえ、まことにです」
「わし等としましては」
「そうであるなら」
「うむ、それでだが」
 帝は二人にあらためて言われた。
「栗のことだが」
「あの焼き栗と茹で栗ですね」
「あの栗達のことですね」
 夫婦はすぐに応えた。
「実は埋めた場所に石を置いてです」
「それで目印にしていますが」
「そうか、では案内してくれ」
 帝は二人に言われた。
「今からな」
「わかりました」
「そうさせて頂きます」
 夫婦も応えてだった。
 帝と供の者達を案内した、すると。
 そこにだ、まさにだった。
 栗の木達があった、夫婦は帝にその木達を見せて話した。
「この通りです」
「木になりました」
「その時はわし等も驚きました」
「火を通した栗が木になると」
「願が適ったからだな」
 帝は笑顔で言われた。
「それ故だ」
「そしてその願いは」
「帝にですか」
「なったことだ、危うい状況からだ」
 そこからというのだ。
「帝になった、その願が適ったからな」
「それ故にですか」
「木となったのですか」
「そうだ、で実が実ったらな」
 それならともだ、帝は言われた。
「その実をくれるか」
「喜んで」
「その様なことがあるなら」
 夫婦も是非と応えた、そうしてだった。
 実が実るとその実達は宮中に献上される様になった、これを田原の御栗という。天武帝にまつわるお話の一つである。


天武帝の栗   完


                2022・11・17 
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