ジェラートとあいつ
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ジェラートとあいつ
前書き
登場人物は、「俺」と「あいつ」の二人です。「俺」は筋肉質のスポーツマンタイプの攻めで、「あいつ」はガリガリに痩せていて文学男子な受けです。
二人は共に高校生で、普通に付き合ってます。「俺」の方は「あいつ」にぞっこんです。ジェラート屋の前で戯れている二人を書きます、その他の物語は書く予定はないです。
駐車場に面したテラス席に、ただ一人ポツンと座り込むあいつがいた。カップの白いアイスを小さなスプーンで掬って舌の上に運ぶ。
感情表現が静かなあいつは、傍から見れば美味しく食べているのかどうかがわからない。ひと匙掬っては食べ、口の中で溶かすという一連の動きを繰り返す。単純明快な行為だが、俺にはすごく愛おしいと思えた。
どうやらあいつは俺の存在に気付いていないらしい。あいつの傍にまで通行人に紛れて忍び寄る。あいつはまだアイスを舌の上で踊らせている。もうひと匙掬おうとしたところで、俺はあいつに抱きつく。
あいつはうわっと悲鳴を上げ、スプーンを取り落としそうになった。「脅かすなよ」あいつは痩せこけた頬を膨らませた。体内で何かが破裂する。爆ぜて中身が放出したそれは、満面の笑みという形で体の表面に示される。
「何笑ってんのさ」あいつは怪訝な顔をした。こいつと真っ直ぐに見つめ合うと、未知のエネルギーが体内に溢れ返って自分自身が爆発してしまう。あいつに俺の血と肉のシャワーを浴びせたくない。昼間の眩しい光を浴びて美しい輝きを放つ雪肌、優しく塞いでしまいたい薄い桃色の唇、小さな俺の姿を映し出す真っ黒で澄んだ瞳。それら全てを腐った赤で染め上げたくない。
できるだけ視線をカップの方に逸らす。俺の視線の方向に気付いたあいつは自分の手元を見つめ、また俺の方を見つめ直した。「食べたいの?」最初からそう言えばいいのに、とでも言いたげに、カップとスプーンを差し出す。昼間の光を受けて氷の粒が煌めいている。俺はあいつの細い指先をそっと愛撫するように触れながら、スプーンを受け取った。
ーのではなかった。すぐさま大口でジェラートに齧り付いた。氷山に歯形のカルデアが完成する。あいつは小さな悲鳴を上げた。
「何すんのさ」目を瞑って、濃厚かつしつこくない甘さを口で溶かして味わいながら、痩せこけた頬が火の粉を吹いているあいつを想像する。ミルク味の唇でその頬に口付けを落としてしまいたい。
「今日だけだよ」目が合った瞬間、あいつの半ば諦めているかのような、それでいて穏やかな日の光に照らされた聖母のような微笑みがそこにあった。
その時、俺の体内で未知のエネルギーが複数の球形になって、パチンコ玉のように四方八方の内壁に衝突し続けていたことは言うまでもない。
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