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白い翼の剣士

作者:ウタマル
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1-1話

ウチは今日京都神鳴流の人に連れられて烏族の里を出ることになった。
ここで待っとれば師匠が迎えに来てくれることになっとるはずやのにさっきから師匠は姿を見せへん。
まぁ、ずっとこの里で色々と耐えてきたウチには後少し待つぐらいなんも問題あらへん。

思い返してみても、この里での生活でよかったことなどほとんどなかった。

白い翼を持つ私は“禁忌の子”として里の人達からは忌み嫌われていた。

ウチは悪いことなにもしてへんのに…

それでも里の大人達は“禁忌の子”としてウチを見る。
その目はまるで汚い物を見るかのように…

子供達はその事を知ってか知らずか、ただ大人達の真似をしているだけなのか………ウチを仲間外れにしはる。

大人よりも子供の方がきつかった。大人はただウチがいないかのようにするか、陰で色々言うてはるだけやったけど子供は違った。
毎日のようにウチに酷い事を言い、見かければ石を投げてくる。
大人達も知らんわけやなかったのに誰も止めてくれへんかったし、助けてもくれへんかった。
そのせいか子供達はどんどん調子にのる。
そらそうや、注意する人も怒る人もいないんやからやりたい放題やれるんや。集団で追い回したり、ウチにあてられるかみたいなゲームをしたりする。
数人に囲まれてぶたれたり、蹴られたりしたのも数回やなかった……


…でも、今日は…師匠と出会った日は違った。


その日もいつも通り過ごしてた。

だからこれもいつも通り…


「お前、なんでこんなとこいるわけ?」

「そうだそうだ!
ここからでていけ禁忌の子!」

「でていけっていうより死んじゃえば?」

「それもそうだな。誰もお前なんかいらないから死ねよ」

「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」

最近では習慣になりつつある、里の子達に囲まれて、ぶたれたり、蹴られたり…

ウチは、
今日はいつもより酷いなぁ。親にでも怒られたのかな。
…早くおわらないかな。

なんて考えて、ただただなされるがまま。抵抗なんてしなかった。そんなこと、したらしたで今の状況がもっと酷くなることぐらいウチにもわかってたから。
何人にも囲まれたから、逃げることも諦めてた。
怖くなかったわけやない。
逃げたところですぐに捕まってしまう。
まず、人数が違いすぎるんや。ウチより大きい子もおるしな。
だから、しかたないんや。ウチにできることなんて耐えることしかないんやから…


「何やっとるんどすか」


突然声がした。
怒りで冷たくなった、そんな声だった。

ふと、顔を上げるとそこには、女の人が立っていた。
髪は黒くて背中ぐらいまで伸ばしていて、普段はおそらく美人の部類に入るであろうその顔は無表情でまるでこちらを見下すように見ていた。背中には何か布でくるんだ長い棒みたいのを背負っていた。

「なに、あんた?」

その問で我に帰る。その言葉は女の人に投げかけられた物だと即座に理解した。

「ウチの事なんてどうだっていいんです。あなた達は一体何をやっているんですか」

誤魔化す事は許さないというような声でもう一度同じことを言っていた。

「っっ、あ、あんた誰や。里のもんじゃないやろ。
何も知らないよそ者が口だすなや。」

「そうだ!そうだ!よそ者がでしゃばるな!」

「そいつはな禁忌の子なんだぞ!」



「…で?」


「「「ーーーーッ!」」」


「失せろ」



怒りがこもった声がした。それを聞いた子達はびびってしまいすぐに何処かへ逃げてしまった。
その気持ちはよくわかる。だってあの声、本当に目の前の女の人が出したのか疑いたくなるぐらい恐かった。ウチだって今すぐこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだし。
それでもこの場に居るのは別にぶたれたところが痛いわけやない。恐い女の人がこっちを見ながら歩いてくるからや。
あぁ、これが蛇に睨まれた蛙の気持ちなんやな。

…こんなん知りとうなかった。


ゴン!!!

