DQ3 そして現実へ…~もう一人の転生者(別視点)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
勝者と強者の違い
マイラで一休憩をし、聖なる祠へ寄って虹の雫を手に入れ、ルビスの導きに従いリムルダール西端に赴く…前に、アレフガルド5つ目の都市『リムルダール』で最後の休息です。
魔の島へ渡ったら、休憩出来る町など無いので、この町が最後の休息場です。
何時も通り気軽に町へ入ろうとしたのですが、警戒心の強い警備兵が1人居て、私達を受け入れてくれません。
“何なんだこの馬鹿は?”と、皆の心が一つに…
まともに相手するのがめんどくさくなったお父さんが、警備兵を無視する様に小馬鹿にする。
この警備兵は正真正銘の馬鹿な為、口喧嘩でお父さんには勝つ事が出来ず、最早半ベソ状態に…
そんな時、心惹かれる輝きが目に止まる。
それはハツキさんの腕に装備されている『黄金の爪』だ。
お父さんに馬鹿にされた腹いせも加わり、弱い女(この警備兵の言い分)が装備するより、強い自分(この警備兵の言い分)が装備する方が有効であると、『黄金の爪』の譲渡を強要してきた。
そして気付けばハツキさんと警備兵(ナールと言うらしい)との、『黄金の爪』を賭けたタイマンバトルが勃発する。
お父さんはハツキさんに落ち着くようにと言って、決闘を止めさせようとするが、全く聞く耳を持たないので渋々立会人を行う。
「はぁ…じゃぁ、2人のタイマン勝負ね。武器又はアイテムの使用は不可。魔法の使用も不可。それと相手を殺すのも絶対駄目だからね!あと勝負は僕の見える所で行う事…見えなくなった方は負けね」
そう言い3歩下がって右手を上げる。
そして「それでは………始め!」
との掛け声と共に勢い良く右手を下げ開始を宣言する。
私は元来格闘技系には精通していない…が、それでもハツキさんの方が馬鹿よりも強い事が分かる。
馬鹿の攻撃は掠りもせず、その都度ハツキさんのカウンターが炸裂するのだ。
だがこの馬鹿は異様に打たれ強い。
自身の強さへの勘違い的な自惚れは、この打たれ強さからきているのだろう。
最初の一撃で決すると思われたのだが、予想外に長期戦へと縺れ込む。
それでも私はハツキさんの勝利を疑いはしなかった。
しかし勝負事とは分からない物で、ハツキさんから仕掛けた際に攻撃が外れてしまい、今までとは逆に強烈なカウンターを喰らってしまう。
そのまま崩れ落ちるハツキさん…
立会人(お父さん)へ近付き黄金の爪を要求する馬鹿…
お父さんは黙って黄金の爪を渡すと、ハツキさんを抱き抱え介抱します。
「私…負けちゃったの?」
「………」
少し経ってハツキさんが意識を取り戻し尋ねる…しかし、私達は何も言えない。
「私、負けちゃったんだ……あんな奴に負けたんだ…」
自身の武器だった黄金の爪を装備し喜ぶ馬鹿を見て、現実を痛感するハツキさん。
お父さんに抱き付き声を殺して泣き出した。
「ハツキ…元気出して…まだハツキには星降る腕輪があるじゃないか。ほら…腕を出してごらん」
取り決めをし、勝負して負けたのだ…最早覆る事は無い。
だからだろう、お父さんは殊更優しい声でハツキさんを励まします。
「おい!何だ、その『星降る腕輪』ってのは?それも特殊なアイテムか?そんな弱い女が持つより、そいつに勝った強い俺様が持った方が有効的だ!それも貰おうか」
コイツ、イオナズンで吹き飛ばしてやろうか!?
空気を読まない馬鹿は、お父さんの言葉を聞き星降る腕輪にまで興味を持ってしまった。
「あ゙ぁ?…何だキサマ…何調子こいてんだコノヤロー!」
ふん、ざまー!
アンタは私のお父さんを完全に怒らせてしまったのよ!
死ぬ程後悔しなさい!
「当然だろうが…強い者が強い装備を纏うのは、自然界の摂理だ!おら、それを渡せよ!」
本当に空気の読めない馬鹿ね!
相手の強さも読めないのだから、空気ぐらいは読める様になりなさいよ!
「ふざけんな馬鹿!これは俺の所有物だ。ハツキに貸してあっただけで、元々は俺の物だ!…そんなにこれが欲しいなら、俺を倒してから所有権を主張しろ馬鹿!」
ほら見なさい、お父さんの一人称が『俺』になってるでしょ!
