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おっちょこちょいのかよちゃん

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286 奪取は失敗す

 
前書き
《前回》
逃げ疲れた藤木の前に三河口が現れる。三河口は捕まえに来たのではなく、今の自分は逃げるままでいいのかと藤木に問い、かよ子に藤木の居場所を教えてそのまま去る。三河口、湘木、冬田は紂王と妲己を捕獲し、杯の行方を尋問し、煬帝という言葉を手掛かりとする。そしてかよ子は藤木に追いつくが、藤木の必死の抵抗を受ける。さらにその場にレーニンおよび杉山も!! 

 
 藤木をあと一歩のところで取り返そうとしたかよ子と次郎長の元に妲己、紂王、そしてレーニンが近づいた。
「杖の所有者にどこぞの侠客か。防御は手薄だな」
「う・・・」
 かよ子はそのレーニンに威圧感を感じる。レーニンはかよ子と次郎長に対して威圧の能力(ちから)を放っていたからである。そしてレーニンが片手に掴んでいるのは杯の所有者だった。
「り、りえちゃん!!」
(何とかこの状況を何とかしないと・・・!!)
 かよ子は杖をレーニンに向けた。
「白魔術、出てきて・・・!!」
 杖が白く光る。オルガンの音色が奏でられた。
「白魔術か!」
 しかし、戦争を正義とする世界の長でも白魔術には対抗しきれない。異能の能力(ちから)も白魔術によって弱められてしまった。
「く、杖の能力(ちから)を吸収できん・・・!」
 途中、レーニンの姿が杉山に変わった。
「山田、お前の杖、また強くなったんだな。俺も負けてられねえぜ」
「杉山君!?それなら私達の所に戻って来てよ!」
「だが、そうはいかねえ。こいつらの側についてやるのが俺の考えだからよ。そうでなけりゃ大将にもなれねえからよ。まだおめえの知り合いの高校生にも臆病者扱いだったしな」
「そんな・・・、でも、杉山君」
 かよ子は思い出す。以前ラ・ヴォワザンの黒魔術で偽物の杉山が出された時、嘘とはいえそれを倒すと本物の杉山も死ぬとハッタリを掛けれらた事があった。かよ子だって本当はレーニンとは戦って倒そうと思っても杉山とは戦いたくはない。
「杉山君はそっちの方に味方に付いても利用されてるだけかもしれないんだよ!もし赤軍や戦争主義の世界の思い通りになったとしても、杉山君は用済みで殺されちゃうかもしれないんだよ!それでもいいの・・・!?」
「そうかもしれねえな」
 杉山ははっきりとした答えを言おうとはしなかった。
「それなら・・・」
「レーニン様、今なら私達も加勢します!」
 妲己が九尾の狐に変身して飛び掛かる。紂王もまた刀を出してかよ子が出した白魔術を消そうとした。
「白魔術など、ふざけた真似を!」
 紂王が振るった刀で白魔術を奏でる音楽が消えて行った。
「よくやった、紂王」
 杉山の姿がレーニンに戻った。
「さあ、杖の能力(ちから)を貰うと共に貴様を抹殺させて貰う!」
「あ・・・!!」
「させぬぞ!」
 次郎長が刀を振るって迎撃した。紂王と鍔迫り合いになった。
「ど、どうしよう・・・!?」
 かよ子は白魔術以外でどう対処すべきか迷う。その時だった。
(そうだ・・・!!)
 前にかよ子は取られた杖を取り返そうとヴィクトリア女帝と戦っていた時、彼女は己に杖を向けて肉体的な能力を高めていた。
(そうだ、それを使おう・・・!!)
 かよ子は己の身体に杖を向けた。肉体能力を強化させた。レーニンの威圧の能力(ちから)とかよ子の武装の能力(ちから)がぶつかり合った。レーニンからしたらこれまで能力吸収は武装の能力(ちから)で無効化される事はなかった。
「先ずは貴様の杖の能力を吸収だ」
 レーニンは杖の能力を吸収していく。だが、上手くいかない。
「な、上手くいかん!?」
 レーニンは驚いた。
「貴様、杖で何をした!?」
「ただ身体を強くしただけだよ!」
 かよ子はそう言って拳を出す。触れてもいないのにレーニンを吹き飛ばした。
「うおっ!」
 そしてかよ子はパンチを連打する。遠隔で攻撃し、レーニンを苦しめた。
「吸収能力を妨害されるとは・・・!!」
「さあ、りえちゃんを返して!藤木君も!」
 そして、レーニンは杉山の姿に変わった。
「確かに藤木もりえの解放を許可したが、そうはいかねえな。こいつが許さねえぜ」
 そして杉山は見聞の能力(ちから)である気配を感じた。
「紂王、妲己、山田の仲間が来るぜ。藤木を連れて逃げるぞ」
「はい!」
 杉山かつレーニンはりえを連れて、妲己は藤木を連れて、次郎長と競り合っている紂王は戦いを中断して撤退した。
「ま、待ってー!」
「山田かよ子!このまま追うと他の仲間が移動できぬ!通信で他の者も呼び集めるのだ!」
「あ、うん!」
 かよ子は通信機で連絡をし始めた。
「こちら山田かよ子!ごめん、藤木君もりえちゃんも逃しちゃって!今敷地の所の林にいる!」
『こちら大野、解った、そっちに行くぜ!』
 やがてりえの友達やのり子、次郎長の子分の一部が来た。
「かよちゃん!」
「あ、鈴音ちゃん、みゆきちゃん、のり子ちゃん・・・!!ごめん、りえちゃんは杉山君が連れてっちゃった・・・」
 かよ子はまたおっちょこちょいしてしまったと後悔した。
「いや、そんな、また何処までも追うよ!」
 そしてありや大野達、他の面々もその場に集合した。