「いっっったぁ」

馬鹿な事を考えてたらいつの間にか女の人が目の前にいた。この痛みは女の人に頭を殴られたのだ。しかもグーで。
自分でも何が起こったのかよくわからんかった。
この人は…もしかしたら…ウチの事を……その……助けてくれたのかな、
なんて少しだけ、ほんの少しだけ思ってしまった。
ははっ、笑える。そんなんあるわけないのに。少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい。

…ウチは禁忌の子なんや。だから嫌われ者で誰もウチの事受け入れてなんてくれないんや……

うっ、そんなことを考えてたら涙が出てきてもうた。


「あんさん、何やられたい放題やられてはるんどすか?男ならやり返してみい」

「…ウチ男やない。」

「そんな細かい事は気にしないでいいんや。ウチはやられっぱなしで悔しくないんか聞いてるんや。」

細かい問題やないと思ったんやけど口には出さないでおく。言える雰囲気やないし、言ったら何されるかわからんし。
……またぶたれるのが目に見えていたから。

「……でも、しかたないんや。ウチはこの里やと嫌われ者やから。みんなあんな感じやし…あんなんいつものことやし……」


ゴン!!!

「うっ」

またぶってきた。それもグーで…もういやや。

「そないな事聞いてへん言うてるやろ。あんな事されてあんさんは悔しくないんか!」

「…………」

「どうなんや」

なんなんやこの人急にでてきて言いたい放題言って、ウチは混じり者や。しかたないやん、ウチにはどうすることも出来へんのに…。好きでこんな事誰もせえへん。それくらい少し考えればわかるやろうに。もう大人なんやし。それなのに悔しくないかなんて聞いてきはるなんて…。ホンマこの人いい性格してはる。
そんな答えなんて聞かなくてもわかっとるくせに聞いてくる。その答えで正解なのに。ウチの答えと同じなのに目の前の人はウチがその答えを口にするのを待っとる。だからウチは…

「…悔しくないわけないやろ。」

「ウチが何したんや!ウチは何もしてへん!それなのにみんな、みんなウチを禁忌の子やからって、そないな理由で仲間外れにして、終いには暴力や。だからといってウチにどうしろっていうんや。やり返したってもっとひどくやられるだけや。向こうは沢山仲間がいるんや。それなのにウチは一人きりや。助けてくれる人なんか誰もおらん。

…ウチは…弱いから一人じゃあ、どうすることも、できへんから。あ、あいつら全員、相手にできるぐらい、強ければ、それだけ、力があれば……あんな奴らに、好き勝手、やらせへん。でも、ウチは弱いから、いつも、いつも、辛くて、痛くて、惨めで…それでも、なんにもできない自分がいて。そんな自分嫌やのに。…だから変わりたいんや。こんな、こんな弱い自分なんかやめて、強くなって、いつか、いつか、あいつら全員、見返してやるんや。そんな、そんな、気持ちで、耐えるしか、ウチには、できんのや。だから…だから…ウチは……」

途中から泣き声になりながらもなんとか自分の気持ちを口にしよう思うたが、支離滅裂になってしまった。それでも、一度口にしてしまった、ずっと溜め込んでいた気持ちは止まらんかった。だから、最後の方は自分が何を言っているのかよくわからんかった。

「もうええ。…もうええよ。十分や。」

ウチは女の人に優しく包み込むように抱きしめられてた。
こんな事されたのは久しぶりや。うっ、まずいわ、さっきから泣きそうになってばかりやわ。きっと、さっき頭殴られたとこが痛いからやな。そうや、そうに決まってる…

「辛かったんやろ。寂しかったんやろ。もう…大丈夫やから。もう我慢しなくてもええんよ。」

そないな事言われたらウチ、ウチもう我慢できへんよ。

「あああああああーーーー」

泣いた。今まで我慢してたものが一気に爆発した。どんどん溢れ出る涙は止まらなかった。
女の人はそんなウチをただただ何も言わずに、頭を優しく撫でながら、優しく、暖かく、抱きしめてくれた。

 
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