マジ切れしてんのよ!さっさと謝っちゃいなさいよ!
「お前はさっきの勝負を見てなかったのか?俺様の実力は十分解っただろう!?それなのに俺様に勝負を挑「うるせーな!俺はお前なんぞどうでもいいんだよ…お前こそこの腕輪が欲しいんだろ?俺と勝負るのか勝負らないのか…ハッキリしろ馬鹿!」
「けっ!面白いじゃネーか…やってやるよ!お前もさっきの女同様に瞬殺してやんよ!」
「瞬殺?…お前言葉の意味を知らないのか?15分もかかってハツキを倒したじゃねーか。そう言うのは瞬殺とは言わないんだ馬鹿!」
「う、うるせー!そんなことどうだっていいんだ…人の事を馬鹿馬鹿言いやがって!馬鹿って言うお前が馬鹿なんだよ!」
あぁ…事態が泥沼化して行く…
これでこの男の命は終わりを迎える…
こんな所で、どうでもいい馬鹿を殺せば、警備兵等が黙ってないだろう。
「はぁ~…喜べ馬鹿。お前は僕が出会った馬鹿の中で、最高に馬鹿だった奴を抜き、ナンバー1に躍り出たぞ!キング・オブ・馬鹿」
まったくだ…馬鹿の中の馬鹿。
他の追随を許さない馬鹿。
「よ~し…そんなキングにサービスしてやろう!」
そんな馬鹿に対し、極めて明るい口調で話しかけ、星降る腕輪を投げ渡す。
一体何を?
「それは星降る腕輪…装着した者の素早さを大幅に増幅するマジックアイテムだ。僕と戦うにあたり、それの装着を許可しよう!…さらに黄金の爪も装備して良いぞ」
そこまで言うとドラゴンの杖を地面に突き刺し、反対側のドラゴンの頭部分を右手で包む様に握ると、馬鹿に空いた左手を向けて言い続ける。
「更にハンデだ。僕はこの杖から右手を離さないし、杖は地面から離れない様に戦ってやる…もし杖が地面から離れたら僕の負けで良い。どうだ…優しいだろ?」
ちょっと馬鹿にしすぎじゃないかしら?
いくら馬鹿だと言っても、ハツキさんとの戦いを見る限り、コイツの打たれ強さには注意すべきだと思います。
「くそっ、ふざけやがって……だ、だったら俺様もサービスしてやるよ!」
「そうか。じゃぁルールとして、お前は僕が『100』数える内に攻撃を仕掛けなければ負け…攻撃さえ仕掛ければカウントはリセットされ、また『100』の内に攻撃すればいい!僕はこの場から動けないのだから、このくらいは当然だよな?ダラダラと戦いを長引かせても意味ないもんな!?」
「どうやらお前はどうしても負けたい様だな!?いいぜ…その条件で相手してやんよ!」
この馬鹿にとって唯一の弱点(と言うより、圧倒的に欠落している点)だった素早さをアイテムで補えた事で、身の程知らずに拍車がかかり不愉快さがパワーアップする。
「ご託はいい…さっさとかかってこい…」
右手が杖を通して地面に固定されている為、左手で馬鹿を挑発的に手招きするお父さん。
その姿は『ドゥエイン・ダグラス・ジョンソン(ザ・ロック)』の様だ。
「テメーの自信に満ち溢れた鼻っ柱、ポッキリとへし折ってやるぜ!」
馬鹿にされ続けた怒りと、ドーピングによるパワーアップからの自信とが相俟って、殊更大言を吐き左右にステップを踏む馬鹿。
そしてお父さんの視界の隅に移動すると、一足飛びで死角からドラゴンの杖を目指し突進する!
(ヒュッ!)(ドゴッ!!)