 レーニンは紂王の屋敷より撤退した後、トランシーバーで救援を要請した。
「赤軍の者共、これより私は北上する。一部の者、杖の所有者や護符の所有者を狙う支度をせよ」
『了解しました』
 そしてレーニンは別の方へも連絡する。
「トロツキー、スターリン、ベニート、アドルフ。北の方へ例の奴等をおびき寄せる。貴様らもその周囲へ向かい、杖と護符の争奪戦に参加せよ」
『了解!』
「紂王、妲己、私は一旦失礼する。そしてこの小娘は私の方で保管しておくぞ」
「はっ、かしこまりました」
 レーニンと杉山は妲己、紂王と別れた。
「はて、小僧。この小娘はどこにやるつもりだ?」
「本部は剣奪還班に襲われてるからそこには置けねえな。別の所に置いておこう」
 りえはどこに連れて行かれるのか。今、意識を失っている彼女には知る由もなかった。

 かよ子達藤木救出班、そしてありやみゆき、鈴音、奏子などりえを探す者達は林の所にて集合していた。
「それで藤木君は戻るの嫌がってたのね」
 ありは状況を整理していた。
「はい、ごめんなさい、あと一歩でりえちゃんも取り返せると思ったのに・・・」
 かよ子は謝罪した。
「ううん、私達の方ももっと早く来るべきだったわ。ごめんね、負担かけさせて」
 ありの方も謝罪した。
「でも、かよちゃんの杖、前より強くなったのね。白魔術使えるなんて」
 奏子はかよ子の杖が強化されたという報告を聞いたので凄いと思っていた。
「あ、そうだ、かよちゃん。俺の知り合いの長山治君にりえちゃんって子がどうしているのか解るかもしれないってミカワが言ってたが、俺達も治君を頼っていいのか?」
「長山君を・・・?うん、いいと思うよ。長山君にも頼んでみるよ!」
「ああ、ありがとう」
「ここにはもう残党はいないようだし、夜中になったから皆休みましょ」
 ありは提案した。皆は廃墟と化した紂王の屋敷で休むのだった。

 藤木は妲己と紂王、そして命からがら逃げてきた遊女や兵士の残兵と共に北へと逃走していた。
「妲己さん、紂王さん・・・」
 藤木はぼそっと二人の名を呼んだ。
「どうしたのかね?」
「もう、りえちゃんは諦めます。『向こうの世界』の子からは好きになってもあっちから嫌われるだけですから・・・」
「そうか、残念だったわね。済まないね、私達の方が辛い思いをさせて・・・」
「それから、僕・・・」
「何かね?」
「もっと強くなりたい、です・・・。あの山田の杖とかみたいな何か便利な武器とか道具が欲しい・・・。皆に戦わせてばかりでいつも自分は逃げてばかりですから、卑怯なんて、言われたくないんです!」
「そうか、卑怯と呼ばれたくないとな・・・。その気持ちはよく解る。坊やの専用の武器を造ってあげようではないか。如何ですか、紂王様?」
「そうだな、少年も我々の戦力になれると頼もしいし、新たな嫁ができる時は別れる事なく、少年を本気で虜にするだろうな」
「そうだ、坊やの新しい嫁も用意しなければ・・・。まあ、また選べないであろうから、私が新たに候補を作ってそこで競い合いをさせて一番になった者を嫁とさせてあげよう。そうすれば坊やも迷う事はないかな?」
「は、はい・・・」
「今迄の遊女よりも更に強い我が手下が北の方にいる。そちらの者に頼ろう」
(もっと強い女の子、か・・・。僕も強くなれるかな・・・?)

 ある場所で、一人の少女が絶望しながら泣いていた。
(藤木君・・・)
 笹山かず子は嘗ての罪を許そうとして会いに行った少年から戻る事を拒否された。これから先、どうすればいいのか。
(フローレンスさん、私、藤木君に嫌われました・・・。先に嫌ったのは私だけど・・・。どうすればいいんでしょうか・・・?)
 笹山はその場で 姚崇、張説と共に寂しい夜を過ごすのだった。 
 

 
後書き
次回は・・・
「廃墟化した屋敷」
 藤木の奪還に失敗し、りえも他の場所へと持って行かれ、作戦は振り出しに戻された。かよ子やあり達は再びそれぞれの目標の為に紂王の屋敷を後にする。三河口は紂王を尋問した時に得た「煬帝」という人物を鍵として杯の奪還を目指し続ける。そしてその紂王の廃墟にさり達が到着するのだが・・・!? 
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