ラーメンという贅沢
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第二章
「ですから」
「ああ、高校時代から食ってるって言っただろ」
太田は浜口に仕事がはじまる前の職場の事務所でお茶を飲みつつ話した。
「高校の頃って皆金ないだろ」
「お小遣いですからね」
「俺はコンビニでバイトしてたけどな」
それでもというのだ。
「やっぱり充分にはな」
「なかったんですね」
「だからな」
それでというのだ。
「あのラーメンも月に一回だったんだよ」
「食べられるのは」
「そんな贅沢だったからな」
それでというのだ。
「俺は今でもな」
「あのラーメンはですか」
「月一の贅沢にな」
「してるんですね」
「そうなんだよ」
「そうですか」
「ああ、何か俺の中でな」
浜口にお茶、冷えた麦茶を飲みつつ話した。
「あの店のあのラーメンはな」
「特盛でチャーシューと葱どっさりですね」
「茹で卵も入れたな」
「あのラーメンはですね」
「そうした特別なものになっててな」
「今も月一回のですか」
「贅沢なんだよ」
こう言うのだった。
「今もな」
「そういうことですね」
「ああ、だからな」
「これからもですね」
「あの店のあのラーメンはな」
「月に一回ですね」
「食うな、給料日にな」
金が入ったその日にというのだ、こう話して彼はそれからもその店でそのラーメンを食べ続けた。月一回のそれは彼のささやかなだがかけがえのない楽しみであり贅沢であり続けた。
ラーメンという贅沢 完
2023・5・22
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