だが…お父さんは先程まで馬鹿が居た空間を睨みながら、後ろへ大きな蹴りを出し、突進してきた馬鹿を吹き飛ばした。
かなり強烈な蹴りだったのだろう…血を吐きながら10メートル程吹き飛び動かなくなる。
「1.2.3.4.…………………」
お父さんは決め合ったルールに則り、ゆっくりとカウントを開始する…その間、吹っ飛んだ馬鹿には目も向けない。
「55.56.57.58.…………………」
お父さんのカウントはゆっくりだが進む…
だがピクリともしない馬鹿の生死が気になったお兄ちゃんが、奴の側へ近付き死んでないかを確かめる。
その結果、息がある事を確認すると、不愉快な男が情けなく気絶する姿にガッツポーズで喜びを表す。
「97.98.99.………………100!」
ただでさえゆっくりなカウントだったのに、『100』を更にゆっくり叫び馬鹿の負けをアピールするお父さん…
そして気絶する馬鹿の事を、最後まで見ることなく黙ってリムルダールの町へと入っていった。
私達もそれに続く…
一番近くにいたお兄ちゃんが、2つのアイテムを馬鹿から回収して…
「私……もっと強くなりたいです……私……あんな馬鹿には負けないと思ってました……でも…私の実力じゃ…………」
リムルダールの宿屋に部屋を取り、各自荷物を割り当てられた部屋に置いて併設する食堂へ集合する私達。
注文した料理がくるまで沈黙が続く中、涙声のハツキさんが悔しそうに静寂を打ち破った。
「リュカさん!私もっと強くなりたいんです!だから私を鍛えてくれませんか!?…女として見てくれなくていいです……私…リュカさんの愛人をやめます……だから…お願いします…一人の武闘家として、私を鍛えてください!」
『愛人を辞める』…これは相当の覚悟なのだろう。
大勢居るこの男の愛人に、『強さ(もしくはその人の得になる事)を求める為、この男を諦められるか?』と聞いても、答えは100%で『NO!』だろう。
だがハツキさんは、お父さんの事より強さを求める事を優先させようとしている。
並々ならぬ決意だろう…
さて…愛人を1人失う男の反応はどうだろうか?
「………ハツキ………君は弱くないよ。思っている程、弱い存在ではないよ。ただ……」
『ただ…』なんだろうか?
基本お父さんは、他人の自由を奪おうとはしない。
つまり、愛人であろうがその人の自由意志を尊重するのだ。
今回も『愛人を失いたくない!』と、ハツキさんを縛り付ける事などはしないだろう。
だからこそ気になる…『ただ…』の続きが。
「『強いから勝つ』のではなく『勝ったから強いと思われる』事なんだ…」
「「「「……………」」」」
意味が分からん!?
「あ、あの父さん…『勝つ』と言う事は『強い』と言う事でしょ?…仰っている意味がちょっと………」
私もお兄ちゃんと同じ意見だ。
『弱い』奴が『勝つ』事など出来ないだろうに?
「違うよ…弱くたって勝つ時もあれば、強くたって負ける時もある!今日のハツキみたいに、格下の相手に負ける事だってあるさ」
「か、格下…ですか…でも…負けちゃいましたよ、私…どうしてですか?」
え、あの馬鹿がハツキさんより格下なの!?
確かに打たれ強さはハンパなかったけど…
最後のラッキーキックが炸裂しなければ、終始押してたのはハツキさんだったわね。
「うん。バラモスとの戦いを思い出してごらん。……勝つ事が出来たけど、あの時のみんなはバラモスより強いと思えてる?あの時に戻って、もう一回バラモスと一人ずつで戦ったら、勝てると思ってる?」
1人ずつではムリね。
「いいえ…あの時勝つ事が出来たのは、リュカさんがバラモスの攻撃を一手に引き付けてくれたお陰だと思ってます。例え今の私達の実力でも、1対1では勝てるとは思いません」
そう…認めたくないけど、あの時はお父さんがバラモスの注意を一手に引き受けてくれたから、私達が心おきなく攻撃に専念出来たのよ。
「うん。素直でよろしい…頭ナデナデしてあげよう」
素直な答えを出したアルルさんの頭をナデナデするお父さん。
しかし彼氏(お兄ちゃん)は、自分の彼女(お義姉ちゃん)が嬉しそうに女誑し(お父さん)に頭を撫でられる様を見て、嫉妬メラメラになる。
「だ、だとしても…僕等は仲間なんですから、1対1で戦う事を前提にする必要は無いじゃないですか!」
自分の目の前を横切る女誑し(お父さん)の腕を払い除け、自分の彼女(お義姉ちゃん)の頭を抱き締めながら反抗的な台詞を吐き捨てた。(可愛いわね♡)
「だからそれが『強いから勝つ』と言う事では無いって言ってんの!」
う~ん…今一言ってる意味が分からない。
「あぁ…そう言う事ですか!だからあんな戦い方をして見せたのですね!?」
だがラン君には理解できたようで、珍しく本気で尊敬の眼差しを向けている。
「え!?あの相手を馬鹿にした戦い方に、意味があったんですか?」
「無意味にあんな事をする訳ないだろ………説明してやっから、イチャつくのをヤメロ!」
あの戦い方に意味があった事に、みんなが驚いた!
そして珍しく真面目に説明してくれるらしく、彼氏に頭を抱かれたままマッタリこいてる2人を注意する。
「「………はい」」
渋々離れる勇者カップル…真面目に話そうと思っているお父さんは苛ついてる。
でもねお父さん…貴方は常日頃からこんな感じなのよ。
「いいかい…僕はあの馬鹿を初めから見下し貶してた。それは怒らせ、冷静な判断を下せない様にする為なんだ」
「冷静な判断…」
「うん。冷静に状況…戦況と言うべきかな…戦況を見る事が出来ると、戦い方の選択肢が増えるんだよ。でも頭に血が上ってると視野が狭くなって、戦いの手数も減るんだ」
「でも父さんだったら、あの男相手にそんな事をしなくても勝てるでしょう!?」
「う~ん………どうだろうね?勝てたかもしれないけど、今回は戦い方を見せようと思ってたから…」
「ティミー殿。リュカ殿は如何なる時も必勝を目指すという事を仰ってるんですよ!『リュカ殿ならば…』という事は言わず、続きを聞きましょう!」
どうやら今のラン君は武人モードの模様…
話の腰を折るお兄ちゃんに対し声を荒げて文句を言う。
「す、すみません……」
「うん…ラングの言う通り、常に必勝を心掛けなければ危険だよ。僕は幼い頃、ゲマに負けた所為で父を目の前で殺されたんだ…『もっとちゃんと戦っていれば負けなかった』なんて言い訳は出来ない!」
優しいお父さんは、お兄ちゃんの頭を撫でながら反省している息子を諭します。
「さて…相手の手数を減らした所で次だ…次は減った手数を更に限定する為、あえて不利な状況を作ってみせる。今回は杖を地面に刺し、これが地面から離れたら負け…って感じに」
「何故それが相手の手数を限定する方法なのですか?」
「それはねハツキ…今回、この杖が僕の弱点になっていたからだよ」
全然分からん!?
何で弱点があると、相手の手数が限定されるのだろうか?
危険なだけではないのだろうか?
「つまりねマリー…相手の弱点が分かっていれば、そこを重点的に攻撃するだろ?だから相手の手数が減るんだよ。弱点である杖を攻撃すると分かっていれば、カウンターを取るのは簡単だろ」
「あぁ!!」
なるほど…そりゃ簡単に勝利したいもんね!
「でもリュカさん…何処を攻撃する分かっても、攻撃の仕方が分からなければ対応のしようが無いのでは?」
彼氏の温もりトリップから復活したアルルさんが疑問を投げかける。
流石は勇者と呼ばれるだけはある…私はそんな点に気付かなかったわ。
「ふふ…だからこそ僕はアイツに星降る腕輪を渡したんだ。腕輪を装着すれば分かるが、このアイテムの能力は凄い…一度使ったら、是が非でも手に入れたくなるだろう。となれば相手の弱点を徹底的に突き、完全に勝利を物にしようと考えるだろう…更に言えば、急激に素早さが上がり強くなった様な気になっていれば、その素早さを駆使して僕の死角から素早く突進してくると予想が出来る。そして予想通りに弱点目掛け、死角から突っ込んで来たのが、あの馬鹿の結末だ」
凄い…
お父さんは相手の攻撃方法や箇所を限定させてから戦いに挑んだのね!
しかも、それが自身(相手にとって)の意志であるかの様に錯覚させて…
「で、では父さんは…さっきの戦いで実力を出すどころか、何時も以上に実力を落として戦ったのですか?」
「う~ん…そうだね…あの馬鹿の姿が視界より消えてから、自分の死角に足を突き出しただけだからね………アイツが勝手に突っ込んで自滅しただけだよ!(笑)」
格好いい…
食事がテーブルに運ばれてくる中、食堂内の全ての人がお父さんの話に聞き入っている。
それ程この人は凄いのだと、今更ながら感じております。
誰もが静かにお父さんの偉大さを噛み締めていると、
「すげー!!!」
と、騒がしい男が1人現れた。
彼は…………………………
後書き
このペースでいけば、遅くとも2月中旬には完結出来そうだよね。
うん。頑張るよボク!
ページ上へ戻る